89 真帆とワカルの店で
白丸、大地、姫子、千夜の4人は、150年前に伝説の人たちが住んでいた場所へと向かった。
白丸が興奮して語った。
「伝説の盾から声が聞こえたんだ。あの家を貸してやってくれって。
残念ながら、こちらの声は届かなかったようだけれど」
姫子は白丸に同意した。
「信じるわ。だって、私が見た少女は絶対に伝説の月夜様に違いないからね」
大地は少し寂しそうに言った。
「ボクも体験したかったよ」
千夜は伝説の話は知っていたので、話を盛り上げようとした。
「白丸様、どのような声でしたか?
姫子様、どのようなお姿でしたか?」
「千夜、様を付けなくても、白丸と呼べばいい」
「ありがとう。白丸」
「うん、それで良い」
「姫子に勝るとも劣らない美しくて可愛い声だった」
「千夜も、姫子と呼んでいいわ」
「ありがとう。姫子」
「黄色い絵柄がある白い着物を着た可愛らしい少女だったわ」
そうこうしているうちに、店に着いた。
洋服店、飲食店、職業紹介所が並んでいた。
職業紹介所は、扉というか引き戸が開いていたので、中の様子が外からも良く見えた。
あのとき見た武闘家みやびの姿があった。
「いらっしゃいませ。お仕事をお探しですか?
いや、ちがうさ。みんなはミエルに会いに来たさ?」
姫子が代表して答えた。
「あのときの武闘家さんね。みなさんに会いに来ました」
「3人が見えたら、奥に案内するように言われているさ。
4人目のお姉さんは、お仕事を探しに、いや、仕事する人を探しに来たかさ?」
白丸が微笑みながら答えた。
「いやいや、こちらは俺たちの仲間だ。いっしょに案内してもらえると助かる」
「それなら、いっしょに案内するさ。ちょっと待っててさ」
みやびは、近くにいるアランとアリスに声を掛けた。
「アラン、アリス。区切りが付いたら、奥に来て欲しいさ」
みやびは白丸たちに向き直って、白丸たちを案内した。
「こちらにどうぞさ」
「かたじけない」
白丸が代表して答えて、みやびの後をついていった。
◇
待合室というか接客室に通された。
席は、12人分あった。
「どうぞ、おかけくださいさ」
白丸たちが座ると、みやびが部屋を出て行った。
長いテーブルの片側に、白丸、千夜、姫子、大地の順に座ることで、女性を内側に守る体制で座った。白丸がリーダーだと分かるように、白丸が上座に座った。
みやびがお茶とようかんを持って来た。
「どうぞ、お召し上がりくださいさ。ミエルたちを呼んで来るので、ゆっくりして待ってて欲しいさ」
「ありがとう」と白丸たちが返事して、みやびが「失礼しますさ」と部屋を出て行った。
「楽しみだわ。そうでしょ、白丸」
「ああ、ようやく名前を聞くことが出来るな」
「白丸の嬉しそうな顔を見ると、千夜も嬉しくなりますわ」
「どんな人柄かは分からないけれど、きっと良いひとたちだろうな」
◇
しばらくして、ミエルたち6人がやって来た。
ミエルが白丸の正面に座って、みやび、アラン、アリス、真帆、ワカルの順に席に着いた。
ミエルが代表して、話を始めた。
「わたしがリーダーのミエルです。となりは恋人のみやび、アランとアリスのカップル。この4人で職業紹介所をしています。そして、洋服店店長の真帆、飲食店店長のワカルです。
まずは、この伝説の人たちが住んでいた家を貸して下さり、ありがとうございます」
白丸がかしこまって答えた。
「御縁があり、お貸しすることになりました。気に入っていただけたようで良かった」
「とっても気に入っているさ」
と、みやびが笑顔で答えた。
姫子が笑顔で答えた。
「みやびさんの笑顔を見て気が楽になったわ。腹の探り合いをしないで済む分かりやすい会話が出来そうですね」
アリスも笑顔で答えた。
「ええ、実りある出会いにしたいですわ」
真帆、ワカル、千夜、大地は静かに会話を聞いていた。
実質の会話は、ミエルとアリス VS 白丸と姫子 になりそうだと場に居る皆が感じていた。
みやびは、こころの中で、マーサと話していた。
『あとは、ミエルとアリスに任せて聞いているだけでいいみたいさ』
『そうね、よほどのときは私に代わってもらうから、安心していてね』
『むずかしい話になりそうさ?』
『この4人は、とってもめずらしい良い人たちだから、大丈夫だとは思うけれど...』
『どうかしたさ?』
『女神さまの心配したとおり、なにかあっても戦えるように、みやびに身構えていて欲しいわ』
『わかったさ』
ミエルは、借りた家で始めた商売について語っていた。
「すでにいる領民のひとたちの暮らしを邪魔しないという条件があるので、誰もやっていない人と人を結びつけることから始めました。
仕事を探している人と、人を探している店が出会えるようにしています。
わたしたちは人間関係で苦労してきたので、なんとなく、ひとや店の雰囲気というか考え方を感じ取ることが多いのです。それを活かしました」
白丸が領主らしい物言いをしたが、あくまで一般論に留めた。
「この口入屋、つまり職業紹介所のおかげで、多くの人が合う仕事が見つかっていると聞いています。ご領主様が聞いたら、感謝の気持ちを述べられるのではないでしょうか?」
姫子が白丸に続けた。
「とても良い仕事をなさっていると人づてに聞こえてきます。それと同時にズルいひとや悪い考えを持つ店からは、逆恨みを受けていますね」
大地は姫子の歯に衣を着せぬ発言に青ざめた。
姫子の発言に対して、ミエルとアリスは深刻そうな表情を見せたが、嫌そうな表情ではなく、話が早くて助かるという表情だった。
マーサ、白丸、姫子、大地は鑑定スキルを持っているので、お互いの事情を理解することが早かった。
白丸は静かに続けた。
「出会いは別れの始まりと言いますが、いや、一期一会というべきか...
なにか困っていることがあれば、お聞かせください。
聞くだけになってしまうかもしれませんが。話して気が楽になれば幸いです」
本当に、話が早かった。
ミエルは、みやび(マーサ)、アラン、アリス、真帆、ワカルの顔を見てから答えた。
「この立派な家を貸してもらってから、間もないことが心苦しいのですが、ここでしている事業は継続させてもらったうえで、わたしミエル、みやび、アラン、アリスは長い長い旅に出ることになりそうです。
しかし、真帆とワカルは店を続けたいので、庇護を頂けるように守ってもらいたいのです。それが可能かどうか、ご相談に乗って下されば助かります」
姫子が必要なことを聞き出そうとした。
「いつの御出立を考えていますか? 真帆さんとワカルさんは、どれくらい戦えますか?」
ミエルが言いにくそうに答えた。
「3日後を考えています」
真帆が申し訳なさそうに答えた。
「まったく戦えません」
ワカルは小さくなって答えた。
「ボクはとても弱いです」
白丸は、少し考えてから答えた。
「持ち帰って考える時間をくれますか?
他に希望はありますか?」
ミエルは1枚の書類を、白丸に手渡した。
「こちらをご覧ください。読み上げます」
白丸たちは、静かに聞いていた。
「どちらに向かうご予定ですか?」
「南の方に向かうことしか決めていません。どれくらい遠くになるかも分かりません。ただし、おそらく、ここに戻ることはないことだけは分かります。」
「そうですか、こんなことを言ってよいか迷いますが、俺も付いて行きたいです。
武者修行の良い旅になりそうです」
ミエルは寂しそうな顔をした。
『わたしたちは出来ることなら、ココに居たい。でも、みやびの命には代えられない』
「帰る予定の無い旅は楽しめないと思います」
千夜が白丸のひざをつねって、白丸を止めた。
「そちらの御事情も分からないのに、申し訳ございません」
「いえ、その言葉だけで十分です」
ミエルは悲しそうな笑顔で答えた。
姫子は、場の雰囲気を持ち直さねばと考えた。
「お返事は2日後の昼までにします。それまで、お日にちを頂けますか?」
アリスはそれに乗ることにした。
「ご検討いただけると助かりますわ。せっかく、おいで下さったので、お店の中を見学されませんか?」
「いいわね。じゃあ、お楽しみの洋服店は最後にして、たっぷりと時間を取って欲しいわ。千夜さんも洋服をみたいわよね」
「ええ、もちろんです。白丸様のお好みの服を選びたいですわ」
「白丸、大地もつきあってくれるでしょ? あっ、もちろん、嫌なら先に帰ってもいいわよ」
「もちろん、つきそうぞ。なあ、大地」
「もちろんだよ、白丸。千夜様も、姫子も良い服が見つかるといいな」
「ありがとうございます。大地様。わたしのことは千夜さんと呼んでくだされば幸いです。様付けではなく、大地さんと呼んでもよろしいですか?」
「もちろんいいわ。ね、大地」
「うん、姫子さえ良ければ」
白丸と大地は顔を見合わせた。
『服選びにつきあわないと後で地獄を見るからな...』
ミエルは、その仲が良い様子を見て、うらやましいというか良いなと感じた。
「それでは、お昼ごはんは、ワカルさんの店で全員で食べましょうか?」
「お任せください。では、料理の準備をするために下がっても良いでしょうか?」
「ああ、よろしくね。真帆さんは千夜さんと姫子さんにお薦めする服の組み合わせを考えてくれますか?」
「そうですね。考えておきます」
「それでは、お昼ごはんは、ワカルさんの店で集合ということでいいね」
「はい」
ミエルは、白丸たちに向き直った。
「それでは、職業紹介の様子を見てもらってから、お昼ごはん。
食後の休憩の後は、服選びをして頂く流れにしたいです。
白丸さんたちの御都合は良いでしょうか?」
「ああ、よろしく頼む」
という白丸の返事を聞いてから、真帆とワカルは席を外した。
つづく
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