96 16方位第7神 ギアム誕生
ある日、ミエルが目を覚ますと、目の前には長い黒髪で美しい額(ひたい、おでこ)を見せた髪型の絶世の美女がいた。スラリとした長身で大きい胸と細いウエストと大きなお尻、長い手足。あたまの天辺から足のつま先まで、じっくりとスキャンするように時間を掛けて見ても美しい以外の言葉が出てこない。
みやびよりも美しく賢そうな女性を見て、ミエルは思考が止まった。
『そんなはずはない。だって、...』
ミエルの頭が冴えたことを確認した美しい女性は、無表情だけれど少しうれしそうに見えた。次の瞬間、ミエルは、顔を横に向けられたあとで、美しい女性の胸元に顔を押し込められていた。顔を横に向けられていなかったら、大きな胸の柔らかさで息が出来なかったことだろう。
「ミエル、会いたかった!」
「ね、姉さん? でも、姉さんはボクが小さいころに、高熱で亡くなった。
ということは、ここは天国なの? いや、待って、そのとき、姉さんは子供だったはず。 ええ? どういうことなの?」
「ここは、天国じゃないわ。それと、わたしが神様になってから、300年くらい経っているわ」
「ボクたちが居た世界と時の流れが違うの?」
「それもあるけれど、ミエルを守る力が欲しかったから、過去に戻って、神様としての修行をしたのよ」
ミエルは入って来た情報量の多さに、頭が追い付いてこなかった。
それでも、姉さんに会えたのだから、したいと思うことは多かった。
「姉さん、姉さん、会えて嬉しいよ」
ミエルは、目の前にいる姉を抱きしめた。
10分間ほど、抱きしめ合った後で、ミエルは姉から離れて、今まであったことを話し始めた。
「姉さんに話したいことは、いっぱいあるんだ。
姉さんがいなくなってから、ボクは...」
1時間くらいかけて、今まであったことを話し続けたミエルだった。
姉さんは、優しく微笑みながら、ほぼ無表情だけど、かすかに笑っているように見えた。そして、ミエルを見つめる視線は暖かった。
ミエルが話し終わった後で、やさしい返事が聞こえた。
「ええ、あなたが頑張っていたことは知っているわ。今まで見守ってきたからね」
「見守るって? 天国から、ボクが居た世界が見えたってことなの?」
「少しちがうわ。ミエルが聞き逃した言葉をもう一度、いいえ、くわしく説明するわ」
ミエルの姉さんは、立ち上がって、りりしく輝く立ち居振る舞いを見せた。
そして、重大なことを、ミエルに告げた。
「わたしは、16方位第4神 未来知見の女神 ミサキです。
時と場所を司り時空を支配し、時を超えて、過去と未来を見守る役目を受けています」
ミエルは、キーワードを繰り返した。
「16方位第4神 未来知見の女神 ミサキ。過去と未来を見守る役目」
ミサキは首を縦に振ってうなづいた。
「ええ、その通りです」
◇
おどろいたミエルが落ち着くのを待ってから、ミサキはミエルに説明した。
「ここは、天国ではありません。神様の世界にある私の部屋です」
ミエルは、まだ混乱していた。でも、それはそれとして、するべきことがあった。
ミエルは後ろを振り返って、寝ているみやびを見た。
「ねえさん、ちょっと待っててね。となりで寝ているみやびはボクの大事な人、恋人なんだ。あっ、ボクのことを見ていたから知っているよね。強い武闘家で、とっても可愛いんだ。僕の生きる希望なんだ。すぐに起きてもらうからね」
ミエルは寝ているみやびのそばに来て、みやびを起こそうとして、右手でみやびの左肩をゆすった。
「ねえ、みやび、ボクの姉さんが来てくれたんだ。起きてよ!」
みやびは眠ったまま起きようとはしなかった。
「眠ったふりをしているのかな? もう起きても大丈夫だよ。
ようし、じゃあ、目覚めのくちづけをするよ」
ミエルはみやびにくちづけをしたが、みやびは眠ったままだった。
「みやび? みやび?」
ミサキは、ミエルの肩に手を置いて、静かに語った。
「みやびさんは永眠しました。寿命が来たのよ」
「えっ?」
ミエルはミサキの言葉を受け入れたくなかった。
だから、ミエルの時間は止まってしまった。
◇
背中からミサキに優しく抱きしめられたミエルは、1時間くらいしてから、現実に戻って来た。
「そんな、ボクより先に天国に行くなんて」
涙を拭いたミエルは、ミサキの方を向いた。
「姉さんは、神になったんだよね。過去と未来を見守る役目ということは、みやびを生き返らせることができるんだよね?」
申し訳なさそうに、視線を床に落としながら、首を横に振るミサキから、ひとつの言葉がこぼれた。
「無理よ! 終わった命は、神様でもなにもできないわ」
ミエルは失望した。しかし、姉を困らせてはいけないと必死に自制したミエルだった。
「姉さん、無理を言ってごめんね。みやびを火葬するまでの間、抱きしめていたいけれど... 姉さんがボクの前にいる理由は、なにかあるんだよね。
そのために、ボクはなにをすればいいの?」
ミサキはみやびを失った悲しみから立ち直れないままに、それでも、前に進もうとしていた。
「それをこれから説明するわ。
でも、その前に、立ち会ってもらう神様を呼ぶわ」
ミサキは電話を掛けていた。
「シクペリア様、ミエルが落ち着きましたので、来てもらえますか?」
ミエルは不思議そうな顔をした。
『神様なのに、電話を使うの?』
「神様の力である神力を無駄遣いしないためよ。神力を使わなくても代替できる手段があるなら、迷わず使うわ」
しばらくして、赤い長髪の男性神が部屋をノックしてから入って来た。
とても機嫌が良さそうだった。ミエルを見る目は、初対面とは思えないほどに好意的だった。
「わたしは16方位第1神 神々の創造者 シクペリアだ」
「ミエルです。よろしくお願いします」
「うむ、まずは、カセイダード王国を見事に治めてくれてありがとう。
ミエルたちのおかげで、私の作品であるカセイダード王国は完成した」
話のスケールが大きすぎて、ミエルは話についていけなかった。
その様子を見たミサキ姉さんが助け舟を出してくれた。
「シクペリア様、少し、補足説明をしても良いでしょうか?」
「そうだな、その方が良いだろう」
シクペリア様に話の主導権を譲られたミサキは、ミエルへの説明を始めた。
「本来ならば、
『みやびさんが悪人に刺されて亡くなってしまうはずだった』
という話を、あなたたちの夢の中でしましたね」
ミエルは激しく首を縦に振って、同意した。
「そのときは、ありがとうございました。
カセイダード王国に移住させてもらったおかげで、あれから30年もみやびと仲良く過ごすことが出来ました。深く深く感謝しています」
「どういたしましてだな」
シクペリア様が、ひとことだけ答えたあとで、ミサキに手のひらを向けて、話の主導権をミサキに戻した。
ミエルは少し考え込んでいた。
『神の存在を知らしめるために、地震、カミナリ、火事を起こして、一喝した神様だな。火事を大雨で消して、空を晴れ渡らせるまでセットでした手腕は見事だった。
罪のないひとが被害を被ったけれど、痛い目を見るまで神を理解しないバカな悪者どもには、良い薬になっただろう。
いけない、神様の前で長く考え込んでしまった』
ミエルの思考は、シクペリア様に伝わっていたが気付かないふりをしていた。しかし、シクペリア様はこころの中で理解者を得たことを喜んでいた。
『良さそうだな。彼なら、ルウナとも仲良くできる初めての男性になるかもしれない』
ミサキは、ミエルとシクペリア様の思考が終わってから、話を切り出すことにした。
「ミエルが生きてきた人生を私たちが評価した結果、ミエルは神様になる資格が十分と判定されました」
ミエルは少し考えてから答えた。
「それは光栄です。ボクが神様になれたら、すでに神様になっている姉さんといっしょに暮らせるんだよね。とてもうれしいよ」
ミサキは、少し考えていた。
「うーん? いっしょに神の世界に住むけれど、部屋は別々になります。
それに、それぞれの役目もありますから、いつも一緒というわけには行きません。
それでも、会える時間は確保できます」
ミエルは顔を輝かせた。
「良かった。うれしいよ。神様になれたら、みやびとも一緒に暮らせるよね?」
シクペリア様がミサキに質問をした。
「みやびとはミエルの伴侶のことだな?」
「おっしゃる通りです」
シクペリア様は困った顔をして答えた。
「みやびさんは来世も人間として生まれることができる。ミエルを助けて、カセイダード王国に貢献した功績があるからな。人間に連続して生まれるなんて、なかなかないことだぞ。4人目だな」
ミエルは絶望した顔をした。
「来世? みやびは生まれ変わるんですか? じゃあ、ボクもみやびを追いかけて、生まれ変わることにします」
シクペリア様は、さらに困った顔をして答えた。
「なんのために? それに生まれ変わっても、別々の場所に生まれるから会うことはないぞ。それに、みやびさんは誰かの【天祥】になる訳ではないから、姿かたちも能力も変わるし、まったく共通点がない状態だぞ? それなのに、生まれ変わる?
ああ、そうか、ミエルの持つ生まれ変わりのイメージと、実際はちがうからな。
ライトノベルにあるようなロマンチックな生まれ変わりにはならないぞ!」
説明を聞いて、さらに絶望するミエル。
しかし、あることに気付いた。
「ボクがみやびの【てんしょう】になれば良いのですよね?」
シクペリア様の手をわずらわせてはいけないとミサキが説明を代った。
「ミエル、無理よ。【天祥】になるには、多くの条件があるので、ミエルも私もみやびさんの天祥には成れません」
ミエルの目には涙があふれていた。
「じゃ、じゃあ、神様になっても得るものは何もないじゃないか?」
なぐさめる言葉に困ったミサキを見て、シクペリア様が提案をしてきた。
「ミエルが知っているみやびさんと、いっしょに暮らす方法なら1つだけある。
詳しい説明を聞きたいか?」
ミエルはハンカチを出して、涙を拭いて、鼻をかんでから、姿勢を正した。
「もちろんです。教えてください」
シクペリア様は笑顔を消して、真剣な顔で答えた。
「従属神というか、そば仕えとして、ミエルの部屋に住ませることはできる。
しかし、ここは神様が済む世界だ。狭い部屋の中から外の世界を見ることしかできない。みやびさんが納得するだろうか? どんなに仲が良くても、狭い部屋で永遠に一緒だと、みやびさんも嫌がるんじゃないか?」
ミエルは、揺るがない決心をして見せた。
「みやびに嫌われないように、みやびと相談します。
みやびが一人になりたいときは、部屋を区切ったり、ボクが姉さんの部屋に行くとか、他の神様の部屋に行くとかして、気を遣うことにします」
シクペリア様は、ミエルの覚悟に納得した。
「それなら、みやびさんの魂には、ミエルが神力をチャージすれば良い。
ミエルが神様になって、140年もチャージすれば、みやびさんはミエルの従属神として、ミエルの管轄下における。この長い期間が待てるか?」
ミエルの気持ちは変わらなかった。
「待ちます。たとえ、140年でも、みやびと離れ離れになるよりはマシです。
早く神力をチャージする方法はありますか?」
シクペリア様は考えた。
『他の神様から神力をもらう方法はあるけれど、対価が難しいから現実的ではないな』
「現時点においては、無いと思って欲しい」
ミエルはダメもとで聞いたのか、落ち込んではいない様子だった。
「それでは、少しでも早く神力のチャージを開始したいです。
ボクを神様にしてくれますか?」
ミサキはミエルの決心を聞いて安心したようだった。
シクペリア様はミサキとミエルの様子を見て、満足そうに言った。
「それでは、ミエルが神様になってしたいことは、なになのか?
宣言をしてもらおうか?
これを、【本願】と呼ぶ。神様になる前にする約束は、なににする?」
ミエルは、少しも迷わなかった。
「義理と正義のある世の中を作りたい!!
人間たちが住む世界を布地に例えるなら、義理と正義を刺繍して編み込みたい」
シクペリア様は感心した。
「良い心がけだ。とても大変なことだが、カセイダード王国を治めたミエルなら、いつの日か達成できるだろう。
「義理と正義のある世の中を!!」という本願に基づいて、この私、シクペリア様が命名しよう。
「義を編み込む」
という意味を込めて、【ギアム】と名乗るがいい」
ミエルは、その名前を受け止めた。
「素晴らしい名前をありがとうございました。
【ギアム】と名乗り、精進します。
ところで、16方位第何神になりますか?」
シクペリア様は、神々の一覧表を【ギアム】となったミエルに見せた。
「女性神には偶数を、男性神は奇数を割り当てている。
1,3,5は使用済みなので、次は、7だな。
【ギアム】は、16方位第7神にしよう。
二つ名を、考えてくれ!」
【ギアム】となったミエルには、ゆずれない願い、欲求があった。
それは、みやびと一緒に暮らすこと
「では、【欲求に忠実な神】にしてください」
シクペリア様とミサキは顔を見合わせた。
ミサキが【ギアム】となったミエルを諭す様に説教をした。
「誤解を招く二つ名は良くないわ。女性神が聞くと身構えてしまうかもしれないし、二つ名が原因で、嫌われたら嫌でしょう?」
【ギアム】となったミエルは強い目で返してきた。
「ボクにとっての女性は、みやびだけでいい。
みやびを取り戻すという目的と目標を忘れないためにも、この二つ名は役に立ってくれるだろう」
ミサキは未来視と未来から来た手紙で、ギアムが後悔することを知っていたが、これ以上のことは言えなかった。
「わかったわ。後悔しないのなら、あなたが望む二つ名に決めてもいいと思うわ」
シクペリア様が最終確認をした。
「それでは、最終確認をするぞ!
【16方位第7神 欲求に忠実な神 ギアム】
として、登録してもいいか?」
ギアムはチカラ強く答えた。
「はい、お願いします」
シクペリア様が一覧表に書き入れたことで新しい神が誕生した。
「それでは、ミエル、いや、ギアム。
くわしいことは、ミサキの指導を受けてくれ!」
「かしこまりました」と答えるミサキ
「【16方位第7神 欲求に忠実な神 ギアム】
が創り出す成果に期待する」
「ご期待ください」
このときから、ミエルは、
【16方位第7神 欲求に忠実な神 ギアム】
と呼ばれることになった。
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