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第27話 号外!魔王軍襲撃!(旅立ちの前日)

第27話 ~号外!魔王軍襲撃!(旅立ちの前日)~




-たとえ魔王がどのような存在であっても、か?-


 女神スクードの真剣なまなざしに射抜かれる。俺と同じタイミングでやって来た女性の新魔王。異世界転生者、そして俺の因縁の相手なのだろう。そう考えると・・・だが今は想像しても意味がない。覚悟を聞かれている。


 俺は思い返す。濃厚なゴブリンライフ。最高の妻たち、仲間たち、その日々の暮らし。訳の分からない変な事情もありつつ、それでもここでの日々は本当に、本当に最高だ。それを奪おうとしている敵、魔王。


 閉じていた目を開ける。


 迷いなど、ない!


「問題ありません。必ずや討伐してみせます。」


 女神様は一瞬微笑んだ。なぜか俺にはそれが、恋する少女のものに見えた。


「いいな、お主は。妾(わらわ)は、今もって迷いでいっぱいじゃ。姉貴の考えも全く読めん。」

 笑顔の端に一筋の涙を浮かべて彼女は言う。


「叡智と現在を司る女神、ベルザンダイン様、でしたよね。」


「ふっ。あれこれと知っておるの。」


「スクード様含めたご姉妹は日本でも人気でしたから。」


「ははっ。」

 涙が零れないよう、彼女は少し上を向いた。


 そのまましばらく、彼女はハナを啜っていたが、落ち着くと、再び高貴さを取り戻した力強い目ででこちらを見た。


「では魔王軍と見事戦って勝利して見せよ。汝は、死の先を征く者!」


 そうだな。死など、恐ろしくもない。それこそが、異世界転生者の最強のスキルだ。


「はい!」


 俺の言葉を聞き届けると、満足な笑顔で彼女は次元の狭間に消えて行った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「もうすぐ夜明けですね。」

 ベッドからサマンサが話しかけてきて驚いた。


「お、起きていたのか?」


「ごめんなさい。途中から女神様との会話も聞いていました。」


「そうか。そっちもびっくりしただろう?」


「ええ。でもドアの外には美琴さんもいますし、大した違いでは。」

 彼女は笑った。


「色々と申し訳ないな。折角の時間を台無しにしてしまったみたいで。」


「ううん。大丈夫。ゴーダ様は私といる時はいつも私の事だけを考えて尽くしてくれる。だから、他の女性達にも変わらずそうであってほしいです。」


 本当に、何時の間にそんな大人な女性になったのか?目の前にも正真正銘の女神様がいる。俺はサマンサを抱きしめて、浅い微睡の中に落ちて行った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 浅い眠りの中で、馬の蹄の音のようなものが遠く聞こえている。あれは馬ではない。少し前に聞いたあの動物の走行音。騎乗用のドラゴンだ。ドラゴンの群が、このエレクツィオン砦に近づいている!


 俺は飛び起きた。


 サマンサも一緒になって飛び起きる。


「敵襲ですか?」


「ああ、ついに来たぞ。」


 ベッドから飛び降りて、武具を急いで身に纏う。サマンサも急ぎ身支度を整える。俺は準備を進めながら、ドアのすぐ外にも声を掛ける。


「美琴、起きているか?」


「はい、これに。」

 

 カシャっと鎧のこすれ合う音。正座している気配がする。


 くーっ。かっくいい~~~!!!


 鼻血が出る。本物の美女、本物の武人!


「出るぞ。」


 一応声を掛けてからドアを開くと、そこには想像通りにオーガの侍マスターが膝をついて待っている。


「ご主人様、周囲にも伝えますか?」


「もちろんだ。猫の子一匹漏れずにたたき起こせ!」


「畏まりました・・・敵襲!!敵襲!!前庭に向けて敵兵が接近中!!」

 凛とした声が、夜明け前の澄んだ空気を切り裂く。


「敵襲!!魔王軍接近中!!」

 俺も声を張り上げて周囲に知らせる。



「敵襲、敵襲!!」

「抜かりましたわ。」

「起きろ!」

「守備隊、前門に集合だ!」

「魔導兵器、後ろ、通ります!」

「非戦闘員はリストランテに避難を。」


 やがて蜂の巣をつついたように、様々な動きが砦内を包み始めた。


 廊下を進むと、ヴァレリアとノルンも武装した姿で合流してきた。これで魔王討伐のパーティーが揃ったが、出発の前にまさかの襲撃だ。俺は未だに守備隊長の任は解かれていない。守備隊の皆に合流しなければ。


「おう。二人とも。今から前門に向かう。我らの緒戦は守備隊の援護、前門の敵兵の駆逐だ。」


「了解!」「畏まりました!」


 その頃には周囲も武装したゴブリンや奥さん方の群で溢れ返る。ゴブリンの多くは前庭に向かって行進していった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 前庭に到着すると、副隊長のコマンドーやノリスら、主要メンバーもしっかり揃っていた。魔王軍との対決を決定してから、守備隊の員数も拡充された。今や100を超えるゴブリンが兵装を整えて整列している。


「守備隊長、準備は整っております。」

 コマンドーが報告した。


「うむ。敵兵の主力は騎兵。前門を閉じて城壁からの攻撃を主軸とせよ。」


「はっ。前門封鎖!」


「前門封鎖!」


 工兵たちが土嚢を運び、前門を封鎖し始める。


「弓兵、魔法兵、城壁に分散。」


「俺は討って出る。指揮は頼んだぞ、コマンドー!」


「ははっ!!」


 城壁も以前は単なる高さ2mの石垣が連なるだけだったが、内側に高さ1mと少しの足場が増設され、その上に乗って城壁の外を攻撃することが可能となった。弓兵や魔法兵を守るように、白兵は槍を持ってその間を埋める。俺もヴァレリアも槍を手に足場に上がる。美琴は・・・元の装備が薙刀だから、そのまま行けるのか。薙刀、便利武器というか、最強説。


 ゴロゴロゴロ・・・


 何か台車に引かれるようにして運ばれてくるものがある。先ほど見かけた魔導兵器だ。前世で見た大砲に似ていて、全部で3台ある。ルフトの妻、ルナ・マリアやゴリさん、サトゥーの3人が全体指揮を執っているコマンドーと一緒に確認、調整を行っている。


挿絵(By みてみん)


 なかなかにやばそうな迎撃兵器だ。


 明けてゆく空の下、ドラゴンの群が接近してくるのが目視できる。その数、おおよそ400。多いな。ヒューマンやコボルト、グラスランナーを中心とした騎兵に混じって、スケルトンらしき騎乗者も見受けられる。しかし、騎兵とはあんなにも速くて、でかいものなのか。上に乗る一人一人の兵士にこの俺が後れを取るとは思えないが、騎兵と歩兵の俺で一騎打ちしたらどうだろうか?相当な覚悟が必要だ。やがて、300m程先に来て、騎兵はその進軍を止めた。真ん中にいる隊長らしきスケルトンが、いや、あれは間違いない。リッチのモルガンだ。精力的に指示を飛ばす姿は、生身の人間と変わりない。やがてそれぞれの騎兵がポジションを変更したりしていたが、それも終わり、一瞬の静寂が訪れる。


 来る。


 一気に来る。


 ドスドスドス・・・・ドドドドドド


 加速をつけて、騎兵が一気に距離を詰めてくる。


 疾い!疾過ぎる!!


「うおおおおおお!!!」「うっりゃああああ!!」「はいや~!!!」


 先頭の騎兵の雄叫びがすぐにも聞こえてくる。


 双方から飛び交う、弓矢、ファイヤーボール。


 ごおっ グハッ ギャアアアア


 次々と騎兵が転落する。


 対してこちらは城壁に守られ、被害は少ない。守勢の圧倒的有利。


 だが、転落して戦線離脱する騎兵の合間を縫って、次から次に後続が迫る。


「いやああああ!!」


 城壁に突撃する勢いで迫って来た騎兵を、俺は串刺しにする。ザシュッ


「ぬうりゃあああ!!」


 オーガをも超える剛力で、串についた兵士を投げ飛ばす。


 ドガッ


 さらに後続の騎兵に血塗れの兵士がぶつかり、もろともにドラゴンより転落する。


「ぎゃああ。」「ぐはっ」


 はあああああ


 ふん、ふん、ふん、ふんっ


 目にもとまらぬ速さで、俺は連続の突きを繰り出す。


 ぎゃっ ぐああ ひああっ ぶへっ あべしっ 


 どうだ、俺様のイチモツはあ!

 なぜかこういう時の方が、むしろ下品な言葉が冗句よろしく生まれてくる。


 俺の周りは特に壮大な地獄絵図となり、騎兵の群が停滞し始める。しかしあれだ、本当にきりがない。そういえば、あの長大な魔導兵器は何をやっている。大砲をぶっ放して、こいつらを何とかしてくれよ!チラッと見ると、兵器には一切動きがない。


「ファイアーボール!」


 敵の魔法兵が放つ火炎の玉が、俺のすぐ隣のゴブリンを襲う・・・が。


 シュワッ


 火球は城壁の50cmほど手前であっけなく焼失した。


 なっ、なんだと?あれ?


 嬉しい意外性に、とんでもなく驚いた。


「我が籠りし宿木に封魔の静寂を。マハ・カーン!!」


 一瞬だが、光のヴェールが城壁から前庭をドーム状に取り囲んだ様子が俺には見えた。そうか、これは魔法結界なのだ。確かに今、ルナ・マリアは魔法結界を張り直した。そしてあの魔導兵器はその魔法結界を維持し、強力な魔法を操るモルガン以下の魔王軍に対抗する切り札なのだ。


 ならば、勝利条件は見えた!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「いいか、敵を絶対に中に入れるな。この城壁で防ぎきれば、我らの完全勝利だ!魔法を恐れるな。敵の魔法攻撃は無効だ。直接攻撃だけに集中し、敵を倒せ!」


「おおおお!!!」


 前線は息を吹き返した。次から次に飛び出す守勢の反撃に、ドラゴンの群は所々崩壊し、あるいは距離を置いて立て直すのが精一杯の様子だった。その情けない姿に業を煮やして、ついに前線にモルガンが現れた。両脇に2体のスケルトンナイトを従えている。


 寄って来ながら、既に呪文を唱えている。


「其(そ)は宝。暗き天空の狭間にて生まれし・・」


 どこかで聞いた詠唱だった。しかも生じるその雷球は一つではなかった。1、2、3・・・合計7つの雷球が天に舞い・・


「雷の結晶。トロン!!」


 雷神の拳の如くに天から降ってくる。


 うわああああ~~


 ゴブリンたちから悲鳴が上がる。


 ダメか。今度こそ防ぎきれないか!


 その時、


「我が籠りし宿木に絶対なる封魔の静謐を。グランデ・マハ・カーン!!」

 後方の3賢者が同時に詠唱する。


 さらに強い金色の光が、ドーム状に我らを包む。上級レベルの結界か。


 パシュッ、パシュッ、パシュッ、パシュッ、・・・


 7体の雷球は結界にぶち当たって破裂した風船のようにその電気力を放出した。やがて、細かい雷の龍が天に上るかのように、チリチリと立ち上ってゆく。


「くっ。なんということか。忌まわしき古代の遺産よ!」


 モルガンの心を映すかのように、落ち着きなくドラゴンが右に左に体を動かす。その落ち着きなさを何とか制御しながら、モルガンは苛ついているようだ。


 今だ!


 俺は城壁から飛び上がると、主を失って所在なく、てくてく歩いていたドラゴンの背に飛び乗った。


「はいや~!!」


 何故かウマはダメだけれど、ドラゴン騎乗ならいけそうな気がした。


 主を取り戻したドラゴンは驚きつつも、喜んで一気に駆け始める。


「ああ?」「なんだと?」「ええっ?」「しゅっ、守備隊長が!」


 もはや敵味方関係なくカオスに動揺が走る!

 そうだ、俺は、単騎で、モルガンに奇襲をかける!


「モ、モルガン様、お下がりください!」


 骸骨ナイトが焦って前に出てくる。


 はっ、邪魔だ!!


 うっりゃああああ~~~!!


 自慢の棍棒を光の速度で叩き込む。


 ぶべしっ グシャッ!!


 枯れた細い枝がへし折れるみたいに、骸骨はグシャグシャに崩れ落ちる。


「お、おのれ~~」


 もう一体も勇ましく向かってくる。


「トール、ハンマ~~!!」


 ドゴオッ!!!グシャッ!!カランカランカラン!!骨のかけらが散布される。


「ひやああああ~~~!」


 思いの他、情けない声を上げて、モルガンは爆逃げしてゆく。くっ、チートな速さだぜ。ところどころワープしながら?!どんどん距離を離してゆく。俺は諦めた。でも問題ない。戦意を失った敵兵達は、情けない総大将の逃げ様を見て、一斉に潰走し始めた。


 俺はドラゴンの轡を引っ張ると、踵を返し、城壁近くに戻って来た。


 俺の雄姿を見て、一斉に声が上がる。


「ゴーダ!ゴーダ!ゴーダ!ゴーダ!」


 これでもう、思い残すことなく、退任できるな。


人物紹介 その21


アイラ


かつてルフトの傑作、レーヴァテインに操られていた女剣士。C級冒険者。今は健全に剣の修行、バーンへのご奉仕とラウンジに入り浸ることを日々の楽しみとしている。


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