プロローグ: 精霊界の対峙
そこは、物質の法則が意味をなさない、純粋な元素エネルギーがオーロラのように渦巻く世界——『精霊界』。
大地も空も無く、ただ無数の元素の波動が共鳴し合う、世界の根源とも言える次元。その中心には、高密度な中性子の集合体であり、強烈な放射性魔力を放つ白銀の星、カリホルニウム(Cf)の聖地が浮かんでいた。
メンデレ秀城は、その聖地の核たる元素核を目前にしていた。賢者の石の魔法陣を完成させるための、最後から二番目の鍵。
だが、その背後には、彼にとって最大の脅威が立っていた。 「やはり来たか、メンデレ・秀城」
アルケミス・ダーク。 しかし、その姿は、地下都市で対峙した時とはあまりにも異なっていた。彼の肉体は、半分が黒いプルトニウムの崩壊結晶に、もう半分が未知の超重元素によって侵食され、人としての輪郭を失いかけていた。その体からは、秀城の持つどの元素とも異なる、底知れない「崩壊」のオーラが溢れ出していた。
「アルケミス…!お前、その体は…!?」 秀城は、賢者の剣を構えながら、目の前の存在に戦慄した。彼は、秀城がワールド・ゲートを開いた瞬間に、その歪みを利用して精霊界に侵入していたのだ。
「フフフ…これも全て貴様のおかげだ」 アルケミスは、歪んだ声で笑った。「貴様がレムリアで賢者の石の魔法陣を解読した時、その情報は私にも流れ込んできた。私は、貴様がアクチノイド元素を地道に集めるよりも早く、『崩壊』の力を使って、ウランとプルトニウムを強制的に核融合させたのだ!」
アルケミスは、秀城が持つ虹色の賢者の剣を指差した。 「貴様の剣は『調和』の錬金術。私の体は『崩壊』の錬金術!私は、私自身の体を賢者の石の『器』とし、超重元素をその身に降ろした!私は、もはや人間ではない。元素の法則、そのものとなったのだ!」
アルケミスの体から、周期表の「外」にある、原子番号119以降の未知の元素の波動が、黒い稲妻となって迸った。
「お前がカリホルニウムを習得するのを待っていた。それを手に入れれば、私の『崩壊の賢者の石』は完成する。さあ、その元素を私に渡せ!」 アルケミスが、変貌した腕を秀城に伸ばした。
ガリオン・ハート号の船上では、アメリたちが、遠く離れた聖地で二つの強大な魔力が衝突するのを、息を詰めて見守っていた。 「メンデレ様…!始まりました…!」 アメリは、自身のプロトアクチニウムとアメリシウムの力が、秀城の魔力と共鳴し、精霊界全体が揺れているのを感じていた。
世界の運命を賭けた、『調和』と『崩壊』の、真の最終決戦が、今、始まろうとしていた。
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