【2-20】あの日の誓い
今話をもちまして一旦、書き溜め、改稿の期間に入ります!
ぜひブクマしてお待ちください♪
勝負は一瞬だった。
「勝者、ジルベル・マスカルド」
レフェリーのその声で競技場は湧き上がる。
エルネスト・アーヴェルは、その歓声をどこか遠いところで聞いていた。
渡り合えると思っていた。
持久戦に向いている風属性が開花したおかげで、これまでの魔力対決は順調に勝ち進んでいた。
自分はこのままもっともっと強くなれる、と。
あの気に食わない第二王子を倒せる、と。
——アドルフィーネ様の将来を守れる、と。
ジルベル——もとい、シルヴァンとの対決。
シルヴァンは、持久に長けた風属性の攻撃魔法ではなく、水属性の攻撃魔法を使った。その時点でエルネストはなんとなく察してしまった。
今の自分では到底シルヴァンには勝てないことを。
(戦い方がまるで違う)
エルネストは悔しくて、誤魔化すようにシルヴァンを煽ることしかできなかった。
そうして煽るために黒衣の魔法使いの話になった途端、シルヴァンの雰囲気がガラリと変わったことを肌で感じた。
(そういえば、アイツ、黒衣の魔法使い様が誰かの命を狙っているとかなんとか言っていたな。アイツは黒衣の魔法使い様が嫌いなのか)
「エルっ!大丈夫?」
エルネストが地雷を踏んでしまった時のことを思い出していると、愛しい声がエルネストのことを呼んだ。その声で、今まで考えていたことはスコーンッと頭から抜け落ちる。
「アドルフィーネさまぁぁ!!」
駆け寄ろうとしたら、くらりと立ちくらみがした。足に力が入らず、そのままアドルフィーネの足元へ派手に転んだ。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
「ええ……。アドルフィーネ様のお声で眩暈が……」
倒れ込んだまま顔だけを上げるとツーッと鼻血が垂れた。身体はピクリとも動かない。
鼻血が出ているのに顔だけは笑顔でなんとも不気味だ。
「バカね。それは魔力を使い過ぎたせいよ。わたくしのせいにしないでちょうだい」
そんなエルネストを見てアドルフィーネは呆れたようにハンカチで鼻血を拭いた。そしてエルネストの手を肩に回しなんとか起き上がらせて控室の椅子に座らせる。
「ありがとうございます……。情けないです……」
「まったくだわ」
ノルディアでアドルフィーネを危険な目に合わせてから、エルネストは自身の弱さを痛感した。
もっと強くなりたいという一心から魔力対決を経て、強くなっているつもりでいた。しかし、結果はこのザマだ。なにより、守りたいと思っていたアドルフィーネに今も助けられている。
椅子に座って項垂れていると、エルネストの表情を覗き込むようにアドルフィーネがその場に屈んだ。
「……あの時、貴方がわたくしを助けてくれたあの日、わたくしは貴方に——エルネスト・アーヴェルに一生を掛けて恩を返すと誓ったの」
「アドルフィーネ様……?」
「貴方がわたくしを守りたいと思っているのと同じぐらい、わたくしも貴方を守りたいと思っているのよ」
アドルフィーネの真剣な表情と思いもよらない言葉にエルネストは大きく目を見開いた。
単純な喜びと、なんとも言い難い不甲斐なさが混ざり合ってエルネストは口をパクパクとさせるしかなかった。
「だから、無茶なことばかりしないで。……属性が増えたなんて重要なこと、一切教えてくれなかったじゃない」
「それは……。申し訳ございません」
バツが悪そうにエルネストは下を向く。
人工精霊が関わっている可能性がある以上、余計な心配をさせたくなったし、まだ使いこなせている自信がなかったこともあり、属性が増えたことをアドルフィーネに言えずじまいだった。
アドルフィーネはエルネストの手にそっと手を重ねた。
「……わたくし、道を示して下さった黒衣の魔法使い様に、いつか霧の晴れたノルディアを見せたいの。わたくしが導いたノルディアを」
「ええ。存じております。そのために、貴女が成そうとしていることも。私は貴女が望みを叶えるところをお側で見守りたい。……そのために私は強くなりたいのです」
エルネストがそう言うと、アドルフィーネは困ったように小さく笑った。
「お互い、まだまだね」
その笑顔を見て、エルネストはとてつもなく眩しいものを見ている心地になった。
(本当に、成長されている)
以前は出来ないことがあるとすぐに泣き出し、癇癪を起こしていた。
そして必要以上に将来を悲観していた。
エルネストにとってはそれも非常に可愛らしいと思っていたが、今のアドルフィーネは将来に希望を抱いているように見える。
(見ていたい、見ていたい!一番近くで!アドルフィーネ様の将来を!)
その席に自分以外の誰かを座らせたくない……!
「アドルフィーネ様、私は……!」
「あ!そろそろジルベル様の対決が始まるわ!早く行かないと!」
エルネストの一大決心をアドルフィーネは華やいだ声で遮り、くるりと観客席へ方向転換した。
エルネストはガクリと項垂れて拳を握った。
(くぅっそぉぉ!!姿を隠してもなお、私の邪魔をするか……!!次は絶対に絶対に絶対に勝ってやる!)
エルネストは魔力切れの手を動かしてなんとか回復薬を飲み、まだ効いてもないのに気合いで足を動かしてアドルフィーネを追いかけた。




