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公爵令嬢はスヤスヤ眠りたいだけ。  作者: はっぱ
【第二章 入学編】

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【2-5】黒衣の魔法使い

《!毎日20時に連載中!》

睡眠のお供にどうぞごゆるりとお読みくださいませ。

 ルーチェは女子寮に戻ると早速『印付き』につけた位置情報を確認する魔術具を探すために、まだ片付いていない荷物を漁っていた。

 

「……確かこの辺に……あった!」

 

 開発した魔術具を山のように持って来たせいで一向に荷物が片付かない。

 

「そろそろ片付けないとな……」

 

 一見してただのコンパクトミラーのようなものだが、立派な魔術具だ。

 魔力を込め発動させると、サークル型の小さい魔法陣がルーチェの右目の前に現れた。その魔法陣を通してミラーを見ると『印付き』の場所が示される。

 

「動きからして多分馬車で移動してるね。この先は……ノルディアに向かっているのか。かなり遠いな」

 

 まだ着いていないということはどこか寄り道をしていたか、途中まで徒歩か馬に乗って移動していたのだろう。

 そして事前に用意していた馬車に乗り換え、バレないように森を遠回りしている。このまま行けばもうそろそろノルディアに着く頃だろう。

 

 ここから飛行魔法を使って最速で飛ばしても鐘一つ分はかからないぐらいだろうか。

 犯人の要求のタイムリミットは夜明け。着いた頃にはちょうど日が沈む頃だろう。

 

 エルネストは今、校舎裏で黒衣の魔法使いを呼び出す儀式を実践している。

 日が沈んでも黒衣の魔法使いが現れなかったら自分で行くと息巻いていたが、彼はどこへ行こうというのだろうか。もしかしたら犯人の目的地がノルディアだと確信を持っているかもしれない。

 

 ルーチェは魔術具を閉じて今後の動きを考える。

 

 黒衣の魔法使いとして、エルネストに情報を渡して健闘を祈る?

 いや、彼の手腕は謎だ。本当に死んでしまう可能性がある。そうなれば外出許可を出した第一王子が責任をなすりつける相手はそう……黒衣の魔法使い。

 

 ならば、ルーチェが黒衣の魔法使いとしてノルディアへ行く?

 いや、ノルディアに着く頃には日が沈んでいる。もしエルネストが確信を持ってノルディアへ来た場合、彼が死なないように見張る必要がある。それは手間だ。

 

(そうなら、同行させるのが一番ラク……?)

 

 一番嫌だが、一番ラクな選択肢なのは間違いないだろう。

 

 そもそも不審者を捕まえたのはルーチェだ。最初に魔法使いとして首を突っ込んだ以上、片を付けるのは魔法使いの称号を得た一人として当然のことだ。

 

(中途半端は魔法省に怒られるかもしれないし……仕方ない)

 

 ルーチェはベッドを未練がましく見つめた。

 

「ごめんね。すぐ帰ってくるから、わたしの寝床」

 

 エルネストやアドルフィーネに顔を見られるのはまずい。フードだけでは難しいので顔全体を隠す黒いベールをつける。

 手は意外と盲点だ。性別や年齢が分かってしまうので、魔法を使っても支障がない黒い手袋をつける。

 

 次は箱から薬品を取り出し、声を変える薬を調合した。

 

「これめっちゃ不味いのよねぇ」

 

 味を緩和する材料が手元にないので鼻を摘んで一気に流し込む。不味い。

 

「あああ〜ぁあ」

 

 しゃがれたような声になり、喋り方次第ではお爺さんにも聞こえるだろう。厚底のパンプスを履き黒いワンピースを着てローブを身に纏えば体型も身長も分からない。

 髪は靡いて色が分からないように一纏めにしてピンで留める。本当は毛染めの薬を調合したかったが、材料が足りなかった。

 

(髪の色を変える魔法とか需要あるんじゃない?)

 

 そんなことを頭の片隅で考えながら最後に魔法使いには必須の杖を出した。

 

 杖の長さはルーチェの身長より少し高いが、小柄なルーチェでも扱いやすいように細くて軽い。先端には大きな魔法石がついていて取り囲むように飾具が螺旋を描いている。

 ルーチェの属性を示す四色が魔法石の中を炎のように揺らめいていた。

 

 この杖は魔法使いだけが作ることを許されている杖だ。この通り杖は非常に目立つため、ルーチェは普段杖なしで魔法を行使している。

 しかし飛行魔法や攻撃魔法は普通、杖を使った方が格段に使いやすい。

 

 もしエルネストが飛行魔法を使えなかった場合、杖に乗せる方が魔力の消費を抑えられる。長時間相乗りは時間がかかるだろうがやるしかない。

 鏡を確認すると、約二年ぶりに見る魔法使いの姿に少しだけ嘲笑が零れた。

 

(本当に、誰か分からないね)

 

 窓を開け縁に乗ると、勢いよく上に蹴った。

 

 その日の茜色の空には真っ黒な魔法使いが現れた。


 

 

(……わたし、あんなので釣れると思われてるの?)

 

 校舎裏に着くと、エルネストは煮干しに取り囲まれていた。そしてなぜか彼は煮干しの中心で、片足ジャンプしている。

 

 今声をかけたら、この謎儀式で黒衣の魔法使いが釣れることになってしまう。成功しちゃう。

 ルーチェは一瞬もう帰ろうかなと思ったが、頭を振りエルネストの背後から声を掛けた。口調をお爺さんっぽく変える。

 

「何をしている、少年」

 

 エルネストは限界まで目を見開き、ルーチェを上から下まで見て金色の目を輝かせた。

 

「本当に……。黒衣の魔法使い様ですか?」

 

 煮干しを蹴散らしながら陣地から出て来てズンズンとルーチェに近付いてきたが、ルーチェはふわりと後ろへ飛び一定の距離を保った。

 

「望みはなんだ」

「共にアドルフィーネ様を救出していただきたいのです!!」

 

 あまりにも率直にそう言われ、ルーチェは目を眇めた。

 一応、黒衣の魔法使いを召喚できなかった場合、彼はどこへ向かおうとしていたのか聞いてみることにした。

 

「アドルフィーネはどこにいる?其方はどこへ行く気だ?」

「分かりません」

 

(分かりません!?当てはなかったのか)

 

 思わずズコーッとコケそうになったのを踏ん張りルーチェは咳払いをする。

 

「アドルフィーネはおそらくノルディアに向かっている」

 

 エルネストは目を見開いた。悔しそうに奥歯を噛み締めて地面を睨みつける。

 

「アドルフィーネ様は我が領地で辛い思いをされているのか……!」

 

 その言葉には後悔と怒りしか含まれていなかった。

 

(本当にアドルフィーネ様を助けたいんだ)

 

 ルーチェはブランを救出した時のことを思い出す。あの時はルーチェも後悔と怒りしか感じていなかった。

 皆が力を貸してくれたおかげでルーチェはブランの命を救えたのだ。

 

「……分かった。協力しよう」

「本当ですか!?」

 

 エルネストはじわりと涙を浮かべた。

 

「飛行魔法はどのぐらい使える」

「使えません」

 

 ルーチェは再びズコーッとコケそうになった。

 

(ほんと、どうやって行くつもりだったんだろう)

 

「ならば……」

 

 相乗りの件を伝えようとしたところで、全身が粟立つような嫌な気配がルーチェを襲った。

 

「じゃあ、僕が連れて行こうか?」

 

 バッと声のする方を振り返り杖を構える。

 その正体を見た瞬間、ルーチェはベールの下の顔を歪ませた。

 

「くそ精霊……!」

 

「な、精霊だと!?」

 

 人工精霊はルーチェの格好と声を聞き、紫の目をぱちくりさせた。考える仕草を見せたあと事情を察し、ニヤリと笑う。

 

「へぇ、そういうことねぇ」

 

 ルーチェが羽織っている黒衣は魔力探知に引っかからないようにできている。それなのに、人工精霊はルーチェの魔力を辿ってここへ来たのだった。

 

 やはり、精霊の力は未知である。

 

(まずい。こんな時に……。さっさと生捕りにして牢に戻してやる)

 

 杖を構えると人工精霊は宙を舞いながらわざとらしくパタパタと手を振った。

 

「待ってよ黒(・)衣(・)の(・)魔(・)法(・)使(・)い(・)さん。今お困りでしょう?」

 

 人工精霊はあえてルーチェと呼ばなかった。完全に気付かれてしまっている。

 

(もう殺すしかないな。実験は惜しいけど、正体がバレるわけにはいかない)

 

「僕ならその子に『飛行魔法』?っていうのをかけてあげられるよ。君がその子を乗せてノルディアに行くには負担も大きいし、時間もかかっちゃうでしょう?対価はその子に払ってもらうけど」

 

 人工精霊の言っていることには耳を貸さず、攻撃魔法を放とうとした時――。

 

「ぜひお願いいたします!」

 

 エルネストが進み出て来てそう言った。

 

「精霊に願ってはダメだ!!」

 

 ルーチェは慌てて後ろからエルネストの口を塞ぐ。だがもう遅かった。あっという間にエルネストの体を紫のモヤが纏い、ルーチェの腕をすり抜けて体が宙に浮いていく。

 

 これは――飛行魔法だ。

 

(こいつの得意属性は水だったはず。風の属性魔法である飛行魔法が使えるなんて……)

 

 エルネストはふわりと浮いた自分の身体に悲鳴を上げる。

 

「う、浮いた!?」

「契約成立だねぇ。対価は何にしようかなぁ」

 

 ルーチェはジロリと人工精霊を睨む。

 人工精霊はポンと手を打つと、エルネストに手を伸ばした。

 

「アドルフィーネちゃんの記憶から、エルネストくんの存在を貰おうっ!」

 

 それはあまりにも残酷な対価だった。

 

「……構いません。それでアドルフィーネ様の元へ行けるなら」

 

 ゆっくりと目を閉じ微かに笑いながら即答したエルネストを見て、人工精霊は愉快そうに笑った。

 

「ふふっ……ふふふははははは!!あ〜おっかしぃ。本当に、人間ってバカで単純だねぇ。その面白さに免じて、今回は初回無料にしてあげる」

 

 ケラケラお腹を抱えて笑う人工精霊にルーチェの中で何かが切れた。

 気づいたら攻撃魔法を放っていた。

 

「おっと、危ないよぉ。ここ学校でしょお?壊れちゃうよ、魔法使いさん」

 

 そう言って人工精霊はエルネストの体を校舎より高く上げた。再び上空でエルネストの情けない悲鳴が聞こえる。

 

「今僕を殺したら、エルネストくんの体は地面に叩きつけられるよ?」

 

「…………覚えておきなさい。人工精霊」

 

 ルーチェは冷たい声に、人工精霊はゾクゾクと体を震わせて頬を上気させるのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

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