プロローグ: 地下都市の緊張と帰還
磁鉄山脈での修行を終えた秀城、ジンク、オクシアの三人は、急ぎ地下都市への帰路についていた。修行によって得た力は圧倒的だったが、アルケミスに追跡された経験から、彼らは一瞬たりとも気を抜くことができなかった。常に周囲の魔力反応に注意を払い、イッテルビウムの力で強化された秀城の感覚は、アルケミスの空間転移の微細な揺らぎを捉える準備をしていた。
三人が地下都市の秘密の裏口に辿り着いたのは、修行に出てから約一ヶ月後の、夜明け前のことだった。岩山の陰に隠された扉を開けると、待ち構えていたのは、プラチナとナトリの二人だった。
「メンデレ!」
ナトリは、秀城の姿を見るや否や、駆け寄って抱きついた。彼女の目には、安堵と涙が滲んでいた。
「もう、心配したんだから!アルケミスに追われたって聞いて、私とプラチナ様はずっと…!」
「ごめん、心配かけたね、ナトリ」
秀城は、優しく彼女の頭を撫でた。一ヶ月ぶりの再会だったが、ナトリの素直な温かさが、彼の心を癒やした。
プラチナは、一歩引いたところで優雅に立っていたが、その表情には緊張の色が濃く出ていた。
「無事で何よりです、メンデレ。そしてジンク、オクシア。あなたたちもよく任務を果たしてくれました」
プラチナは秀城をじっと見つめ、その瞳の奥に宿る力の変化を読み取ろうとした。
「あなたの魔力…以前とは比べ物にならないほど、鋭く、緻密になっているわね。やはり、希土類元素の主たちの指導は効果絶大だったようね」
「はい。ホルミウムで収束を、ツリウムで応用を、そしてイッテルビウムで精度を学びました。特に、アルケミスの空間転移に対抗する術を身につけることができました」
秀城は確かな口調で答えた。
彼らがアルゴンたちのいる会議室に向かう途中、都市の様子は以前と大きく変わっていた。地下都市全体に、厳戒態勢が敷かれているのが見て取れた。通路の要所要所には、最新の防御魔法陣が刻まれ、巡回する守護者たちの数も増えていた。彼らの顔には、以前の戦闘の経験からくる疲弊と、次の戦いへの強い警戒心が浮かんでいた。
「都市は、まだ警戒態勢を解いていないんですね」と秀城が尋ねた。
「ええ。アルケミスは一度失敗した獲物を簡単には諦めない。アルゴン様たちは、彼が必ず近いうちに戻ってくると予測し、この一ヶ月間、都市の防御力を限界まで高めていたわ」
とプラチナが説明した。
「そして、アルゴン様は、あなたたちを待っていた。あなたが、アルケミスに対抗できる唯一の希望だから」
この都市の全ての希望が、自分の肩にかかっている。秀城は改めてその重圧を感じながらも、修行で得た力を信じ、会議室の扉を開けた。




