104 みんなの力を合わせれば
ボートは、ゆっくりと水路を下っていった。
鍾乳洞の天井は高く、ところどころから細い鍾乳石が垂れ下がっている。
壁には淡く光るキノコが群生し、その足元を緑色の苔が覆っていた。
あちらこちらで灯るキノコの光が、岩肌をぼんやりと照らし、苔の上には小さな水滴が光っている。その光が水面にも映り込み、ボートが進むたびに細かな波紋となって揺れた。
ちゃぷん、と水が跳ねる。
ボートの後ろにはカエルが泳ぎ、時折水面に顔を出した。
魚たちもボートを囲み、その背鰭がキラキラと輝いては消えた。
揺れた水面に、白や緑の光が細長く伸びては崩れていく。
静かな洞窟の中では、水の音がどこまでも響いた。
ボートが緩いカーブを抜ける。
その先には、天井から無数の水滴が垂れ下がる広い空間があった。
光を受けた水滴がきらきらと輝き、まるで洞窟の中に星空が広がっているように見える。
「……きれい」
絵葉が、ぽつりと呟いた。
その声さえも、洞窟の奥へ吸い込まれていった。
一葉、結葉、絵葉は、初めての体験にうっとりとしてボートに身を任せていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
まもなく水路の出口に到着した。
魚たちがボートを岸に誘導して、三人は無事に降り立った。
「みんなありがとう。これなら当日も問題なく移動できそうだね」
一葉の言葉に、カエルが自信満々で答えた。
「帰りはロープを引っ張ってやるし。なんの問題もないだろう?」
そういいながら歩くと、すぐに脇の大きな部屋に着いた。
「このあいだ、ナキウサギが忍び込んだ広間か。良い感じに整えたんだね」
秋の終わりにナキウサギの兄弟が隙間に入り込んだ救出劇は、一葉とカエルも覚えている。
「良いね。すごく広いし暖かい。しかも、食料と水まであるじゃないか」
一葉が笑って指差した先には、石灰岩に生えるキノコや苔、細い細い水路だ。
「あの後、忙しいのに葉月が来てアドバイスしてくれたんだよ。冬は毎日、付近の動物たちが集まって過ごしているんだ」
リーダーらしく、クマが答えた。
お互いに自己紹介をして、話し合いは始まった。
参加するメンバーの選定が始まった。
「葛の根っこが見つかるなんて、なんという幸運!今から行くのかい?」
やる気満々なのは、イノシシだ。広範囲を掘るのは、イノシシが一番得意だろう。
「お前のやる気は空回りする。人の話はキチンと聞かないと連れて行かない」
イノシシをコントロールできるクマの参加も必須だ。
話し合いの結果、クマの背中に、蟻人たちも乗せて運んでもらうことが決まった。
「ただ、体の大きさが違いすぎて、蟻人の声は聞きにくいんだよ」
クマの意見はもっともだ。クマと比べたら蟻人など、けし粒みたいな大きさだ。
「僕も一葉と行きたい!」
そう言って手を挙げたのはナキウサギのお兄ちゃんだ。
生まれた頃、この辺りは食料が少なく、あまり体が大きくならなかった彼は、とてもすばしっこく、頭も良かった。一葉にも、とても懐いている。
クマは少し考えていたが、許可を出した。
ナキウサギのふかふかの毛に埋もれる方が、クマのゴワゴワの毛よりも蟻人には居心地が良いだろう。そう判断したのだ。
ナキウサギの両親に確認を取ると、快く承知してくれた。
「この子たちの命は、皆さんに救われたのです。恩返しのチャンスです」
その後、狐の一家も同行すると手を挙げた。
「後は……葛の根っこを切断してくれるメンバーが欲しい。世界樹の根っこに、完全に巻き付いているんだ」
一葉の言葉に合わせて、絵葉が精一杯大きく書いた絵を広げた。
動物たちが順番に覗き込んだ。
「これは……真ん中にある白い根っこが世界樹なのか?」
クマの言葉に一葉が頷くと、イノシシも渋い顔をした。
「オレが掘ると、世界樹を一緒に切ってしまうな……」
「だから、葛の根っこを切断できるメンバーが必要なんだ」
「葛の根っこって、どれくらいの太さなんだ?」
クマの質問に、絵葉が少し考えてからクマの腕を指差して答えた。
「このくらいかな」
辺りにざわめきが広がった。
その時、だった。
「私たちなら噛み切れるわ」
手を挙げたのはリスだった。
普段は世界樹に住んでいる。青い池周辺メンバーではないが、世界樹の根っこに関わる話と聞いてカラスと共に話を聞きに来たらしい。
リスの小さな体をみて、みんなは本当に噛み切れるのかと心配したが、一緒に来ていたカラスが太鼓判を押した。
「世界樹の根っこを噛み切れるのは、このリスの家族だけだ。葛の根っこなんて朝飯前だろう」
当日は、大型動物が小型動物を背中に乗せて移動する。
カラスが上空から見守る。
最初はイノシシが大きく掘って根っこを露出させる。その後は様子を見ながら慎重に蟻人の指示で掘って行く。世界樹根っこを傷つけないこと。
葛の根っこは、みんなで分けて寒い冬を乗り切ろう。
決行日は、天気を見て後日連絡する。
平和裡に、話し合いは終わった。
みんなで力を合わせれば、意外と簡単に掘り出せるんじゃないか。
そんな希望を胸に、蟻人たちはボートに乗り込み、巣に帰っていった。
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仁の日誌
葛の根っこ掘り出しに向けて、動物たちとの話し合いが順調に終わった。
作業の見通しもついた。
後は、天気を読むのが一番上手い、カエルが決行日を決めるのみだ。




