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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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106/130

106 できる事をしよう

この神様主役の「末神様は、突然天空を追い出されました」本日20時連載開始します。

よろしくお願いします

 ゴゴゴゴゴ………

 雪の塊は地面を抉りながら、斜面を流れ落ちていった。


「しまった、カエルの池の方に流れていったな。様子を見てくるよ」

 神様はそう言い残すと、一人転移して消えてしまった。

 後に残されたカラスが小さな声で囁いた。

「神様を止められず、申し訳ない」


 その時、一葉が抉れた斜面を指差して叫んだ。

「根っこが見えてる?あれってもしかして?」


 みんなの視線の先には、世界樹の白っぽい根っこと、ガッチリと巻き付いた葛の根っこが見えた。

「都合が良すぎるでしょ……」

 結葉が呟き、不意に笑い出した。

 やがて呆然としていた動物たちにも笑いが広がった。


 カラスが羽ばたき、世界樹の根っこに止まった。

 水と雪は、ほぼ流れ終わっていた。


 戻ってきたカラスが言った。

「根っこを出したのは世界樹の意思のようだ。絡みついて栄養を奪う葛の根っこを外して欲しいと言っている」

「……神様といい、世界樹といい、やることの規模が大きすぎるね」

 ため息混じりの一葉の言葉に、カラスがさらに小さくなった気がした。


「とりあえず、どうしようかしら。これは仁か葉月じゃないと安全に作業が進められないわ」

 結葉の言う通りだ。

 土の抉れた斜面はドロドロで、いつ崩れてもおかしくない。

 大きな木もないので、土が脆いのだ。

 そんな中、リスたちは身軽に斜面を移動し、世界樹の根っこの下見に降りて行った。

 結葉は地面に降り立ち、辺りを調査しようとしたが、ドロドロで蟻人では歩くだけでも大変だった。

 その時、ナキウサギのお兄ちゃんが言った。

「蟻人が僕の背中に乗ったらいいよ。僕ならクマよりだいぶ小さいし、調査しやすいんじゃない?」

 三人の蟻人はその好意に甘えることにした。


「あの辺りが大空洞ね。葉月や仁、双葉もいるみたい。どうにかして地下に降りないと」

 結葉が考えていると、後方からイノシシの「あ!」という声が聞こえた。

 今度は何?と恐る恐る振り返ると、申し訳なさそうな顔をしたイノシシが、クマに怒られていた。

 泥遊びの誘惑に勝てず、体を擦りつけていたイノシシが、地面を陥没させてしまったようだ。

「ちょっとだけだから。そんなには凹んでないよ!」


「これは……位置的にみて世界樹に続く坑道かな?」

 結葉の言葉に、無口な護葉が珍しく答えた。

「葉月と世界樹へつながる坑道を調査した時に、坑道脇に大空洞がもう一つありそうだと言っていた。それかもしれないな。ここからなら地下に入れそうだ。私が行ってこよう」


 危険に違いない。止めたい。

 しかし、それ以外に方法が見つからなかった。

 一葉も行くと言ったが、危険な地上に結葉一人を残して行けないと、護葉が反対した。

 その時、ナキウサギのお兄ちゃんが、陥没した穴に飛び降りて言った。

「僕もなんとか通れそう。一緒に行くよ」


 蟻人の坑道は通れないが、虫たちが冬ごもりする大空洞まではカエルも通れる広い坑道だ。体の小さなナキウサギのお兄ちゃんなら入れそうだ。最悪の場合でも、地上に向かって穴を掘れば脱出できるだろう。


 クモの糸を編んだ長い長いロープを腰に巻いて、護葉はサッと穴に潜って行った。

 ナキウサギのお兄ちゃんも、すぐ後を追いかけて潜って行った。

 結葉は心配そうに触覚を揺らし、護葉の気配を追いかけていた。


 しばらくすると、斜面に飛び出した世界樹の根っこの脇から、ナキウサギのお兄ちゃんがひょっこり顔を出して手を振った。

「やっぱりつながってるよ。僕は、この根っこの隙間は通れないから引き返そうかな。護葉は、隙間を通って先に進んだよ!」

 その言葉に、みんなはホッと胸を撫で下ろした。

 その時、カラスがサッと羽ばたき根っこに降りると、ナキウサギのお兄ちゃんを嘴に咥えて戻ってきた。初めて空を飛んだナキウサギのお兄ちゃんは、大興奮だ。


 少し落ち着いたナキウサギのお兄ちゃんが地下の状況を話してくれた。

 地下は、水がぼたぼた落ちて雨漏りのようになってはいるが、浸水というほどではなく、水たまりを避ければ通行できるらしい。

 きっと、安全第一でみんなは避難したのだろう。地下からは、大きな問題の気配も感じられない。結葉は引き続き、護葉の気配を追いかけた。


 やがて護葉が大空洞でみんなに合流し、仁、双葉、葉月、絵葉と共に、こちらに向かってくる気配がした。

「こういう時、無力さを感じるわ。葉月みたいに掘る能力があればよかったのに」

 結葉の言葉に、一葉が笑い出した。


 その様子を不思議に思い眺めていると、一葉が言った。

「結葉の能力もすごいよ。離れていても相手を感じられるなんて唯一無二の能力じゃないか」

「そんな。私の能力が役立つ場面なんて滅多にないわ」

「その滅多にない時に役立つ、特別な能力だろ。結葉の能力がダメなんだったら、私なんて無能だよ」

「そんな!一葉の能力はすごいわ!」


 そう言った瞬間に思い出した。一葉の『他の生物と話せる能力』は、全部の蟻人に神様が返してくれた事を。みんなが使えるようになったということは、一葉には特別な能力がない。


「思い出した?私の能力は特別じゃなくなった事を」

 一葉が少し寂しそうに言った。

「でも、一葉は相変わらず一番外交的だわ!カエルだって守弦だって、虫達だって一葉をいつも頼るじゃない!一葉は私たちの一番のおねえちゃんよ!」

「ありがとう。結葉だって同じだよ。葉月には葉月の、結葉には結葉の良いところがあるだろ?」

 結葉の心のモヤが晴れた気がした。


 恥ずかしくなって、思わず一葉に抱きついた。

「ありがとう、お姉ちゃん」

 一葉も恥ずかしそうに、結葉の頭を撫でると、そっと生姜湯を差し出した。

 寒さに負けないようにと蜜葉乃が持たせてくれた生姜湯だったが、今日の陽気には暑すぎる。二人は火照った頬を押さえながら、ゆっくりと飲んだ。




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