第20話 覗き見る者
~覗き見る者~
その晩はサミュエル君・・・じゃなかった、サマンサと大事な時間を存分に過ごせた。頭の片隅にある男体化のゲテモノは目の前の素敵な彼女の姿で洗い流してしまおう。ヴァレリアといいサマンサといい、何て最高で最高過ぎる伴侶を与えられているのだろうか、スクードとバーンに頭が上がらない。
遠ざかったスカサハが見えなくなってから、こちらから練習がてらにスカサハに電話してみた。「えへ、えへ。旦那様からのお電話だ~」スカサハは気持ち悪い喜び方をしていたが、ほぼスルーして、伝えたいことを伝えた。つまりだ、午後8時から午前4時までのゴールデン・ベッドタイムには、緊急時以外には電話をかけて来るんじゃないぞ、と釘を刺したのだ。「ちぇっ。つまんないの。」スカサハは拗ねて見せたが、単なるポーズだろう。理解はしてくれていると思う。でないとこちらは普通の生活もできないしな。かつてドラマとかを見ていて思った事なんだけど、ナースセンターからお医者さんに四六時中かかってくる携帯って本当に大変だよなって。そりゃ、苛ついた腹いせに一番かわいい看護師さんを犯したくもなるよな!
※門外漢の偏見・妄想です。
幸せそうに白いシーツの上を泳いだサマンサは今は夢現だ。ここ最近の修練で更にいかつさを増している上腕で、彼女を腕枕している。実に満足な日々だが、この世界の展開はとにかく速くて、色んな事が立て続けに起こっている。のんびりする暇なんてあるのかしら。
時刻は午前1時半ぐらいかな?明日は魔法使いミリアルドが冒険者を編成して襲撃すると前情報が入っている(もちろんご本人からね)。連れて来られた女性冒険者は八百長の蚊帳の外だ。当然本気で襲ってくる。油断すると死にかねない。そろそろ寝て明日に備えるとしよう。
目を瞑った途端
ちゃちゃちゃん♪ちゃちゃちゃん♪ちゃちゃ
ブッ
「なんだよ。この時間にはかけて来るなって言ったじゃないか。」
3コール目を待たずに通話ボタン・・・らしき紋様をタップして応答する。とてつもなく不機嫌な声で。
「そんなこと言わないで。私、投獄されちゃった。」
聞きなれない、彼女のトーンを落とした声。
「ええええ?」
俺の声でサマンサも飛び起きた。
「ゴーダ様?!」
俺は手で制して、通話に集中する。
「ちょっとぉ。声が大きいわよ。」
電話の向こうでスカサハが苦情を申し立てる。
「悪い、悪い。眠りかけていたところで、あまりにも驚いたから。で、今どこに?」
俺もトーンを落として話しかける。
「グレーフェンの街の留置所にいるのよ。夜中に街の近郊を移動していたから、危険人物扱いされたみたい。」
「そういう事ってよくあるの?」
「ないわね。というか、街道ではなくて、森を抜ける道を通ったはずなんだけど、何故か騎士団が待ち構えていて。」
タレコミがあったのだろうか?でも誰が一体、何の目的で?
「よく電話で連絡して来れたね。身ぐるみはがされるでしょう?普通。」
「他のものは全部取られたけど、これだけは何とか。『体の中』に入れていたから。」
あ・・・
スマホは直径7~8㎝ぐらいの丸い水晶玉みたいなものだ。
ちょっと痛かったかも知れないが、頑張れば
頑張ったんだね
・・・
横にいて話を聞いているサマンサは赤い顔をして俯いている。
「お疲れ様でした。。。」
俺も、極めて複雑な気持ちで目線を落とした。
「なっ、なんで敬語?!」
怪訝そうな声をスカサハが発する。
「と、とにかく、これは緊急事態だ。すぐさま相談するよ!待ってな!」
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真夜中の執務室に主だった面々が揃った。もはや言うまでもなく、転生者系のゴブリンたち全員とコーデリア、俺といっしょにサマンサもついて来た。ルフトの横には久しぶりのノルンもいる。
「こんにちわ~お久しぶりです~。」
おう。お久しぶりです。だが、「こんにちわ」って時間ではないぞ。今宵のレーヴァテイン・・・的な時間だぞ。そういえば守備隊長割引を使ってのマッサージ、あれから行けていないな。どのみち休みの日でもないと無理だから、覗きに行くとしても最短で明後日だな。
「皆集まったか。本当に次から次に退屈しない人生だな。」
とバーンは余裕をかます。
「まるでアドベンチャーゲームか何かのようですな。」
ルフトもおどけて言うと、眠さもあってか、一同一人残らず大爆笑した。
「さて、ゴーダ、どういう状況か教えてくれるかな?」
笑いを抑えて、真面目な顔に戻ったバーンが言う。
俺は皆にスカサハとの通話状況など諸々を説明した。
「まぁ、罪が晴れてすぐに釈放されるとも思うがな。」
とバーン。
「ですが、バルトリン王家が司法官を送ってくるとすれば、首都からですから、少なくとも数日はかかりますね。」
ノルンが指摘する。
「ということは、その間は彼女、魔王領に進めないってことになるわね。」
コーデリアが懸念を示す。
「あまり時間を浪費していたくはないところで、嫌な話だ。」
バーンも唸る。
「ところでスカサハってオークですから、夜の間はいいですが、朝になったら、巨大豚になって牢屋からはみ出てしまうんじゃないですか?」
サトゥーが変な心配をする。
「あー。というか、オークもバルトリン王国では敵性部族の扱いだったな・・・これは迂闊でした、陛下。司法官が来てからの方が、ややこしいことになりそうですね。」
ルフトは途中からバーンに目線を移して忘れかけていた情報を持ち出した。
こんな風に普段忘れかけているような情報が急に必要とされることがあるが、こういう時って本当にパニクって、変な汗が出そうだよな。それにしても敵性部族・・・。大変だなオークたちも。当然我らゴブリンもバルトリン王国にとっての敵性部族なのだろうけど。
「上手く釈放に繋げるような、いい伝手でもないかな?」
とバーン。
「師匠にお願いしてみましょうか?」
コーデリアが提案する。
「それだ。寧ろそれしかないだろう。猶予はない。コーデリアとゴーダはすぐさまグレーフェンに向かってくれないか?今出れば、ちょうど朝の開門の時間だ。それで、早急にジョスリン氏を頼るのだ。」
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街へ向かう街道を急いでいる。馬2頭に人間3人。俺は馬に乗れないので、騎手としてノルンが馬を走らせて、俺を後ろに乗せてくれている。コーデリアの乗るシンボルルドルフ号に、ノルンと俺の二人を乗せたフグリキャップ号がひーひーついてくる。それでも『最強のスタミナ馬だから大丈夫』なんだそうだ。元女冒険者たち、乗馬も出来て逞しい。
「最近来てくれないじゃない?」
マッサージ屋の店主が言う。
「と言ったって、まだ休暇が回ってこないからねぇ。」
後ろに密着して座っていると、ムラムラしてお元気くんがヤバい。
「そろそろ休みでしょ?あれからもう4日よ。」
淫紋が楽しみで仕方ないのでしょうか?
「いやいや、最短で明後日だよ。事態が落ち着いていたら、行けるとは思うけど。」
「落ち着いていたら・・・ねぇ。なんだか今回のは特に大変そうだものね。」
独り言のようにノルンが言うのと同時に、コーデリアが馬を止める。驚いたノルンも急停止した。
「どうしたんですか?王妃。」
理由が分からず、ノルンが問う。
「変ね。夜だっていうのにあの烏ずっと飛んでいるわね。しかも私たちを追うように。」
右後ろの高い木の梢に一匹の烏が降り立った。まるでこちらを観察するかのように、赤い目を光らせている。夜目も効かない烏は本来日中に活動する。夜活動している不気味な烏なんて、まさしくファンタジーだ。
「使い魔?」
俺の口から零れ出た仮定。
「間違いなくそれね。」
コーデリアが正解と認定した。
すぐさま、コーデリアは魔導書を手に取ると、詠唱する。彼女の掌から10㎝程離れた空間に魔法陣のような円形の光の輪が生じる。そこから、火の輪をくぐるサーカスの動物のように、羽を持った生物が飛び出て、バサバサと羽ばたくと、上空に舞った。そこまでずっと閉じていた目をカッと見開いたとき、蛍光緑色の目のフクロウが、そこにしっかりと具現化された。驚いた烏は一目散に東側の森へと逃亡を始める。
中空から落下する速度を勢いに乗せ、フクロウはそのまま烏を追ってゆく。
「ちっ、逃がすか!」
勇ましいコーデリア。
「私も一枚噛ませてください。『福音の加護にて、大いなるその視座を我に与えよ!』」
ノルンが祈ると、手に持つ手鏡が光り、その鏡に上空から見下ろした夜の森が映り込む。しかも、なんだか暗視スコープで見ているかのように、暗いなかでも良く見える。おおお。これはフクロウの視点なんだ。俺はノルンの腰にしがみつきながら、手鏡を覗き込んだ。
フクロウは前方に視点を移す。
少しずつ、黒い烏の後ろ姿が近づいてくる。
だが急に烏は降下すると、距離を突き放す。
ちっ。舌打ちをするノルン。こちらも勇ましい。気付くと、コーデリアも馬を寄せて一緒に鏡を覗き込んでいる。
「いけーっ、タケルっち。とっ捕まえろ!」
勝手に人の名前を付けないで欲しい。
烏とフクロウの追尾劇は、いつの間にか森の中の低空飛行に変わりつつある。木立の中を左右に軌道を変えながら烏がすり抜けてゆく。それを追い続けるフクロウ。目の回るような空中戦。本当に目が回って来て、見ているこちらが吐き気を抑えるのが大変だ。気持ち悪いいい。
だがやがて、烏はついに黒いローブの人間の肩に飛び乗って留まる。なんでこんな真夜中の森に人間が立っている?それ自体が不気味だが、それ以上にその人間の正体が恐怖をこれ以上ないものにした。
3人の心臓が凍り付いた。
その人間、否、骸骨は見覚えのある奴だった。
リッチのモルガンだ。
暗い眼窩から覗く緑の光。暗闇の中、その下のむき出しになった歯列が一瞬笑ったように見えた。そして、奴は、周囲の空間を歪めたかと思うと、肩に乗せた烏と共に、悠々とその中に消えていった。
コーデリアの生み出したフクロウだけがぽつんと明け始める森の中に取り残された。
お馬さん紹介 その1
シンボルルドルフ号
高度な知性を持ついやらしい馬。能力はとても高いが、気位が高く、自分が認める人間以外は乗せない。態度もムラがあり、馬鹿にしている人間や嫌いな人間には唾や鼻水を平気で吹っ掛ける。




