第30話 ギルド・マスター
第30話 ~ギルド・マスター~
「荷馬車の分乗、やられたわね。」
「やられましたわ。」
「パクられたんじゃないかしら。」
「ぬうううう。策略よ。汚い抜け駆けよ。」
4人の妻たちがハンカチーフを咥えてきーっとしそうな感じで色めきだっている。
そう。スカサハは大事なものを奪って行きました。
それは俺、ゴーダとのチョメチョメタイムである!
・・・
俺自身もふざけていたら自分の身が危ない。
時間を少し巻き戻そう。
多くの人達に見送られて、俺たちはエレクツィオン砦を後にした。その際にだ。妻たちは前方の馬車を案内されて乗車した。そして一番最後尾に当たる幌馬車に俺とスカサハが乗車した。馬車は全部で5台あり、前方の1、2台目を案内された妻たちと最後尾、5台目の俺たちは完全に分離された。鮮やかな策略。というか、立場を利用したごり押し。
そりゃそうだ。「どうぞ乗ってください」と案内されりゃ、普通は誰だって素直に乗るだろう。特にこちらは乗せてもらう立場なんだし。まんまと妻たちを引っぺがしたスカサハは魔法アイテム「満月の鏡」で自らの周囲環境を夜にすると、人型に戻り、俺としっぽり楽しんだという訳だ。久しぶりだったこともあり、待望の「淫紋」を味わいたくて、うずうずしてもいたのだろう。それはもう。それはもう凄かったですよ。今こう話していても興奮で鼻息が荒くなる。
・・・いや、やめよう。
普段俺が誰とセクロスしようとも、特に気にしていない方々にも思えるが、今日はおかしい。騙された感が、怒りに油を注いでいるような気がする。だから矛先が主にスカサハに向いているのだ。本来なら、その事を勘づきながら、スカサハを抱いた俺にだって矛先が向いて当然な話のようにも思うが、まずはスカサハだ。だから、嵐が過ぎ去るのを待つように俺は空気と一体化した。尤も、現時点では妻たちの側から見れば、疑惑の段階だ。
「何だか、つ~んと、栗の花の匂いみたいのがするんだけど?!」
ヴァレリアがスカサハに突っかかる。
「おそらく、前回の荷が栗だったのでしょうっ。特にやましいことはありませんよっ。」
汗をかきつつ、どう見ても怪しい大豚野郎。「満月の鏡」はどこかにしっかり隠し、豚型に戻っている辺りが用意周到である。
「栗みたいな農作物、あんたたち運ぶの?普段もっと高価なモノを扱っているでしょうよ?」
「あ、いやぁ。栗はオークの主食みたいなものと言うか、好物なんですよ。豚も栗とかどんぐり、好きでしょ?」
「私、耳がいいから、後ろの方から女性の喘ぎ声が確かに聞こえたのよね。貴女の声でしょ?」
「ぬ、濡れ衣ですよぉ!だってこの体ですよ。何もできないでしょう?」
「ふ~ん。どうします、皆さん?」
どこまでも厳しいヴァレリア第一夫人兼探偵は皆に意見を求める。
「声は私も聞こえました。でも今回は証拠不十分ということで、不起訴と致しませんか?次回このようなことがあった場合には厳正に処分するということで。」
昨晩あんなに甘い時間を過ごした美琴が鬼のようだ。というか鬼族だった。
「ふんっ。しょうがないわね。」
「今回だけ、ですよね。」
「美琴さんの考えでいいでしょう。」
何とか収まってくれた。ひ~。こわいいい。
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そんなこんなしているうちに、冒険者ギルドに着いた。2F建ての何となく宿屋を彷彿とさせる建物だ。でも冒険者パーティーをデフォルメしたデザインの看板が掲げてあり、分かりやすい。スカサハ達、隊商と別れて、俺たちは入り口に向かう。
グレーフェンの街には2回来ているけれど、俺はここに来るのは初めてだな。
でも他の皆は全く違う状況だ。それもそうだ。ほんの数日前とか、数週間前までここに普通に属していたのだ。悪いゴブリンの巣に囚われて、行方不明もしくは死亡の扱いになり、冒険者としては登録抹消されていたのだ。
※実際のイメージはかなり異なっております。ほとんど「とある社員が一時系列他社に出向して、また元の会社に戻って来た」ぐらいの雰囲気でしかありません。
入口に手をかけたヴァレリアも少し戸惑いを見せる。
「さっきも話したけど、再登録はしっかりされているはずだよ!」
俺は背中を押すつもりでバレリアに言う。
「いや、あなた様、そう言う感じの不安ではないんですよ。」
神妙な顔でバレリアは言う。
「今日も女の匂いがぷんぷんしますね。」
横からサマンサが口を出す。
え?え?えええ?
「陣形を組みましょう。私が前、サマンサさんが右を、ノルンさんは左、美琴さんは後ろをお願いします。」「はい。」「任せて。」「了解。」
ヴァレリア
ノルン 俺 サマンサ
美 琴
一体何のための陣形だ?!見事なインペリアル・クロスが形成された。
「よし、行くわよ!」
妙に気合が入ったヴァレリア。何、何、何ぃ~?
カランカランカラ~ン
ヴァレリアがドアを開けると酒場兼ギルド受付の1Fフロアが視界に入った。おおおお。これは堪らん。どこからどう見ても、冒険者ギルドや~~!!異世界体験にテンションが上がる俺をよそに、妻たちは四方八方に警戒レーダーを放っている。あのさぁ、何なの?何なの?
「お帰りなさいませ~冒険者さ~ん!」
さらになんか違う挨拶。何だここは?!冥途喫茶か何かか?
「ただいま~。ルル。」
「あら、ヴァレリアじゃない。エレクツィオン砦から帰って来ちゃってよかったの?」
ルルはどうやら事情を結構知っているようだ。ヴァレリアと同じくワーキャットだし、知り合いなんだろうか?肌色はヴァレリアよりもやや明るいか。目は緑色の入った黄土色といったところ。先程の挨拶通り、メイド服を着ている。
「大丈夫よ。特殊任務で今朝皆と一緒に出発してここに来たたの。・・・そうそう。あなた様、この子は私の遠い親戚でルイーズ。弓使いをしています。」
ヴァレリアが流れで紹介してくれた。
「どうぞよろしく。俺はヴァレリアの旦那でゴブリンのゴーダです。」
俺はお辞儀で挨拶した。前方はヴァレリアにガードされているので、握手は出来ない。
「いいなぁ。ヴァレリアからの手紙で知ってはいたけど、結構イケメンじゃない。よろしくね。」
彼女もちーっすみたいな感じで挨拶する。っちゅうか、手紙のやり取り、あったんだ。
「それよりあんた、何時からスタッフになったの?」
俺を隠すように立ち位置を少し変えて、ヴァレリアが聞く。
「ああ。最近弓兵のオファーが全然なくってね。アルバイトで日銭を稼いでいるのよ。」
「珍しいわね。弓兵なんてどこからでも声がかかるでしょ。普通。」
「それが最近、出没するモンスターがやたら骸骨ばかりで。打撃系と火魔法なら引っ張りだこなんだけどな~。」
「ふ~ん。モンスターの生態系も前と変わったのかしらね。ありがとう。ところで、今日はうちの旦那様に新規登録をさせたくてね。」
無駄話を早く切り上げたかったのか、ヴァレリアはやや強引に目的を伝えた。
「おっけー。ギルマス呼んでくるね。」
特に頓着した感じは見せず、ルイーズはサラッと持ち場を離れて、バックヤードに向かった。
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俺たちが受付の前まで来ると、ちょうどルイーズも上品な夫人を伴ってカウンターの内側にやって来た。
「お待たせしました。私がこの支部を預かっている、ヒルダ・ゲティスバーグと申します。ヒルダと呼んでください。これからどうぞ良しなに。」
夫人は手を差し伸べた。
「エレクツィオン砦のゴブリン、ゴーダです。」
俺はその手と握手する。今度はヴァレリアは邪魔しなかった。ヒルダの手はしなやかで女性らしさもありつつ、力強い手だった。更に言うならば、雪のように白い肌でありながら、しっかりと暖かい手だった。特にこの世界に来てからは、種族のことなど大して気にもしていなかったが、彼女は長い犬系の耳をしている。上品な黒のドレスに身を包みつつ、力強い彼女の肢体に良く似合っているように思えた。極北の狼か狐か。そんなものを連想させる。俺の視線に気づいたのか彼女が言う。
「あ、この耳?私はコボルトの一派、『雪原の旅団』の出身なんです。」
どちらかというと、ワーウルフという名称が合ってそうだが、こちらの世界では犬耳の人間は皆コボルトに纏められている。みんなちゃんと人間だから、男と女の関係で温め合えちゃうんだ・・・むふふふ。夢の世界、フューチュリア。はっ!いかんいかん。
「雪原・・・っていうくらいですから、北極に近いところなんですね。」
キリッとしたイケメンに戻って俺は言う。
「ええ。1年のうち半分は雪に覆われていますわ。」
「ヒルダさん。ゴーダさんはまだ冒険者としての登録がないんです。新規登録という事でお願いしたいんですが。」
まるで、割って入るようにノルン。俺とギルマスとの楽しい会話は地理の話だけで終わった。
「ああ。そうだったわね。まずはこちらのアンケートに記入してもらえるかしら?」
少し残念そうなヒルダさん。くうん。俺もだよ。
その後、4人の妻たちからあーだ、こーだ、ゴーダ指図されながら、アンケートを書き上げた。ここでは彼女たち、先輩だもんな。アンケートを提出すると、ヒルダさんは戸棚から手帳とワッペンを持って来た。手帳は冒険者手帳だったが、ワッペン・・・ダサい。
「ゴーダさんはゴブリンロード・・・というクラスはあまり馴染みがないけれど、上級職のようです。ですから、飛び級でB級、この緑のワッペンになりますね。」
「おおお。私と一緒だ。」「さすがはあなた様。」「ゴーダさん、素敵。」「ゴーダ様、おめでとう。」
B級は美琴のみ、C級のヴァレリアとノルン、D級のサマンサ。
それぞれが自分のポジションからみた賞賛を浴びせる。多分皆も今いる等級よりも十分に実力が上がっているとは思うのだが。なにせ、冒険者からドロップアウトした時の経歴をそのまま引き継いでいるのだから仕方ない。とはいえ、俺だってB級だからと浮かれてもいられない。
「確か皆さんは魔王討伐クエストに参加されるのでしたよね?そうなりますと、最低一人はS級、あとの人も皆A級であることが規定条件となります。うちの支部じゃないけれど、勇者パーティーの勇者イスカンダルとビショップのルクレツィアはS級、後のメンバーも皆A級です。ご参考までに。」
皆顔を見合わせる。
「大変なのは当たり前だ。でも、ギルドのおかげで、細やかに実力を見極めながら前進できるんだ。こんな有り難い話はない。きっといつか、確実に魔王を倒せる日が来るぞ。」
俺は言った。
妻たちの顔色が明るくなった。というか、熱視線が送られる。ヒルダさんも満足そうに微笑んで頷いている。
「じゃあ、そろそろ借り上げの物件を見に行きますか?」
ヴァレリアが仕切って言う。
「ギルド・マスター、ありがとうございました。」
「明日また来ます。」
受付を後にして、酒場を通るときに、またインペリアル・クロスが再構築された。
「ね~。美琴ぉ。ちょっと彼とお話しさせてよ。」
「んー。また今度な。」
「いいなぁ。私もゴブリンに攫われて、犯されまくりたい!」
「ちょっと、やめてくれませんか。」
やや本気で怒るサマンサ。
女冒険者たちからのちょっかいを妻たちが防ぎつつ、何とか冒険者ギルドを後にしたのだった。
何だか、違う意味で前途多難だ~
人物紹介 その22
ヒルダ
各地を巡って冒険を続け、このグレーフェンに落ち着いた。グレーフェンの街の冒険者ギルドでは唯一のA級冒険者で、現ギルド・マスター。クラスはマスター・メイジ。出身部族、「雪原の旅団」の名にふさわしく、氷結魔法を得意とするが、格闘も出来る。人妻。




