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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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108/130

108 事前の相談は大事です

新規連載「末神様は、突然天空を追い出されました」始めました。

この話の前日譚です。そちらもよろしくお願いします

 葛の根っこの大収穫で、蟻人の王国も歓喜に湧いた。

 カエルたちと分けても、たっぷりの量があったのだ。

 守弦はお酒が良いというので、数本渡した。

 冬の貴重な甘味に、みんなは舌鼓を打った。


 残りは明日以降、酒や葛粉などに加工される。この冬は満腹に過ごせるだろう。

 蜜葉乃の嬉しそうな顔を見て、仁も大満足だった。


 早朝から大騒ぎだったので、みんなは早めに就寝したようだ。

 仁は今日の日誌を書こうと執務室にやってきた。

 椅子に座ると、ふと部屋の外の気配に目を向けた。


「そんな所にいないで、入ったらいいですよ」

 仁が声をかけると、暗闇に紛れるように佇む神様が姿を現した。


 いつもの軽い調子とは違い、遠慮がちに口を開いた。

「ごめんね。あんなことになるなんて思わなかったんだ。世界樹に関わることだから僕も力を貸そうと思って……」


 そう、雪を溶かしてくれたのは、もちろん神様の善意だ。

 溶かされた雪が濁流になって流れたり、水路に染み込んで急流になるなんて予想もつかなかったのだろう。仁にも予想できない。


「結果オーライでしょう。濁流のおかげで根っこが露出しましたし、掘り出す手間がかなり軽減されました。みんな、神様のお気持ちは分かっていると思います」

「そうだと良いんだけど」

「少なくとも蟻人たちは大喜びでしたよ」


 仁は戸棚から葛酒を出し、神様にも注いだ。

「葛のお酒なんて初めて飲むよ。こんなの作るなんて、双葉はすごいね」

 二人でグラスを傾けた。

「双葉の感性は独特ですね。まあ、酒造りは他のメンバーの情熱もすごいんですが」

 仁は勝手に結成された酒造り班の事を思い出し、クスリと笑った。


「地上の管理は難しいよ。天空では考えられない影響が起こる」

「そうですね。今日の事態は、私も予測できなかったですよ。確かに、雪解け水は地下に流れ込む。言われれば当たり前なんですが……」

「急激に雪を溶かすのはダメだって学んだよ」

「まあ、神様が溶かさなくても、春に急に暖かくなる日もあるでしょう。良い勉強になりました」


 仁の言葉に神様は感心したようだ。

「そうやって学ぶ姿勢が、蟻人の知識の源なんだろうね」

「小さな蟻人にとって、知識は武器ですから。大事なことは記録をして、娘たちみんなに伝えていきたいと思っています」


 しばらく二人は無言だった。

「そうそう、今回のお詫びに……」

 しばらくして、そう言いかけた神様を仁は素早く押し留めた。

「品物なら受け取りませんよ」

「でも、迷惑をかけたし……」

 仁は小さくため息をついて神様を説得した。


 世界樹を助けるのは、みんなにとって当たり前であること。

 神様の行動は予定外ではあったが、結果助かったのだから気にしなくていいと。

「でも、いつも迷惑をかけてしまうんだよね。なんでかな」

 寂しそうな神様を見て、仁は心が痛んだ。


 そもそも、神様から悪意を向けられたことなど一度もない。

 いつも助けようと手を貸してくれる優しい神様だ。

 仁はなんと言って慰めたら良いのか悩んだ。


「次回からは手を貸してくださる前に、相談していただけませんか?今回も事前にわかっていれば、もっと簡単に解決できたかもしれません」

「事前に相談か。それは良いかもしれないね」

「ええ、私でも良いですし、カラスでも良いですから、ぜひ」

「じゃあ、斜面の下に溜まった土砂の山の事も、相談した方がいいかな?」

「土砂の山ですか?」


 神様が説明してくれた。今回流れ落ちた土砂は、そのままだと水路が泥で埋まったり、カエルの池に流れ込んだりしそうだった。

 とりあえず神様の力で、水分を抜き小山にしたらしい。

「春までは崩れないと思うけど、大雨が降ったら危険だよね」


 時限爆弾を渡された気分だが、仕方がない。

 そもそも、これは今回の工事の後始末だ。

 みんなで知恵を出し合えば、きっとうまく解決できるだろう。

 仁はそう自分に言い聞かせた。


「わかりました。冬の間に動物たちにも相談してみます。小山が崩れそうな時には教えていただけますか?」

「見張り役だね。任せてよ!まあ明日からは、ものすごく寒くなるし、あちこち凍るから、しばらくは心配ないと思うよ!」

 任務を与えられた神様は、嬉しそうに引き受けてくれた。


「こういうのいいね。僕はこんな風にみんなと話し合って、助け合える星を作りたかったのかもしれない」

「他の神様は、どんな星を作っていらっしゃるのですか?」

 仁の問いに、神様はしばらく考え込んでいた。

「僕もそんなに兄弟神の星に行った事があるわけじゃないんだけど……どこもみんな城があったな……僕も最初は砦と城を作ろうと思ってたんだよ!すっかり忘れてたよ!」


「砦とお城ですか。周りの様子もよく見えるかもしれませんね」

 仁の何気ない答えに神様が飛びついた。

「そうだよね!お城だよ。土もあるし場所も。ちょうどいいじゃないか!そうするね!こうしてはいられない。雪が積もる前に行ってくるね!相談できてよかったよ!」


 そう言い残すと、パッと神様が消えた。


「相談って……まさか、今のは『事前の相談』?」

 お城って、一体何をするつもりなのか。

 気になって仕方がないが、もう夜中だ。今からできる事は何もないだろう。

 明日、考えよう。仁は深くため息を吐いた。


 今日の暖かさの反動で明日から寒くなる。

 どんな問題が起きるのか、仁は不安になったが、再び自分に言い聞かせた。

 みんなで力を合わせれば、きっと乗り越えられる。

 神様も手を貸してくれるのだから。


 仁は日誌を静かに片付けると、執務室を後にした。


 地上では、すでに雪が舞い始めていた。








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