100 古の道
坑道探しに失敗して、宴会になった次の朝。
絵葉が空洞の床で眠っている葉月、一葉、風葉、護葉を起こして回っていた。
「起きてください。温かいお茶を淹れました。朝食にしましょう!」
昨日、飲んで騒いだ四人は、巣に帰らずに空洞の隅で眠ってしまったのだ。
「うーん。ここどこ……」
一葉が目をこすりながら、席につく。
それを皮切りに、みんな起き出してきた。
「護葉まで。珍しいこともあるんですね!」
絵葉の言葉に、護葉は気まずそうにそっと目を逸らした。
「まあまあ、護葉は普段真面目すぎるんだよ。たまにはいいんじゃない?」
風葉の言葉で、みんながクスッと笑い、朝食が始まった。
「それにしても、坑道をどうしようかな。全然手がかりがない」
葉月が西の壁を見てそう言ったが、ふと手をとめた。
「あれ?あの壁なんだか昨日と違うような?」
壁に吸い寄せられるように近づいて行く。
「あれ?あれ?昨日こんな感じだったっけ?」
絵葉は事情を話そうをしたが、壁面に夢中で聞こえていないようだ。
葉月は道具を取り出すと一心不乱に掘り始めた。
他の三人も、何事かと顔を見合わせていたが、葉月の勢いにのまれて、早々に朝食を切り上げて手伝い始めた。
古い坑道は、西側の壁を少し掘っただけであっさりと見つかった。
過去に誰かが埋めたのであろう。
入り口は岩で封印され、キッチリと土で固めた跡があった。
今まで見つけたサイズよりも大きめ。ちょうどカエルが掘った坑道のように広い間口のようだ。
「この岩を除ければ、道がつながっていると思う」
葉月の言葉にみんなが歓声を上げ、固められた土をのけていった。
岩が大きく、動かすのに苦労しそうだ。
騒ぎで起き出したカエルが、目をこすりながら近づいてきた。
「無理しないでも、動かしてあげるよ」
カエルは岩を掴み、「ふんっ!」と持ち上げようとしたが、長年置かれた岩はびくともしない。
「横のスキマに、この板を差し込んで。それを壁側に押せば動かないかな?」
葉月が蟻人の技術をカエルに教えると、カエルは照れくさそうに板を差し込みながら言った。
「動かせないなんて、カッコ悪いところをお見せしましたね」
「そんな事ないよ。手伝ってもらって大助かり。蟻人だけじゃ、岩を動かすのに一日仕事だよ」
「そうですか?では今度こそ。ふんっ!」
カエルが板を押すと、今度は岩が動いた。
思ったよりも厚みのある岩だった。
まるで重い扉が開くように、ゆっくりとゆっくりと。
岩の向こう側も土で固められていたのだろう。大量の土があたりを舞った。
やがてもうもうとした土煙が収まり、向こうが見えるようになると、みんなの歓声が上がった。
「やった!」
「やっぱり坑道があった!」
「ありがとうカエル!」
「いえいえ、見つけたのは蟻人ですから」
「すごいすごい!」
いつの間にか空洞にいる虫たちが集まって手を叩いている。
カエルと蟻人たちは嬉しくなって、我先にと坑道に走り込んでいった。
「安全確認をしないと!」
護葉だけが叫んでいたが、みんなの勢いに負けて、結局後から追いかけた。
坑道は広く、どこまでも続いている。
古い坑道とは思えないほど、整備された当時のままだ、と思っていたが、しばらく行くと壁や天井から根っこが出始めた。
最初は細かな根っこだと思っていたが、すぐに大きな根っこが坑道を塞いだ。
白っぽい太い根っこに巻き付くように別の茶色い太い根っこが蔓延っているようだ。
「白い方は世界樹の根っこでしょうね。見覚えがあります」
絵葉の言葉にみんなが同意した。
「世界樹の根っこに、何かが巻き付いている?」
葉月が呟き、護葉がみんなに大きな声で叫んだ。
「撤退!一度撤退だ!急いで!この場のものは持って帰ってはいけない!坑道の入り口で待機!」
訳がわからなかったが、言われるがままにみんな大空洞に戻った。
そして言われるがままに、蟻人が急遽整えた風呂で汚れを落とした。
蟻人が風呂を作る間に、坑道に入らなかった虫やカエル達が水を運び、辺りは大騒ぎだった。
坑道に入ったもの達が一通り汚れを落として集合した。
ちょうど、呼びにいってもらった仁と双葉、そして守弦も大空洞に到着した。
「何事か説明を」
仁の言葉に、絵葉が先程の光景をスケッチしてみせた。
それに合わせるように、葉月が説明を始めた。
古い坑道を発見。途中まで道はキレイに残っていたが、世界樹の根っこと、それに巻き付く茶色い太い根っこが蔓延っていること。蟻人ならば、スキマを抜けて向こう側に行けるかもしれないと、付け加えた。
護葉が説明を引き継いだ。
「場所は少し離れているが、黒い根っこの事もある。世界樹の根っこが謎の根っこに巻きつかれていた。怪しかったので、即時撤退。水浴びをしました」
「良い判断ですね。カビや病気の場合、部屋に蔓延させると取り返しがつきませんから」
仁が即答した。
カエルや周りの虫たちは、やっと納得がいったようだ。
「さすが蟻人。もし病気が広がったら大変だもんな」
「こんな冬に外に逃げたら寒さで死んでしまう」
「病気は広げないようにするのが大事なんだね」
仁が続けた。
「蟻人は、『巣に怪しいものを持ち込まない。巣に戻る前に風呂に入る』を徹底しています」
「風呂っていうのか。ぬるいお湯に浸かるのがこんなに気持ちがいいとは知らなかった。普段から入るのもいいね」
カエルの言葉に、風呂に入った他の虫たちも同意した。
「本当に気持ちよかった」
「毎日は水汲みが大変だけど、ちょくちょく沸かしてもいいんじゃない?」
「みんなでやったら、毎日でも大丈夫だろう」
色々な意見が飛び交った。
考え込んでいた双葉が口を開いた。
「世界樹の根っこは間違いないの?」
葉月と絵葉が頷いた。
「見に行くしかないね。ちょっと行ってくる」
「ちょっと待ってください双葉。黒い根っことは様子が違いますが、それでも危険かもしれません」
「仁、いくらイラストを眺めても解決しないよ。私が直接見てくる方が早い」
たしかに、植物の状態どころか気持ちまで感知できる双葉が行けば、状況は把握できるだろう。だが、病気の事もある。危険だ。
その時、守弦が言った。
「例の病気の事で悩んでいるなら、私がついて行こうか。クモ族には感染しないと聞いている」
「それならカエル族にも感染しない。道案内をしますよ」
「仁が倒れたら、誰が蜜葉乃様と巣を護るの」
絶対について行くと仁が主張して、誰が行くか揉めに揉めたが、最後は仁が折れた。
決まったメンバーは、もちろん双葉、
穴を掘るのが得意な葉月、
身軽な風葉、
そしてクモの守弦とカエルだ。
「絶対に無理はしないでください。ダメなら他の道を掘りましょう」
坑道に入っていくメンバーを、仁が心配そうにいつまでも見送っていた。




