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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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109/130

109 神様のお城

 仁に『事前の相談』をした神様が転移した先は、世界樹だ。

「相談は大事だよね。世界樹とカラスにも事前に相談しないとね。雪が積もる前に!」


 張り切った神様は、まず世界樹の枝に巣を作っている、神使のカラスを呼んでみた。

 だがすでに夜中だ。

 早朝からの大騒ぎで疲れ果てていたカラスは、神様の相談に寝ぼけながら一言。

「わかりました……」


 カラスの同意を貰った神様は、大はしゃぎで世界樹と相談を始めた。

「砦は大袈裟かな。南側にはカエルの池と、クモ族の山があるものね。砦はダメだね」

「……」

「うんうん、根っこで斜面を補強してくれるの?じゃあ、下から登りやすいように階段もつける?いっそ、地下通路も作ろうか!」

「……」

「そうだね。地下室を大きめに作って、地上部分は小さめの可愛いお城にしようかな」

「……」

「えっ。水路の進行方向を変えるのは……後日相談してからにしようよ。水の流れは繊細だと、今日僕は学んだからね!」

「……」

「そうでしょ!この場所がピッタリだよね。坑道に繋げられるから、世界樹のところにも地下から行けるし。これなら君も冬でも寂しくないね」

「……」

「わかってるね!そう。この位置なら、いずれ城の両側に仙桃の木が生えるんだ。楽しみだよね」


 夜中の相談はとんとん拍子に進んだ。

 こうして神様と世界樹の共同作業が進んでいった。




 カラスの目覚めは早い。夜明けと共に目覚め、毎日神域を夫婦で見回るのが日課だ。

 今朝はあまりの寒さに、夜明け前に目が覚めた。辺り一面猛吹雪だ。


 周囲を見回していると、お嫁さんの千代や子カラスたちも目を開けた。

「おはよう。寒くなるとは聞いていたけど、これはすごいわね」

「おはよう千代。世界樹の上でこれだけ寒いとは……他の動物たちは大丈夫なのか?」


 そう言いながら朝の準備をしていると……神様がやってきた。

「おはよう!昨日のあれ、徹夜して作ったんだ。来てよ!」

 神様はそう言うなり、カラス一家を転移させた。


「……ここは??」

 戸惑うカラスに、にこやかに神様が答えた。

「昨日、事前に相談したじゃないか。お城だよ!我ながら良いお城ができたと思うんだけど、どうかな?」


 事前の相談の心当たりが全くないが、神様が全身で『褒めて』と言っている。

 お城か……神様の兄神たちも、みんな建てていた。

 事情があって、今までこの星にはなかったが、あっても良いだろう。


「良いお城を建てましたね」

 カラスの言葉に、神様は嬉しそうに笑った。 


「そうでしょ。今は雪で見えにくいけど、昨日濁流が削った斜面を利用して上手く建てたんだ。葛の根っこを掘った場所だよ。世界樹との共同作業だよ!」

 嬉しそうな神様の姿に、カラスも嬉しくなった。

 適当に生きているように見える神様だが、ここまでの道のりは苦労も多かった事を、神使として、そばで見守ってきたカラスは知っている。

 神様が喜ぶのなら、少々の無茶には目を瞑ろう。


「さすがに一晩中作業して疲れたよ。僕は少し休むね。夜はみんなを呼んでパーティをしよう。準備をお願いするね」

 そう言い残すと、転移して消えた。


「ええええ………この大雪の中、どうやってみんなを呼ぶんですか?」

 千代が困った顔をしている。

 うちの嫁は、困った顔も可愛いな。心の中で惚気ながら、カラスは段取りを考えていた。

「とりあえず、朝食にしてから城の中の配置を確認しようか」


 今日も大変な一日になりそうだ。


 手早く朝食を済ませたカラス一家は、早速お城を見て回ることにした。


「神様が作ったにしては質素なお城ですね。こじんまりとして可愛い」

 息子が感心したように辺りを見回した。


「なんだか教会っぽいイメージ?」

 カラスはそう言いながら、神様の長兄の星に、こんな建物があったと思い出していた。

 きっと、神様はそれを参考に作ったのだろう。

 これなら違和感なく、ここの住民たちにも受け入れられる。


 二階建ての建物の一階は、礼拝堂を思わせる大広間だ。

 まだ家具も少なく、ガランとしているが、住民が集まれる居心地の良い空間になりそうだ。


 吹き抜けの二階スペースに上がると、大きな窓ガラスが張り巡らされている。

 あいにく今日は吹雪だが、晴れれば良い景色だろう。

 南側の窓からは、カエルの池や蜘蛛の住む山。北の窓からは世界樹や青い池。遠くまでよく見えそうだ。

 壁には、この地域の過去を写し取った絵がたくさん展示されていて、まるで美術館。小さな小さな世界樹が少しずつ成長していき、だんだんと生物が増えていく様子が克明に記録されていた。


「これは昔、神様が作ったクモの分身、夜弦の絵ですね。懐かしい」

 カラスは目を細めて見入っていた。

「いやだ、私も描かれているわ。

 千代が恥ずかしそうに笑う。


 二階の一画は、部屋として区切られており「ぼくの部屋」と札がぶら下がっている。

 どうやらここが神様の私室のようだ。


 眠っているであろう神様を起こさないように、一同はそっと階段を降りた。


 次に向かったのは、地下室だ。

「地下室があるなんて素敵ですね」

「地下は食糧庫かしら」

 などと話しながら階段を降りると、予想通り。食糧庫とキッチンのようだ。

「これだけの大きさがあれば、パーティも開けますね」

 千代の嬉しそうな声が、まだ伽藍堂のスペースに響いた。

「一人でどれだけの食料を貯め込むつもりだ?まさか天空から運んでくるわけじゃないだろうな……」

 カラスは誰が手配するんだと、少し不安になったが、すぐに忘れた。


「お父さん、見て!また階段があるよ!」

 息子がさらに下に降る階段を見つけたからだ。

「地下二階もあるのか?」

 地下二階はお風呂だった。かなり大きい上に、大中小いくつも浴槽があった。一体何人で入るつもりなんだ……カラスは呆れたが、神様の城だ。ちょっと豪華でも問題ないだろう。

 地下二階には玄関があった。

 こんな地下に?疑問に思いながら開けてみると、そこは古い坑道に繋がっていた。

 昨日、葛の根っこを掘り出した時に露出してしまった坑道だ。

「こうやって繋いだのか。これは便利だな。この坑道を使えば世界樹にも行けるし、蟻人の巣にも、地下水路にも行けるじゃないか」

「以前に神様の使っていた部屋にも繋がっているわね」


 夫婦で感心していると、ちょうど仁と葉月、守弦が通りかかった。

 みんな突然出来上がった豪華な扉を前に、目を見開いて驚いている。

「まさか神様、一晩でお城を本当に作ったんですか?」

 仁が絞り出した言葉に、カラスは頷いた。

「仁の驚きは当然だよ。私も目覚めていきなり連れてこられたんだ」

 カラスは同志を得て、少し嬉しかった。


「そうそう、今夜パーティをするって神様が張り切ってる。みんなに伝えてもらえるかい?この吹雪だから、来れる者だけでの開催になると思うけど……」

 カラスの言葉に、みんな頷いた。

「カエルから、青い池のみんなにも伝えてもらいます。世界樹に残っているメンバーにも伝言しておきますね」

 守弦が請け負った。

 大空洞の虫たちには、蟻人が伝える約束をして、カラス一家は再び城の探索に戻った。


 結果、この城は地下五階まであった。

 いや正確には、下から数えれば七階建てとも言えるだろう。

 地上部分より、半地下の部分のほうがはるかに大きい。

 南斜面を利用して建てられているため、地下といっても南側には窓がある。

 地下五階は、ちょうど斜面を下り切ったところにあった。


 脆かった斜面は世界樹の根が支えていた。まるで幾何学模様のように細かく根を張り巡らしたその姿は、荘厳な教会の外壁の一部のようにも見える。


「さすが神様。一晩で作っちゃう?」

「世界樹も凄いよね。もしかして元気になって、力を取り戻してるの?」

 息子たちが大騒ぎしている。


 そう、これが本来の神域の姿だと、カラスは満足していた。

 神様の兄弟たちの星は、もっともっと豪華だった。

 今までが素朴過ぎたのだ。


 天変地異と謎の奇病以前の記憶を持つものは、今やカラス一家だけだ。

 あれは、この星にも神様にもダメージが大き過ぎた。

 やっとここまで復興したのだ。

 ようやく動き出した。


 カラスと千代はそっと寄り添いながら、城を見上げていた。















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