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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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102/130

102 酒造り班の情熱

「いいかげんにしなさい!この冬は、この部屋にある蜜以外、酒造りに使ってはいけません!」

 結葉の雷が、地下の酒倉庫に響き渡った。



 一葉、双葉、葉月、護葉、本葉。お酒が好きで、この冬は酒造りに夢中だ。

 彼女らが酒造りに没頭しすぎて、際限なく糖分を使った結果だ。


 山葡萄や仙桃は良かった。潰して寝かせておくだけでお酒になる。

 果実も、ほんの少し蜜を足すだけ。


 生姜が問題だった。

 かなりの蜜を足す必要があった。

 それでも、生姜はシロップにもなったし、体に良さそうだとギリギリ押し通せたが。


 そして今回の葛だ。

 果実ほどではないが、甘味が感じられる。

 少し糖分を足せばお酒になるのではないか。

 ……残念ながら、上手くはいかなかった。


 それならと、葛の根っこを刻んで糖分をたっぷり混ぜ寝かせたところ、生姜と同じように炭酸が発生して甘いシロップになったのだ。

 これは、生姜酒と同じ作り方だ!


 酒造り班は盛り上がり、刻んだ根っことたっぷりの蜜と、水を入れて寝かせた。

 すると、下に白い沈殿物が溜まり、濁っていて、一見失敗のように見えた。


「腐ってはなさそう」

 双葉の言葉に、一葉が恐る恐る飲んでみると……

「美味しい!口当たりが妙に滑らかで、喉越しがトロンとした不思議なお酒だ!甘口だな」


 一葉の言葉に、メンバーたちが次々に試飲を始めた。

「これは、底の白いのも混ぜた方がおいしい!」

「大成功だな!」

「早速増産しよう!」


 そう盛り上がったところで、冒頭に戻る。

 結葉の雷が落ちたのだ。


 たしかに蜜を使いすぎたかもしれない。

 冬はアブラムシ牧場の蜜も、分泌量が減る。

 蜜の採集に地上へ行くわけにもいかない。

「困ったな。しばらく、糖分の高い果実が手に入る見込みはないし」

 一葉がぼやくと、葉月がつっこんだ。

「毎晩宴会を開きすぎだろう。飲み過ぎだ」


 そう。カエルや虫たちに誘われて宴会に行く日も多いのだ。

 お土産なし、というわけにもいかない。

「付き合いもあるし、お酒がないとな……」

 一葉の言葉に、みんな考えこんだ。


 今は葛の掘り出し準備で、虫やカエルたちに協力してもらっていることも多い。

 なかなか誘いを断り辛いのも事実だ。

 このままでは、春までお酒は持たないだろう。

 かと言って、食事としての蜜が足りなくなるのは死活問題だ。


 すでに研究者モードの双葉は考えこんでいた。

「お酒を作るには糖分が必要。ここまでは間違いないと思う」

 みんなが頷いた。

「葛も結構甘みはある。酒になってからも甘いんだから。ということは、足した蜜はお酒の成分に変わったが、葛に含まれている糖分はそのまま残っている?この糖分をお酒に変える方法を見つければ、蜜を足さなくても葛のお酒になるのかも?」


 双葉は、葛酒を持つと、スクッと立ち上がり、足早に実験室に向かった。

「すみません、双葉が何か思いついたみたい。今日は片付けて解散です!」

 本葉はみんなにそう言うと、大急ぎで双葉を追いかけた。


「糖分 分解 糖分 分解……」

 双葉はブツブツと呟きながら、実験室で葛酒を小分けにしはじめた。


「双葉、何か思いついたの?」

「菌糸は枯葉を分解するだろう?もしかしたら葛の根も分解できる菌糸があるかもしれないと思って」

「枯葉を分解するキノコを入れるの?」

「一つはそれを試そう。その他にも、毒のないキノコを片っ端から試すしかないかな」

「初めての実験だもんね。やってみないとわからない」

 二人は顔を見合わせて笑うと、手分けして作業と記録を進めていった。



 次の日、結果は驚くほどあっさりと出た。

 一面に並んだ葛酒は、ほとんど全てに昨日と同じ白い沈殿物があった。

 その中で一つだけ、明らかに透明度を増したものがあったのだ。


 双葉は毒性がないか鑑定した後、味見をしてみた。

「甘い……!」

 本葉も味見をして驚いた顔をした。

「一日でこんなに甘くなるの?」

「葛酒にこのキノコを入れたら、白い沈殿物が減って甘味が増した。先に葛と水、そしてこのキノコを混ぜたら、蜜を足さなくてもお酒ができるかもしれない!?」

「早速みんなに伝えてきます!」

 本葉が駆け出して行った。


 地上に向けて出入り口を掘っている今は、葛の細かい根ならいくらでも手に入る。

 虫たちにも配ったが、まだまだ積み上がっている。

 葛とキノコと水でお酒ができるなら、大成功だ。


「そういえば、カエルの歌で重要なことを歌ってたような……」

 双葉は歌を思い出しながら口ずさんだ。



 冬には根っこを 掘り出して 

 水にさらせば 白い粉

 そのまま食べても おいしいよ

 くずはみんなの たからもの



「『水にさらせば 白い粉』って、これのこと?白い粉をどうするんだろう?」

 疑問に思った双葉が、みんなに相談して葛粉を作れるようになるのは、別のお話。

 葛酒だけではなく、葛餅や葛湯など、この冬は子蟻たちもお腹いっぱいに葛を満喫することになる。


 ーーーーーーーーーーーーー

 仁の日誌


 娘たちの、酒への熱意が止まらない。

 葉月や一葉など、葛の根を掘るために走り回っているメンバーまでもが、朝夕の時間を削って酒造りに励んでいる。

 実際、虫たちとの付き合いにも欠かせない物となっている。


 葛の根の優秀さにも驚く。

 蜜を予想以上に消費したので、食料計画が狂っていたが、完全に穴を埋めてくれた。

 葛粉を作り出した紬葉、そして美味しい食べ方を編み出した、千葉夜や子蟻たちの努力も素晴らしい。

 冬の食卓が豊かになった。


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