第1章: 究極の精度、イッテルビウムの証明
会議室では、アルゴン、そしてセレンが秀城たちの帰還を待っていた。二人の視線は真剣そのものだった。
「ようこそ、メンデレ君。そして、ジンク、オクシア」
アルゴンは深く頷いた。
「君たちの修行の成果を聞かせてもらおう。アルケミスの空間転移と元素崩壊、その二つの脅威に対抗できる手段を、君は得たのか?」
秀城は席に着かず、力強く答えた。
「はい、アルゴンさん。元素崩壊については、俺の元素崩壊無効スキルがある。問題は、空間転移と、それを扱うアルケミスの圧倒的なレベル差でした。しかし、イッテルビウムの修行で、空間転移に対抗する術を見つけました」
秀城は、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウムの三つの元素の特性と、新たな融合魔法について詳細に説明した。特に、イッテルビウムによる超光速発動に焦点を当てた。
「イッテルビウムの力は、魔法の発動時間と精度を極限まで高めます。アルケミスの空間転移は、発動にわずかな魔力の揺らぎを伴うはずです。その揺らぎをイッテルビウムで捉え、その揺らぎが収束する一瞬よりも早く、俺の魔法を命中させることができれば、彼の転移を阻止するか、あるいは転移後の隙を突くことが可能になります」
セレンがテーブルに手を置き、乗り出した。
「理屈は分かる。しかし、空間転移は、この世界の元素使いが到達しうる究極の魔法の一つだ。そのわずかな揺らぎを視認し、反応する。それは、レベル20を超えた達人でも至難の業だ。本当に可能なのか?」
「言葉だけでは信用できないでしょう」
秀城は、会議室の中央に一歩踏み出した。彼の瞳には、師であるイッテルの教えで得た、揺るぎない確信が宿っていた。
「プラチナさん、よろしければ、俺のこの超光速発動の精度を試していただきたい。あなたに、俺の融合魔法を避けることができないと証明してみせます」
プラチナは、少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべた。
「面白い。貴金属族を極めた私に、貴方が仕掛けるのね。いいでしょう。ただし、私は一切手加減しない。私のプラチナの防御魔法は、この都市で最強よ」
会議室は、急遽、二人の決闘の場となった。ジンクとオクシアは壁際で息を呑んで見守る。アルゴンとセレンは、その展開を静かに見つめていた。
「では、行きます」
秀城は剣を構え、魔力を集中させた。彼の周りに、ホルミウムの強磁性と、ツリウムの光の粒子が目に見えない形で収束していく。
「超光速発動!」
秀城がスキル名を叫んだ次の瞬間、何かが起こった。
プラチナは、秀城が魔法を構築しているのを見た。融合魔法「原子崩壊レーザー」の強烈な魔力だ。彼女は即座に、自身の周囲に白金の薄いシールドを多重に展開した。一瞬にして七枚の白金シールドが構築される。
しかし、そのシールドが完全に構築される前、プラチナがシールドの展開を確認する一瞬のラグの間に、秀城のレーザーは既に放たれていた。
光の奔流と表現するにはあまりにも速すぎる、時間の概念を無視したような極小の光線が、七枚目のシールドが展開を終えるコンマ数秒前に、その隙間を貫通し、プラチナの頬を掠めた。
「ッ!」
プラチナは、シールドの影に隠れていたにもかかわらず、熱と魔力の衝撃を感じ、思わず後ずさった。彼女の頬には、レーザーの熱で焦げたような微細な傷跡が残っていた。
会議室は静まり返った。アルゴンとセレンは、目を見開いて立ち上がっていた。
「どう…どういうことだ?」
ジンクが言葉を失った。
「プラチナ様のプラチナ・シールドを、展開完了前に…」
オクシアも驚愕の表情を隠せない。
プラチナは、ゆっくりと頬に触れた。熱はすぐに引いたが、彼女の顔には、今まで見たことのない戸惑いと、興奮が混ざった表情があった。
「…参りました、メンデレ」
プラチナはシールドを解除した。
「私のプラチナ・シールドは、世界最速で展開される防御魔法の一つよ。それを、私が発動を確認する前に貫通した…これは、ただの速度ではないわ。これは、時間を操る領域の力よ」
秀城は、深く息を吐いた。
「ホルミウムで威力を収束し、イッテルビウムで発動時間を極限まで圧縮しました。アルケミスが空間転移で時間を稼ぐのなら、俺は魔法の発動を時間よりも早く行います。これで、アルケミスの空間転移後の硬直時間を狙い撃ちできるはずです」
アルゴンは、秀城をしばらく見つめた後、深く頷いた。
「見事だ、メンデレ秀城。君は、この一ヶ月で、レベル以上の、戦術の決定打を得た。この力があれば、アルケミスの空間転移も、もはや絶対ではない」
こうして、秀城の新しい力が守護者たちに認められ、地下都市はアルケミスとの決戦に向けて、最終的な準備に入った。
感想等お待ちしています。




