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【台本形式】みんなの安全を守ってきた「神の代行者」、パーティを追い出されたから、自分の安全を優先します。  作者: サアロフィア
第9章 モンテ領に迫る悪と伝説の声

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80 悪人斬 白波

モンテフルーツ大公爵と呼ばれると怒る白丸は、毎日、剣の鍛錬をしている。

150年前の剣士紅丸が使えた奥義は、ほとんど身につけていた。

しかし、そんな白丸にも悩みは有った。


「身につけたチカラの使いどころがない」


領主としての執務をしていると、ついつぶやいてしまう。


大地は、白丸が言う身につけた力とは、【紅丸剣術】だと分かっているのだが、他の慰め言葉が思いつかないので、こういうしか無かった。


「青商売術を使って、領地経営に活かしている白丸は素晴らしい領主様だと断言できるよ」


白丸は、大地がなぜそんなことを言うか理解はしているのだが、返事をせずにはいられない。


「俺が使いたいチカラは、それじゃないんだよなあ」


姫子も、白丸が言う身につけた力とは、【紅丸剣術】だと分かっているのだが、他の励まし言葉が思いつかないので、こういうしか無かった。


「黄庵医術を使って、病気の子供や患者さんを治している白丸は、慈悲深い領主様で素敵よ」


白丸は、姫子がなぜそんなことを言うか理解はしているのだが、返事をせずにはいられない。


「もちろん、黄庵医術には感謝しているよ。そのおかげで多くの命を救えているからな」


白丸も、大地も、姫子も、お互い気心が知れた仲なので、それ以上はなにも言わなかった。


「カタナがさびないようにしないとな」

「使わないと衰えてしまうから、機会は欲しいだろうな」

「Use it or lose it(使いますか? 失いますか?)気持ちは分かるわ」




白丸、大地、姫子は、子どもが行方不明になる、というか、さらわれることが多い地域に視察に行くことになった。


『俺が行くと知っていて、子どもを連れ去るような悪党が居るわけないだろうに...』

『白丸が御忍びで見回っても出会わないのに、無意味だと思うな』

『領民たちに、領主様が気にかけているという姿勢を見せるためとは言え、無駄よね』


3人とも、民衆たちが好みそうな悪を許さない決意を秘めた顔をして、視察を行っていた。




人買いの本拠地では、関係者たちが集まっていた。


受付担当者が説明を始めた。

「3日前から毎日毎日、言っていますが、本日は、モンテフルーツ大公爵の一行が視察に来ます。 間違っても、子供に近づいたりしないようにしてください。お役人が仕事をしている振りをするための行事というか演劇の様なものです。

今日までの辛抱ですからね。

ですから、商品の買取受付もしません」


ほとんどの者は納得していたのだが...




白丸たちが、事件があった現場を視察する様子を見物しようと多くの人たちが集まっていた。


「モンテフルーツ大公爵様だ」

「ご領主様が手を入れて下されば、事件が解決する日も近いな」

「どうか、子どもたちを取り戻してください」


白丸たちは現場担当者の説明に集中しているから聞こえない...ふりをしていた。人気取りのためなら、声援に応えて手を振るのだが、事件解決の手掛かりを得ることが最重要目的だからだ。




大勢の見物人がいると、子連れの親たちも安心するようだ。

まさか、大勢が見ている前で、子どもを連れ去りはしないだろうと。


小さな女の子が母親に言った。

「ねえ、トイレに行きたい」

「行っといで、今なら、領主様を見る人の方が多いから、すいているだろう」

「うん、そうだね」


小さな女の子は駆けだした。


それを見た悪人は目を輝かせた。

『トイレを済ませて、安心したところをさらってやる』


最良の瞬間を狙っていた悪者は、狙ったとおりに女の子のくちをふさいで、抱え上げた。


「おとなしくしろ。俺はついているな。大人に成ったら、美しくなるかどうかは、この年齢で分かるもんだな。1日、可愛がってから、明日の朝一番に買い取り受付に持って行ってやるぜ」


女の子は足をばたばたと動かしたが、地面に足がついていない。


「うちの子になにをするんですか?

誰か―、誰か―」


手にハンカチを持って、女の子に渡そうとしていた母親が騒ぎ出した。


「うるせえ!」


悪者が母親の腹をなぐると、母親は気を失った。


女の子は涙を流しながら、助けを呼ぼうとするが、口をふさがれているので、

「うーうー」

と小さな声しか出せなかった。


しかし...


白丸の耳に、母親の声が届いていた。

白丸は、視察する方角を希望することで、現場に視察団を誘導していた。


役人たちが気付いた。

「御用だ! 御用だ!」

「ご領主様に、我らの訓練度合いをご覧いただく機会をくれるとはな!」

「現行犯だ! 逃がさないぞ」


悪人が予想するよりも早く、警備役人たちに取り囲まれたので、解決まで近いと誰もが思った。しかし...


「来るな! 近づいたら、この女の子は殺す」


警備役人も負けてはいない。


「そんなことはさせないぞ。全員で抑えつけるだけだ」


「そうなる前に、殺すからな。人質の命を軽んじたと世間に非難されるぞ!」

「さらわれたら、その女の子は死ぬよりも不幸な目にあうだろう。

それが分からない領民は、モンテ領内にはいない」


気が動転するはずの母親は、悪人が既に気絶させていた。

だから、悪人を取り押さえることは簡単なはずだった。


追い詰めすぎると悪人がやけになるので、距離を空けて包囲していた警備役人たち。


「白丸、チカラを見せる準備を」

「大地の言う通りよ、領主としての威厳を見せつけて、悪人の注意を引き付けて」

「分かった。その隙をついて、警備役人たちが解決してくれるだろう」


白丸は、警備役人たちの前に出た。


「無駄な抵抗は、やめるんだ。

モンテ領が誇る警備役人たちに囲まれたら、3手詰めの詰め将棋のように、詰むと分かるだろう」


悪人は観念した表情を見せたと思ったら、大笑いを始めた。

「フハハハハハ」

「なにが、おかしい」

と白丸が問うと、開き直った悪人が答えた。


「ここで捕まったら、俺は裏社会からも殺されてしまう。

こうなったら、ひとりでも多く、道連れを増やしてやる。

まずは、お前だ。美しく生まれたことを親に文句を言うんだな」


左手に抱えた女の子の首筋に、短剣を突き付けようとする悪人。


それに、気づいた白丸は、奥義を放った。

「悪人斬 白波」


白丸の手刀から放たれた真空導波が悪人を切り裂いた。

悪人の前にいた女の子は無傷だった。


「紅丸剣術のひとつだ。人質を取るような悪党は許されん」


姫子は、気を失った母親を気づかせていた。


大地は、周囲を見回した。この一部始終を見て、立ち去った怪しい人物を尾行した。


白丸は、警備役人たちの包囲陣の見事さを讃えてから、犯人の身元を3親等まで洗い出すように指示を出していた。




大地が、白丸の執務室に戻ると、白丸は難しい表情をしていた。

姫子に理由を聞いてみると...


「姫子、白丸は、嬉しそうに見えないな。

身につけたチカラを使えて、喜んでいると思ったんだけど」


「大地も気付いているんでしょ。

人質となった女の子が救えたことは良かったわ。

でもね、白丸のチカラを領民の前で見せたことで、白丸の人気は上がったけれど...」


「悪人たちにも、対策をされてしまう」


「その通りよ。紅丸剣術の奥義は見せるべきではなかった」


「まあ、真似できるとは思えないけどね」


その会話を聞いていた白丸は、難しい表情のまま、大地と姫子に告げた。


「上には上がいる。そして、上がいない場合は、数をそろえて、人海戦術で来られてしまう。しかし、他の手を考える余裕が無かった」


姫子は白丸をなぐさめるように言った。


「あのときは、あの方法が最良だったのよ」


姫子の気持ちを無駄にしないように、白丸は答えた。


「そうだな。姫子の言う通りだ。

大地、なにを知ったか教えてくれないか?」


大地は、真剣な表情をしながら、答えた。


「ひとさらいどもの本拠地というか、買取受付所を見つけました。

3日前から、白丸の現場視察があると知らされていました。

視察が去るまでは買取しない。

だから、人さらい行為は休むように、と3日連続で指示されていました」


姫子は納得していた。

「だから、あの悪者は、ヤケになったのね。

領主からの刑罰よりも、仲間内からの仕置きの方が恐ろしいのね」


大地は首を縦に振っていた。

「姫子が言う通りだよ。

白丸、どうする? いや、今すぐ、攻め込みに行くよね」


いつもの白丸なら、うれしそうにするのだが、今回は違った。


「いや、それはやめておこう。大地の尾行能力まで敵に知らせることは避けたい。3日後くらいに、現場の警備役人たちが自力で気付くように、ヒントを与えてやってくれ。その方が敵も油断するし、敵を一網打尽に出来るだろう」


白丸の返答から、白丸の考えを理解した大地は、真剣な表情で答えた。

「御意」




3日後、人さらいの組織は一網打尽にされて壊滅した。

しかし、それは、モンテ領の支部に過ぎなかった。


そして、白丸が放った剣術は、敵の本部に報告されていたのだった...



80 悪人斬 白波 おわり


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