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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
第一章 黒翼建国編
7/13

第六話 『狂刃は門を裂き、鉄槌は聖炎に沈む』

『狂刃は門を裂き、鉄槌は聖炎に沈む』投稿します。


これで五日連続投稿になりました。

ここまで毎日物語を進められていることが、自分の中でもかなり大きな励みになっています。


今回は、雪原の戦いがさらに激しく動く回です。

狂石に侵されながらも刃を振るうヤマト、聖炎で戦場を支えるエース、そして新たに姿を見せるメテオ側の将。


戦場の熱量と、それぞれの役割が交差していく一話になっています。

ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。


よろしくお願いします。

 雪原の中央で、黒い大太刀と巨大な大斧が激突した。刃と刃が噛み合っただけではない。まるで大地そのものが殴りつけられたような衝撃が、足元の雪を跳ね上げ、周囲で狂乱していた兵たちの動きすら一瞬だけ止めた。


 ヤマトは笑っていた。


 だが、その笑みはいつもの軽薄なものではない。狂石鉱石(クレイジー・オール)の赤黒い光がこめかみにちらつき、血の奥から湧き上がる殺意が、彼の思考を何度も塗り潰そうとしている。


 斬れ。殺せ。敵も味方も関係ない。


 耳の奥で、誰かがそう(ささや)いている。


「うるせえ」


 ヤマトは低く吐き捨てた。


 大太刀を押し込み、エスミックの大斧を力任せに弾く。


 エスミックは、雪を削りながら一歩退いた。だが、その顔には余裕が残っている。


「さっさと狂い死ねば楽になれるものを……!」


「生憎負けるのは性に合わねえんでな」


 ヤマトの踏み込みは速かった。


 雪原を蹴ったはずの足音が、一つしか聞こえなかった。次の瞬間には、黒い大太刀がエスミックの首元へ迫っている。


 エスミックは大斧の柄で受けた。


 だが、受けた瞬間、(つか)(きし)む。


「ぐっ……!」


「五極連斬」


 ヤマトの声が落ちた。


 一撃。


 大斧の(つか)を打ち据える。


 二撃。


 エスミックの体勢が崩れる。


 三撃。


 大斧の刃が雪を削る。


 四撃。


 エスミックの鎧の肩当てが砕けた。


 五撃目。


 黒い刃が、エスミックの胸元へ沈み込む。


「うおおおお……!」


 斬撃は浅い。


 だが、浅いだけだった。


 鎧ごと骨を叩き割るような衝撃に、エスミックの巨体が後方へ吹き飛んだ。雪原を転がり、赤黒く脈打つ石のそばで(ひざ)をつく。


 普通なら、それで終わっていた。


 武器で受ければ武器が砕ける。鎧で受ければ鎧ごと体が潰れる。それがヤマトの剣だった。


 だが、エスミックは笑った。


「なるほどな……狂神五人衆。名前だけじゃねえってわけか」


 エスミックは大斧を地面へ突き立てる。


 その瞬間、彼の足元の石が赤黒く盛り上がった。


 狂石鉱石(クレイジー・オール)


 狂気を宿した鉱石が、泥と雪を押し退けながらエスミックの腕、肩、胸元へ絡みついていく。鎧のように。骨のように。肉の代わりに、狂った石が彼の体を覆っていく。


 エスミックが大斧を持ち上げる。


 先ほどよりも、重い。


 大斧の刃に、狂石の突起がいくつも生えていた。石の血管のような赤黒い光が走り、その周囲の空気が歪んで見える。


「だせえ鎧を着やがって、その程度で実力差が(くつがえ)るとでも思っているのか」


 ヤマトは鼻で笑った。


「ほざけ。こいつは守るための鎧じゃねえ」


 エスミックが大斧を振り下ろした。


 雪原が裂けた。


 割れ目から、赤黒い石柱が何本も突き上がる。槍のように尖った狂石が、ヤマトの足元を狙って連続で生えた。


「ちっ」


 ヤマトは身を(ひるがえ)す。


 一歩遅れれば足を貫かれていた。石柱の先端が、空を切る。さらに横から別の石柱が迫る。ヤマトは大太刀でそれを斬り払った。


 砕けた石片が、周囲に飛び散る。


 その石片を浴びた兵が、目を()いて叫び始めた。


「は、はは……殺す、殺す殺す殺す!」


 狂石は砕かれてもなお、狂気を撒き散らしていた。


 エスミックの戦い方は、単純な斧術ではない。


 大地そのものを武器に変える。


 狂石を増やし、砕き、周囲へ撒き、敵味方の理性を奪いながら、自分だけはその中心で暴力を振るう。


 戦場を汚染する武人。


 それがエスミック・イェッケルンだった。


「面倒くせえな」


 ヤマトは頭を掻いた。


 赤黒い光が、さらに濃く視界に滲む。


 “殺せ”


 目の前の敵だけではない。後ろの味方も、横の狂兵も、そこに立っている全員を斬れ。


 頭の奥が熱い。呼吸が荒くなる。


 ヤマトは大太刀を肩に(かつ)いだ。


「並外れた精神力だな」

「いや、そろそろ限界だ」

「そりゃ何より」


 エスミックが防御の構えを取った。一切の隙が見えない。


 ヤマトが動いた。


「!?」


 エスミックは何が起こったのかわからなかった。ヤマトの大太刀は、自分に向けられてはいなかった。


 ヤマトは、狂乱した兵たちの中へ踏み込んでいた。


「驚威雑鬼斬」


 黒い大太刀が、無造作に振るわれた。


 右へ。左へ。後方へ。


 まるで面倒な草を刈り払うように、ヤマトは周囲の兵たちをまとめて吹き飛ばした。刃で命を奪うのではなく、(つか)(みね)と衝撃で叩き伏せる。敵も味方も関係なく、狂乱の渦そのものを力ずくで押し広げた。


 空間が空く。


 ヤマトとエスミックの間に、一直線の道ができる。


「邪魔なんだよ、全部」


 その言葉と同時に、ヤマトの姿が消えた。


 雪が爆ぜる。


 エスミックは反射的に大斧を構えた。だが、遅かった。


「無双一閃」


 黒い閃光が、雪原を貫いた。ただの突きではなかった。ヤマトの体そのものが一本の刃となり、空気も雪も狂石の光も、すべてを置き去りにしてエスミックへ突き刺さる。


 大斧の刃が砕けた。


 狂石鎧の胸元に亀裂が走る。


 エスミックの口から血が飛んだ。


「が、は……!」


 それでも、エスミックは倒れなかった。


 砕けた大斧の柄を手放し、ヤマトの腕を掴む。


「捕まえたぞ、狂犬」

「あ?」

「お前みたいな脳筋はここで殺しておくに限るんだよ」


 エスミックの背後で、狂石が盛り上がる。地面から伸びた赤黒い石の鎖が、ヤマトの足に絡みついた。


 さらに腕へ。胴へ。大太刀へ。


 狂石の鎖は、力で引きちぎろうとすればするほど食い込んでいく。しかも鎖から流れ込む狂気が、ヤマトの頭の中をさらに焼いた。


「殺せ」


 今度は、声がはっきり聞こえた。


 ヤマトの目が赤く揺れる。


 エスミックは笑う。


「落ちろ!」


 その瞬間、ヤマトの笑みが消えた。


「誰が」


 ヤマトは大太刀を逆手に握る。


「負けるか!」


 (みね)が跳ねた。エスミックの顎を打ち上げる。巨体が浮いた。


 ありえない角度だった。


 狂石鎧を纏い、常人の何倍もの重さになっているはずのエスミックの体が、ヤマトの一撃で空へ突き上げられた。


「画竜点睛」


 ヤマト自身も跳んだ。雪原から、黒い影が空へ昇る。赤黒い狂石の光。


 白い雪。


 その中を、ヤマトの大太刀だけが夜を裂くように走る。空中で、エスミックが目を見開いた。逃げ場はない。


 ヤマトは大太刀を振りかぶる。


「落ちろ」


 黒い刃が叩き込まれた。


 エスミックの体が、雪原へ墜ちる。


 地面が爆ぜた。


 狂石鎧が砕け散り、赤黒い破片が雪の上に飛び散る。衝撃で周囲の狂石の光が一瞬弱まり、狂乱していた兵たちの動きが鈍った。


 ヤマトは少し遅れて着地した。


 肩で息をしている。


 こめかみに浮かんでいた赤黒い光は、まだ完全には消えていない。


「……しぶてえな」


 雪煙の中で、エスミックが立ち上がろうとしていた。


 (ひざ)は震えている。


 胸元の鎧は砕け、肩から血が流れている。


 それでも、彼は笑っていた。


「化け物か、お前」

「テメエに言われたくねえよ」

「だが、ここまでだ」


 エスミックは指を鳴らした。


「全軍撤退! 大門を放棄せよ! 領内で迎え撃つぞ!」


 大門の奥から、煙幕のような黒い霧が流れ出す。


 門前に残っていたメテオ兵たちが一斉に引き始めた。狂乱していた者たちも、後方から投げ込まれた何かの粉を浴びると、(ひざ)から崩れ落ちていく。


 ヤマトは煙の奥へと消え去っていくエスミックを(にら)んだ。


「逃げんのか」

「俺の役目は果たした」

「俺はまだ終わってねえぞ」


 ヤマトが踏み出す。


 エスミックは笑った。


「だろうな」


 黒い霧が濃くなる。


 エスミックの姿が、その中へ消えていく。


 ヤマトは舌打ちした。だが、追わないという選択肢は最初からなかった。


「門、開いてんじゃねえか」


 大門の一部は、撤退のために開かれたままだった。


 軍全体が突入できるほどではない。


 だが、一人なら通れる。


 ヤマトは大太刀を肩に(かつ)ぎ直し、笑った。


「なら、行くか」


 背後から兵が叫ぶ。


「ヤマト様! お待ちください! タチャンカ様の命令が――」

「うるせえ。俺が先に行って、邪魔なやつを斬る。それで終わりだ」


 ヤマトは振り返らなかった。


 狂石の影響で乱れた門前を抜け、黒い霧の奥へ進む。


 単独で。メテオの大門の内側へ。


     ◇


 同じ頃、東側の針葉(しんよう)樹林では、エースの部隊が魔物の群れを押し留めていた。


 白金の光が、何度も雪原に降り注ぐ。


 そのたびに魔獣は焼き払われ、闇の魔力は浄化されていく。だが、森の奥から湧く影は途切れない。


 エースは翼を広げたまま、静かに息を吐いた。


「補助陣は?」

「七割ほどです!」

「急ぎなさい。これ以上、兵を消耗(しょうもう)させられません」


 彼女の声に焦りはない。だが、状況が良くないことは分かっていた。


 大門前の黒い煙によって、ヤマトの様子がわからない。操られた魔物たちの処理をすぐさま終わらせて、大門へと向かわなければ、軍が分断されてしまう。


 エースにも、さすがに疲労の色はにじんでいた。絶え間なく襲いかかる魔物を(はら)い続けてきたのだ。傷こそ負っていない。だが、白い息はわずかに乱れ、手にしたロッドの先端に宿る光も、ほんの一瞬だけ揺らいでいた。


 それでも、彼女は退かなかった。


「……来ますね」


 静かに告げたその声に、弱さはなかった。


 森の奥で、雪を踏む音がした。魔物の群れとは違う。獣のように駆けるのではなく、一歩ずつ、確かめるように近づいてくる。


 重い。


 ただ歩いているだけで、周囲の空気が沈み込むような存在感だった。エースはその気配だけで、ただ者ではないとわかっていた。


 魔物たちが左右へ割れた。まるで道を譲るように。


 そこから、一人の男が現れた。


 長身。整った姿勢。肩には、巨大な鉄槌を担いでいる。


 装備は華美ではないが、手入れが行き届いていた。戦場に立つ者としての礼節を保ちつつ、その内側に隠しきれない暴力の気配がある。


 男はエースの前方で足を止めた。


 そして、深く頭を下げる。


「お初にお目にかかる。熾天使(セラフィム)エース・バジリスタ殿」


 エースは目を細めた。


「あなたは?」


 男は顔を上げた。表情は冷静だった。


 だが、その瞳は相手を対等には見ていない。礼を尽くしながら、どこかで踏み潰す対象として測っている。


「イーブル三傑が一人、レイファ・フェリックス」


 鉄槌が、ゆっくりと肩から下ろされる。


 雪の上に置かれただけで、地面が低く鳴った。


「貴殿を自由に動かすなと、我が主イーブル・クロックからの命でございますので、お手合わせ願えますかな?」

「たった一人で何ができるというのです? あなたでは私に勝てませんよ」

「それはやってみなければわかりませんな」


 実力の差が明白なのにも関わらず、レイファの気は一切乱れてはいなかった。


「貴殿がここで倒れてくださるなら、それに越したことはない」

「倒れるのはあなたの方です。どうですか? 大人しく引けば、命だけは見逃しましょう」

「確かに、貴殿……いや、ドミニオン王国は強い。我らには万に一つも勝ち目はないでしょう。ですが、我が主と“陛下”はどうやら、その万に一つの勝ちを探っていらっしゃる。なれば、我ら将は与えられた役割を果たすまで!」


 レイファが踏み込んだ、瞬間、鉄槌が振り下ろされる。


 速い。重い武器とは思えない速度だった。


 エースは翼を一枚前へ出し、光の障壁を作る。


 鉄槌が障壁に衝突した。白金の光が揺らぐ。衝撃が周囲へ散り、近くの兵たちが(ひざ)をついた。


「下がりなさい!」


 エースの声が飛ぶ。


 レイファはすでに二撃目に入っていた。


 横薙(よこな)ぎ。鉄槌が空気を潰しながら迫る。


 エースは上へ跳んだ。六枚の翼が雪を巻き上げる。鉄槌は空を切り、そのまま地面を砕いた。


 ただの力任せではない。レイファの鉄槌は、振るうたびに周囲の魔物を巻き込まない角度を選んでいる。魔物の行く道を残し、敵の退路を潰す。礼節を重んじる武人でありながら、その視野の広さは卓越していた。


 エースはレイファの相手で手いっぱいだった。周りの兵の様子はわからない。魔物の動きをも把握しようとすれば、その隙をレイファに付かれてしまう。


「実に惜しい……あなたは仕える先を間違えた」

「誉め言葉として受け取っておこうか」


 レイファが鉄槌を構える。


「止められると思いますか」

「ああ」


 次の瞬間、レイファの足元に魔法陣が浮かんだ。鉄槌の表面に、淡い灰色の光が宿る。


 重力。


 鉄槌そのものの重さが増している。


 レイファは魔法使いではない。だが、武器に術式を刻み、打撃の瞬間だけ重さを跳ね上げる魔導武装を使っている。


「潰れろ」


 鉄槌が落ちる。


 エースは避けなかった。片手を前へ出す。白金の炎が、(てのひら)に灯る。


神聖光(セイクリッド・レイ)


 光が一点に集まった。無数の光刃ではない。


 一本の槍のように凝縮された神聖光(セイクリッド・レイ)が、振り下ろされた鉄槌を正面から貫いた。


 灰色の術式が砕ける。


 鉄槌の表面が焼け落ち、レイファの腕に衝撃が走った。


「ぐっ……!」


 レイファの体が後ろへ押し返される。


 エースはさらに踏み込んだ。彼女の翼が広がる。


 白金の炎が、レイファの周囲を囲むように立ち上がった。


「あなたの礼節は嫌いではありません」


 エースの声は静かだった。


「ですが、私の兵を傷つけ、無関係な魔物まで操り、戦場を乱す策に加担するというのなら、見逃す理由はありません」

「それは困るな」


 レイファは焼けた鉄槌を構え直した。


 腕が震えている。それでも、姿勢は崩さない。


「私はまだ、役目を終えていない」

「あなたの役目はここで終わりです」


 エースの翼が光を放った。


 白金の炎が、一斉に収束する。


聖炎結界サンクトゥス・フレイム・ヴェール、展開」


 補助陣が完成した。


 魔導兵たちの足元に魔法陣が輝き、エースの聖炎を支える支点となる。東の森一帯に白金の線が走り、闇属性の魔力を絡め取っていく。


 魔物たちが悲鳴を上げた。


 黒い糸のような魔力が焼き切られ、操られていた獣たちが次々と倒れていく。


 レイファは目を見開いた。


「ここにいるのが私でなければ、あなたたちの作戦は成功していたでしょう。運が悪かったですね」


 エースは静かに告げる。


 レイファの口元が(ゆが)んだ。


 だが、それと同時に、どこか納得したような笑みをたたえた。


「なるほど。熾天使(セラフィム)の名は伊達ではない」

「降伏しなさい」

「それはできない」


 レイファは鉄槌を地面へ叩きつけた。


 台地が割れるかのような衝撃とともに、土煙で視界が遮られる。


 エースは一瞬、体勢を崩したが、すぐに立て直して、翼で風を起こす。


 粉塵が晴れる。だが、そこにレイファの姿はなかった。


 森の奥へ引く気配だけが残っている。


「逃がしましたね……追いますか?」


 兵が悔しそうに言う。


 エースは首を横に振った。


「深追いは不要です。彼を仕留めることが我々の任務ではありません」


 大門の黒い霧はまだ晴れていなかった。


「殿下……どうなされますか?」

「タチャンカに指示を(あお)ぎなさい」

「はっ」


 あわただしく陣を動かしつつも、持ち場を離れないエースの部隊を遠目で見て、レイファは笑っていた。


     ◇


 本陣では、タチャンカが戦況を見ていた。


 ヤマトの部隊は乱れた。エースの部隊は東側の魔物に足を止められた。


 門前の狂石は弱まっているが、完全には消えていない。


 そして、最も厄介な報告が届く。


「タチャンカ様! ヤマト様が単独で大門内部へ侵入しました!」


 タチャンカは目を閉じた。


 怒鳴りはしなかった。驚きもしなかった。


 ただ、深く息を吐く。


「やはり行ったか、あの馬鹿は」


 隣にいたナイトメアが、仮面の奥で赤い眼を細めた。


「だから言っただろう。俺を出せばよかった」

「今から出す」


 タチャンカは即答した。


 ナイトメアがわずかに顔を向ける。


「任務を言え」

「ヤマトを追え。大門内部へ入り、ヤマトの位置を確認しろ。可能なら引きずって連れて帰ってこい。無理なら、奴が暴れた後の穴を利用して制圧経路を作れ。我ら本隊が後に続けるようにな」


 ナイトメアは低く笑った。


「注文が多いな」

「黙ってやれ」


 タチャンカはナイトメアを見据えた。


「正面からの突破はヤマトの仕事だ。だが、闇の中を潜り、敵の首元に刃を置くのは貴様の領分だろう、ナイトメア」


 その言葉に、ナイトメアの赤い眼光が揺れた。


 愉悦(ゆえつ)。苛立ち。そして、ようやく自分の役目が来たという冷たい(たかぶ)り。


「最初からそう言えばいい」


 ナイトメアの足元に、黒い影が広がる。


 それは雪の上に落ちた影ではない。


 暗黒物質(ダークマター)


 仮面の下から(にじ)むように広がった黒が、彼の体を包み、輪郭(りんかく)を曖昧にしていく。


「ヤマトが邪魔なら?」

「殺すな。殴ってでも止めろ」

「面倒だな」

「命令だ」


 ナイトメアは肩をすくめた。


「従ってやる。今はな」


 ナイトメアの姿が、雪原の影へ沈む。


 音もなく。気配もなく。


 ドミニオンの兵たちが気づいた時には、そこに黒衣の思念体はいなかった。


 タチャンカは大門を(にら)む。


 雪原の戦は、いったんは終結したかに思えた。


 しかし、その奥へ消えた二つの刃――ヤマトという狂刃、ナイトメアという影の刃。


 戦場は、さらに深く裂けようとしていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


『狂刃は門を裂き、鉄槌は聖炎に沈む』では、前回から続く戦闘をさらに押し進める形で、ヤマト、エース、そしてメテオ側の新たな動きを描きました。


単純な一騎打ちだけではなく、狂石によって乱れる戦場、聖炎による浄化、そして敵側の足止めや撤退の判断など、戦争らしい流れも意識しています。


そして、これで五日連続投稿です。

かなり大変ではありますが、ここまで来たらまだまだ走っていきたいと思います。


ブックマーク、評価、感想などいただけると本当に励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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