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第4話 オリエンテーション

~オリエンテーション~


ヴァレリアの部屋、ベッドの上で彼女を腕枕しながら天井を見上げていた。


彼女の話を聞いている。


彼女らワーキャットはここからはるか南、乾燥した丘陵地帯の広がるアンモニオンという地域の出身だ。水不足に苦しむ彼らを救ったのが『使徒様』なのだそうだ。ひょっとしたら、心優しい転生者かな?だから俺のことも、その崇拝対象の『使徒』ではないけれど、近しい存在に感じるのだそうだ。


ふむふむ。彼女の巨大すぎる期待を裏切らないようにしなければ。

前世のあれだ、良くない虫が出てきてしまうと、また刺されかねないな。


でもとりあえずは、今は余計なことは考えずに、生きていることの喜びを感じ合おう。


彼女と見つめ合った。


第2ラウンドが開始され、四角いジャングルに。と言っても長細い長方形のジャングルに放たれた!戦うためでなく、平和的共存を謳歌するためだ。『2回戦』とかいう言葉は無粋だろうさ。


・・・


今度こそ本当に眠った。あのあと何回か平和的共存を謳歌して、やわらかい布団に沈んでいった。朝の白い光が差し込んでくる。ゴブリンの住処だというから、洞窟をイメージしたが、立派な古城を改築した古いホテルの様な情緒がある。


「『使徒様』。私、大浴場に行ってくるね!」


やけに艶々とした彼女が手を振って部屋を出て行こうとする。大浴場?いったいどこの宿泊施設だ?とツッコミを入れたかったが、気怠さが勝った。俺もにっこりと笑顔を作っると、寝床から手を振り返す。


「いってらっしゃ~い。」


お風呂セットをもって、鼻歌を歌いながら彼女は出て行った。

さて、俺は幸せな布団の中で、もうひと眠りするかな?


再び目を閉じたその時・・・


「スキル発動、おめでとうございます。なのじゃ。」


すぐ横から声がする。


「わあっ?!・・・あっ。あれええええ~~~!!」


俺は驚きでベッドから転がり落ちた。

何とそこには、あの、ツンドラ女神が真顔で寝そべっていたのだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ベッドから転がり落ちた床にひざまづいて、俺はベッドに横になっている女神スクードを見上げた。女神は左ひじを支えにして片頬杖をつき、涅槃のポーズをとっている。腰の下の方、すなわち十分に尻の一部と呼んでもいい辺りをボリボリ搔いている。


ヴァレリアが明け渡した場所に、当たり前のように収まっている。


「驚いたじゃないですか~。一体何しに来たんですか?」


「ん?珍しいスキルじゃろ?ちゃんと説明もしておかないといかんと思っての。」


よっと。そのままでは喋りにくいのだろう。彼女もベッドの上に胡坐をかくと、改めてこちらを見た。


「ユニークスキル、『グッド・ルッキン!』をおぬしは発動した。いまはその状況にある。とはいえ、何も普段との違いを感じんじゃろ?」


「ええ、確かに。」

俺はスキルが宿ったであろう両の掌を見た。緑色の掌。この世界に来てまだ24時間経っていないはずだ。正直見ていて違和感も少し残るが、自分の物だ。


「これはいわば単にチャージされた状況なのじゃ。」


「チャージ?」


「そう。1回分の奇跡を貯め込んだ状態じゃ。」


「じゃぁ、1回分使い終わったら空になる。」


「そうじゃ。じゃが、使って空になったらまた再チャージすればいいんじゃ。」


「あ、なるほど。またヤレばいいんでしょ?」


「コホン。実も蓋もない言いようじゃが、その通りじゃ。」

女神はむせて、それから少し顔を赤らめた。


「さっそく使ってみたいか?」

女神が軽く身を乗り出した。


「やってみるっす!!」

流石に俺も目が輝いた。


「では、魅力的に見せたい物体をなでなでするのじゃ。」


「え?こんな風にですか?」


無造作に、俺は自分の左手の甲を右掌で擦ってみた。

「あ、えっ。ちょっ。ま、まぁ、ええか。」

女神がごにょごにょ言っているが気にしない。


ものの数秒。俺の体がうっすらと発光した。

思えばこのツンドラ女神にゴブリンにされたとき、わが身に起きた発光に似ている。


ぽんっ。


なんと。


なんと。


元の合田猛に戻っているではないか!!

薄紅の差す、肌色の両手。長い腕。俺は、俺は人間に戻れた~!!!!


「人間に戻れた。そう思ったじゃろ?」


俺の感動を、サトリ能力のある女神が0.5秒で叩き潰した。人の心、読むな~(心でパンチ)


「え?違うの」


「当り前じゃ。このスキルは変身スキルではない。物体の潜在的魅力を最大限に引き出す力なのじゃ。つまりじゃ、魅力を引き出されたその物体は、あらゆる観測者から『そのように』見えはするが、決して物体そのものが変わった訳ではないのじゃ。」


失意のせいで、俺は石像のようになった。


そして、その後じわじわと悲しくなってきた。

要するに、化け狸か狐みたいなことか?しょぼい。とほほほ。


だが、ま、まぁ、何かには使えるかもしれない。


そうだ!俺は『使徒様』なのだ。奇跡のデモンストレーションが必要だ!


「これ、持続時間はどれぐらいなんですか?」

「スキル発動までに費やした時間じゃな。」

「対象になる物体に制限とかあるんですか?」

「あるぞ。おぬしが毛嫌いしているものには力を投影できん。あたりまえのことじゃな。」


あー。例えば、このツンドラ女神とかは無理だな。俺をゴブリンにしやがった。


「うー。わしも好き好んでおぬしをゴブリンにした訳じゃあない。世界樹のシステム上そうなっておるのじゃ。だいたい、あの姉貴が・・・」


そこまで言いかけたところで、ジリリリリ・・・ジリリリリ・・・と懐かしの黒電話みたいな着信音が聞こえる。

女神の左手中指の指輪からだった。

「もしもし。あ、ねえさん。うんうん。今オリエンテーション中なんじゃ。え?転生待ちが溜まっている?6人待ち・・・はい。急ぎ、戻ります。」


女神スクードは仕事に追われてアプアプしている社畜のようだった。途中から言葉遣いも違った。


「じゃ、じゃあ。また来るでの。おっと、とりあえず、今回は一旦奇跡を解除しておこうか。見られてもややこしそうだしのう。オピュール・ダル・フォツィーレ!」


俺を淡い光が包み、もとのゴブリンに戻る。くそっ。

祈りのポーズをすると女神は一瞬でその場から消え去った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


慌ただしい訪問客が帰ってから、今度こそ眠ろうとしたが、すぐにヴァレリアが戻ってきた。

「『使徒様』、お風呂、とっても気持ち良かったですよ。今日はバラのお風呂になってました。12時になったら男風呂と女風呂が入れ替えみたいだから、入れますよ~。」

だからいったいどんな宿泊施設だっつーの。


化粧台に向かい、保湿剤らしきものを顔に塗りながら、ヴァレリアが思い出したように言う。


「そうだ。連絡係のゴブリンさんから聞いたんだけど、王様があとで執務室に来るように言っていたわ。」


「え?何かやらかしたかな?」

全く心当たりもない。というか、今日だらだら過ごしていること自体がダメなんかな?近衛兵だから、本来は王様の身辺警護をしているはずだもんな。


善は急げ。身なりを整えると、俺はすぐに執務室へ向かった。


 執務室は上の階の中央辺りにある。ちょうど真下が昨日イベントのあった玉座の間だ。部屋の中央には社長や本部長が執務しそうな重厚なデスクがで~んと構える。そこに王様バーンが座り、人間のように執務をしている。


 部屋の右奥には近衛兵長のモズが立っている。やっぱりデカい。180㎝はありそうだ。彼ならば、ヒューマンの戦士と互角の体躯だろう。


「ゴーダです。参りました。」

声を掛けると、バーンは見ていた書類から目線を上げてこちらを見た。


「おお、待ってたぞ。もっとこっちに来いよ。」


気さくな声。柔和な目。何か叱られる訳ではなさそうだ。


「どうだい。我々からのウェルカム・プレゼントは?」


柔和な目の中に、少しいたずらっぽさを含んでバーンはこちらを見ている。


「ウェルカム?プレゼント?まさかヴァレリアとサマンサのことですか?」

意図が読めない。


「いかにも。君の来訪を祝ってのことだ。」

バーンの目は、今は静かな水を湛えた湖面のようだった。

透き通った湖面の底に見通されたのは、俺自身の心だったのかも知れない。


「君も・・・転生してきたクチなんだろう?」

スキル紹介


グッド・ルッキン!


 物体の潜在的魅力を最大限に引き出す力を持つ。魅力を引き出されたその物体は、見ている人物全てから、普段よりも上等なものとして認識される。効果の持続時間は、スキル発動に費やした時間。ディスペルなど一般的な解除魔法などでは解除することは出来ない。

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