【2-17】決勝
《!毎日20時に連載中!》
睡眠のお供にどうぞごゆるりとお読みくださいませ。
シルヴァンを見送った後、ルーチェは観客席に戻ろうか戻るまいか一瞬迷った。
(アドルフィーネもエルネスト様のところにいるし、薬物の件もひと段落ついたし……)
正直もう部屋に帰って寝たかったが「何故いなかったんだ!?」というシルヴァンの声が聞こえた気がしたので、渋々観客席に戻ることにした。
観客席に戻ると、先程までいた席にアドルフィーネとエルネストがいた。
「あ、アドルフィーネ!戻ってたんだ」
「よかったわ。ルーチェもまだいたのね」
アドルフィーネはなんだか機嫌が良さそうだ。一方エルネストはムスッとしている。
「シルヴァ……ジルベル様の決勝戦楽しみね」
(ああ、なるほど。だからエルネスト様はあんなに不機嫌なのね)
いよいよシルヴァンとラオブルートが入場してきた。今までにないくらいの歓声が沸き起こる。
その中でもラオブルートを応援する声は一際大きく、そのほとんどがダルス領の者だ。
(シルヴァン様、ラオブルート様と闘う分の魔力どれだけ残ってるのかな)
顔色に変化はなかったが、上手く隠せる者もいるので実はもう限界の可能性だってある。
まぁそれはラオブルートにも言えることだが……。
ルーチェが目を凝らしていると、エルネストは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「フン!あいつ余裕ではないか。余力だけみれば、あいつが勝ってしまう」
「本当!?ですって。ルーチェ」
アドルフィーネは楽しそうに声を弾ませたが、ルーチェはエルネストをじっと見つめた。
「なぜそう思うのですか?」
「なぜって、先程も言ったではないか。私は鼻が効くんだ」
確かにエルネストは勘がいい。だが、今の発言はそれだけでは説明がつかない。
(今のは確実に魔力探知だ)
属性が増えたことといい、今の魔力探知といい、生まれつきの勘の良さに加え何か才能が開花したのだろうか。本人にその自覚があるかは分からないが。
教師の声と共に試合が開始した。
決勝は、他の試合より制限時間が短い。そのため、的が吸収した魔力量で勝負が決まることも多いらしい。
「ジルベル様もラオブルート様も火属性の攻撃魔法だわ」
決勝戦の特性上か、両者魔力量の多い火属性魔法を使うようだ。
「熱っ!」
ボゥボゥと炎が音を立てて競技場の温度を上げる。熱風が観客席にまで伝わってきた。
シルヴァンは三回戦目で使った火矢の圧縮されていないバージョンで的に攻撃を入れている。今度は手で放つのではなく弓を引いている。その姿はフードを被っていても絵になっていた。
ラオブルートは火の玉を両手に出し、左右交互に的に攻撃を入れていた。まるでハンドボールを投げているような軽々しさだ。
そんな拮抗した状況にアドルフィーネはもどかしそうにギュッと拳を握る。
「エルの嘘つきっ!全然拮抗しているじゃない!」
「ああ!怒っているアドルフィーネ様も大変可愛らしい」
このまま制限時間を迎えるだろうと思われた時、ラオブルートのペースが乱れ始める。
「落ち始めたね」
そして今まで安定して放った火の玉は軌道がズレ、的の少し上に当たった。一撃としてカウントされていない。
「あ!外れてしまったわ!」
すぐに左手の火の玉を投げ三秒ルールを回避するが、まだ右手の火の玉が出来上がっていない。
「うぉおぉぉぉぉッ!」
このまま負けてしまうかと思われたが、ラオブルートは雄叫びをあげながら右手の火の玉を急速で生成し、ぶん投げた。
攻撃の生成スピードが上がり、次々と的に投げ入れる。
「おお!ラオブルートとやら、やるではないか!」
エルネストは余程シルヴァンに負けて欲しいのか、前のめりになりながらラオブルートを応援し始めた。
(これが『火事場の馬鹿力』)
このまま制限時間までラオブルートが保てば、魔力量でシルヴァンが負けてしまうだろう。だが、シルヴァンは慌てた様子はなく、攻撃スピードが早まることもない。
ラオブルートはどうやら冷静さを失っている。
(あの使い方は諸刃の剣だよ)
案の定、制限時間十秒を切ったところで、快調だったラオブルートは突然ガクリと膝をついた。猛撃が止まる。
「ああ!ラオブルート様ーーッ!頑張って下さいーーーッ!」
悲鳴にも似た声がダルス領の学生がいる観客席から聞こえる。
「大丈夫かしら!?」
それに感化されたのか、シルヴァンの活躍を見にきたはずのアドルフィーネも拳を握りラオブルートが立ち上がるのを応援していた。
ラオブルートは片膝をついたままなんとか攻撃を作り出そうとするが、時間は容赦無く三秒を刻んだ。
「くっ……」
ラオブルートは力無く項垂れた。
「勝者、ジルベル・マスカルド」
初参加の謎の生徒は武の領地の次男、ラオブルート・ダルスを何の小細工もなく、正面から打ち負かしたのだった。
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