88 白丸の婚約者が強制決定
ミエルがみやび、マーサ、アラン、アリス、真帆、ワカルと話をした翌日。
白丸、姫子と大地は、ミエルたちの店に行く準備をしていた。
☆ 白丸たちとミエルたちは、店での再会を約束して別れたのだった。
☆ 82 伝説に支えられて 参照
大地は、機嫌が良さそうな白丸に声を掛けた。
「会うのが楽しみだね。白丸」
「ああ、伝説の存在と関係があるかもしれないからな。
そうでなくても、あれだけの武力があれば、伝説と関係なしでも話をするのが楽しみだ」
「そうね、あの少女とも会えるかしら?」
大地は首をかしげていた。
「武闘家の女性は、少女ではなく、大人だったけどなあ」
白丸も不思議そうにしていた。
「魔法使い、いや、賢者の女性も大人だった」
「じゃあ、わたしだけに見えたまぼろしだったのかもしれないわね」
姫子は、残念そうにしながらも、うれしそうだった。
「たとえ、まぼろしでも、わたしが会えたことに変わりがないわ」
白丸たちが出かけようとすると、じいの家来が来て声がかけられた。
「白丸様、爺や様がお話があるそうです」
「もう出かけたと言っておいてくれ」
白丸たちは逃げるように家を出ようとしたのだが、じいが玄関を出たところで待ち構えていた。
「お話があるとの伝言を聞きませんでしたか?」
笑顔がこわいと思ったが、予想が当たって、じいの機嫌が良さそうだった。
◇
じいの部屋に、白丸、大地と姫子が呼び出された。
畳が敷かれた和室に、正座して待つことになった。
背筋を伸ばして、まっすぐに座ることを躾けられている3人の正座はとても美しい姿勢だった。重い頭を最小限の力で支える首の伸ばし方、あごの向きなどが細かく決まっている。だから、美しい正座ができると頭も良くなるようだ。事実、3人とも頭が良い。
しばらくすると、じいがやってきて、正面に正座して座って、白丸を見つめていた。
しばらくの間、といっても、3分間くらい沈黙が流れた。
大地と姫子、とくに姫子につつかれて、白丸がじいに話を切り出した。
「ああ、じい。ちょっといいか?」
「なんでしょうか?」
「これから、出かけるところがあってだな」
「会う日や時刻を約束されたのですか?」
「いや、そうではないが」
「では、じいと話をしてもらっても構いませんな」
白丸が後ろを振り向くと、姫子があきらめた顔をしていたので、白丸も話を聞くことにした。
「では、若、そろそろ決めてもらいましょうか?」
「なにをだろう。領地経営に必要なことはすべて決めたはずだが?」
「いいなずけ、婚約者を決める話です。良いおなごと結ばれるためには、若いうちに相手を決めることが肝要です。なぜなら、年を取るとともに理想が高くなり、ご自身の値打ちは下がるので、満足が行く相手を得ようとしたら、永遠に相手が見つかりません」
白丸は、居心地が悪そうな顔で逃げ出したい感じだった。
「その話なら、町に出て、器量が良い女子を探す努力をしているから安心して欲しい」
「ほう、なら、見つかったのでしょうか? 連れてきてくだされ」
「い、いや、今はまだ」
白丸が大地と姫子に助けを求める視線を送った。
それを見た、じいが厳しい一言をはなった。
「いいですか、若、姫子のように素敵な女子は、この世のどこにもおりませぬ。
姫子と比べていたら、婚期を逃して、じいのようなじじいになってしまいます」
姫子は無表情をよそおいながらも嬉しそうだった。
姫子の彼氏の大地は、少し不安そうだった。
『もしかして、姫子と別れなければ、ぼくは島流しの刑にされるのだろうか?』
白丸は、必死に言い訳を考えていた。
「もちろん、分かっている。だから、姫子には及ばないまでも、可愛い女子を探す努力をしている。だから、心配しなくてよい」
「若を信じておりますから、心配はしておりません」
白丸と大地は、じいの笑顔を見て安心した。しかし、次の瞬間...
「しかしながら、若、期限切れでございます。かくなる上は、じいが決めた相手を選んでいただきます」
「じい、俺にも選ぶ権利というものが」
「ありましたが、もう無いです。武士なら潔くなさい」
じいに強くにらまれては、白丸もあきらめるしかなかった。
覚悟を決めた白丸を見たじいは、パンパンと手をたたいて、大きな声で部屋の外に居るものを呼ぼうとした。
「失礼します」
という美しい声が聞こえて、障子戸が開けられて入って来た女性は背が高い美しい系の美女だった。姫子も美しいが姫子は可愛い系の美女だ。
立ち居振る舞いと姿勢から隙が無く、鍛えられた感じがした。
じいは、ひとつ咳ばらいをしてから、美しい系の美女の紹介をした。
「これなるは、わたしの孫娘で、【千夜】と申します。
名前の通り、千の夜を共に過ごしても、殿方を飽きさせぬ魅力あふれる女子に育てました。まあ、姫子には及びませんが、これ以上の女子を探せるとは思えませぬ。
千夜、若に御挨拶を」
「初めて御目通りが叶い、恐縮至極に存じます。
孫娘の千夜と申します。白丸様、末永くお願い申し上げます」
大地は、千夜を見てから、姫子を見た。
『とても美しいけれど、ぼくは姫子の方が好きだな』
姫子は、意外にも好意的に、千夜を見つめていた。
姫子の視線を感じた千夜は好意的な微笑みを返した。
姫子と千夜は、偶然にも同じことを考えていた。
『この娘くらいの美しい器量持ちならば、わたしに嫉妬することなく、仲良くしてくれるかもしれない。女の敵は女だからね。お互いに伴侶となる殿方は決まっているから、競合もしないし、敵対することも無いでしょう』
白丸も少しの間、見とれていたのだが、すぐに平静な表情に戻った。
「じいに、このような魅力的な孫娘がいたとは知らなかったぞ」
じいは姿勢を正して答えた。
「自分の孫娘を推せば、職権乱用と言われますからな。
しかし、若がいつまでも相手を見つけられないのであれば、お世継ぎを確保するため、という大義名分ができますから、ご紹介することにしました」
「そうであったか、千夜殿、よろしくお願いいたします。それでは、拙者たちは出かけるところですから、また、後日ということで」
白丸はさりげなく立ち去ろうとした。
「待たらっしゃい。話はまだ終わっておりませぬ」
「まだ、あるのか?」
「千夜や、お前からも若に言ってやりなされ」
「わたしのことは、どうぞ、千夜と呼び捨てにしてください」
「うむ、わかった。では、な」
立ち上がろうとしたところ、姫子と大地に両脇から引き留められた。
大地が白丸をなだめようとしている。
「白丸、姫子と友達になれそうなくらい凛々しいお嬢さんじゃないか。
初めて会うのだから、次につなげるためにも、半時、30分くらいは会話を楽しむ方がいいと思うよ」
白丸が返事を考えていると、姫子が白丸に圧がある笑顔で迫った。
「白丸、女性に恥をかかせたらダメよ。たとえ、振られるとしても、精一杯、共通点を探らなきゃ! わたしには負けるかもしれないけれど、これだけ美しい女性はいないと思うわ」
白丸が返事に困っていると、千夜から話しかけられた。
「姫子様、発言してもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ、なにか、気に入らなかった?」
「千夜が白丸様を振ることはございません。白丸様が私を振るかもしれませんが、逃す気はありません。白丸様よりも優れた剣士に会ったことはありませぬゆえ」
この言葉に気を良くした白丸は嬉しそうだった。
「千夜殿も剣を振るのか?」
「ええ、たしなむ程度ですが、白丸様に稽古をつけてもらえる程度には上達しております」
「おお、それでは、早速、打ち合わないか? もちろん、わたしは受けるだけにする」
千夜は、爺の方を見て確認した。
「道着に着替えても良いでしょうか?」
じいはうれしそうに言った。
「良い良い、話をするよりも、剣を打ち合う方が、若に気に入ってもらえるかも知れぬからな」
◇
千夜は道着に着替えて、面をつけて、竹刀を握った。
白丸は、カタナを腰から外して、代わりに竹刀を握った。
爺が審判を務めた。
「では、1本勝負。とは言え、千夜が疲れるまで守り切ったら、若の勝ち。
千夜が1本でも取ったら、千夜の勝ち。では、はじめ」
白丸は油断しきっていたので、開始早々、胴を打たれそうになったが、しのいだ。
『なんと、美しいだけの女子と思ったら、試合が始まったら、剣士の顔になるではないか。これはいいな。1から守らなくても、雑魚相手なら、自分で自分の身を守れそうだ。これなら、市中に連れて行っても安心だな』
10分ほど、打ち合ってから、白丸は千夜が持つ竹刀を打ち払って、飛ばした。
「良い試合だった」
「まだ、疲れてはおりませぬ」
「これから、一緒に町に出よう。だから、疲れる前に、試合を終わりにしたい」
「そういうことでしたら、試合の続き、というか、稽古をつけてもらうのは、次の機会を待ちます」
「うむ、疲れていないとはいえ、汗をかいたであろう。30分ほど待っているから、汗を流して来てくれ」
「分かりました。白丸様は?」
「これくらいでは、汗は出ない」
「さようでございますか」
千夜は少し悔しそうだった。
「良い太刀筋だったぞ」
「うれしゅうございます。それでは、お時間を頂きます」
千夜が去ってから、じいが白丸に話しかけてきた。
「いかがですかな? 我が自慢の孫娘は?」
「そうだな、あれだけ剣が使えるならば、これから行くところに同行してもらっても大丈夫そうだな」
「どちらに行かれるのですか? 先日の襲撃から間もないというのに」
「その襲撃から助けてくれた者たちの店に行って、助太刀してくれた者たちの名前を聞きに行くのだ。150年前の伝説の4人組がいた家を貸し出しただろう。そこで、服屋と飯屋と仕事紹介屋をやっているそうだ」
じいは少し悩んだけれど、納得したようだ。
「わかりました。しかし、油断召されぬように、大地、姫子、若と千夜を頼んだぞ」
「はい、お任せください」と大地が返事すると
「大事をとって、周囲を警戒します」と、じいは付け加えた。それを着た姫子が納得したように答えた。
「じいは、千夜さんが心配なのね」
「それもありますが、店におびき寄せて、若を待ち伏せしているかもしれませんからね。もし、千夜が人質に取られても、若の御命を優先してください」
「じい、千夜は思ったよりも強いぞ」
「油断大敵にございます」
「わかった。気を付ける」
千夜を待っている間、姫子はご機嫌だった。
「どうしたの? 姫子?」
「わかるでしょう、大地。わたしはいっしょに服を選んで相談できるような女性の友達が欲しかったのよ」
大地は優しく微笑んだ。
「うん、わかるよ。千夜殿と姫子は気が合いそうな気がするよ」
「でしょう。今から楽しみだわ」
白丸と大地は、温かい目で姫子を見ていた。
『姫子に見劣りしない女子は、ほぼ居ないからな。
だから、姫子といっしょに服を選びたい女子は無理そうだったな』
そうこうしているうちに、千夜が町に出かける用の普段着に見える服に着替えてきた。
「白丸様、大地様、姫子様、お待たせしました。待っていて下さり、ありがとうございます」
じいに見送られて、4人は、町に向かった。
つづく




