30.瘴気と堕ちた精霊②
精霊に案内された先に洞窟があった。風の洞窟と言うらしい。なんとなく嫌な感じがする。
「ここにいる、ようだね。」
龍はいつもの間延びが無くなっている。
「あの子をお願いします。」
精霊が悲しそうに言う。私は龍の後ろからついて行く。
「ねぇアイ、本当についてくるの?」
「うん。」
返答を聞いて龍は私をじっと見る。でも、何も言わずに進み出す。洞窟内は薄暗く、たまに光が漏れ出しているところがある。風はいつも吹いている。
「堕ちた精霊は強いの?」
「個体にもよるかな。強いのが堕ちたら結構厄介。」
喋りながら、真っ直ぐ進んでいく。龍は気配を頼りに進んでいるようだ。嫌な気配が濃くなっていく。
「ねぇ、最初私に任せてよ。」
「えー。危ないよ。」
「それでも。」
「んー。危なくなったら勝手に助けるからね。」
「それでお願い。」
本当に戻せないか試したい。なんか龍も過保護なような?
「あれが...堕ちた精霊?」
「そうだよ。」
形は人型。黒いもやを纏っている。無表情で、目からは光が消えている。堕ちた精霊はこちらに気づいたようだ。
悪寒が走る。とっさに、壁を構成する。
「"世界に満ちる精霊達よ。我らを守れ"!」
パリン。
何かが割れる音、次いで衝撃が私を襲う。
「かはっ」
「アイ!」
少し、飛ばされたけど怪我はない。私の足元に白い鱗が落ちた。少し欠けている。
たぶん、精霊術の壁を破られ、そのまま攻撃が私に来たけど龍の鱗によって防がれたのかな?
流石に衝撃を殺すことは無理か。
「こほっ。...大丈夫。」
「取り敢えず、アレ縛っとくね。」
そのままでは危険と判断したのか、龍が力を使い、光の鎖で堕ちた精霊を縛り付ける。
「......。」
堕ちた精霊は抵抗している。だが、無表情で何も喋らず無言だ。はっきり言うと不気味だ。
でも、なんとなく堕ちた精霊の中にもう一人何かがいるような気がする。
「精霊よ。私の声が聞こえる?」
「......。」
うつろな目。だけど諦めずに、語りかける。
「あなたは、人に害を為したいの?」
「......。」
「あなたは、そんな存在になりたいの?」
「......。」
堕ちた精霊の中の何かが揺れた。なんとなくそう感じる。龍は黙ってこちらを見ている。
私は矢継ぎ早に言葉を重ねていく。
「どうして、人を害するの?あなたは人を憎んでいるの?瘴気に負けてていいの?あなたには大切なものは無いの?」
「......う。」
何か、言った?
「なんて言ったの?」
「 ......ちがう。」
違う?堕ちた精霊をよく見ると僅かだが表情が浮かんでいるような気がする。
「ちがう?何が?」
「じぶん、は、ひとを、きず、つけたくは、ない。」
途切れ途切れだが、ハッキリと堕ちた精霊の声が聞こえた。泣きそうな声だ。
「じゃあ、その瘴気を振り払える?」
堕ちた精霊がこくんと頷く。すると纏っていた瘴気が少しずつ薄れてきた。だけど、それに伴って苦しそうな声を出し始める。
「うっ...くっ。」
「どうしたの!?」
私は慌てて、精霊に近寄ろうとした。けれど、龍に止められた。
「ダメ。あの精霊は1度堕ちてしまってる。それを戻そうとしてるから、代償として痛みが来てると思う。しばらく待つほうがいい。」
龍は精霊をじっと見ながら、私にそう言う。私は龍から精霊に視線を移した。黒い瘴気はまだあるけど、必死に抵抗しているように見える。
「どうか...」
私は、精霊に祈った。
「浄化の光?」
龍が何かを呟くが私には聞こえなかった。龍の手が動き、精霊を縛っていた鎖が解けた。そして、目の前の精霊の瘴気はさっきよりも速く消えていく。
「終わっ、た?」
精霊がその場に座り込み、自分の手のひらなどを見ている。黒い瘴気はもう消えていた。
「戻ったの?」
精霊は体を1通り確認し、涙を流した。
「よかっ、た。うぅ、ぐすっ。」
「大丈夫。もう完全に戻ったよ。」
龍は精霊に語りかけ、微笑んだ。私は、精霊の傍に行って、精霊を抱き寄せる。
「おめでとう。」
そう言って、精霊の頭を撫でて抱きしめると、精霊は安心したように、私に寄りかかった。私は微笑んでしばらくそうしていた。
「ありがとうございます!この子を助けてくれて!」
入り口に戻ると、案内してくれた精霊さんがいた。名前は無いらしいので、どちらも森の精霊なので、区別が付きにくい。
「僕はなにもしてないよ。アイにお礼を言って。」
「私もほとんど何もしてないよ。礼は要らない。」
あまりに感謝されると気が引ける。取り敢えずあいまいに笑って、二人の精霊と別れた。
そのすぐ後に、龍と別れた。今度はそんなに龍は長居しなかった。
しばらく歩くと、テライトと合流した。最初テライトは笑って事情を聞いていたが、話が進むにつれて、顔が厳しくなっていく。
あれ、これ私死んだ?
少し怯えながら、テライトに話しおえる。
「黒い石、瘴気に堕ちた精霊か。気になることがあるな。まあ、調べてみるよ。」
「お願い。」
「...あとね、自分で勝手に行動しないこと、分かったね。」
「分かったよ。」
ちょっと、注意されたけど怖くなかった。その後は、本来の目的通りに狩りや採集をして帰った。
――――
???にて
「おや?一つの闇石が砕けたようですね。」
1人の青年が呟く。それにそばにいた少年が反応する。
「闇石が砕けた?聖獣の仕業か?」
少年が驚いたように言う。しかし首をふり、その考えを振り払った。
「有り得ないな。闇石には聖獣が気付かないように結界がはってあるはずだ。」
青年がため息を吐き、少年に言った。
「何かのまぐれで気付いたのでしょう。しかし面倒な。また、埋めなければならないではないか。聖獣は消せないので非常に厄介な。」
途中で不満になっている青年の言葉に少年が深く頷く。だが、少年は少しの違和感をもっていた。
聖獣は滅多に動かない。ましてや、あの目立たぬ森に埋められた闇石がわかるはずが無い、という違和感を。
「まあ、気をつけておくのが一番無難さ。今しばらくはこの生活に耐えよう。」
少年は不敵にクククっと笑った。不思議とその少年にあっている笑い方だ。
「うーん。あと準備色々あるから、数年いるかなぁ?」
青年は呑気に言っている。少年はそんな青年にため息をついた。
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