港町アクアポートと海の元素使い
秀城たちは、情報を頼りに、港の西外れにある寂れた波止場へと向かった。そこには、他の船とは明らかに異なる、流線型で黒褐色の金属で覆われた奇妙な船が一隻、係留されていた。船の名は「ガリオン・ハート号」。
その船の甲板で、一人の男が、まるで液体金属のような奇妙な物質を、手の中でこねるようにして磨いていた。男は三十代半ば、日に焼け、潮風に晒されたタフな顔つき。海のように深い青色の瞳をしていた。彼が、ガリオ・マーレだった。
「魔の海域に行きたい、だと?」 ガリオは、秀城たちの要件を聞くと、手元の液体金属から目を離さずに言った。その液体金属は、彼の体温で溶けているかのように、手のひらの上で形を変え続けていた。
「無謀だ。あんたらがどんな魔法使いかは知らんが、あの海は自然そのものの怒りだ。レベルや魔法でどうにかなるもんじゃない」
「俺たちは、行かなければならない理由があるんです」 秀城は、ガリオが操る液体金属に目を留めた。「その手にあるものは…ガリウム(Ga)ですか?」
ガリオの手が、ピタリと止まった。彼は初めて秀城の顔を真っ直ぐに見据えた。 「…ほう。あんた、元素使いか。それも、ガリウムを知っているとはな」
「俺はメンデレ・秀城。全元素習得を目指す者です」
ガリオは、興味深そうに秀城を値踏みした。 「ガリウム。原子番号31。融点が低く、常温に近い温度で液体になる、風変わりな金属だ。俺の一族は、代々このガリウムの力を使い、海流の微細な圧力変化や、深海の水温変化を読み取って航海してきた」
ガリオは立ち上がり、秀城の目の前にガリウムの塊を差し出した。 「だが、この力は繊細だ。少しでも制御を誤れば、ただの溶けた金属に過ぎん。魔の海域の複雑な海流と時空の歪みを読むには、このガリウムの力を極限まで精密に操る必要がある」
「俺を、魔の海域に連れて行ってはくれませんか」秀城は真剣に頼んだ。
「連れて行ってもいい。だが、条件がある」 ガリオは、その青い瞳で秀城の覚悟を試すように言った。「俺の『試練』を受けてもらう。あんたが、魔の海域で生き残るに足る『精度』と『柔軟性』を持っているかどうか、このガリウムで試させてもらう」
「試練…望むところです」
「いいだろう。場所を変えるぞ」 ガリオは、ガリオン・ハート号の船内に秀城たちを招き入れた。船の内部は、彼のガリウムの力で改造された、まるで精密機械のような空間になっていた。
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