サイドストーリー6 愛情の契約
ヒュリムトンの国境付近にある鬱蒼と茂る森の奥深く。
大木を利用して建てられたツリーハウスの傍らに、簡素な造りの掘っ立て小屋があり、そこには紫焔の魔導士と人々が尊ぶグォドレイの仮住まいがあった。
簡素な造りの仮住まいはしっかりと整頓されており、魔術に使う用品の全てにも手入れが行き届いている。
衛生的にもしっかりと配慮された室内で葵色の髪の赤子がすやすやと眠っており、その傍らで書物へと視線を落としながら、グォドレイは物思いに耽っていた。
左耳に揺れる竜の羽根のピアスがシャラリと音を発する。対となったもう片方は、愛弟子の耳で同様の音色を奏でている事だろう。
彼女の事を思い出せば、脳裏に浮かぶのはどれもはじける様な笑顔で、つられた様に口元か綻びそうになり、気まずく思って咳払いをした。
揺らぐ蝋燭の炎が書物の文字を照らす。頁をめくる手を止めたまま、もう随分と時間が経っている。
コツコツと木製の扉がノックされ、サファイアの様な瞳の女性がそっと顔を出した。
「お師匠様、食事が出来たからツリーハウスで一緒に食べよう? お師匠様の好きな野菜のスープ、沢山作ったから」
返事をせずに頷いただけのグォドレイはどこか不機嫌そうだった。
ミルドレットはそれ以上何も言わずにそっと扉を閉じて、溜息をついた。
星々が瞬く夜空を見上げ、冷えた指先にほぅっと息を吹きかける。
グォドレイが怒るのは無理もない、とミルドレットは思った。
約束を違えることが出来ない性格を知っていながら、強引に呼びつけて子育てを押し付けたのだ。
あの優しくも悲しい人は恐らく、二度とミルドレットの前に現れる気など無かったに違いない。
自分に縛られる必要はないと、独り立ちするつもりで贈った魔道具の指輪があれば、ミルドレットとグォドレイとの間に交わされた約束事には魔導士の契約反故の代償が発動しないのだから。
それでも、どうしても逢いたかった。
逢ってこの目で確かめたかったのだ。
本当に、彼の存在がこの世界に帰って来たのだと……。
「ミリー」
離れの扉が開き、グォドレイが声を掛けた。
ハッとして振り返ったミルドレットに、呆れた様な眼差しを向ける。
「……お前さん、ガキ忘れて行ってるぜ?」
「あっ!」
グォドレイの腕の中で眠るマクシミリアンを慌てて受け取ると、「ごめんね、リアン!」と言いながら額に口づけをした。
グォドレイは赤子をミルドレットへと預けると、そのまま足早にツリーハウスへと向かって行き、彼の後ろをミルドレットは無言のまま着いて行った。
ツリーハウスに着いた後も、ミルドレット、ニール、グォドレイの三人は押し黙ったまま黙々と食事を口に運んでいた。
隣室の子供部屋には双子がすやすやとよく眠っている。日中グォドレイに散歩に連れ回された為、疲れ切っているのだろう。
食器を静かに置き、グォドレイがため息を吐いた。
「ニール、すまねぇな。なんつーか、成り行きで離れまで作っちまったが。俺はあくまでもリアン専属の子守り担当でしかねぇ。お前さんらは夫婦だ。こうやって俺の食事まで用意する必要はねぇよ」
ミルドレットが口を開こうとすると、パッと片手を広げてグォドレイは首を左右に振った。
「俺はニールと話してるんだ。お前さんと話すつもりはねぇ」
「でも、お師匠様……」
「ミリー、あくまでも俺とお前さんは師弟関係でしかねぇはずだ。俺様は魔導士だ。元々人間に囚われる義理はねぇ」
唇を噛んで俯くミルドレットの肩に、ニールが優しく触れた。
「ミルドレット、グォドレイは十分誠意を見せてくれています。それ以上を望むのは……」
「解ってる! それでも、お師匠様を独りにしたくなかったの!」
愛する我が子を抱く度、その面影がグォドレイと重なるのだ。
たった独り、どこかで相変わらず煙管を寂しげにふかしているのだろうと考えるだけで、いつも胸が痛んだ。
「弟子に心配される程、俺様は衰えてなんかいねぇよ。気が遠くなる程の時間をずっと独りで生きていたし、魔力だって大分戻った」
グォドレイの言う通り、離れを作るのもほんの僅かな時を有したのみだった。
魔力を吸い続けていたピアスの効力はミルドレットに片方を渡したことで半減し、魔導士の中でも常軌を逸している魔力量の持ち主であると言われる程の紫焔の魔導士には、微々たる枷にしかならないようだ。
失っていた力を取り戻した彼は、史上最強の魔導士として復活を遂げたのだ。
もう、ミルドレットが知るグォドレイとは明らかに異なる。
「懐かし過ぎてまだ感覚に慣れねぇのは確かだが」
「グォドレイ、勘違いの無き様に。マクシミリアンを理由に貴方を呼ぶ事にしたのは、私の提案です。それに、私とミルドレットは夫婦の契りを交わしていません」
ニールはそう言うと、小さく微笑んだ。その様子を見て、グォドレイは面食らった様に長い睫毛の瞳をしぱしぱと瞬きした。
「夫婦の契りを交わしていねぇ、だと?」
「はい。一切の契約を交わしていないということです」
ニールとミルドレットは、何の誓いも立てずに二人で暮らし、子を儲けたのだ。
まさかそんな状況にあるとは思いもせず、グォドレイは眉を寄せた。
「一体どういうことだ? 曲がりなりにもお前さんは王族だろう? そんなことをドワイトが認めるとは思えねぇが」
口を閉ざしたニールに、グォドレイはズキリと心を痛めた。
——まさか、俺に気遣ってそうしたってのか……? 冗談じゃねぇ!
グォドレイは唇を噛みしめた。愛弟子の幸せを奪ってしまうのなら、自分の事など忘れてしまった方が良い。ミルドレットは抵抗するかもしれないが、今のグォドレイであれば記憶を消す魔術ですら、容易に使えるのだから。
深いため息を吐き、グォドレイはうんざりした様に言葉を放った。
「ニール。少し二人だけで会話できねぇか?」
「構いませんよ」
俯いたままのミルドレットに、ニールは「子供達をお願いします」と言うと、グォドレイと二人席を立った。
◇◇
ツリーハウスから少しばかり森の奥へと進んだ先に、透き通った水が滾々と湧き出る泉があった。
薄雲に陰った星々の様子を水面に映し出しており、ニールはどこか寂し気に見つめていた。
グォドレイは倒木に腰かけて幅の広い袖口から煙管を取り出したものの、口にする事なく指先で弄ぶように転がしている。
恐らく子守りを頼まれている為、気遣って吸わないのだろう。
「婚姻の誓いも立ててねぇとは、どういうことだ?」
開口一番そう問いかけたグォドレイに、ニールはうんざりした様に肩を竦めた。
「言っておきますが、別に貴方に気遣ったわけではありませんのでご心配なく。私の希望でそうしているだけです」
「お前さんの希望?」
「神の存在など一度も信じた事もないというのに、誰にどう誓えと? 無意味な行為でしょう」
小ばかにした様に鼻で笑うニールに、グォドレイは困った様に苦笑いを浮かべた。
「あー……まぁ、お前さんならそうか……」
ミルドレットの希望ではなかったと知り、グォドレイはほんの少し胸が軽くなった。もしも自分に気遣って二人が踏みきれないのだとしたら、それほどに歯がゆいことはない。
自分はただ、ミルドレットの幸せのみを望んでいるのだから。
彼女が幸せとなる道の弊害となってしまっては、それこそ望みと真逆となってしまう。
「なあ、ニール。リアンの魔力が強すぎるのは重々承知だ。魔力を封印しちまうことは簡単だが、赤子のうちに才能の芽を摘んじまったら、この先二度と魔術は使えなくなるだろう。そうしたくねぇから俺を呼んだんだろうが……」
ため息交じりにグォドレイが言葉を続けた。
「だが、お前さんは本当に納得してしてるのか? 俺がミリーの側に居ても平気なのか?」
「平気なはずが無いでしょう!」
珍しく感情を剥きだしにした様に声を荒げて、ニールはぎゅっと拳を握り締めた。
「ですが、私が手を離せばミルドレットはすぐさま貴方の元へと向かう事でしょう。せめて、二十年は私と共に生きる時間を与えて欲しい。そう、思ったのです……」
眉を寄せ、ニールは悔し気に言葉を続けた。
「貴方を殺せば、ミルドレットは私だけのものになるとも考えました。ですが、それは悪手です。もしもそんな事をしたのなら、私は永遠に彼女を失ってしまう!」
「おいおい、物騒だなぁ……。そんなことしなくたって、俺はお前さんからミリーを奪い取ろうだなんて気はさらさらねぇよ。お前さんと二人で幸せになる事を願ったからこそ、俺は身を退いたんだ」
苦笑いを浮かべたグォドレイに、ニールは首を左右に振った。
「魔力を取り戻した貴方相手に太刀打ちできるとは思っていません。最初から分かっていたことです。ミルドレットに、貴方以上に愛して貰うことなど無理なのだと。ですが、それでも構いません。私は、彼女の側にさえ居られれば良いのです」
どこか諦めにも似た様子でニールはそう言うと、揺らぐ水面へと視線を向けた。
以前の偽りの笑みを貼り付けただけの表情は消え去り、ダークグリーンの瞳が寂しげに見える。
「……お前さん、勘違いしてるぜ? ミリーは俺とお前さんを比較したりなんかしたことないだろうからな」
グォドレイは煙管を指の上で弄びながら、アメジストの様な瞳を細めた。
「厄介な事にあいつには、『ヤキモチ』って感情が理解できねぇんだ。独占欲が皆無なんだ。王太子妃選抜でもそうだっただろう? お前さんが誰に協力しようと、俺様が誰の後継人になろうと、あいつはちっとも気にしねぇで嬉しそうに笑っていた。あいつの好きに優劣は無い。そういう奴なんだ」
そう言った後、グォドレイは僅かに顔を顰めた。
「……言っておくが、だからって浮気するんじゃねぇぞ?」
「すると思いますか?」
「まあ、しねぇか……」
そもそもニールが誰かに愛情を抱いたという事こそが奇跡に近い。
アリテミラやルルネイアという美女から想われていようとも、全く関心を示さなかったのだ。
「大体なぁ、あいつ。俺にお前さんの事が好きだと泣きついてたくらいだったし」
「泣きついていた?」
グォドレイはうんざりした様に両手を広げて肩を竦めて見せると、「王太子妃選抜レースでな、お前さんの事が好きで好きでどうしようもねぇのに伝わらねぇと言ってたんだ」とつまらなそうに言った。
「だがな。生憎、俺にも独占欲ってもんが理解できねぇ。あいつがお前さんを好きだろうと、他の誰を好きだろうと構わねぇのさ。全部ひっくるめてミリーなんだからな。寧ろ、お前さんの事を想うあいつを愛しく思うくらいだ」
それを聞き、ニールはあからさまに嫌そうに顔を顰めた。
「……そういう性癖ですか?」
「違ぇよ!!」
喚く様に返したグォドレイに、ニールは小さく笑った。
永く生きるという事は、そういった他人への執着心を削り取ってしまうのだろう。ミルドレットもそんなグォドレイと過ごす事で、他人への執着を持たずに育ったのかもしれない。
いいや、元々誰からの愛情も受けずに育ったのだから、グォドレイと出会った頃には既に『他人への期待』を失っていたのだろう。
皮肉なものだ。誰にも執着心など抱く事のなかったニールが、ミルドレットにだけ抱いたこの感情を、グォドレイもミルドレットも理解できないのだから。
「いや、こんな恋バナをする為にお前さんを呼んだわけじゃねぇんだ」
コホン、と咳払いをすると、グォドレイは手を開いた。僅かに光を発する一枚の紙が現れて、宙に浮いたままサラサラと光り輝く文字が書かれていった。
「俺がここに留まる条件として、契約の魔術を結ぼうじゃねぇか」
「妙な事を言いますね。貴方に何のメリットがあるというのです?」
「その方がお前さんの心穏やかに過ごせるってもんだろう?」
「私の心がどうであろうと、貴方には関係の無いことでしょう」
ニールの言葉にグォドレイは笑った。
「お前さんが心穏やかだと、ミリーは幸せだろう?」
グォドレイは相変わらずミルドレットの幸せしか望まないのだと、ニールは口をへの字に曲げた。
「さてと、まずはそうだなぁ。『俺は、ニールの存命中にミルドレットに対して恋情を伴う行為は一切しねぇ』」
光の文字が紙に刻まれていく。
グォドレイの言った契約は、極力ミルドレットに関わらないと言っている様なものだった。
そして、更にグォドレイは言葉を続けた。
「『俺は、ここに留まるか否かをニールの意志により決定し従うと誓う』」
「グォドレイ……」
光の文字が紙に刻まれていく。
ミルドレットがどれほどに望もうとも、自分がどれほどにここを離れ難く思おうとも、全てはニールの意志に委ねると約束したのだ。
ニールは思わずグォドレイの名を呼び、見つめた。
「何驚いた顔してんだ? お前さんが『出て行け』と言えば直ぐにでも出て行ってやるさ」
あっけらかんとした様子でそう言い放つと、グォドレイは小首を傾げた。
「よし、こんなもんか? あとなんかあるか? ああ、さっきも言った通り、俺の食事なんかはお前さんらが気にする必要はねぇからな。自分の事は自分でできるし、そもそも魔導士は生命を維持する為に食事を必須としねぇ」
ただただ、マクシミリアンに受け継がれてしまった多量の魔力の責任を取る為だけに、グォドレイはこの場に留まる気なのだ。
「貴方は自分の権利を全く主張しないのですね」
どこか苛立った様に言うニールに、グォドレイは何か拙い事を言ってしまっただろうかと眉を寄せた。
「『私は、ミルドレットが望んだならば、その想いにグォドレイは誠意を持って応えることを許します』」
光の文字が紙に刻まれていく。
グォドレイは苦笑いをすると、困った様に頭を掻いた。
「あのな? これじゃあ契約として成立しなくねぇか?」
「彼女の自由を奪う気はありません。私への義理だけで縛り付けては、辛いだけです」
ニールはすぅっと息を吸い込むと、はっきりとした口調で言った。
「これで契約成立です」
契約書がパッと光を放ち、サラサラと消えていった。
契約の魔術が成立したのだ。
グォドレイが眉を寄せ、小首を傾げた。
「おっかしいなぁ……。こんな辻褄が合わねぇ契約なんか、成立しねぇはずなんだが。俺はミリーに対して恋情を伴う行為はできねぇ。つまり、チューも何もできねぇはずだろ? なのに、ミリーが望んだら出来る……だって? 魔術でも何でも使って望ませる様に仕向けたら不履行じゃねぇか」
不思議そうに首を傾げるグォドレイを見て、ニールは吹き出した様に笑った。そんなニールを、呆気に取られてグォドレイは見つめた。
「なんだ!? おい、おかしくなっちまったか!?」
笑いながらニールはすっとグォドレイが身に付けている指輪を指さした。
ニールに指摘されて、グォドレイがハッとした様に指輪に視線を落とす。
「……そういうことか。俺は、ミリーに関しては一切の束縛をされねぇ」
指輪の効果で、グォドレイはミルドレットに関する契約が無効となる。
慌てて先ほど結んだ契約の魔術の内容を確かめると、記載されている内容はたったの一文のみだった。
つまりはグォドレイが二つ目に言った『俺は、ここに留まるか否かをニールの意志により決定し従うと誓う』という契約のみが有効であるということなのだ。
ニールは初めから、グォドレイにそれのみを約束させる事が狙いだったのである。
「茶番ですよ、グォドレイ。そもそもミルドレットが私がいるというのに貴方の方へ行くはずがないでしょう。自意識過剰も甚だしいですね」
小ばかにした様にサラリと言ったニールに、グォドレイは今まで申し訳なく思っていた気持ちを踏みにじられた気分になって喚いた。
「なんてこった!! してやられるだなんて! お前は、っんとにムカツク野郎だな!?」
「大体、貴方が本来の力を取り戻そうとも、負ける気など皆無です」
「ちょっと待て、俺様を舐め過ぎじゃねぇか!? じゃあ何か? 俺がミリーといちゃいちゃしても、お前さんは平気だってのか!?」
「ミルドレットが私を差し置いて貴方に走るはずがないでしょう。だからといってまた以前の様に貴方が勝手に消えてしまっては、マクシミリアンを殺さなければならなくなりそうなので契約を結んだまでです」
「お前……っ!!」
今までの会話は全て、ニールの演技だったのだと気づき、グォドレイは地団太を踏んだ。
「その狡猾さ、ドワイトの奴にそっくりだな!?」
「当然でしょう。親子ですから」
「皮肉だっつーのっ!!」
そんなやり取りをしながらも、ニールは安堵していた。
グォドレイが姿を消して以来、気丈に振舞っていても、ミルドレットはいつもどこか上の空だった。
そのまま消えてしまうのではないかと不安になり、声を掛けると微笑みを返すものの、表情からは悲しみが消える事は無かった。
夜になるとその不安は一層掻き立てられた。
あのツリーハウスは元々グォドレイの住処だ。
夜泣きする葵色の髪の我が子をあやしながら、随所にある彼の存在の痕跡へと視線を向けてため息をついては、ふと月を見上げるミルドレットの姿が堪らなくニールを不安にさせた。
だが、今日、グォドレイの為にと食べきれない程に大量の野菜スープを拵える彼女は、元気を取り戻した様に見えた。
——やっと帰って来た。
ミルドレットが、やっと……。
もう二度と、最愛の人の笑顔を失いたくはない。
グォドレイを騙してでも、枷が必要だった。
「これで貴方の所在は私の手中にあるも同然というわけですね。良い気分です。父ですら成し遂げられなかった、紫焔の魔導士を手中に収める事ができたのですから」
満足気に言うニールに、グォドレイは慌てた様に強がりを口にした。
「べ、別に! 契約なんか結ばなくても、お前さんが拒否するならいつだって出て行くつもりだったしな!?」
「拒否しなくても出て行くでしょうから困るのです」
「は!? どういう意味だよ!」
「二人共、お話終わった?」
心配そうにミルドレットがひょっこりと現れると、少しいじけた様に声を放った。
「ご飯、冷めちゃうんだけど……」
「ええ。無事終わりました。帰りましょう」
スッキリした様子で答えたニールに、ミルドレットがパッと顔を明るくした。
「良かった。じゃあ、食事の続きしよう! お茶淹れなおすね。あ、お師匠様は……」
「食うに決まってんだろうがっ!!」
ぷんすかと頭から湯気を立てて怒るグォドレイを見て、ニールは小さく笑った。
——グォドレイには、本当に感謝してもしきれないのは確かだ。ミルドレットの命を救ってくれた事への礼もまだ言えていない。
それに、この男と会話していると、不思議と気持ちが穏やかになる。
そう考えて、『無論、こんなことは口が裂けてもグォドレイには言わないが』と、頭の中で言葉を続けた。




