第22話 オーガ襲来
~オーガ襲来~
正午のエレクツィオン砦の前門は緊張感と期待感(?)で漲っている。
「襲撃だ!」「敵襲!」「各隊、守備につけ!」
勇ましいゴブリン・ウォリアー達の声や足音が塀や建物の壁に木霊する。
魔法使いミリアルド率いる冒険者パーティーがエレクツィオン砦を襲撃している。ミリアルド以外はすべて女性。それも、遠目に見ても、皆若くてかわいい感じだ。全員ストライクゾーンだ。戦闘能力?ま、まぁそれなりに高いかも知れないが、最後まで立って(勃って)いた者が勝ちだ。
人数は合計8名・・・頑張ったなぁ。そんな大人数パーティー、普通おかしくない??
本当に俺としては期待感しかなく、お元気くんがむくむくと天を突きあげる。彼女たちと『平和的共存行為』を行ったらどんな感じだろう?妄想し、頬を赤らめる。ん?下品すぎるって?男なんて興味ある対象の女性を見たら、誰だってそうなるって。
※個人の感想です。もっと純な、綺麗な光景を妄想している男性だっていると思うよ!
「何ですか?その感じ。」
俺のすぐ横で幌の隙間から傍観していたノルンがジト目で俺を見る。そして俺の耳の先をつまむ。
ほふっ
「や、やめてくれよぉ。弱いんだから。」
我ら隊商および救出部隊は前門から少し離れた街道脇の木立の中から様子を伺っている。こんな状況に出くわして、「ちわ~っす」って門を潜れるわけもなく、50m程離れたところで待機、傍観している。冒険者は合計9人、対する前門の守備兵は概ね50人。皆粒ぞろいのナイスなガタイをしている。ひ弱そうなゴブリンは年端もいかない子供達だったことが分かってきた。以前はそんな子供たちも戦闘に参加させていたので驚きだった。そこで俺が排除し、がっつり戦える漢たちを選別した。いかつい兜、盾に陽の光が降り注ぎ、煌めく。強靭な大型昆虫の群れのようにも見える。
「美しい。こんな美しい軍隊に生まれ変わったとは!」
ニヤニヤが止まらない。男の子ならワクワクが止まらないぞ!
「はぁ。男の浪漫、ですか?」
俺のワクワクに、呆れた顔のコーデリアが水を差す。
「いいじゃないですか。だって、カッコよくない?」
俺は完全に膨れた。そうだ。これは俺が不在の時でも、彼らがしっかり戦えるか。その試金石でもあるのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ミリアルド、こ、これは厳し過ぎないか?」
生真面目そうな女性の声が聞こえる。
「どうした、美琴。オーガの君でも怖気づくことがあるのかい?」
煽るミリアルド。悪い奴である。
「私のことは構わない。でもこれは凄い。まるで一国の軍隊だぞ。あちらから見たら、我々など盗賊の群れにすぎん。」
凛とした声に乗る、やや男っぽい口調も堪らない。
先程までは、何となく「箱推し」な感じで全体を見ていたが、彼女に視線が吸い寄せられた。やや長身のミリアルドをさらに頭半分凌ぐ長身。美しい銀髪の前頭葉から2本の短い角が生えているのがここからでも確認できる。大柄な鬼族、オーガだ。鎧武者のような手甲、肩当て。手に持つ薙刀。だがその下の完璧なまでに整った肢体を覆う白を基調とした和服の清らかさが、彼女の魅力を極限にまで引き上げる。ほへ~。美しい。
「困難なことは分かっている。僕だって何度もこの砦の攻略に失敗して、多くの仲間を失った。だがそれでも、世の中のために誰かが成し遂げなければならないのだ。」
一体どの口が言うのか?ミリアルドの迷演説だ。
「良かろう。だが、『他の』アイドルたちの面倒は見れんぞ。」
な?!アイドル?あ、あの女。意外にも自分の事をアイドル認定しやがった!そりゃまぁ、その見かけならば自意識も芽生えるでしょう。彼女ほどの美しさがあれば、身長なんか関係ない!と全男性が思う事だろうからさ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「何あの女?あ、あいどる~~??」
絞め殺す勢いで言う巨大豚スカサハ。
「男性陣は戦利品だって言って女性陣を大切に扱いますけれど、あの女は別ですよね。王妃様。」
氷のような横顔のノルンが同意を求める。
「そおね~。あれは頂けないな。とりあえずゴーダの性奴隷に落として、反省の意図がなければどこかに売り飛ばすか。」
「ちょちょちょちょちょ。なんだか人を極悪看守みたいに。酷くないですか?」
反論する俺。
「えええ?一昨日の夜は私を『半拘束状態』にして『お仕置き』したくせに。」
すかさずスカサハがあげつらう。
一昨日のスカサハとのプレイが脳裏によみがえる。うむ、あれは激しかったな・・・
「何それ?ちょっと、教えて!聞きたい!!」
「あれ?ゴーダ、赤くなってない?」
やめてくれ。早く終わってくれ(大汗)。複数の女性につるし上げられるのは、ある意味残酷な看守たちによる拷問かも知れない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とてつもない居心地悪さに、俺が身じろぎしている間に、戦闘の方はあっさりと終結しつつある。そこそこの能力がありつつ手を抜いている男性魔法使いは置いておき、後の『アイドル』たちもそこそこの使い手のようだった。でも、既に我が軍は個の力が以前とは段違いなのであります。それが1人に対して2~3人がマークする形なので、もはや無駄な抵抗だ。
そんな中、そこだけは異次元の戦場が繰り広げられている。
チャリーン
佩刀を吹っ飛ばされて、痺れる手を抱え込むゴブリン。
カバーに入ったゴブリンを薙刀の柄が盾ごと吹き飛ばす。
腰を落とした重い突きから、すっと姿勢のよい立ち姿に戻る。
圧倒的な強さと美しさ。
彼女を取り囲む兵士たちの円はその半径を縮めることすらできない。
後方に目を移すと、前庭の玄関口辺りで回復魔法による治療が始められている。主には今しがた投降した8名の敵、冒険者たちが受けているのだが、彼女、オーガ美琴と交戦したゴブリンたちも傷を負い手当てを受けている様子だ。屈強な兵士達でもこの様である。
そこまで後方で見ていた指揮官がその円に近づいていく。
「我が名はコマンドー。この砦の前門を預かる守備隊の副隊長である。」
彼は俺がずっとコマンド~と心の中で呼び続けていた旧名ブリーフだ。俺がその話をすると、彼は喜び勇んでその名前を拝命した。今やコマンドーが彼の真の名前となった。
「ほう。副隊長とな?本来の隊長殿はどこにおられる。」
「隊長は現在特殊任務中である。我では不満か?」
「ふん。構わん。その首刎ねて、隊長殿に献上してやる。」
「ほざけい!!」
空気を切り裂くほどの殺気が満ちる。
シャリン!!
鞘から引き抜かれた名刀デュランダルを右手に。左手の盾で間合いを取りつつ、歩みを進めるコマンドー。一歩、また一歩とその距離を縮め、最後の一歩が領域に入った瞬間、
白銀の蛇がコマンドーを襲う。
盾の縁で軌道を反らしたまでは良いが、すぐに払いが来る。
デュランダルの根元でなんとか抑える。
力比べとなって刃先がガチガチと鳴り続ける。踏み込みを強め、体重をかけると蛇はすっと逃げる。あまりの速さに、薙刀の刃先が生き物のように見える。それが白銀の蛇の正体だ。
蛇はオーガの斜め後ろでじっと待機している。罠だと思っても、コマンドーは怯まず飛び込む。脛を狙った水車回しを、体を回転させて飛び越え、デュランダルで突きを放つ。それでも簡単に避けられる。
避けるために逸らした背をばねに、左上から強靭な切り下ろしが来る。
盾で弾き飛ばす。
こちらも相対するように、右上から左下へと鋭い切り下ろしを相手の腹部に叩き込む。
が、オーガは左手の手甲で受け止める。
ガチガチと鳴る音。今度はこちらが圧している。
だがオーガも右腕一本で水車回しを放つ。
盾で防ぐ。
お互いがお互いの攻撃を受け止めている格好で戦いが止まった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
パチ パチ パチ
ゆっくりと拍手をしつつ、俺は二人の前に現れた。
「見事。両者引き分けだ。互いに武器を収めるがいい。」
怪訝そうな顔で立ち尽くすオーガ美琴を横目に、コマンドーはすっと下がると、デュランダルを鞘に納める。
「お前は誰だ?何の権利があって一騎打ちを止める?」
「俺が、君が探している本来の隊長だからだ。副隊長の首を手土産にできず、残念だったな。」
俺は皮肉る。
「盗み聞きとは感心せんな。ではお前の首を手土産に冒険者ギルドに戻るとしよう。どのみちゴブリン砦の攻略は失敗だ。」
「残念ながらそれは叶わぬ。お前はこの俺に負けて、性奴隷となる。」
「せ、性奴隷だと?!ふざけるな!!」
彼女の目が怒りの焔で燃える。
「参る。」
俺は近くにいたゴブリンから盾をもらい受けると、自慢の棍棒と盾で装備を完結した。鎧などは付けていないが、その方が完全勝利を印象付けられる。そして、性奴隷だ!
一歩、二歩、近づきながら、一気に走り、彼女に迫る。突き、払い、切り下ろし、どれでもいいぞ。こちらには「トール・ハンマー」がある。受けてみるがいい。
ヴォオオオオオオ!!!!
俺の雄叫びに何かを感じて、彼女は一瞬怯んだのかも知れない。肩が少しせり上がった分、突きが甘い。白蛇の首をへし折る勢いで棍棒を振り払う。
バキャッ!!!
激しい金属と硬質な木材のぶつかり合う音。
ぐっ
彼女の顔が苦しげに歪んだのを見過ごさなかった。体の左に構えて止めた刃先がそこから動かない。
残身・・・ではない。痛みと痺れで動けないのだろう。
トドメだ!!
食らえ、本日二度目の「トール・ハンマー!!」水平薙ぎ払い!!
パーーーーン!!!
心地よい快音と共に、彼女の薙刀が青空に吸い込まれてゆく。どこまでも、どこまでもクルクル回転しながら、上昇し続けるホームランコース。やがて砦の壁面、商業スペースの窓ガラスめがけて放物線が下降してゆく。
ガッシャーン!!
どこかの店舗の窓ガラスを叩き割って店の中に転がって行った。幸い無人なのか、そこからは何の声も聞こえてこない。よかった。
さて・・・
トール・ハンマーと言ったが・・・まぁ、あれだ。以前レーヴァテインと戦った時の事だ。グッド・ルッキン!の魅了効果でこの棍棒をトール・ハンマーに変えて見せた。あれは確かにハッタリだった。見た目でいうなれば。でも完全なハッタリではなかったのだ。その根源となったもの。それは俺のパワーだ。怪力を超える超剛腕。それがイメージとして具現化されたものだったという事が分かったのだ。怪力のオーガ娘でも女神様から授かった超剛腕を食らっては、薙刀を掴んでいることすら難しかったのだろう。二回目の打撃で簡単にすっぽ抜けたのだ。
魂をひっこ抜かれたように、その場にへたり込むオーガ美琴。
心は完全にへし折られたようだ。
ウオオオオオ!!
その場のゴブリン・ウォリアーたちから怒涛の歓声が沸き上がる。俺は皆を見回した。圧倒的カリスマがここにいる!
ゴーダ!ゴーダ!ゴーダ!ゴーダ!
俺の名を呼び続ける声。
しばらくそのままにさせていたが、やがて手を上げて一旦やめさせる。
「犬の首輪を持ってこい。もちろん新品だ。」
何人かが砦に走り込んでいき、じきに真っ赤な犬の首輪を持って来た。本当に犬に使うものというよりは、SMプレイとかで人間同士で使う奴だ。うむ。ある意味それで大正解だ!
オネエ座りのままへたり込んでいるオーガ美琴に近づき、首輪をつける。リードを引っ張り命令する。
「立て!」「ついてこい!」
手錠もつけていない。もう彼女には必要ないだろう。彼女を引き連れて歩き始める。再び俺の名を呼ぶ声が再開する。
ゴーダ!ゴーダ!ゴーダ!ゴーダ!
その声は、俺が彼女を引き連れて砦の中に消えても、延々と続いていた。
人物紹介 その17
コマンドー
転生者でないホブゴブリン。生真面目で任務に忠実。軍人の鑑ともいえるような男。着任以降、意外とふらふら持ち場にいないゴーダに代わり、実質的な前門の守備隊長を務める。お詫びの意味も兼ねて、ゴーダがスカサハ商店で購入した名刀デュランダルを授けた。




