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第21話 小さな大冒険

~小さな大冒険~


 夜が少しずつ明けてくる。紺から浅葱へと青のトーンを落としつつ、明るさが戻ってくると、先ほどまで見ていたものが幻だったかのように思えてくる。コーデリアはしばらくフクロウの「タケルっち」を残していたが。モーガンが戻ってくる気配はない。すぐさま「タケルっち」は消去されてしまった。さようなら。タケルっち~~


 結局、モルガンにどこからどこまで、何を覗き見されていたのかは分からない。ただ、少し違う視点の話だが、ひとつ分かったことがある。先ほどモルガンが潜んでいた森の中、それはスカサハが捕まったとされる場所とほぼ一致している。関連性はないのだろうか?


 再び馬を走らせながら(馬を走らせているノルン騎手のおPか腰の辺りにしがみ付きながら)、俺は隣の馬上のコーデリアに話しかける。


「さっきのモルガンがいた場所って、なぜかスカサハが捕まった場所と近いかなって思うんです。」


「ゴーダがスカサハから聞いた話だと、森の中の道を東に向かっているところを捕まったのよね?」


「そう言っていましたね。それでふと思ったのですけれど、騎士団に通報したのってモルガンなんじゃないかって。」


「そぉねえ。でも、そしたら、魔王軍がわざわざ騎士団に私達の情報を売ったってことになるわ。正直、意味が分からない。」

 顎に手をやって、コーデリアは考えるそぶりを見せる。


「でもゴーダさんの言う事も当たっている可能性があると私も思いますわ。」

 ノルンも話に入ってきた。


「というと?」

 当然納得いっていないコーデリア。


「モルガンは私たちの商売の事に否定的でしたよね?」


 謁見の間での会話が思い出される。『あまり商売にかまけて本分をお忘れなきよう』そんな台詞で王様バーンを牽制したリッチのモルガン。確かに彼ならやりかねない。今回の事もいわゆる『警告』のようなものなのかも知れない。


「確かに、なんか生意気な捨て台詞を吐いていたわよね。思い出したら結構ムカついてきた。」

 やんちゃなコーデリア。


 とりあえず、我らの中ではモルガンが最も怪しいという事で一致した。先ほどのノルンの高度な法術(フクロウ『タケルっち』の視座)で得られた情報が土台にあるだけに、かなりの自信ではある。


「ところで、烏(からす)によく気付きましたね。」

 発見者コーデリアにその極意を聞いてみる。


「だってエレクツィオン砦の近くには、普段はほとんど見かけないからね。出発の時に前庭にいたから、珍しいなって。」


「普通どこでもいる輩でしょう?グレーフェンの街とかでは普通に見かけた気がするんです。」


「ああ・・・エレクツィオン砦には魔法を練習しているゴブリンとか奥さんが多いでしょ?きっと彼らが的にするから、どんどん減ってしまったのよ・・・」


「ど、動物虐待だ!(汗と涙)」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 朝日に照らされて、グレーフェンの街の門が開いてゆく。採れたての新鮮な野菜を持って城内に入ってゆく農家の人らに混じって門を潜る。先日堪能した市場がすでに稼働し始めているが、それを横目に、商店の立ち並ぶエリアに向かった。今日は馬を引き連れたまま、例の店を目指す。


「魔法アイテム マギカ・ルージュ」は営業時間外の貼り紙がなされている。当たり前だ。まだ午前5時かそこらだ。ジョスリンさん、下手をしなくても寝ているな。


「さて・・・。あまりやかましくしてもご近所迷惑でジョスリンさんが困ってしまうわね。」

 困った顔でコーデリアが言う。


「コーデリアは半霊体を作り出すって言ってましたよね。より霊体に近いものと言うか、扉をすり抜ける物とかって、作り出せないんですか?」

 俺は適当に思ったことを言った。


「流石に出来ないわね。でも、魔法陣を中に作れば上手くいくかも。ちょっとやってみるわ。」


 魔導書を手に念を込めるコーデリア。玄関ドアに近づき、ドアの硝子に手を重ねる。硝子の裏側に魔法陣が浮かび上がり、そこから垂直落下でぬいぐるみのようなものがポトリと落ちた。


 ぬいぐるみ?は店の中央を目指して歩いてゆく。


 てくてくてく。


 ドアに遮られて最初は見えなかったが、店の中央に達した辺りで、その姿が硝子を通して見えるようになった。それはコーデリアをデフォルメしたお人形、ぬいぐるみだった。


挿絵(By みてみん)


「これで会いに行ったら、分かって貰えるんじゃないかしら?」

 サービス精神旺盛なコーデリアはぬいぐるみをヨチヨチ歩きで回転させて全角度レビューしてみせる。


「か、かわいいいい!!♡ ♡!!」


 玄関ドアにかぶりつきでノルンがはしゃぐ。彼女がはしゃぐのも分かる。青の魔導士・・・ドールマスターか、の姿をした現物コーデリアそっくりの衣装で同じ髪型、目の色まで再現されている。誰が見てもコーデリアがデフォルメされたものだと分かる、そんな完成度の高さが感じられるぬいぐるみで、ほんとうにかわいい。ユーフォーキャッチャーに入っていたら取りたくなるような一品ではないか。


「では、いざ冒険の旅に出発!店の奥を目指せ。」

 コーデリアがぬいぐるみ(俺はコーディーと名付けた)に命じると、ぬいぐるみが再び歩き始める。


 てくてくてく


 だがそれはなかなかに苛酷な旅だった。小さいって、大変ね。戸板の隙間に手を入れながら逞しくドアノブを目指してロッククライミングするコーディー。頑張れ~~!!今回も、ノルンの法術で手鏡の中に「コーディーの視座」が映し出されている。それを見ているとより気持ちが乗り移ってしまう。ドアノブにしがみ付くと、器用に体全体を使ってそれを回す。


 かちゃっ


 ドアの引っ掛かりが取れて隙間が空く。框を蹴飛ばすと、ドアがギギッと開く。奥の住居スペースが露になる。人形は飛び降りると尻もちをつく。イタタ・・・とならず平然としているところが人形っぽいというか、ちょっと怖かった。だがその先に更なる強敵が。階段だ。ひとつひとつ高台を攻略してゆく。まるでダンジョン攻略の勢いだ。そして何とか辿り着いた2階のスペース。並ぶ幾つかのドア。そのうちの一つが寝室のようだ。寝室のドアはつるつる。もはやドアノブを登る気力はコーディーに、いや我々には残されていない。時間がかかり過ぎたのだ。見ていて疲れた~~。なかなか点が入らないサッカーの試合観戦以上に疲れた。


「もうすぐそこなんだから、ノックして相手に中から開けてもらいましょうよ。」俺は言う。


「そうね。」


 納得するとコーデリアはコーディーをドアに体当たりさせた。


 どむっ


 もう一回


 どむっ


「むむっ。なんじゃ、なんじゃ??ふわぁあ」


 寝室のドアが開き、パジャマ姿のジョスリン爺は左右を見渡したが、床を見て、


「まさか、コーディか?」

 ぬいぐるみを見て、勘よく気付く。


 コーディーは短い左手で、ぴっ、ぴっと玄関を指し示す。


「なんと。本人が来ておるのじゃな?」

 そう言うと、優しく両手でコーディーを拾い上げ、十秒ほどで玄関まで一緒にやって来た。


「おおお、入れ、入れ。」

 ジョスリンさんは俺たちを見てすぐ開錠して中に入れてくれた。


「こんな朝早くにすみません。師匠。」

 コーデリアがお詫びの言葉を言いつつ、ジョスリンさんをハグする。


「いいんじゃ、いいんじゃ。何があったのじゃ?」

 体は離したものの、嬉しそうにコーデリアと手を繋いだままでジョスリン爺が聞く。コーディーはいつの間にか商品棚にお座りさせられている。


 コーデリアは今までの流れと、現在スカサハが騎士団に捕えられて留置所にいることを伝えた。


「そうかぁ。それは大変じゃったのぅ。皆も骨を折ったろうし、このままではお客さんたちも困ろう。すぐに騎士団の詰め所に行こうか。」

 そう手を打つと、ジョスリンさんはもう考えを纏めたらしい。


 ジョスリンさんの準備が整うと、俺たちは早々に騎士団の詰め所に向かった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 詰め所は「マギカ・ルージュ」の隣のブロックだったので、10分ほどで到着した。早朝の来客に、しかもやって来た人物を見て、門番は驚き慌てた。


「ジョ、ジョスリン卿、こんな朝早くから如何なさいました?」


「所長に話があるんだが。」


「かっ。畏まりました。」

 門番は飛んで行き、飛んで戻ってくると、俺たちを応接に案内してくれた。


 人のよさそうな、恰幅の良い所長が応対してくれた。オールバックにした短めの髪は、頭頂部が薄くなり始め、広大なおでこがその下に拡がっている。


「なんでも、ワシやスペンス公爵も懇意の行商人が誤認逮捕されておるようなのじゃ。なんとかならんかの?」

 ジョスリンさんは畳みかける。


「し、しかしですよ。正しい逮捕状が出ていまして、まっとうな伝令が持って来たものですからねぇ。いくらジョスリン子爵のお申し出とあっても、これに逆らう訳には・・・」

 所長は広大なおでこから染み出る、大量の汗をハンカチーフで拭き取る。


「ならば、その逮捕状を拝見してもいいだろうか?ここ最近きな臭い話も多い。偽書である可能性も否定できんぞ。」


「ぎ、偽書ですか?それはまずい・・・おい!誰か行商人スカサハの逮捕状を持って来てくれ。」


 所長がジョスリン子爵の話を一切疑わないところが凄い。流石は元勇者パーティーをサポートした魔王討伐者の一人だけある。すぐさま、逮捕状が持ってこられた。確かに、王国の司法官の紋章が押印してある正式な書類のようだ。応接セットのテーブルの上に置かれたそれをジョスリン子爵も隈なく観察していたが、逮捕状の四辺を指で指し示し、最後に押印の部分に手を当てると、聞きなれないトーンの詠唱を始める。


 俺を含めた皆が、固唾をのんで見守る。


 10秒か20秒か。やがて、紋章が金色に輝くと、残り火が消え去るかのようにその姿を失い、代わりに血で書いたかのような緋色でおどろおどろしいデザインの、魔法陣のような紋章が同じ場所に現れた。


「うおっ!!」

 間近で見ていた所長は弾かれるように席から飛び上がり、中腰になった。


「どうじゃな?魔王軍で用いられる機密文書のタイプに似ておるが。」


「ど、ど、ど、どうしてこんなことが?」

 もはやハンカチーフでは拭き取れない汗が、所長のおでこからぽたぽたと滴る。


「それは今、我々も調べているところなんじゃが、お主らが一枚担がれたことは間違いないのう。」


 所長はしばらく呆然としていたが、正気を取り戻すと席に座り直した。


「ふうっ。でも、ありがとうございました。今すぐ釈放すれば、それで問題ないわけですかね?」


「あぁもちろんじゃ。事後のこともワシが協力するでな。すぐに手配してやってくれ。」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 30分後


 釈放されたスカサハと一緒に荷馬車の中にいる。こんな事件があっては、また戦略会議だ。一旦エレクツィオンに戻ることになった。巨大豚のスカサハはその口に「ゴーダにしかかけられない電話」を咥えたまま爆睡している。さすがに留置所では眠れずにいただろう。大健闘のコーデリア、ノルン両名も倒れ込むようにして眠りについている。俺も寝よっと。日がどんどん高くなってきたが、それと逆行するように皆は眠りの海へと沈んでゆく。


 ぐーぐーぐー


 ぐーぐーぐー


 ぐーぐーぐー


 ちゅぱっ。ぱくっ。じゅるじゅるじゅるっ。


 ふごっ「へあっ」


 いつの間にか、寝ている俺のお元気くんを咥えている輩がいる。お天道様がちょうど頂点に達し、お元気くんの起立状態も頂点に達した。もうすぐエレクツィオンについてしまう。とりあえずのお楽しみは1回きりだ。


 俺は彼女を抱き寄せる。その相手が誰かは、皆さんの想像にお任せするのである!候補者は言うまでもなく、コーデリア、ノルンそして巨大豚のままのスカサハだ。


 以上、次話へ

魔法アイテム紹介 その1


スフィア


記憶媒体としても、通信道具などとしても使用することが可能な魔法の水晶玉。色は紫色が最も容量が大きく、高価であるそうな。

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