第5話 転生者たち、妻たち
~転生者たち、妻たち~
「君も・・・転生してきたクチなんだろう?」
「君も」「ユー・トゥー」・・・王はそう言った。え?てことは?
「陛下も、転生者なのですか?」
「ああ。そうだ。生前は『社長』とか呼ばれていたけれどな。」
王様バーンこと元不動産会社社長。彼もまた不慮の死を遂げ、女神スクードによる異世界転生手続きによってこの世界にやってきた人物だったのだ。彼の先代の王はとある儀式によって天寿を全うした。その後、持って生まれたカリスマ性でこの群れの王に難なく収まったらしい。
「そうだったのですか?私は向こうでは大学生でした。○○大学の。」
「え?○○大学の学生さんだったの?じゃあ、うちの直営のお客さんだったわけだ。」
なんと、バーンは俺の下宿先を斡旋した不動産会社の社長だった。確か、社長の名前は伴なんとか。
そうか、それで「バーン」なのか。
「何だか女神に制限をかけられていて、本名を名乗れないのですが。」
「あ、皆そうだよ。だけどまぁ、お互いの境遇も近くて安心だな。」
確かに、ほっとした感が半端ない。見ると、バーンの後ろに立っている近衛兵長モズも頷いている。
「近衛兵長も転生者なのですか?」
「ああ。彼は君の大学のラグビー選手だったらしい。君は後から来たから、彼の顛末は知っているんじゃないか?」
代わりにバーンが説明した。
俺は自分の記憶を辿った。あった、そんなこと。
うちの大学のラグビー部がスキャンダルでつるし上げられた事件があった。ラグビー部はとある女子生徒を交えた飲み会で王様ゲームをしたらしい。強姦の容疑でスター選手の中百舌鳥有起哉が摘発された。警察による身柄確保を逃れようとして、交通事故に遭って死んだのではなかったか。テレビではほんの数日騒がれた程度の事件だったが、SNSなどは相当荒れた。大学の評判も地に落ちた。一生懸命勉強して入学したのに、と皆嘆いていたよ。
それにしてもナカモズ・ユキヤ→モズって端折り過ぎでしょ。
「あぁ、あの事件ですか。」
俺が低い声でそう呟くと、モズは体を1周りも、2周りも小さくした。
「そういう訳で、主要メンバーは概ねそんな感じさ。ルフトも悲しい事件がきっかけでね。」
バーンは天井のシャンデリアを遠い目で見た。
そこは・・・無理に触れないでおこう。
後は仕事の説明があった。流石にこれからはちゃんと近衛兵の仕事をしなければならない。昨日、ヴァレリア達冒険者パーティーにやられた門番のうち1人は近衛兵だった。つまり、門番の仕事もローテーションで回ってくるのだ。意外にも死と隣り合わせ。油断できねぇ。だが転生者仲間たちや妻たちのため、ウェルカム・プレゼントに対する恩返しとしても頑張らないといけない。
最初にいい目を見させておいて、後からこき使う。なかなかヤクザじゃねぇか。
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さて、今日は午後から住処内のパトロールだ。
その前に、風呂に入りに行こう。ヴァレリアが先程言っていた。
「今晩、次の妻に会うまでにお風呂に入るのがマナーですよ、『使徒様』!」
次の妻。今晩は第二夫人のサマンサの部屋に泊まらないといけない。大浴場だっけか。
正午を少し回った頃合いだから、そのバラの風呂とやらに男が入れるのだ。
なんだかんだでバラの風呂に入ることになった。
こんな真昼間から風呂に入る奴いるんかね~?そんなことを思いながら大浴場に入る。
ローマの大浴場を思わせる、大理石の美しい浴室だ。
これは、男の身でもテンションが上がるなぁ。一体どこのテルマエ・ミ・アモーレ??よ。
洗い場で身を清め、湯船に入ってゆく。ふんふふん♪先ほど、石像の影で見えなかったが、先客がいたようだ。
後ろで束ねられた金髪。
陶磁器のように白いうなじにかかる後れ毛。
何と色っぽいんだろう。ぽっ。
彫刻のように切り立った鼻と深い青のサファイアの目がこちらに向いた。
てか、おおおおお女~~~?!
「あ、あの。12時からはここ、男風呂みたいなんですけれど・・・」
とりあえず自分の正当性を主張した。
「ええ、そうね。もうすぐ出るから見逃してちょうだい。」
随分と高飛車な言いようだ。
「貴女様は?」
様子伺いで腰を低くして質問する。
「第一王妃のコーデリアよ。昨晩バーンが泊まりに来たから、今朝遅くまで寝てしまったのよ。このバラ風呂、大好きだから、もう少しいさせてね。」
有無を言わさぬ、女王の威厳だった。相手はこちらを何とも思っていない風だった。こちらも何事もなかったかのように湯船に首まで浸かる。しかし・・・確かにいい匂いだ。癒されるし、なんだか自分がいい男になったような錯覚を覚える。お風呂版、グッド・ルッキン!なんてね。
「いい匂いですね。」
自然と彼女に話しかけていた。
「でしょ?香水に入っているバラの香油もいいけれど、自然な香りが一番よね。」
「あ、分かります。香油にはいい匂いも入っているけれど、匂いのえぐ味?を感じることもありますね。」
「あらぁ。分かってるじゃない。あなた、新しい子かしら?」
「はい。近衛兵のゴーダと申します。」
「バーンと同じ世界から来たってわけね。」
「おっしゃる通りです。」
「『あっち』では幾つだったの?」
「20歳ですね。こちらにあるか分かりませんが、大学という教育施設に通っていました。」
「大学はこっちにもあるけれど、大丈夫よ。『あっち』のことも色々知っているの。モズも大学生だたわね。」
「たまたま同じ大学の先輩、後輩だったんですよ。」
「おほほほ。本当に世界は狭いわね。」
コーデリアは実に愉快そうに笑った。そして立ち上がった(!)
一糸まとわぬ彫刻を超えた彫刻の造形が露になる。それは普遍的な美しさを留めた造形物のようで、弾力性に溢れた生命力を内包してもいた。彼女の体を流れ下る幾筋もの聖なる滝に沿って、深紅のバラの花びらが蝶の群れの如く舞い落ちた。
「長居してごめんね。でも楽しかったわ。あと、ルフトとかには内緒にしてね?あの人、規則とかに厳しそうだから。」
そう言うと、白桃のような乳房をきらきらとイルミネートしている水滴を両手で撫で上げて飛ばした。
は・・・鼻血がボルケーノしそうだ。当然ながら水面下では下のお鼻がボルケーノしかかっていた!
「じゃあねっ」
軽く手を振りながら、彼女はムーンウォークで去って行った。
くたっ。脱力した俺は湯船の縁にもたれかかり、壁画の書き込まれた天井を見上げた。
ままま、いいでしょう。大変に、大変に御馳走様でございますので、決して言いつけたりなどしませんよ。
鼓動の速まりが収まらない。
とんでもない女だったが、滅茶苦茶、滅茶苦茶イイ女だった~♡♡♡♡♡♡
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午後のパトロールはチュートリアルみたいなもんだった。
生真面目そうな顔のノーマルゴブリンが住処内を説明しながら案内してくれる。
「この建物は聖ロムルス帝国時代に建立されたものでして、当時は執政官と地方軍が根城にしていた政治拠点でした。その後、帝国が滅亡して、各地域が王国として独立すると廃墟となり、長年魔物の住処になっておりました。その魔物たちを我らゴブリン、ヤボン族が追い払い、人が住める住居として再スタートしたのです。」
ん?ゴブリンの巣だから相変わらず魔物の住処のままなんじゃね?冒険者のクエストにもされているんよ。そう思ったが、一生懸命説明してくれるので、細かいところに突っ込まないでおこう。生真面目なゴブリンは引き続きうっとりとヤボン族?の偉業を讃えている。
でも、素直に納得できることもある。大浴場あり、水洗式のトイレあり。こんな衛生的な施設が魔物の住処と蔑まれるのには、俺も物申したい。全てはルフトら、優秀なゴブリン・シャーマンもとい技術者たちの力でもある。バーン、ルフト、モズ・・・彼ら3名が元日本人の転生者だという事は分かった。それ以外にもいるのかもな。
共用施設や執務室など主要なゾーンのパトロールは終わり、あとは一般居住区のみとなった。ヴァレリアの部屋の近くで、通路を歩いていたヴァレリア本人と出会う。
「しとさ・・・じゃなかった、あなた様、お仕事頑張ってくださいね。」
外では『使徒様』と呼ばないように注意している。
「おお。また明日な。」
今晩は泊りに行けない。今晩は第二夫人サマンサを訪れなければならない。ヴァレリアは中一日あけて明日の晩だ。
そのサマンサはというと・・・
開けたドアの隙間からこちらを監視している。
こちらが振り返ると、バタンとドアを閉めて引っ込む。
でしばらくすると貝が口を開くように、少し開けた隙間からまた覗いている。
はぁ。一体何なの?こちらは連チャンでヴァレリアでもいいな、と正直思ったが、仕方ない。「しきたり」は守るしかない。業務終了後、荷物を取りに一度ヴァレリアの部屋を訪れ、それから、サマンサの部屋の扉をノックする。
コンコン。
反応がない。
「おーい。開けてくれ。でないと、今晩野宿だ。」
やはり反応がない。
「本当に何もしない。寝に来ただけだから、開けてくれ。」
カチャッ。伺うような目で、それでも何とかドアを開けてくれた。
はぁ、疲れる。俺ものろのろと部屋に入っていった。これは、先が長そうだ。
人物紹介 その4
バーン/伴富雄
不動産会社、社長。行きつけの風俗嬢のもとで鬼連チャンをトライ、あえなく腹上死する。人間の時からつるつるの禿げ。合田の下宿先のアパートを斡旋しており、お互いに覚えていないが、顔は合わせたことがある。面倒見は良い。




