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公爵令嬢はスヤスヤ眠りたいだけ。  作者: はっぱ
【第二章 入学編】

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【2-15】お姫様抱っこの破壊力

《!毎日20時に連載中!》

睡眠のお供にどうぞごゆるりとお読みくださいませ。

「残りの二人もやはり一時的に魔力量が増えていましたね」

 

 第三試合は隣で行われたラオブルート達の対決と違い、制限時間いっぱいを使った激戦だった。両者薬物関与を疑われている生徒同士の試合だ。

 薬物を使っているせいか、普通なら制限時間内で勝敗がつくはずの基礎魔力量だが、最終的に的の魔力量で勝敗が決まった。

 

 薬物の効力は凄まじいようだ。

 四人を観察した上でルーチェは一つの仮説を立てた。

 

(あれは薬物というより、もしかして……)

 

 だが予測の域を出ない。証拠を見つけなければならない。

 

「あ、来ましたね」


 準備が終わり、三回戦目が始まる。

 三回戦目は二試合だけなので一試合ずつ行われるようだ。

 シルヴァンと彼の相手、アースディアが入場してくると歓声が上がった。

 

「マスカルド!君に賭けているんだ!絶対勝ってくれ!」

「では、私は相手の方に賭けよう」

 

 周囲からは二回戦目の動揺した声ではなく、謎の生徒の活躍を楽しむような、面白がるような、そんな声が多い。

 シルヴァンは軽く手を振って応えただけだった。

 

「……あの人達、シルヴァン殿下だって分かったら気絶しそうですね」

「バレないように努めましょう」

 

 準備が整うと、両者位置につく。

 

「アースディアさん、顔色が先程より悪いですね」

「このために薬物を使用したのでしょうか」

 

 もうギリギリの状態だ。いつ倒れてもおかしくない。顔色は悪いが、全身に魔力が漲っていて、目だけはギラギラしている。容疑者四人の内、一番重症なのがアースディアだ。

 

 シルヴァンが一瞬チラリとこちらを見たのが分かった。ルーチェは静かに頷く。

 

 教師が大きく腕を振り下ろすのを合図に試合は開始した。

 

「な、なにやってんだ?あいつ」

 

 シルヴァンは計画通り火属性の攻撃魔法を放った。だが、その攻撃魔法は二回戦目のように派手な轟音を響かせるわけではない。

 

 放たれた攻撃魔法は細くて鋭い火矢のような形をしている。

 的に刺さると火矢は燃える一本の管のようにシルヴァンの掌と的を繋いだ。

 

 これは、極限まで攻撃魔法の魔力を圧縮した攻撃魔法だ。一見してラオブルートのように一撃が長い攻撃魔法を放っているように見えるだろう。

 

 圧縮しているとはいえ、消費魔力の大きい火属性魔法かつ、シルヴァンの魔力量なので的の基準値はクリア。

 一撃の攻撃魔法としてカウントしてくれている。

 

 だが、あくまで的に刺さった火矢は管として繋がっているだけだ。

 

(うまっ……)

 

 ルーチェは静かに言葉を失った。計画した本人が言うのもなんだが、土壇場でここまで魔力濃度を上げられるとは思っていなかった。

 

「おい!何してんだ!?」

 

 訳のわからないシルヴァンの攻撃魔法に周囲は困惑する。アースディアもニヤリと笑って何やらシルヴァンを煽っているのが分かる。

 

 そんな周囲の声は完全に無視して、シルヴァンは集中する。

 

 やがて、少しだけ手首を捻った。

 

 的に入っている圧縮された魔力を一気に解放するためだ。

 

 そうすると、的の中の魔力量は何倍にも増え——。

 

(一気に、弾け飛ぶ)

 

 パリーンッとガラスが割れるような音と共に的が壊れた。

 的だった物はサラサラと魔力の残滓を残して消えていく。魔術具が魔力を飽和して壊れる時の特徴である。

 これが、ルーチェが考えた的の魔力容量を攻撃魔法一撃で満たす方法だ。

 

 その様子に競技場全体がシンッと静まり返った。

 

 教師もアースディアも驚きに目を見開いたまま固まっている。

 

「レフェリー」

 

 シルヴァンが審判を促すと、固まっていた教師はハッとして咳払いをした。

 

「勝者ジルベル・マスカルド」

 

 ルーチェの想像を超えた一瞬の間で勝敗は決まった。

 勝者の名が静まり返った競技場に響くと、歓喜の声が上がった。

 

「的を壊しただと!?」

「あいつは一体誰なんだ!?」

 

 学生の興奮とは違い、真っ青になっている教師陣を見てルーチェは少し申し訳なくなり、そっと目を逸らした。あの的の魔術具は学園の備品とはいえ、相当高価な物のはずだ。

 

(まぁ、セルヴァイアだからね。お金ならいくらでもあるでしょ。多分)

 

 それよりも、腰を抜かしてガタガタ震えているアースディアを早急に確保しなければならない。

 暴走しかねないとも思っていたが、あの様子だったら大丈夫そうだ。

 

 フッと息を吐こうとした瞬間、アースディアは懐から何かを取り出した。

 

「あれは……!」

 

 握られているのは手のひらサイズの小瓶。一見してただの回復薬にも見える。だが、アースディアの焦点の合っていない目を見れば、ただの回復薬とは思えない。

 周囲は興奮も醒めらぬ状況でアースディアの行動を誰も見ていないようだ。

 

「まさか今服用するつもり!?」

 

 ルーチェの尖った声を聞き、エリオはヒュッと息を呑んだ。

 これ以上の魔力増幅は本人も制御できない暴走に繋がりかねない。周囲を巻き込んでしまう。

 いや、勝敗が決した今もなお服用しようとしていることからして、もうすでにまともな判断ができなくなっている。

 

 焦りを滲ませるエリオは、アースディアの側にいるシルヴァンを守ろうと観客席の手摺りに登り、そこから下へ飛び降りようとした。

 

「待って。エリオ」

 

 しかし、咄嗟に動いたエリオの首元をシアラがガッと掴み制止した。

 首元を掴まれたエリオはバランスを崩して派手に転ぶ。彼は咳き込みながらシアラを睨んだ。

 

「ッゴホゴホ……。なんだよシアラ!?」

「今エリオが動いたら、隠(・)れ(・)蓑(・)作戦ができなくなる」

「は、え、は?」

 

 エリオがポカンとしていると、歓声に包まれていた競技場が別のどよめいた雰囲気に変わった。

 

 ルーチェは眼下を見下ろし思わず顔を引き攣らせる。

 なんと、シルヴァンがアースディアをお姫様抱っこして運び出したからだ。

 

「顔色の悪い対戦相手を運んでいらっしゃるわ」

「あんなに軽々と……。なんて素敵な殿方なのでしょう」

 

 この異様な光景は何故か一部の令嬢に刺さったようだ。

 一方、シルヴァンに何か吹き込まれたアースディアは始めから悪かった顔色をもっと青くした。

 

(あ、これバレたな。あの角度なら顔が丸見えだ)

 

 呆気に取られて動けないアースディアは薬物を服用する暇もなく、ただされるがまま運ばれている。


 手の置き場に困ってるのか胸元でギュッと握りしめている様子もあいまって、まるで本当にお姫様のようだった。

ルーチェは魔力圧縮の方法を乾燥ワカメから着想を得ました。

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