第16話 どうする?バーン
~どうする?バーン~
リッチやら女神様やら、振れ幅の大きい訪問者が色々訪れたその翌日、執務室に俺はいた。執務室には俺を含めた幹部達が難しい顔をして集まっている。
「新・魔王と言ってましたよね。あのモルガンとかいうリッチは?」
ゴブリン・シャーマンの一人、ゴリさんが言う。昨日は謁見の間に色んな人がいたので覚えていなかったが、幹部の一人の彼も居たらしい。一昨日俺がシャーマン部にカレンダーを取りに行ったら、渡してくれたのもこのゴリさんだった。
そう、世の中、新・エ□ンゲリオンだの、新・ネトラレマンだの、新~が流行るらしい。
「うむ、新魔王カサンドラだ。当然ながら初耳だ。」
王様バーンも腕を組んで机の上に目を落とす。
「魔王を騙って上納金をせしめる、詐欺とかじゃないですよね?」
前世で美人局に嵌められたモズは慎重だ。
「まさにその懸念が一番だ。我々の知る限りでは現魔王は魅惑の君ディルムッド、のはずだ。」
そう横から大臣ルフトが口を挟んだ。
「はずっってことは、そのディルムッドにも会ったことがないんですか?」
俺はツッコミ半分に聞いてみる。
「あぁ、上納金の請求書に名前が記載されているから知っているだけだ。」
とルフト。
「文書のみのやり取りってことですか?」
「基本的にはな。なんせ、魔王は代替わりが速い。勇者にすぐ倒されるらしいからな。」
「それで、倒されると新魔王が誕生するわけですか。」
「そんな感じなのだが、まだディルムッドが討伐されたという情報がここまで伝わってきていない。」
ルフトは顎をしゃくる。
「以前一度、(詐欺に)やられているしな~。」
バーンもぼそっと言った。
やっぱり詐欺られていた!
「情報屋に聞いて、確認してみましょう。」
ルフトはそう提案すると、懐から丸い水晶玉のような物を取り出す。水晶の球体の表面を指でスクロールしたり、タップしたりして何かを探していたが、そのうち手を離すと、メロディーが流れ始める。
ちゃちゃちゃん♪ちゃちゃちゃん♪ちゃちゃちゃんちゃん♪
ちゃちゃちゃん♪ちゃちゃちゃんちゃん♪ちゃちゃちゃちゃちゃん♪
お風呂が沸きました~
みたいなメロディが流れる。あれだ、「人形の夢と目覚め」って曲だ。3~4ループぐらいは鳴り続けていたが、やがてカシャッという音と共に曲が止まると、若い女性の通話音が聞こえてきた。スピーカーモードにでもなっているようだ。
「お待たせしました~。お久しぶりですねルフト卿。今日はどんな御用ですかぁ?」
「おお、スカサハ。今会議中でな。新魔王のことを聞きたいのだが。」
「カサンドラ様の事ですね。今魔王領ラヴドールは大変な騒ぎですよ。」
「ほう、一体何があったのだ?」
「とにかく凄いんですよ。彼女は降臨してまもなく、先代の魔王ディルムッドを討伐した勇者パーティーを追撃したんですよ。そして見事、報復とばかりに彼らを皆殺しに。最強の魔王の降臨に、魔王領はもう大盛り上がりですよ。真の赤き禍カサンドラ。くー。痺れますねぇ。」
電話の主はなかなかの魔王推しのようだ。ところで、電話の主は「彼女」と言った。ということは新魔王は女性なのだろう。ぼーっと俺は会話を聞いていた。
「かなり熱心な魔王のようだな。我々も昨日使者が訪れて、近々起こるだろう侵攻に参加するよう求められた。」
「そうですか。彼女の実力ならば、聖魔大戦の再来もあり得ますね。私、近くに来ておりますので、夕刻にでもお伺いして宜しいでしょうか?」
「あぁ、望んでもないことだな。待っておるぞ。」
そう言うと、ルフトは通話を切った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
会議はルフトの電話のあと、すぐに解散となった。その情報屋(行商人らしいけど)スカサハからできる限りの情報を収集して、戦略を立てる必要がある。そう、バーンは言う。確かに今あーだ、こーだ、ゴーダ(?)言っていても始まらない。皆、それぞれの持ち場に戻っていった。
今日は約束のミリアルド釈放の日でもある。いつもの職場、前庭で彼の見送りをしている。
「ゴーダさん、短い間でしたが、お世話になりました。」
「ああ。まぁ、またすぐに対面することになるだろう。その時は宜しくな。」
「はい。約束を果たさないと、本当に呪い殺されるみたいで、とほほ。」
彼は左手の甲をこちらに見せた。そこには魔法陣のような薄紫色の刻印が刻まれている。俺の作り出す淫紋にもどこかしら似ている。
「これは?」
「契約の印、らしいです。約束を破ると呪いが発動するので、絶対に約束を破れない仕組みなんです。あのゴブリン・シャーマンの大臣にやられました。」
あぁ、ルフトがやったのか。ルフト、やはり恐るべしである。
「まぁ、しっかり御奉公することだな。そうすれば今度こそ本当に自由だ。」
「ありがとうございました。」
元囚人は旅立って(?)いった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
冒険者の襲撃がない。何もないことはいいことだ。それでも日が傾いた前庭で色んなゴブリンが修練していたり、魔法を練習したりしている。そのなかで、人間の女性の魔法使いが、魔法を練習している。サマンサだ。作ってやったガラクタの人形相手に電撃魔法を飛ばしてゆく。もはや一人前の魔法使いに成長した、と言ってもいいだろう。
「ライトニング!」
ズバン!!
人形が兜のように被っている古い鍋を雷が激しく直撃して、目もくらむような閃光が走る。
「ライトニング!」「ライトニング!」
ズバン!!ズバン!!
二連撃だ。
おおお、ぱちぱちぱち!
「奥様、ナイスです!」
周りの一兵卒たちが守備隊長の奥方をヨイショする。
「気持ちいい。超、気持ちいい!」
脳内から快楽物質が分泌されているであろう発言をサマンサがしている。
俺も素振りの手を止めて、彼女に歩み寄った。彼女が振り向く。
「ゴーダ様、見ていただけましたか?」
「二連撃、すごいじゃないか。魔王討伐隊にも加われそうじゃないか?」
ん?魔王討伐?俺自身もその時何故そんな言い間違いのようなことを言ったのかは分からなかった。
彼女も首をかしげる。
「・・・じゃなくて、皆の役に十分立てそうだよ。もちろん、最前線は俺たちが守るがな。」
俺の言葉に周囲のゴブリンたちも誇らしげに胸を張る。いいねぇ。男の虚勢だ。
「はい。」彼女もキラキラした目をした。
「ちょっと、頼みたいことがあるんだ。」
「?」
「俺に向けてその『ライトニング!』を放ってくれないか?」
「えええ。危ないですよ。それに万が一大けがでもしたら、今晩が・・・。明日にしませんか?」
彼女は今、俺の心配と、夜の生活の心配を同時にしたようだ。今晩はサマンサの番だ。明日の晩はヴァレリアの番。うーん。策士だ。でも大丈夫な気がするから説得だ。
「直感だが、まぁ、大丈夫な気がする。まずは単撃からで。」
「知りませんよ。」
彼女は少し泣きべそをかきながら、詠唱を始める。
大丈夫だ。
元の頭脳も十分にあり、連日連夜、高難度な魅了の魔法を発動している俺の経験値ならば。
「ライトニング!」
ズバン!!
シュワッ
きらきらきらきら・・・
・・・
強烈な雷の矢が俺を射抜くかのように落ちたが、その先で細かい電撃の欠片に砕け散ると、体の表面を流れて地面に消えていった。そうだ。連日連夜、高難度の魔法を発動している俺の体は、魔法耐性が半端ないのである。
「うそ?!」
彼女も信じがたい表情だ。
「ライトニング!」「ライトニング!」「ライトニング!」
っておい、おい。三連撃。
ズバ、ズバ、ズバン!!
シュワ、シュワ、シュワッ!!
サマンサ、君って少しサイコパス?ゲーム感覚が入ってきていないか?彼女の三連撃にも驚いたが、それ以上に、彼女も、周囲のゴブリンたちも含めて驚天動地の驚きようだった。強烈な一流マジシャンの連撃が、一切無効だった。
「うおぉぉぉぉ~!!」「すっげ~~~!!」」「鉄壁だ!」「爆守備だ!!」「魔法防御20でカンスト!!」
一面にガッツポーズした野郎どもがいる。興奮はなかなか冷めやらず、皆が口々に言いたいことを言って騒いでいる。もはや守備の仕事そっちのけである。門の外から覗いている者がおり、その者がこちらに声を掛けてくる。
「何何何?何の騒ぎなの?」
「あ~。まぁ、軽い魔法実験と言いますか、魔法耐性を確認したんですね。大成功です!」
気分も良かった俺はその者に気前よく答えた。
「魔法耐性、ふうん。」
あれ?どこかで聞いたような声だな。と記憶を辿る。あ!さっきのルフトの電話!
「スカサハさんですか?」
「そぉよ~。はじめまして。」
目の前には丸々したピンク色の豚がいる。体高1m以上、推定体重は500㎏の巨体で、正直威圧感が半端ない。戦士の勘で、こいつは見た目だけの問題じゃなく、やはり相当に強そうだと感じた。
「少々お待ちください。王と大臣に取り次ぎますので。」
「ありがとう。でもちょっと待って。ちょうど日の入りだから。」
日の入り??
西の山並みに陽が落ちて、空が茜色と紺色の二色に染め上げられる。夜の帳がこの前庭をも包み込む。すると、目の前の豚の体が光り始め、桃色の光の塊に変化しながら、その塊が形を変えてゆく。四足歩行の豚が後ろ足を支えにして立ち上がり、その体が絞り込まれるように、人間の女性のシルエットへと変化してゆく。
俺は呆然とその光景を見ていた。俺だけでなく、周囲のゴブリンやサマンサも口を開けてぼーっとしている。
やがて女性のシルエットは光を失い、そこに眼鏡をかけた美女が現れた。栗色のサラサラとしたボブカット。青みがかったグレーの瞳。夏場だというのにセーターを着ている。肩や腰回りの一部が露出した薄手のセーターは爆乳彼女のボディラインを強調していてとてもエロい。あれだ、童貞を殺すとかなんとかいうセーターか?
「改めまして。行商人、オークのスカサハと申します。バーン王とルフト卿にお取次ぎ願います。」
人物紹介 その13
ゴリ/蒲郡聡
シャーマン部の部長。元配管工で、エレクツィオンの水道設備にも関わっている。ルフト同様に魔術や技術にもたけており、「主産業」にも深く関わっている。




