↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/35

第12話 やっちまったなぁ

~やっちまったなぁ~

 

 瀟洒な応接室で来賓のもてなしを受けている。紅茶に入れたリンゴンベリーのジャムの香りが広がる。その香りを堪能する。目の前のメイド服の女性も同じ動作をして、立ち昇る湯気に少しだけ目を細めた。


「で、また捕まったんですか?」


 彼女、リリアの中では1回目の襲撃失敗も「捕まった」ことになっているらしい。まぁ、身ぐるみ剥がされて追い返されたのだから、ほとんど同じことだろう。というか、あまり主人を堅苦しく敬っていない感じがする。


「リリアさんと彼はどういう関係になるんですか?実は許嫁だったりとか?」


 自分がそういう設定の相手がいたから、つい当て嵌めてしまった。


「ち、ち、違いますっ。私は彼の親戚でもあるんです。3つ歳上だから、子供の頃に本家の彼の家に行って家庭教師のようなこともしていました。だからですかね、主人と執事というよりも、親戚の叔母みたいな感覚なんですよ。」


 早口で慌てふためきを隠そうとしている辺り、どうにも怪しいが、かわいいものだ。


「そのかわいい甥っ子さんが、我々の砦に囚われている状況は分かって貰えたかと思います。」

今度は貫禄あるコーデリアが口を開いた。


「ええ。それで、身代金の要求をなさりにきたと。」

さすがに頭の回転は速いようだ。


「本来はそのつもりでしたが、要求の内容が少し変わっておりまして。」


コーデリアは我々首脳陣(?)が纏めた要求をリリアに説明した。


「変わっているわね。まぁ、自分の尻は自分で拭いた方がいいでしょうから、彼が頑張るべきですね。」

執事はもはやご主人様のことを『彼』呼ばわりである。何にせよ契約に関しての賛同も問題なく得られたようだ。こんなにすんなりと行くとは正直驚きだった。こうなると長居は無用である。


「王妃様、私は馬屋に行って、馬を引き取ってきます。」

自分は帰宅の準備にとりかかった。


「あら、気が利くわね。これ、引き換えの札だから。」


コーデリアから預かり番号の刻まれた札を持って、急ぎ馬屋に向かった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 馬屋は馬の販売やレンタルもしているが、乗り連れてきた馬を一時的に預かってくれるサービスも行っている。現代社会で言えば、タイムパーキングである。俺は『69』と番号の刻まれた札をもって、預けているコーデリアのお気に入り、シンボルルドルフ号を引き取りに行った。


 あいつ、賢くて、ちゃんという事も聞くんだが、雑草アレルギーなんだよね。『あれ』をやられると堪ったもんじゃない。普通の馬を恐れる状況とは違うが、とてつもなく戦々恐々とシンボル~ちゃんを確認しにいく。ええと、シックス・ナイナイ番っと。あった。


 エックシュン!!


 豪快なおっさんのくしゃみのような爆音が聞こえてくる。ひいっ。


 69番に辿り着くと、片鼻からぷらーんと鼻水を垂らしたシンボル~ちゃんがいる。いやだなぁ。これ以上悪化しないでくれよ。早くお家へ帰ろう。手綱をとって厩舎から出て行く。よしよし、いい子だ。さっきの一発ですっきりしたんだろう。すっきりしたんだよね?そうに違いない。もうくしゃみしなくても大丈夫だよね?大丈夫~。大丈夫ぅ~。


 人間の苦笑いのような変な歪んだ顔をシンボル~ちゃんがしている。歪んだ顔がムズムズしている。


 あ、これはあかん。あかん奴や。


 グッ


 グッ


 グエックショ~~~ン!!!


 台風の暴風みたいな、唾の水しぶきを含んだ暴力的な横風が、俺の頬を叩いた。嫌々乗せていたカツラが、その勢いで吹っ飛んだ。あまりの気持ち悪さに目もほとんど開けられない。臭い。臭いよ~。べとべとするよ~。


「あれま。」

近くで他の馬の洗浄作業をしていた馬屋のおばちゃんが振り向いた。ぶっとい体、ぶっとい腕だったが、肉体労働で鍛えられているせいか、俊敏だった。


「派手にやられたわね~。馬用のシャンプーだから、人間も大丈夫でしょ!」

 そう言って、バケツに入っていた、いい匂いのするシャンプーを俺の頭からぶっかけてくれた。気持ちいい。臭いの飛んでいく。べとべと、流れていく。ありがとう、おばちゃん。俺はシャンプーで顔や頭をゴシゴシして、水で洗い流した。


 ぴかりん!


 男前のゴブリン復活!


 おばちゃんも、自分がいいことをした、という自己満足を含めて、とてもいい顔でこちらを見た。


「水も滴るイイ男だね。本当にあんたイイ男だね。緑色の肌のゴブリンとは思えない。え?ゴブリン??」


 おばちゃんは固まった。なんと、ゴシゴシしたことで、俺の顔や首のドウランが全て流れ落ちてしまったのだ。


「あんたさぁ、ゴブリンだよね?」


「まぁ、あまり好ましくはないけれどもね。」


 ジリジリ・・・俺は少しずつおばちゃんと距離を取り始めた。


三歩下がって、ダ~ッシュ!!


もはやシンボル~ちゃんもその場においたままで、札は手放さず、体一つで一目散に逃げる。


「きゃああ。ゴブリンよ~!ゴブリンの馬泥棒よ~!」


おばちゃんの叫び声を背中で聞きながら、俺は一人逃走中の身となった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 その後、裏路地を走って、この住宅街に至った。住宅街は人の出歩く数が極端に少ないので、幸いそのわずかな人間を避けて、なんとかミリアルドの住まいに戻ってきた。ドアは開いていた。我々の出立を見通して、リリアがドアも鍵をかけていなかったのだ。それで助かった。


 応接室に転がり込むと、当然ながら二人ともびっくりした。


「あんた、どうしたのよ?」

コーデリアは席を立つと、床に膝立ちしている俺に近づいた。


俺はシンボル~ちゃんのくしゃみから始まった事の流れを説明した。


「そうなの。それは、誰を責めても仕方のない話よね。」

コーデリアは頭痛を軽減するかのようにこめかみを抑えた。


「こうなったからには、どうやって切り抜けるか、ですわね。」

もはや秘密の共有者になってしまったリリアも応じる。


どんどんどん!


例の百合の花柄のついたドアノックがかなり無遠慮に叩きつけられている。


「ベルグストロンさ~ん。ちょっと宜しいですかぁ?」

警官らしき男の声がする。室内に張り詰める緊張の空気。それでも仕方ない。


「は~い。今お伺いします。」


リリアは部屋を出て行った。


俺とコーデリアは応接室のドアに耳を押し付けて外の会話を盗み聞ぎする。


「こちらに怪しいゴブリンが入り込んだという、近隣住民の情報を得ています。中を見て宜しいですか?」

「え、それは困ります。今大事な商談で来客中なものですから。」

「中にいる人物の確認をさせていただければ我々はすぐに帰ります。どうぞご協力を。」

「え、あ、ちょっ・・・」


強引に向かってくる複数の足音がする。その足音を追って、リリアの足音がついてくる。絶体絶命、隠れるしかないか?しかし隠れるような場所など存在しない。


俺は、俺は・・・


ガチャ


応接室のドアノブが回り、応接室が開けられる。


中にはコーデリアと俺がいる。


「どうも失礼します。ゴブリン騒ぎで大変なものですから。」

先頭の警官(中世騎士スタイル)は断りを入れつつ、不躾な視線をこちらに送ってくる。警官(騎士)たちについてきたリリアはその後ろでとても驚いていたが、余計なことを言わないよう、言葉は発しなかった。


「行商人のコーデリア・サンガーと申します。」

「雇人で会計士のチャン・ウェンヤンと申します。」


「ほう、会計士さんは東方の方ですか?」


「はい。チン帝国より主上に従って参りました。」


「ん?それはかなり古い呼び名ですな。今はゾング帝国では?」


「騎士殿は大層博識でいらっしゃるが、多くの人には今の名称が通じませぬ故。」


「いやいや、それほどでも。仕事柄様々な地域の人間を相手にしますので。ついつい余計なことをお聞きした。」


先頭の警官は喋り終わると、他の警官たちに建物内のあらゆる部屋を捜索するように指示した。その間、俺たちはそのまま応接室に監禁状態となった。他の警官たちは、その他の部屋も隈なく捜索していたが、やがて引き上げてきた。それを確認した先頭の警官は「では失礼いたします。」とだけ言うと、足早に去って行った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


彼らを玄関まで送り出して、今度はカギをしっかり閉めると、リリアは緊張感の残る足でふらふら戻ってきた。


「は~。心臓麻痺で死ぬかと思った。」


と、ぐったりしたリリアは言った。いったいどこのデ〇ノートに名前を書かれたんだ?しかしまぁ、同じように俺、こと人間の姿になっている合田猛(ごうだ・たける)も溜息をついてソファーにぐったりもたれかかっている。それを見て、


「あなた、本当は人間だったんですか?」と聞いてきた。


「え、いや、まぁ、魂の核が・・というか、説明しづらいんだけれども。」

転生の事は、面倒だからぼかす。


「最初から変身してしまえば良かったじゃない。」

コーデリアがさらっと言いつつ、話の流れを変えた。


「まぁ、そうも簡単にいかないんです。持続時間とかもありますので。もう少し捜索が長引いたらやばかった。」


そうなのだ、最後のグッド・ルッキン!発動、すなわち奇跡のチャージは昨晩のサマンサとの最後の1発だった。あくまで念のためのチャージであり、こんなことを想定していなかったので、ほぼ自然に楽しんだ。持続時間のことなど考えていない。


紅茶を口に運んで、一息ついていると、手が緑色に戻ってきた。


「あ、戻った。」と何故か若干残念そうなコーデリア。


「というわけですよ。」


「次に変身するにはどうしたらいいわけ?」


俺は自分のスキルのことを説明した。コーデリアはある程度知っているらしく楽しそうにふんふん聞いていたが、対して純情なリリアの方は四苦八苦、聞いた話を咀嚼できていない様子だった。そりゃ、エロいよね。冷静に考えたら、ドン引きだ。


「それでリリアさん。今度こそ、この街からしっかり逃げるために、再準備がしたいんです。」


「え?」


「客室を王妃様と私の二人に使わせてほしいんです!」


「えええ?」


窓ガラスがビリビリするぐらいの音量でリリアは声を上げた。

人物紹介 その9


リリア


 ミリアルドの3歳年上のはとこ。ミリアルドの執事としてグレーフェンの街について来た。彼の元家庭教師でもあり、筆おろしの相手でもあるとかないとか・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。