【2-13】エルネスト対ジルベル(正体:第二王子)
《!毎日20時に連載中!》
睡眠のお供にどうぞごゆるりとお読みくださいませ。
シアラ達との話を済ませたルーチェは急いで席に戻った。
競技場全体は、半分に分かれていて、二回戦目の第一試合と第二試合が二つ同時進行で行われている。
シルヴァンが入場して来た途端、競技場全体がどよめいた。
一回戦目の雰囲気がどうだったか分からないが、紺色のフードを被って顔を隠しているので、どうしても好奇の目に晒される。
「やはり今回も顔を隠すか」
「一体何者だ?」
「最初見た時は黒衣の魔法使い様かと思いましたわ」
そんな声が周囲から聞こえ、ルーチェは顔を顰める。
(わたし、あんな感じ?)
魔力対決のルールは単純だ。制限時間内で、どちらが長く攻撃魔法を放つことができるか。
十メートルほど先に大きな的があり、その的を目掛けて魔法を放つようだ。
「じゃあ、ずっと少ない魔力でちまちま攻撃したらいいじゃない」
ルーチェの疑問にアドルフィーネが首を横に振った。
「それじゃあダメだわ。あの的には測定機能があって、決められた魔力量を越える魔法を検知できなければ、その時点で負けになってしまうの。因みに、有効な攻撃魔法から次の攻撃魔法まで三秒以内に的が魔力を検知できなかった場合も負けになるわ」
「なるほど」
的は壁のように大きいので最初は外すことはまずないだろうが、疲労などで的まで攻撃が届かなかった場合、三秒以内にまた攻撃魔法を放たなければならない。攻撃魔法は出力する瞬間に最も魔力を使うので三秒ルールがあるのはキツイだろう。
(結構トレーニングとして考えられているなぁ)
この競技、魔力量を競うというが、どうやらそれだけではない。求められるのは安定して攻撃魔法を放つ安定性と集中力だ。
「制限時間内まで二人とも魔力切れにならなかった場合は?」
「的が吸収した魔力量が多い方の勝ちになるわ。でも大体どちらかが魔力切れになって勝敗が決まるみたい」
また、両者同じタイミングで脱落した場合も的が吸収した魔力量で勝敗が決まる。
つまり、少しでも長く魔法を放つためのポイントは、的が許す基準値ギリギリを狙うことと、たった三秒の間隔をたっぷり使える度胸と時間感覚の正確さだ。
いよいよ試合開始の鐘が鳴った。
「はじめ!」
教師が大きく腕を振り下ろすのと同時に二人は攻撃魔法を放った。
シルヴァンは水属性の攻撃魔法、一方エルネストは風属性の攻撃魔法だ。持久戦と風属性は相性が良いので属性だけ見ればエルネストの方が有利だろう。
エルネストは余程集中しているのかいつもと雰囲気が違って見える。
「エルネスト様の得意属性は風?」
ルーチェはアドルフィーネにそう訊ねてみたが返事がない。
「アドルフィーネ?」
「……違うわ。エルの得意属性は火よ。……属性が増えたんだわ」
アドルフィーネは顔を強張らせてそう言った。得意属性は生まれ持った属性で、そのほとんどが遺伝だ。属性を増やすことはできなくもないが非常に難しいと聞く。
ルーチェの心臓はドキッと跳ねた。
(……もしかして、あの時人工精霊に飛行魔法をかけられた影響?)
飛行魔法は風属性の属性魔法だ。適性がなければ行使できない。
定かではないが、常識の通じない精霊だ。その影響は人間の属性にまで及ぶか。
属性が増えたことは喜ぶべきことだ。しかし、アドルフィーネの表情は固い。
彼女も人工精霊の事情だけは聞いているので、同じ可能性を考えているのだろう。ルーチェは知らないフリをしなければならない。
「なかなか属性を増やすのは難しいらしいよ。エルネスト様はすごいね」
「そ、そうよね。すごいことよね。結果こうやって風魔法が使えているわけだし」
なるべく明るく言うと、アドルフィーネも曖昧に笑った。
両者同じタイミングで放っていたのが、徐々にズレ始める。エルネストの間隔が少々遅れている。
「魔力の消費量で言えば、どれが一番大きいのかしら」
今度はアドルフィーネがルーチェに訊ねる。
「火、土、水、風の順番だと思う。だからエルネスト様は持久にはうってつけの風を選んだんだろうね」
「じゃあ、シルヴァン殿下は風属性をお持ちになられていないのね」
「……そうかもね」
否。シルヴァンは風属性を持っている。
ルーチェは先日、旧校舎のシルヴァンの秘密基地にお邪魔した時のことを思い出していた。あの時シルヴァンはルーチェを閉じ込めるため、確かに風魔法を使っていたはずだ。
……ということは、シルヴァンは風よりも消費魔力が多い水魔法を使っても、エルネストに負けることはないと思っているのだ。
(こりゃあ、エルネスト様怒るだろうなぁ……)
◆ ◆ ◆
案の定、実際隣にいるエルネストはそのことに勘付いていた。そしてギリギリと奥歯を噛み締める。
(なんとナメた真似を……。相変わらず私なんぞ眼中にないのだろうな)
今すぐにこの攻撃魔法の的をこのいけすかない王子に変更したい。
そんな衝動を抑えつつ、エルネストは攻撃魔法を撃ち続ける。
「集中しろ、エルネスト・アーヴェル」
シルヴァンはエルネストにしか聞こえないぐらいの声で呟いた。
(ふ、なるほど。こうやって声を掛けて私の動揺を誘う作戦なのだなぁ?)
「そのようなフードを被り、一体何が目的なのだ」
「君の勘には恐れ入ったよ」
シルヴァンは涼しく笑いながら、エルネストの質問には答えようとしない。
その貼り付けたような綺麗な笑顔がエルネストの目にはいつも不気味に映る。
なぜ皆気づかない。この王子の本性に――。
「そのフード、黒衣の魔法使い様の真似事か?全く似合っていないぞ。あの時私が見た黒衣の魔法使い様はもっと威厳があった。……いやぁしかし意外だったなぁ。皆に憧れられている王子様でも、彼には憧れるのだなぁ?」
エルネストは黒衣の魔法使いと比較してシルヴァンを揶揄する。
盛大な地雷だとも知らずに。
「……」
シルヴァンの顔から笑顔が消える。
その異様な気配を感じ取ったエルネストの全身が粟立った。
「…………私が?……人工精霊と繋がってあの子の命を狙っている可能性のある人間を?憧れる?」
シルヴァンは低くそう呟くと、攻撃魔法を止めた。
「は?何を……」
時間としてはほんの一瞬だ。
しかし、その威圧感をこの場にいる者全員が感じ取った。
競技場全体の時間が止まったかのような感覚に陥る。
次の瞬間、シルヴァンは競技場全体が揺れるほどの攻撃魔法を一撃、的へ放った。
水魔法が繰り出したとは思えない轟音が響き渡る。
「それはありえないだろう、エルネスト・アーヴェル」
エルネストはその攻撃魔法に目を奪われ、正確には本能で負けを悟り、攻撃の手が止まってしまった。
無情にも三秒が経過する。
「……そこまで。勝者ジルベル・マスカルド」
◆ ◆ ◆
「今の、何だったのかしら……」
アドルフィーネは目をパチパチさせる。エルネストとシルヴァンの会話はアドルフィーネとルーチェには聞こえていないので、なぜ急にシルヴァンが規格外の攻撃魔法を放ったのか、理由は分からない。
可哀想なのは、同時進行で行っていた隣のブロックの人達だ。とんでもない轟音に動揺して二人とも同時に攻撃魔法を止めてしまい、結果、両者余力を残したまま的が吸収した魔力量で勝敗が決まった。
ルーチェは、いや黒衣の魔法使いは確かに感じ取っていた。
(なんか、やばい気がする……。シルヴァン様からすごい怒気を、いや、殺意を感じた……)
何をどうしたらいいのか分からないが、早々にどうにかしなければ確実に殺される……と黒衣の魔法使いは密かに戦慄いていた。
一方アドルフィーネは退場していくエルネストの背中を見つめる。
「ルーチェ、悪いけど、わたくしエルのところに行ってくるわ」
「うん。分かった」
心配そうなアドルフィーネをルーチェは見送った。
「何か分かりましたか?ルーチェ様」
背後で今の対決を観戦していたシアラとエリオがアドルフィーネがいなくなったのを確認した後、ルーチェに声を掛けた。
「はい。もう一つのブロックの先程勝利された方、あの方、相当危険な状態ですよ」
「一年生のアースディアですね」
ルーチェはシルヴァンとエルネストの試合の傍ら、隣で行われている試合を観察していた。
シアラに渡された観察対象が書かれてあるメモを見ながら眉を顰める。
ここに書いてある人達がどのように違法薬物に関与しているのか分からないが、少なくとも、アースディアは何かしらの薬物を使用している可能性が高い。
「開始前から目は虚でしたし、攻撃一つひとつが的の基準値を大きく超える魔力量でした。彼の基礎魔力量に見合いません。中毒になっているのではないでしょうか。あのまま攻撃を続けていたら倒れていたと思われます」
「じゃあ、私の先程の攻撃魔法は英断だったわけだな」
突然背後から聞こえた声に三人仲良く肩が飛び跳ねた。
「シ、シルヴァン様……」
「おいお前ら、ルーチェに何を吹き込んだ?」
紺色のフードは被ったまま、涼しげなお声だけが聞こえてくる。
エリオがダラダラと汗を流す一方で、シアラは悪びれる様子は微塵もなく、「違法薬物に関与していると思われる生徒の観察を手伝ってもらっています」と正直に答えた。
「報酬はきっちり支払いますので」
「そういう問題ではないのだが」
シルヴァンは素直なシアラに呆れながら、ルーチェにも呆れた目を向ける。
「君を見つけた時、まさか参加してるのかとびっくりしたぞ。今日はアドルフィーネ嬢とお茶会ではなかったのか?」
(な、なんでアドルフィーネとお茶会だったって知ってるの!?)
問いただすのはなんとなく恐ろしかったので、そこには触れず、ニコリと笑う。
「トーナメント表を見ればわたくしの名前がないことぐらいお分かりになるでしょう?」
そう言えば、シルヴァンは「ああ、確かに」と手を打った。
おそらく、自分自身が名前を偽り正体を隠して出場しているのでその判断が頭になかったのだろう。
「シルヴァン殿下の次の対戦相手は、先程の薬物中毒の方です。どのようになさるおつもりですか?」
一撃であの魔力量だ。シルヴァンが負けるとは思っていないが、タガが外れた相手は誰であろうと怖い。注意するに越したことはないだろう。
協力すると決めたルーチェの意思は固い。少数精鋭故に人手も足りていない今、魔法に詳しいルーチェの協力はありがたいので、シルヴァンは渋々受け入れた。
「薬物中毒者にこれ以上の魔力を使わせるのは危険だ。対決を最短で終わらせ、彼を救護棟に送る必要がある。そして情報を吐かせる」
「最短?基本的にこの対決は持久戦ですよね?」
また周囲の意表をつくような攻撃魔法を放つつもりなのだろうか。
次の相手であるアースディアは先程のとてつもない魔法を間近で感じた人だ。きっと同じ手は通じないだろう。
「ああ。基本的には、な。だが裏技があるんだ。膨大な魔力量を持っている者にしかできない裏技がな」
シルヴァンはなぜか意地悪な笑みでルーチェを見た。そして、流れるように眼下を見下ろす。視線の先には魔力を吸収する的の魔術具がある。
「的の魔力容量を満たすほどの攻撃魔法を打ち込めば、その時点でそちらの勝ちだ」
「はい!?」
ルーチェは思わず素っ頓狂な声を出してしまった。そして的を見つめて考える。
あれは魔力を吸収する魔術具だ。
一試合一試合が終わるごとに吸収された魔力を抜き取っているようなので無尽蔵ではないことは確かだ。
だがそれは同時に、まっさらの状態でまた一から魔力を込め直さなければならないことを意味している。
(通常じゃあ絶対に考えられないけど、理論上できなくは、ない)
考え込むルーチェをシルヴァンは面白そうに見つめていた。
「君なら案外簡単なんじゃないか?花園のあの頑丈な扉を一撃で木っ端微塵にしたのに比べれば、なんてことないはずだ」
その現場を見ていたシアラは一つ頷く。
「ルーチェ様、殿下の場合、あの的はどのくらいの攻撃魔法で容量を満たせるかお分かりになりますか?」
シアラにそう訊かれ、ルーチェは考える。
だが、それを言うにはシルヴァンの属性を把握しなければならない。王族の場合、属性は秘匿されることの方が多い。シルヴァンの属性も公にはなっていない。
(面倒だけど、これはさすがに言葉を選ばないと)
「先程のシルヴァン殿下が放たれた規模の攻撃魔法を五発入れれば、理論上は満たされるかと」
「アレを五発……」
エリオとシアラは顔を引き攣らせた。
思っていたより的の容量が大きかったようだ。
確かに、持久戦を目的とせず、あの規模の攻撃魔法を三秒ルールを守りながら五発も撃ち続けるのは魔法使いでも難しい。
シアラとエリオはチラリとシルヴァンを見る。そして彼は一つ頷いた。
「火属性の攻撃魔法だったらどうだ?」
ルーチェは思わず目を見開いた。火属性ならば一度の攻撃魔力量が最も多い。
(使えるんだ)
「……火属性魔法ならばおそらく二発で満たされると思います。……あの、属性に関するお話はわたくしが聞いて良いことでしょうか。だからこそ正体を隠しているのでは?」
現時点でシルヴァンは火、水、風の属性を持っていることが分かってしまった。
一令嬢が王族の属性を知ってしまったのだ。別にこの情報を悪用する気はないが、ここまで簡単に公開されると「お前如き、どうとでもなる」と言われているようで怖い。
ルーチェが静かに震えていると、シルヴァンは揶揄うように片眉を上げた。
「この情報を利用するのか?」
ルーチェがぶんぶんと首を横に振るのを見てシルヴァンは満足したように「それならいいじゃないか」と言った。
(いや、よくはないよね!?)
反論したくてプルプル震えていても、話は進んでいく。
「火属性攻撃魔法二発ですか……。三秒以内に撃てます?」
エリオが訊くと、シルヴァンは少し不機嫌そうに顔を顰めた。
「……撃てる」
「本当ですかぁ?」
エリオがフードの中を訝し気に覗くと、シルヴァンに顔面を鷲掴みにされたエリオは「いただだだだ」と暴れた。
エリオの言う通り、懸念点は三秒ルールだ。
(…………あ)
ルーチェは火属性攻撃魔法一発で容量をいっぱいにする方法を閃いた。
「何か手があるのか?」
ルーチェの心を見透かしたシルヴァンはルーチェに期待の目を向ける。
「ですが殿下の負担になることを提案するのは、またお父様に叱られます」
ルーチェの言い分にシルヴァンは「ふむ」と何か考えるように顎に手を置いて、キラリと目を光らせた。
「以前君が気に入っていた寝具の布のことだが……」
「へ」
『寝具』という言葉にルーチェの頭は空っぽになる。そして別の意味でエリオとシアラも頭が空っぽになった。
「寝具!?」
「シルヴァン殿下……」
あらぬ誤解をして顔を顰めている二人には反応せず、活路を見出したシルヴァンは笑みを深めた。
「公爵令嬢のお気に召したことを布を作った職人に伝えたところ、君に感謝を伝えたいそうだ。君が今閃いた方法を教えてくれたら、その職人を紹介しよう」
(あのシルク素材の……!!!オーダーメイドの布団!!シルヴァン様、良い人!!!)
ルーチェの自重はまた飛び抜け、閃いた方法を話すことに決めた。
「なるほどな……。それならいける」
ルーチェの無謀な計画を聞いたシルヴァンはキラリと目を輝かせた。いかに早く決着できるかも重要らしく、時間のかからないルーチェの提案に喜んで乗った。
(さっきの試合といい、何か急いでる……?なんだか、違法薬物の調査が二の次のような感じだね)
それに、自分が提案しておいてなんだが、普通は「なるほどな……」では済まない提案だ。
(魔力量が多いのは分かっていたけど、もしかするとこの人、魔法使いレベルの魔力量なのでは?)
「事情はお聞きしておりますが、なぜシルヴァン殿下が潜入を?」
「それは……」
ルーチェが小声で訊ねると、突然競技場が雄叫びのような歓声で沸いた。
「ダルスの力を見せつけろーーッ!!」
「ラオブルート様ーー!!頑張ってくださいーー!」
眼下では二回戦目の第三試合と第四試合が始まろうとしていた。
同じダルス領の生徒だろうか、ラオブルートに熱い声援を送っている。その声援があまりにも迫力があるので競技場中の注目を集めていた。
「ラオブルート様も参加されているのですね」
「……らしいな」
そして、彼が今から対決するのは違法薬物の関与が疑われている生徒の一人だ。先程の生徒と同じく顔色が悪く、ダルス領の生徒達の声援に気圧されているのかおどおどしている。
ラオブルートは一応領主の次男なのだが、周りの者は気軽にラオブルートに声を掛け、彼自身もそれに快く応えていた。
同じ領主の子でも、領民の特色はそれぞれだ。
(ハイアンにはない良さだなぁ)
「君は……」
ルーチェが少し羨ましく思って目を細めていると、それを見たシルヴァンは何か言いかけて口を噤んだ。
シルヴァンの声が、大きな歓声のせいで掻き消されたと思ったルーチェは少しシルヴァンに耳を寄せる。
「なんでしょう?」
ドキリとシルヴァンの心臓が跳ね、頬が上気する。思わず服の上から胸を押さえた。
今はフードを被っているので、聖女の横にいるのがシルヴァンだとは誰も気付いていない。
シルヴァンは意を決して自身の口を手で隠した。それだけでルーチェは内緒話だと察して更に顔を近づけた。
「?」
ルーチェは首を傾げ、シルヴァンの言葉を待つ。
「俺が参加した理由はラオブルートに勝つためだ」
「……は、はぁ」
ルーチェは困惑した。
それはつまり、ラオブルートが違法薬物を蔓延させている元凶ということだろうか。
だとしてもシルヴァンが参加する理由にはならない。
(えっと、つまり……?)
ルーチェが理解に苦しんでいる横でエリオは頭を抱え、シアラは言葉足らずで度胸の足りない主を冷たい目で見ていた。
だからといって、この二人はここから巻き返せるような上手な助け舟を出せるわけでもないし、出そうとも思わない。
「始め!!」
ルーチェの困惑をよそにラオブルートの試合は開始した。
開始と同時にラオブルートは土属性の攻撃魔法を放つ。
「これは……!」
ラオブルートの攻撃魔法を見た瞬間、ルーチェは「なるほどその手があったか」と手を打ちたくなった。
「一撃が長いですね」
シアラも感心するようにラオブルートの攻撃を見つめている。長い一撃を放ったあと、確実に三秒休憩し、また長い一撃を放つ。的が許す量の魔力量を確実に超えることができるし、出力する瞬間の魔力量は小さくて済む。
「ですが、やろうと思ってすぐにできることではありません」
一撃が長い攻撃は魅力的だが、なによりも集中力、そして魔力量がいる。
その後も一切の狂いを見せず、安定した攻撃魔法を放ち続けたラオブルートは疲れを見せることもなく余裕の表情で勝者となった。
ダルス領の生徒からは「うぉぉぉぉぉおおお!!!」という熱い雄叫びが聞こえる。
このまま、シルヴァンもラオブルートも勝ち進めれば、二人は四回戦目の決勝で対決することになる。
(これはどちらかというとダルス領の応援に気圧されそうだなぁ)
心の中で苦笑していると、シルヴァンはルーチェの頭に軽く手を乗せた。そろそろ三回戦目の準備へ向かわなければならないようだ。
「二人とも、ルーチェを守れ」
「はっ」
歯切りのいい返事を聞き届け、シルヴァンは眼下のラオブルートを見据えた。
ラオブルートは周囲の声援に応えつつ、静かにシルヴァンを視界に映していた。
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