【2-19】弟子入り
《!毎日20時に連載中!》
睡眠のお供にどうぞごゆるりとお読みくださいませ。
魔力中毒になっていた四人は連行され、セルヴァイア魔法学園はこの四人を退学処分とした。当然のことながら合わせて親や親族も処罰の対象となった。
騎士団の調査により、学生を唆し、違法回復薬の製法を教えたとして、セルヴァイア魔法学園教授レオニード・フリートに教唆犯の容疑がかけられた。
しかし、レオニード・フリートは魔力対決最中に逃亡。現在行方を追っている。
ハルトマンは、親に冷遇されている基礎魔力量の少ない学生に目をつけ違法回復薬を作製、使用させ、養子縁組の話を匂わせたり、卒業後の進路について融通を効かせるといった口約束を交わしたりして生徒の心を支配していたことが明らかになった。
中には、入学前から家族ぐるみで付き合いのあった生徒もいたようだ。
現物ではなく高価とされている製法を売ることで、学生達から多額の売り上げを受け取っていたとされている。
これまでで違法回復薬の製法の売買は、学園内外合わせて三十五件確認されている。
この事件発覚により、セルヴァイア魔法学園全生徒の身体検査が行われた。
それにより、中毒症状が確認された生徒は五名。いずれも件の学生から声を掛けられ、取引を持ち掛けられたと話している。
この五名は売買行為は行っていなかったが、自主退学の手続きがすでに済まされている。
なお、逃亡中のレオニード・フリートは、魔法省にて最高レベルの報酬金と共に指名手配されている。
◆ ◆ ◆
(時間の問題だな……)
この話を聞かされたルーチェはひとまず息を吐いた。魔法省に指名手配されれば、各地の魔法使いや魔女、魔術師がこぞってその依頼に臨む。
(そ、れ、よ、り)
ルーチェは自室にて、テーブルにある封書を大事に持ち上げ眺めていた。裏には王城の印と希少植物研究室の名が刻まれている。
今回の件で、王城の研究室組に違法回復薬の成分分析をお願いすることになったのだ。
「あぁ〜いいなぁ!!わたしも研究やりたいなぁ〜!」
正式な形は騎士団からの依頼である。人手不足の騎士団は今、各方面に仕事を分担しているようだ。
一応ルーチェも研究室の一員なので、仲介役として次の休みに王城の研究室を訪ねることになっている。
楽しみだなぁと思いながら、手紙の封を開けた。
いきなり騎士団からの依頼が届くのはびっくりさせると思ったので、正式な依頼の前に、事情を説明する手紙を送ったのだ。これはその返事である。
「ふむふむ…………あれ?」
ルーチェは読みながら数回瞬きをして首を傾げた。
「気を遣ってお手紙をくれてありがとうございます!」とか「また一緒に研究しましょう!」とか書いてくれていると思ったのだが、なにやら違う。
三枚の紙にビッシリと、「どうしてそうなったんですか」「依頼額が大き過ぎます」「なんで僕達に回したんですか」「普通に怖い」といった内容が震える字で書かれてあった。
涙目になってるオルレンの姿がありありと思い浮かんでくる。オルレンには怒られるかもしれないが、ルーチェは思わずクスリと笑ってしまった。
「そんなこと言って〜。ちゃんと成果を出すこと知ってますから!」
オルレンは割と本気で今、自身の胃薬を調合するほど胃を痛めているのだが、残念ながら手紙ではルーチェに伝わらなかったようだ。
「おぉ、これは……」
最後の紙にブランが書いたと思われる汚い字で一文だけ添えられていた。
「どうでもいいから、タンポポの経過報告を送れ」
その一文を見て、ルーチェはみるみる青ざめる。
「やばい!送ってなかった!」
鍵付きの引き出しにしまってある木箱と紙束を急いで取り出す。木箱の中には一輪のタンポポが瑞々しく咲いていた。
しかし、貰った時のようなキラキラした魔力の粒子は消えてしまっている。
実は、ブランから貰ったタンポポ、なぜか増殖しなかったのだ。
入学式前、ブランに放った失言のことを考えたら好都合だが、興味関心には勝てない。
増殖しない理由と花守に伝わる魔術具の改良方法を考えていたら経過報告を送るのが遅くなってしまった。
ルーチェは慌てて作り置きしている紙の封筒を取り出した。日本にいた時は封筒は日常生活に当たり前にあったが、今の生活では手紙は直接折り畳んで渡すのが基本だ。秘匿性の高い手紙は木箱に入れて渡すらしいが、嵩張ると申し訳ないので手作りの封筒を作成した。
小学生の時に友達とのお手紙交換で、大量に封筒を作っていたのが役に立った。
手紙の返事を封入して、シアラとエリオのいる訓練場に向かった。
通常セルヴァイアに来た物、送る物は検閲室を通される。しかし、今回の騎士団から研究室への依頼は極秘任務だ。特別にシアラ達を通して内密に手紙のやり取りをしている。
(シアラ様達は今訓練場だよね)
シアラ達はこの時間帯に訓練をしている。
もうすっかり日が暮れている今お邪魔するのは気が引けるが、シアラとエリオは明日の朝城へ一時帰還する。渡すなら今しかないのだ。
失礼だとは思いながらもルーチェは訓練場へ向かうことにした。
訓練場は競技場の近くにある。競技場ほどの大きさはないが、立派な建物だ。
人気のない渡り廊下を歩いて行くと訓練場に灯りがついているのが分かった。他の建物にはもう灯りがなく、訓練場の灯りは非常に目立っていた。
そのおかげでルーチェは迷わず目的地に辿り着くことができた。
重い両扉が少しだけ開いている。中を覗くと先にシアラの姿が見えた。
ホッとしたのも束の間、そこには思いがけない人物達がいた。
(なんでラオブルート様とエルネスト様がここにいるの!?)
あまり顔を合わせたくない人達までいるのは厄介だ。
扉を背に恐る恐る中の様子を窺うと何故か激戦が繰り広げられていた。
エリオ対ラオブルートとエルネストの一対ニの状態で戦っている。
エリオはラオブルートの攻撃魔法を防御結界で防ぎながら、エルネストの木刀の物理攻撃を同じく木刀でいなしている。
「ちょっと待って!!一人ずつってさっき……うわっ!危ないってば!」
エリオは今にでも悲鳴を上げそうになりながら二人の相手をしている。そんな情け無さとは裏腹に戦いの技術は高度だ。
(なんでこんな状況に……)
なんとかシアラに気づいてもらえないだろうかと扉の前をうろうろしていると、回復薬を飲みながらエリオ達を眺めているシアラと目が合った。自然に席を外しこちらに来てくれる。
(シアラ様さすが……!)
「ルーチェ様、どうされましたか?」
「気づいてくださってありがとうございます……!研究室まで取り急ぎご連絡したいことがありまして、こちらのお手紙を届けてくださいませんか?」
「ええ。確かに承りました。明日渡します」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。それでは……」
エルネストやラオブルートに気づかれないようにそそくさとその場を後にしようとした。
だが……。
「ん?ハイアンか?なぜそこにいるのだ?」
扉の向こう側からエルネストの声がハッキリと聞こえ、ルーチェは硬直した。扉はシアラがしっかりと閉めているので姿が見えたというわけではなさそうだ。
(魔力探知……)
ところ構わず探知してしまうのは魔力探知が急成長している証拠である。
そして、まだ制御しきれていない証拠でもある。
どう誤魔化そうか迷っていると、中からルーチェより動揺した声が聞こえてきた。
「エエエエエルネスト殿、ルーチェ嬢がいらっしゃるのか!?どこに!?!?」
その声を聞いたシアラは何やら考えた後、ルーチェの手をとった。
「ルーチェ様も一緒にいかがですか」
「えぇぇ」
だがここで帰って後でアドルフィーネの前でエルネストに問いただされても困る。
「少しだけなら……」
(あぁ。もう寝たかったのにぃぃ……)
心の中で泣きながらルーチェは中に足を踏み入れた。
どうやら、エルネストとラオブルートはジルベルの正体がエリオだという噂が広がってからエリオがいるこの時間帯に毎日ここで訓練をしているようだ。
エリオは昼食後の休憩時間も訓練をするのが日課だ。しかし、訓練の邪魔になるほどエリオに詰めかける学生が殺到した。
手合わせをして欲しいとか、稽古をつけて欲しいとか……。中にはさりげなく関係を持とうとしてくる女子生徒もいたらしい。
とりあえずそういう人たちには「シアラを倒すことが条件」という無理難題を押し付けるとすぐに帰っていった。
そんな中、エルネストとラオブルートだけは帰らなかったとか。
もちろん二人がシアラを倒せるわけがないが、「そこまで言うなら訓練してあげればいいじゃない」というシアラの一声で今に至る。
エルネストはジルベルの本当の正体を知っている。何が目的でエリオに挑んでいるのだろうか。
エリオからはまた、「助けて下さいぃぃルーチェ様ぁぁ」というなんとも可哀想な目で見られてしまった。
しかしこればかりはどうしていいか分からない。二人の性格的にも満足してもらうまでやるしかないだろう。
シアラに案内されて少し離れたところで見学させてもらおうとしていると、ラオブルートが緊張した面持ちでこちらにやってきた。
そしてその場に片膝をついた。
(デジャヴ……!!!)
と思っていると、彼の口から出た言葉は謝罪の言葉だった。
「その節は大変申し訳ございませんでした……!私の浅はかな言動により、貴女を困らせてしまいました……!」
ルーチェは知らないが、ラオブルートはシルヴァンに陰で邪魔されながらも、謝る機会をずっと探していた。
彼はやっとシルヴァンに邪魔されない絶好の機会をシアラによって与えられたのだった。
「顔をあげてくださいませ、ラオブルート様」
ラオブルートは恐る恐る顔を上げる。そこには慈悲深い聖女の笑顔があった。
「全く気にしておりませんから」
「まった、く」
それはそれでラオブルートの心に酷く突き刺さる言葉だったが、ルーチェに悪意はなかった。
ラオブルートはフラフラしながらも眉に力を込め、言葉を続ける。
「それから、父に続き私からもお礼を。王城での事件のことです。下手人は我々の領地の者だったと聞いております。ルーチェ嬢はその者の確保にご協力下さったと。ダルスを代表し、感謝申し上げます」
「いいえ。わたくしは何も。ベネディクト卿にも申し上げましたが、わたくしはただ居合わせただけでございます」
「ご謙遜が過ぎます。父からはルーチェ嬢はそれはそれは凄まじい活躍だったと聞いております」
(いや、ベネディクト卿見てないよね!?)
混乱を招かないように花園や花守のことなどはラオブルートに伝えられていない。そのせいでダルス領主ベネディクトは抽象的な伝え方になってしまっているようだが、これ以上広げられるのも困るので、ここは素直に受け取っておくことにした。
「わ、わかりました。お礼を受け取ります」
王城でのやり取りと全く同じ流れである。
ラオブルートはホッとしたように胸を抑えた。
「この間の魔力対決、素晴らしかったです。訓練、頑張って下さい」
「……!ありがとうございますッ!」
「ど、どういたしまして!?」
ルーチェは話を切り上げるためにそう言ったのだが、地も揺れるような大きな声でお礼を言われ肩が飛び跳ねた。
ラオブルートは発作でも起こしたかのように心臓あたりを掴み、嬉しさを噛み締めていた。
(え、何その反応?)
クルリとルーチェに背を向けると、エルネストを相手にしているエリオに向かって今度は木刀で思いっきり切り掛かる。
「約束に二言はありません!!!師匠!!!」
「えぇぇぇぇぇ!!?いきなり何ぃぃぃ!!」
忙しそうでよく分からないが、いい加減エリオが可哀想だなと思いながらも止めには入らず、ルーチェは気になっていたことをシアラにコッソリ訊ねる。
「エルネスト様はジルベル様の正体を知っているのですが、それはご存知ですよね?彼は一体なぜエリオ様に稽古をつけてもらっているのですか?」
エルネストはシルヴァンを真っ向から嫌っている。その側近に近付くなんて、一体何を考えているのだろうか。シアラもエリオもあまり良い気分ではないだろう。
シアラはこうなった経緯を話してくれた。
「彼は最初、わたしたちがシルヴァン殿下の側近だと知りませんでした」
「え!?ですが、ノルディアの一件で顔を合わせたことぐらいは……」
エルネストがリュシエルに直談判しに生徒会室に押し掛けて来た時、シアラはあの場にいた。事情聴取でも何回か顔を合わせているはずだ。
「認識はしていても、シルヴァン殿下の側近だとは知らなかったようです。最初、エリオに声を掛けていた時『なぜ其方が皆にジルベル・マスカルドだと勘違いされているのか、可哀想に』と言って心底同情していましたから」
ルーチェは絶句した。
エルネストはあくまで『アドルフィーネの婚約者候補』としてシルヴァンを嫌っている。シルヴァンの周りにいる人間にまで興味がないのだ。この調子では、『生徒会長』と呼んでいたリュシエルのことも、よく知らないのではないだろうか。
普通、名前や殿下と呼ぶところを、彼は生徒会長と呼んでいたのだから。
「わたしたちがシルヴァン殿下の側近であることを伝えた上で、エリオが少し釘を刺したんです」
エリオは、側近としてこれ以上シルヴァンに嫌がらせをしないようにと、エルネストを牽制した。シアラの言い方からして、エルネストはおそらく少し痛い目を見ている。
「その際に、エルネスト様の魔力探知が開花していることを指摘する場面がありまして。そうしたら、エリオに弟子入りを願い出たんです。本人曰く、今よりも強くなって守りたい人がいると」
エルネストのある意味脳筋なところにルーチェは苦笑いするしかなかった。自分より強い人に稽古してもらうのは理解できるが、それが誰でどんな人なのかはまるで眼中にないようだ。
「ルーチェ様は、エルネスト様とご交流がありますよね。彼はどのような方なのでしょうか」
シアラはまだ若干の警戒心を滲ませながらエルネストの本質を探っている。シルヴァンに本当の意味で危害を加える存在かどうかを見極めたいのだろう。
「エルネスト様の中心はアドルフィーネですから。今聞いたお話しで改めて思いましたけれど、アドルフィーネ以外の情報に全く興味がないのでしょうね。シルヴァン殿下はアドルフィーネの婚約者候補という重要なお立場なので、エルネスト様の視野に入ったのでしょう。良くも悪くもただそれだけのような気がします」
「なるほど。わたしの解釈と相違ありません」
シアラは一つ頷いた。エルネストへの警戒心が先程より薄れた気がする。
「ラオブルート様はジルベル・マスカルドの正体を知らないのですか?」
「はい。完全にエリオだと思っています。彼は再戦目的でしたが、ダルス領主の息子だとしても、さすがにエリオには勝てません」
やはり、エリオとシアラは別格だ。
エリオには悪いが、魔力対決後、噂に尾鰭がついて神格化されていたジルベル・マスカルドの隠れ蓑として非常に適している。
「エルネスト様とは何か契約を?」
「はい。今回の魔力対決で得たシルヴァン様の情報を漏洩したり悪用したりする行為を禁じ、同じくアドルフィーネ様に対しても魔術契約を結びました。これを稽古の条件にしたんです」
シアラはもちろん、ジルベル・マスカルドの本当の正体を知っている人を把握している。
捕える学生に知られるのは問題ない。いつでも一方的に魔術契約を結ぶことが可能だからだ。
しかし、言いふらす可能性のある者に知られてしまうのは想定外だった。
「絶好の機会でした。魔術契約で縛ることが何より合理的ですし、稽古にかこつけて彼を監視することもできます」
稽古をしたくば、魔術契約を結べと言われたエルネストは迷わず契約を結んだという。
「アドルフィーネとも魔術契約を結んだのですか?よくエルネスト様が許しましたね」
魔術契約を破れば、破った方はただでは済まない。今回は王族であるシルヴァンの秘密を守るものなので、反故の代償はおそらく命。
そんな契約をアドルフィーネに結ばせたエルネストの想像がつかなかったが、シアラは首を横に振った。
「ご想像通り、それは叶いませんでした。その代わり、アドルフィーネ様が契約内容を破るような行動をとった場合、エルネスト様が処罰を受けるという契約を結びました」
「……」
ルーチェはエルネストの自己犠牲具合に唖然とした。
もしアドルフィーネが情報を漏らさざるを得なくなった状況に陥った時、エルネストは迷わず自分が処罰を受ける方を、アドルフィーネに選択させると思う。
シアラはルーチェの考えに答えるように「大丈夫です」と言った。
「この契約内容は事後報告ですが必ずアドルフィーネ様に伝わるようになっています。もしもの時アドルフィーネ様は簡単にエルネスト様を犠牲にするとは思えませんから」
淡々とした口調でそう言われてルーチェはハッとした。
エルネストの負担が大きいように見えて実はしっかりとアドルフィーネの縛りにもなっている。
「……彼女は以前と違い、殿下を見る目に何か打算を感じます。エルネスト様の反応から今一度確かめたかったのです」
エルネストは単純で素直だ。アドルフィーネを疑うようなことを言えば『アドルフィーネ様はアレの情報を言うような軽率なことはしない!』と断言していたらしい。
(シアラ様、凄すぎる……)
さすが第二王子の側近だ。シルヴァン本人には適当な態度でも、主を守るための根回しは見事である。
心の中で拍手していると、ルーチェに一つ疑問が浮かぶ。
「あの、わたくしも魔術契約結びます」
調査の協力だったとはいえ、ルーチェも色々知ってしまった。シアラ達もそれが安心だろう。
というか、結びたい。
反故にしなければ何も問題ないのだ。それよりも放置されているこの状態の方が落ち着かない。
シアラは少し考えるような素振りを見せたあと、首を横に振った。
「不要です。まだその時ではないですから」
「……」
珍しく、少しだけ口角を上げてこちらを見据える目はシルヴァンの目とよく似ていた。恐ろしい。
何かを企てているシアラを問いただす勇気もなく、ルーチェはただひたすらにベッドに帰りたくなった。
入り口の扉の方に若干体を向け始めていると、エルネストが尻もちをついて「ぐっ!?」という声を上げた。どうやら魔力切れになったらしい。
尻もちをついたまま腰につけている回復薬のコルクを抜こうとしたところでエリオが慌てて止める。
「エルネストくん、今日はもう終わりにしよう。短時間で何本も回復薬を飲むと魔力中毒になって危険だ」
エルネストの所持している回復薬の残数はその一本のみ。他は全て服用してしまったのだろう。
「エルネスト殿は魔力消費が激しいな。やはり攻撃魔法を覚えるより、魔力探知の制御が先ではないか?」
ラオブルートの意見は正しい。
魔力探知は精度や範囲によって使う魔力量を調整しなければならない。
その制御ができるようになるまでが一番大変なのだ。エルネストの場合、誰かに習ったわけでなく急に才能が開花したため、身体能力やイメージがまだ伴っていない。
そのため、ずっと魔力探知をしているような状態なのでその分消費魔力が多い。だからすぐに魔力切れになってしまうのだろう。
こればかりは魔力探知という感覚を噛み砕いていくように身体に慣れさせるしかない。
それを乗り越えれば、エルネストの魔力探知は常人より光るだろう。
魔力探知の可能性は無限大だ。極め甲斐があるし、ルーチェももっと極めたいと思っている。
「来週魔力探知の授業があるので丁度よかったですね、エルネスト様」
ルーチェはそう言って、この場をお開きにしようとした。エリオもその助け舟に乗っかった。
「さ、今日のところはしっかり休んで魔力を回復させた方がいい」
エリオは座り込んでいるエルネストの木刀を回収しようとしたが、エルネストはその手を掴んだ。目にはまだ爛々とした闘志が燃えている。
「もう一度……」
その目を見たエリオから先程までの狼狽えは消え去った。彼はどこか冷静にエルネストの目を見据える。
「自分の力は自分で制御できないとダメだ。今の君のその力は、いろんな意味で君の身に余ることを自覚した方がいい」
普段のエリオからは聞いたことのない落ち着いた声と厳しい言葉。しかし、その言葉は事実だ。そのことを誰よりも理解しているエルネストは悔しそうに床を睨みつけた。
ルーチェは、ノルディアでアドルフィーネを守れなかったことを後悔するエルネストの顔を思い出していた。あの時も自身を責めるような表情をしていた。
(強くなりたいって気持ちは本物なんだろうな)
エリオは木刀を回収しながらそんなエルネストを見てやれやれと首を振った。
「まずは魔力探知の制御から練習しよう。あ、今日はもう終わりね。次回からね」
エリオのその言葉にエルネストは顔を上げパァッと金色の目を光らせた。
「よろしくお願いしますッ!師匠ッ!」
「私のことも忘れずに師匠ッ!」
「師匠はやめてぇ!柄じゃないからぁ!」
弟子に詰め寄られて泣きそうになっているエリオは、なんとなく、他の動物に取り囲まれてどうしていいか分からなくなっている大型犬に見えた。
シアラはそんな相棒を見ながら小さく笑っていた。




