第1章: 黒い太陽の直下へ
作戦は即座に開始された。残された時間は三日。ガリオン・ハート号を使い、空路で「氷結の荒野」へ向かうのが最速だった。地下都市の全戦力を結集し、秀城たちを黒い太陽の直下へ送り届けるための陽動部隊が編成された。セレンとプラチナが、守護者の精鋭部隊を率い、アルケミスの残党や汚染魔物の迎撃を担当する。
ガリオン・ハート号は、ガリオのガリウム・センサーと、秀城のイッテルビウムの超感覚によって、汚染の嵐が吹き荒れる空を突き進んだ。眼下に広がる大地は、もはや元の世界の面影はなく、赤黒く変色し、所々でマグマのように崩壊エネルギーが噴出していた。
「ひどい…これが、アルケミスの望んだ世界…」 オクシアが、窓の外の惨状に唇を噛んだ。
「メンデレ様、見えます」 アメリが、瘴気の向こう側、遥か彼方を指差した。
そこには、天を突くほどの巨大な黒い竜巻が渦巻いていた。黒い太陽から降り注ぐ崩壊エネルギーが、氷結の荒野の大地と反応し、巨大な汚染の柱を形成していたのだ。
「あれが、黒い太陽の直下…!アルケミスは、あの中にいる!」 秀城は、賢者の剣を握りしめた。
「ガリオさん、突入できますか!?」
「無茶を言うな!」ガリオは、激しく揺れる舵を抑えながら叫んだ。「あれは、ただの嵐じゃねぇ!崩壊エネルギーの塊だ!この船でも、触れた瞬間に原子分解されるぞ!」
「俺が開きます!」 秀城は甲板に立ち、『元素の調停者』としての全魔力を解放した。 「【賢者の石(調和)・起動】!」
秀城の胸に、賢者の石の魔法陣が虹色に輝き、彼が持つ70個の元素の力が共鳴を始めた。 「【広域元素安定化フィールド・最大展開】!」
プロトアクチニウムとアメリシウム、そしてキュリウムの力を核とした、調和の波動が、ガリオン・ハート号を包み込んだ。船が黒い竜巻に接触すると、禍々しい崩壊のエネルギーが、秀城の調和の光によって中和され、船の周囲に安全な航路がこじ開けられた。
「すごい…嵐を中和してる…!」 ガリオは、その神業的な光景に驚愕しながらも、全速力で船を汚染の柱の中心部へと進めた。
嵐の中心部は、不思議なほど静かだった。台風の目だ。 そこには、氷の大地が溶けてできた、巨大なクレーターの底に、アルケミス・ダークが一人、玉座に座るかのように静かに立っていた。
彼の姿は、精霊界で見た時よりもさらに変貌していた。肉体は、ほぼ完全に『崩壊の賢者の石』と同化し、その瞳には、もはや人間の感情は残っていなかった。彼は、元素の崩壊という『現象』そのものと化していた。
「…来たか、メンデレ・秀城」 アルケミスは、ゆっくりと顔を上げた。その声は、何千もの元素が同時に崩壊するような、不快なノイズとなって響いた。 「貴様が、この世界の最後の『不純物』だ。貴様が持つ『調和』という名の『停滞』をここで消し去り、私は、『崩壊』による『真の進化』を完成させる」
「お前の言う進化は、ただの破壊だ!」 秀城は、仲間たちと共に船から降り立ち、アルケミスと対峙した。 「ジンク、オクシア、ナトリ、アメリ!俺が【世界浄化】を発動させる!それまで、全力を尽くしてアルケミスを止めてくれ!」
「「「「応!!」」」」
秀城は、賢者の剣を天に掲げ、賢者の石(調和)の究極魔法、【世界浄化】の詠唱を開始した。世界中に拡散した汚染エネルギーを中和し、黒い太陽を消滅させるための、膨大な魔力の構築が始まった。
アルケミスは、その秀城の姿を冷ややかに見つめていた。 「無駄だ。貴様がその魔法を完成させる前に、私が貴様らを『消滅』させる」
アルケミスが手を振ると、彼の周囲の空間から、彼が魔界で手に入れたアインスタイニウム(Es)の力によって生成された、崩壊の化身とも言うべき魔物たちが、無数に出現した。
「行け、ジンク!ナトリ!」 「【亜鉛・超電磁砲】!」 「【ナトリウム・恒星】!」
ジンクとナトリの最強攻撃が魔物の群れに炸裂するが、魔物は崩壊と再生を繰り返し、その数を減らさない。
「オクシア、アメリ!防御と支援を!」 「【酸素・絶対零度】!」 「【アメリシウムの静寂】!」
オクシアの冷気が魔物の動きを鈍らせ、アメリの鎮静化の波動が魔物の再生能力を阻害する。四人の仲間たちは、秀城が魔法を完成させるための、絶望的な時間稼ぎを開始した。
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