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公爵令嬢はスヤスヤ眠りたいだけ。  作者: はっぱ
【第一章 希少植物編】

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【1-13】ブラン・フィールドの失踪

「ただいま戻りました」

 

 そう言って何食わぬ顔でシルヴァンの執務室に入ってきたのは、シルヴァンの側近、シアラ・グレイモアだった。シルヴァンは手元の書類から顔を上げジトリと彼女を睨む。

 

「遅いぞ。シアラお前、騎士団の訓練にここ数日行っていないらしいな?騎士団長がこの部屋に乗り込んで来たぞ」

 

 シアラは最近、気になる場所があると言ってその調査をしていた。単独行動を好む彼女はその詳細をシルヴァンにすら報告していない。

 

「ええ。団長には側近のお仕事があると伝えましたから。わたしがここにいると思ったのでしょう」

 

 なぜ騎士団長が乗り込んで来たのか合点がいったシルヴァンはこめかみを押さえる。

 

「……それじゃあ言葉が足りないだろう、言葉が。シアラが何処で何をしているのかをなぜ主の俺が知らないのか、と詰られたぞ」

 

 シルヴァンは、シアラが無意味な仕事をしない事も、結果が分かれば決して報告を怠らないことも知っているので特に何も言わなかった。言ったところで、必要ないと彼女が判断すれば教えてくれないのも理由だが。

 

 加えて、シアラは騎士団長の一番弟子で大層溺愛されている。そんな愛弟子が何日も訓練に出なかった理由がシルヴァンのお仕事故だと聞かされ、騎士団長はシアラを返せと執務室に乗り込んできたのだ。

 

「大変だったんだから、後で宥めておいてくれよ」

「大丈夫です。一戦交えれば機嫌は直りますから」

「……」

 

 騎士団長は一応、この国最強と謳われる男である。剣を抜けば一太刀で敵を斬り倒し、弓を引けば正確に敵の急所を射る。馬に乗って戦場を駆け回る姿は皆の理想とする騎士そのものだ。騎士を目指す者なら一度は一戦交えてみたいと思うだろう。

 

 そんな英雄との一戦をご機嫌取りとするのだから、陰の最強はシアラなのかもしれない。

 

「で?もう気になる場所の調査は終わったのか?」

「ええ。報告致します」


 

「――待て、待ってくれ」

 

 シアラの報告を聞き終えたシルヴァンは文字通り頭を抱えた。

 

 希少植物に全く興味を示さなかったシアラが調査していたのは、ブラン・フィールドについてだった。

 更に言うなら、昔の大貴族『花守』が管理する希少植物の花園について。

 

「まさかシアラがその件に首を突っ込んでいるとは思わなかったぞ」

 

 役職もないただの植物学者ブラン・フィールドが自由に王城に出入りできる理由が一つだけある。

 

 それは、ブラン・フィールドがかつて王族の一番近くにいた大貴族『花守』の末裔だからである。

 

 そのことはシルヴァンはもちろん、王家一族には周知の事実であった。

 因みにシルヴァンの側近達には調べ物が得意なパトリックとシアラがいるので数年前にブランが花守の末裔であることは調査済みであった。不思議な存在であるブランに興味を惹かれたらしい。

 

 機密にしているわけではないので調べれば分かることではあるが、ブランの性格上、周りにひけらかすことはしないため、知られていないだけだ。


 顔色ひとつ変えずに堂々と立っているシアラを睨み上げたシルヴァンは再度確認する。

 

「じゃあお前はこう言うんだな?――花守が管理する花園を見つけた、と」

「はい」

 

 短く返事をしたシアラにシルヴァンは深く深く溜息を吐く。

 

 今回セルヴァイア校内で見つかったのは三種類の希少植物の内、タンポポの一種類。その上少ない本数であったため、国王陛下は希少植物の研究を優先させた。

 だが花園が見つかったとなれば話は別だ。どのくらいの規模か不明だが、陛下は歴史を繰り返さない為に秘密裏に処分するだろう。教会に嗅ぎつけられる前に。

 

「場所はどこだ?確認しに行こう」

「場所は王立図書館の地下深く。今行くのは無理ですね」

 

 立ち上がったシルヴァンをシアラは冷静に制止する。

 

「なぜだ?シアラは場所を見つけたのだろう?」

「王立図書館の地下にずっと魔力探知をかけていたんです。そして部屋らしき空洞とそこにタンポポと同じ魔力を複数探知しました。ですが実際に部屋に入ったわけではありませんし、そこにあるのがタンポポだけなのか、はたまた他の希少植物もあるのかは分かりません。それに行ったところで解除不可能な鍵がかかっているので中に入れません。おそらくブラン殿が鍵を持っていると思われます」

 

 シアラに淡々とそう言われてぐぬぬと座り直したシルヴァンは大事な部分を聞き逃す所だった。

 

「魔力探知をずっとと言ったか!?なんて無茶をするんだ。……だから訓練をサボったんだな?」

 

 シアラの魔力量は多い方だが、空間把握を目的とした広域魔力探知は相当な負担がかかる。

 後半の問いには答えず、シアラが「陛下に気付かれる前にブラン殿に確認を……」と言いかけた所で扉がノックされた。

 

 部屋に入って来たのは珍しく肩で息をしているパトリックだった。シルヴァンとシアラは目を丸くする。

 

「どうした、何かあったか?」

「ご報告が二つあります。まず、希少植物の研究結果について至急お耳に入れておきたいことが」

 

 そう言ってパトリックが話した内容はタンポポが植物としての繁殖機能を持っておらずダルス領が使う馬車止めに咲いていたのは不可解であることと、何者かが意図して植えたのではないかという研究室の見解だった。

 

「希少植物が利用された、と?」

 

 それを聞いたシルヴァンは頭の中で嫌な想像をする。そしてパトリックのもう一つの報告で嫌な想像は現実味を帯びる。

 

「もう一つは、フィールド殿がどこにもいません」

 

 ブラン・フィールドは忽然と姿を消した。

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