108 事前の相談は大事です
新規連載「末神様は、突然天空を追い出されました」始めました。
この話の前日譚です。そちらもよろしくお願いします
葛の根っこの大収穫で、蟻人の王国も歓喜に湧いた。
カエルたちと分けても、たっぷりの量があったのだ。
守弦はお酒が良いというので、数本渡した。
冬の貴重な甘味に、みんなは舌鼓を打った。
残りは明日以降、酒や葛粉などに加工される。この冬は満腹に過ごせるだろう。
蜜葉乃の嬉しそうな顔を見て、仁も大満足だった。
早朝から大騒ぎだったので、みんなは早めに就寝したようだ。
仁は今日の日誌を書こうと執務室にやってきた。
椅子に座ると、ふと部屋の外の気配に目を向けた。
「そんな所にいないで、入ったらいいですよ」
仁が声をかけると、暗闇に紛れるように佇む神様が姿を現した。
いつもの軽い調子とは違い、遠慮がちに口を開いた。
「ごめんね。あんなことになるなんて思わなかったんだ。世界樹に関わることだから僕も力を貸そうと思って……」
そう、雪を溶かしてくれたのは、もちろん神様の善意だ。
溶かされた雪が濁流になって流れたり、水路に染み込んで急流になるなんて予想もつかなかったのだろう。仁にも予想できない。
「結果オーライでしょう。濁流のおかげで根っこが露出しましたし、掘り出す手間がかなり軽減されました。みんな、神様のお気持ちは分かっていると思います」
「そうだと良いんだけど」
「少なくとも蟻人たちは大喜びでしたよ」
仁は戸棚から葛酒を出し、神様にも注いだ。
「葛のお酒なんて初めて飲むよ。こんなの作るなんて、双葉はすごいね」
二人でグラスを傾けた。
「双葉の感性は独特ですね。まあ、酒造りは他のメンバーの情熱もすごいんですが」
仁は勝手に結成された酒造り班の事を思い出し、クスリと笑った。
「地上の管理は難しいよ。天空では考えられない影響が起こる」
「そうですね。今日の事態は、私も予測できなかったですよ。確かに、雪解け水は地下に流れ込む。言われれば当たり前なんですが……」
「急激に雪を溶かすのはダメだって学んだよ」
「まあ、神様が溶かさなくても、春に急に暖かくなる日もあるでしょう。良い勉強になりました」
仁の言葉に神様は感心したようだ。
「そうやって学ぶ姿勢が、蟻人の知識の源なんだろうね」
「小さな蟻人にとって、知識は武器ですから。大事なことは記録をして、娘たちみんなに伝えていきたいと思っています」
しばらく二人は無言だった。
「そうそう、今回のお詫びに……」
しばらくして、そう言いかけた神様を仁は素早く押し留めた。
「品物なら受け取りませんよ」
「でも、迷惑をかけたし……」
仁は小さくため息をついて神様を説得した。
世界樹を助けるのは、みんなにとって当たり前であること。
神様の行動は予定外ではあったが、結果助かったのだから気にしなくていいと。
「でも、いつも迷惑をかけてしまうんだよね。なんでかな」
寂しそうな神様を見て、仁は心が痛んだ。
そもそも、神様から悪意を向けられたことなど一度もない。
いつも助けようと手を貸してくれる優しい神様だ。
仁はなんと言って慰めたら良いのか悩んだ。
「次回からは手を貸してくださる前に、相談していただけませんか?今回も事前にわかっていれば、もっと簡単に解決できたかもしれません」
「事前に相談か。それは良いかもしれないね」
「ええ、私でも良いですし、カラスでも良いですから、ぜひ」
「じゃあ、斜面の下に溜まった土砂の山の事も、相談した方がいいかな?」
「土砂の山ですか?」
神様が説明してくれた。今回流れ落ちた土砂は、そのままだと水路が泥で埋まったり、カエルの池に流れ込んだりしそうだった。
とりあえず神様の力で、水分を抜き小山にしたらしい。
「春までは崩れないと思うけど、大雨が降ったら危険だよね」
時限爆弾を渡された気分だが、仕方がない。
そもそも、これは今回の工事の後始末だ。
みんなで知恵を出し合えば、きっとうまく解決できるだろう。
仁はそう自分に言い聞かせた。
「わかりました。冬の間に動物たちにも相談してみます。小山が崩れそうな時には教えていただけますか?」
「見張り役だね。任せてよ!まあ明日からは、ものすごく寒くなるし、あちこち凍るから、しばらくは心配ないと思うよ!」
任務を与えられた神様は、嬉しそうに引き受けてくれた。
「こういうのいいね。僕はこんな風にみんなと話し合って、助け合える星を作りたかったのかもしれない」
「他の神様は、どんな星を作っていらっしゃるのですか?」
仁の問いに、神様はしばらく考え込んでいた。
「僕もそんなに兄弟神の星に行った事があるわけじゃないんだけど……どこもみんな城があったな……僕も最初は砦と城を作ろうと思ってたんだよ!すっかり忘れてたよ!」
「砦とお城ですか。周りの様子もよく見えるかもしれませんね」
仁の何気ない答えに神様が飛びついた。
「そうだよね!お城だよ。土もあるし場所も。ちょうどいいじゃないか!そうするね!こうしてはいられない。雪が積もる前に行ってくるね!相談できてよかったよ!」
そう言い残すと、パッと神様が消えた。
「相談って……まさか、今のは『事前の相談』?」
お城って、一体何をするつもりなのか。
気になって仕方がないが、もう夜中だ。今からできる事は何もないだろう。
明日、考えよう。仁は深くため息を吐いた。
今日の暖かさの反動で明日から寒くなる。
どんな問題が起きるのか、仁は不安になったが、再び自分に言い聞かせた。
みんなで力を合わせれば、きっと乗り越えられる。
神様も手を貸してくれるのだから。
仁は日誌を静かに片付けると、執務室を後にした。
地上では、すでに雪が舞い始めていた。




