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第7話 お試しってレベルじゃねぇ

~お試しってレベルじゃねぇ~


白い光が差し込む朝。俺の体に貼りつくように幸せな睡眠をむさぼっているサマンサを見た。


今になって不安になった。やり過ぎじゃなかっただろうか?許嫁って手を出していいものなのだろうか?

お試し結婚だとか言ってたもんな・・・あれれ?ちゃんと確認するべきだった。


「ゴーダ様、どうしたんですか?」

目を覚ましたサマンサが愛くるしい目で見上げてくる。


「いや。君と俺はまだお試し結婚、預かっている状態だったよね。勝手に最後まで『ご馳走様』してしまって良かったのかな?って今になって不安になって来た。」

情けない話を、俺は正直に打ち明けた。事実上、彼女は正真正銘の妻となった感があり、相談した。


「そうですね。じゃあ、基本、していないことにして様子を見ればいいじゃないですか?ホントはしちゃいけないのに、フライングでやってしまっていたら完全アウトですからね。『まだしていないんですけど~』なんて言って相手の反応を見ればいいんですよ。」


「お、おう。賢い選択だな。」

強くなったな、おい。


「で、実際は毎回ちゃんと相手してくださいね。してくれないと・・・切ないです。」


潤んだ目で見つめてくる。やばい。これは完全に「開発してしまった」状況だ。

俺は「行ってきます」の口づけをサマンサにすると、すごすごと大浴場に向かった。

今日からは本格的に業務だ。昨日のように昼風呂に入れたりはしない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


朝早い男湯は仕事前のゴブリンたちで溢れかえっている。洗い場の座椅子には緑色のケツが並んでいる。この状況だと風情も何もあったものではない。今日の12時まではバラの風呂が男湯だ。湯船にいる頭の悪そうなゴブリンたちが湯船に浮かんだバラの花びらで遊んでいる。


一掴み頭にのせて、ほらイケメン。


乳首を隠して、ニップレス。


「ぎゃはははは。」笑い声が浴室内に反響する。

アホか。小学生か!


昨日は心臓が飛び出るぐらいに驚いたけれど、あんな素晴らしいラッキースケベもないもんだ。俺はコーデリアとの出会いを反芻していた。美しき女王様との秘めたる時間。道ならぬ恋である。ぽっ。


妄想に浸りながら、しばらく洗い場の順番待ちをしていた。元気の子がより元気になって上を向いている。

流石のゴブリンたちも気持ち悪いものでも見るようにして、俺の横を通り過ぎてゆく。こんな男ばかりのところで何元気になっているの?そんな感じだ。確かに、この状況を喜ぶものがいるとするなら、BL好きの腐女子ぐらいのものだろう。


さて、幾つか座椅子の席が空いてきた。


俺はひときわ大きな緑色のケツが体をゴシゴシしている隣の席に座った。


「おはようございます。近衛兵長。」


「おう。ゴーダ君か。おはよう。」

頭ひとつぐらい高い位置からモズが挨拶する。


「朝は混んでますね。」

自分は周囲を見渡して感想を述べた。


「複数の妻もちのルールは教わったんだっけ?」


「確か、次の妻のところを訪れる前に必ず1回は入浴する。」


「あぁ。各々の女性への配慮ってとこだな。」

モズは言葉を選んで言った。潜められた眉間に叡智を感じる。中百舌鳥有起哉(なかもず・ゆきや)は普通に学力選抜で入学した学生だ。


「朝入っておけば、仕事終わりにすぐ妻通いが出来る訳ですね。」

俺は答えを見つけた。


「さすがだな。ゴブリン同士の会話とは思えん。」


「全くです。」

転生を背負った者同士の会話だった。


モズは豪傑らしく笑った。頭部の短髪、しっかりした頬骨と顎に囲まれた人のよさそうな笑顔。確かこんな顔だったな。

「まぁ尤も、単に生活のリズムで入っている奴もいるみたいだがな。飲んだくれて夜風呂に入れないとか。」

前世でもそういう奴いたよな。微笑ましい。


「あのぅ。念のため確認したいんですけど・・・」

あの質問を投げかけてみよう。


「ん?何だ?」


「昨日は許嫁のサマンサのところだったんですけど、お試し結婚だから手を出さないでおいたんですね。やっぱり正式な結婚になってから手を出すものなんですか?」


「へ。何もしなかったの?別に相手が納得していれば問題ないぜ。」


「そうだったんですか。損をしました。」

サマンサと一緒にシュミレーションした通りの流れになった。


「でないとゴブリンと女性を同じ部屋で一晩過ごさせないでしょ?」


「それもそうですね。明後日から頑張ります!」


「おう。応援してるぜ。」

そう言うとモズは洗い場を去って湯船に向かった。餓鬼んちょみたいに幼稚なゴブリンたちが、ふざけるのをやめてその場をモズに譲った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日は門番が担当だった。俺が到着すると、ノーマルゴブリンたちがきりッとした。


「どうだ?襲撃はありそうか?」

俺はその中でコマンド~っぽいゴブリンに声を掛ける。背は俺より少し低いぐらいだが、筋肉の仕上がりは上等だ。


「はっ。今は6月ですから、奴らはそう頻繁には来ないでしょう。」


「1年の間では、いつ頃が一番頻繁なんだ?」


「最も頻繁なのは秋ですね。奴ら、聖夜と新年祭のために貯えが欲しいのでしょう。」


冬眠前の熊みたいな奴らだ。俺は渋い顔をした。さて、街からこの住処までは3リーグ(約14.4km)程はある。仮に冒険者たちが早朝に街を出発したとして、ここに到着するのは午前10時頃になるだろう。俺はその話をした。まだ8時過ぎで、辺りを涼しい空気が包んでいる。それまでは総員、訓練を兼ねて軽く体を動かしたり、休むようにコマンド~に伝えた。


俺も適当な岩の上に腰かけて長閑な空を見上げた。


門の内側はいわゆる前庭になっている。芝生が主で、大した構えにはなっていない。


その芝で、熱心に大剣を振っている人がいる。天井の低い住処内の通路で振り回し、その大剣を天井に突き刺した人だ。


そうヴァレリアだ。


えいっ。やあっ。凛々しくも可愛い声が住処の壁に反響する。


「精が出るじゃないか。」

俺は近寄りつつ声を掛けた。


「あ、あなた様ぁ。」

戦士の顔から急に女性の顔に変わった。稽古で上気した頬が、また更に一段階赤らんだように見える。


「ここはもうすぐ敵が攻めてくるかもしれないから、危ないぞ。」

俺はそう言ったが、果たして奇妙なものだ。先日襲撃してきた敵がこのヴァレリアであり、サマンサだったのだ。


「うん。分かってます。でも私も何かお力になれるんじゃないかと思って。」

真摯にこちらを見る目がたまらねぇ。


「そうだな。さっき見ていたんだけど、振り下ろしはいい線いっている。だけど、払いの動作の時にいつも体の線がぶれていると思ったよ。剣を変えてみたらどうだ?」

俺は手頃な大きさの樫の木の木刀を手に取ると、彼女に渡した。


「はい。やってみます。」

彼女は『使徒様』の言う事には至って従順だ。


普段の大剣を住処の壁に立てかけると、樫の木の木刀を構え直す。


えいっ。やあっ。とおっ。ふんっ。はあっ。


切っ先が放つ風切り音も素晴らしい。やはり彼女は本来、剣の達人なのだ。今の武器は体躯に合っていないだけなのだ。

「すごいじゃないか!!完璧だ。」


「嬉しい!!」

彼女が腕の中に飛び込んできた。ぼよんっ。彼女が右手に持ったままの木刀が俺の後頭部を軽く直撃する。ごふっ。そんなことに気付く間もなく、彼女は興奮して目をキラキラさせて言う。


「あの武器、捨てます!捨てて、私、木刀剣士になります。」


 え?!えええ~~~?!


「ま、まぁ、木刀は練習用だから。今度合っている武器でも探そうよ。」

彼女の両肩を掴んだまま、少し距離を離して俺は言う。


流石に口を少し尖らせて、「は~い」と彼女は返事する。


そんなやりとりを見守っていたコマンド~がやや声を落として話しかけてきた。

「ゴーダ様、冒険者達がこちらに向かっているようです。既に半リーグ先まで来ております。」


あれ?早くない?どんな勤勉な野郎だ。


前庭が急に蜂の巣を突いたように騒がしくなった。ゴブリンたちが武器を探して装備し、持ち場へと走る。俺は急ぎヴァレリアを住処の入り口まで避難させると口づけした。


「あとは野郎どもに任せておきな。」


そう言うと、ヴァレリアはうっとりとして手を振った。棍棒を片手に振り返る。俺の背中は、君にどのように語りかけているかな?ふっ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 意外と冒険者たちの到着までに時間がかかった。正直なところ、待ちくたびれた、まである。奴ら、途中立ち止まったりなんかしながら30分以上かけてようやく門の前に到着した。前方で言い争う声が聞こえる。既に内輪もめが発生していたようだ。それで途中立ち止まっていたのか。この住処までの道、聖ロムルス帝国時代の街道は見通しが良く、彼らの醜態も手に取るように見える。


「おい、騙したな。このエレクツィオンのゴブリン砦はC級の案件じゃないか。あたしらD級にこなせる訳がない。」


「まあまぁ。確かに、僕たちだけなら無理だろうさ。でも今日はちゃんと『先生』をお連れしている。」


ぷりぷり怒っている格闘家の女性と弓使いの女性を宥めつつ、いつぞやの男性の魔法使い、ミリアルドがもう一人を芝居がかって紹介した。そこにはやや大きめの剣を背中に斜め掛けした女剣士がいる。ヴァレリアが持っている大剣ほどではないが、幅厚で、異様な模様をした柄と鞘の先が彼女のシルエットからはみ出している。


「今宵のレーヴァテインは血に飢えておるぞ。」


何かに浮かされたように、その女性は言った。いやいやいや。真昼間ですけどぉ??


人物紹介 その6


コーデリア


バーン王の第一王妃。豊満な肉体を誇る元冒険者、ドールマスター。バーンのテクニックにメロメロになり、ゴブリンの住処から逃亡する気は全くなくなった。ただ買い物は大好きで、お忍びでよく街に出かける。

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