103 姿の見えない伝え方
世界樹へ続く道の途中。葛の根が世界樹の根に巻き付いている辺りに作ると決めた、出入り口は難航していた。
地上は南向きの斜面だ。陽当たりはいいが、土地が痩せていて木は少なく、冬以外は蔓性の植物に覆われている。
巣の第二出入り口周辺もだが、世界樹の東側一帯は土地が荒れていて地盤が緩い。
「これは、難題だわ。通路を掘らないと場所を知らせられないけど、掘るためには葛の根っこが邪魔すぎる」
何日もかけて葉月が調査した結論だ。
葉月の技術を駆使しても、ギリギリ蟻人一人が通れる穴しか掘れなかった。
しかも、いつ崩れてもおかしくない。
「菌糸マットが広範囲に根付いて地盤が安定しないと、新規の坑道は難しいかもしれません」
絵葉も、同意した。
「これは、地上から掘ってもらう以外ないね」
葉月の言葉に、仁はため息をついた。
「どうやって根っこの場所を地上に知らせたらいいのか……」
同じ頃、カエルも言った。
「お手上げだ。動物たちに上手く伝えられない。交渉事は得意じゃないんだよ」
葛の根っこをクマやイノシシに掘り出して欲しい。その要望は青い池周辺の動物たちに歓迎された。冬の食べ物は少ない。地下茎はご馳走だ。
でも、今回は世界樹の根っこが絡んでいる。比喩ではなく、現実に葛の根が絡みついているのだ。下手に掘り出すと世界樹が傷つく。
そう聞いて、動物たちは動揺した。しかも、地上からでは正確な場所もわからない。
「どうやって掘るんだ」
「どこを掘るんだ」
「深さはどれくらい」
次々に質問されて、カエルはお手上げだった。
「蟻人が出向いて交渉してくれよ。得意だろう?」
カエルは気軽に言うが、この季節に青い池に行くなんて自殺行為だ。
いくらカラスに運んで貰っても、寒さで動けなくなるだろう。
仁が躊躇していると、本葉が言った。
「水路をボートで行ったらどう?」
キャンプの時に作った、泉で使ったボートは、みんな乗りこなしている。
「たしかに使えますね。特に行きは水の流れに乗っていくだけですし」
仁の言葉に、カエルが後押しする。
「水路は流れは緩やかだし、大きく曲がる箇所もない。ロープをつけたら帰りはカエルが引っ張るよ」
「あのボートは三人乗りですね。だれを派遣するべきか……」
巣で蟻人たちが話し合った結果、一葉、結葉、絵葉に決まった。
なぜ結葉が選ばれたか。それは蟻人たちの長い長い話し合いだった。
地下の葛の根の位置をどうやって地上の動物たちに知らせるか。
難問中の難問だった。
当初は、カエルたちが呼び貝を地下から一斉に鳴らして、穴の上に出した、赤く染めたリボンを上空からカラスに見つけてもらう予定だった。
でも地盤が弱く、大きな穴は掘れなかったのだ。
蟻人一人がギリギリ通れる穴しか空いていない。
いくら地下で音を鳴らしても、地上には届かない。
「イノシシに匂いで見つけてもらうしかないのでは」
「辺り一面掘り返されるよ。そもそも葛の根っこは一つとは限らない」
「地下で火を焚いて、狼煙は」
「グネグネ曲がった、小さな小さな穴しか空いていないのに。地下が大変なことになるよ」
色々な案が出ては、一瞬で消えた。
一葉は投げやりに言った。
「見えないところにいる動物に連絡なんて無理だろ。蟻人同士でも、近距離でしか伝わらないのに」
「そうだよ。遠方でもわかるのなんて、結葉くらいだよ。そういえば結葉って、どこまでフェロモン完治できるの?」
葉月の質問に、結葉は少し考えてから答えた。
「いつも私は巣にいるので。そこからだと世界樹の辺りまでは分かりますね。もちろん、蟻人がそこにいるならですよ」
「冬じゃなければ、結葉を地上に向かわせれば簡単なのに。この季節じゃ一瞬で凍死だよ」
葉月の言葉に、一葉が目を見開いた。
「それだよ!結葉を地上に向かわせればいいんだ!」
みんなが信じられない!と驚いた。
葉月が慌てて訂正した。
「結葉を寒さの中に放り出すわけじゃないよ!」
葉月の案はこうだった。
水路を使ってボートで洞窟の出口に行く。ここまでは決定している。
そこから外に出る時に、動物の毛皮の中に潜り込んで運んで貰えば凍えないのではないか。
そうして地下から葉月が司令を出し、結葉が受け取れば動物たちに詳細を伝えられる。
躊躇する結葉に、一葉が言った。
「地上には私が同行するよ。どうかな」
護葉も頷いた。
「私も同行して護衛しよう」
二人に励まされ、結葉が恐る恐るだが頷いた。
「じゃあ、ボートには一葉、結葉、護葉でいいかな」
と決まりかけたが、葉月が反対した。
「動物たちに場所を説明するなら、絵葉の絵が必要だろう」
結局、話合いには一葉、結葉、絵葉が参加するが、地上へは絵葉に変わって護葉が参加。
護葉は別途、ボートの練習をしておくと決まったのだった。
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仁の日誌
葛の根の掘り出し計画が着々と進んでいく。
結局、一葉、結葉、護葉が地上に出る計画になった。
普段なら、結葉が危機を察知して救助に向かえるが、今回はその結葉が現場に行くのだ。
危険すぎて反対したいが、計画は動き出してしまった。
守弦がカラスと連絡を取り、空からバックアップを約束してもらったのは救いだ。
無事を祈ることしかできない。
娘たちならきっと大丈夫だ。
そう信じている。




