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四季を交換できる俺、荒れた辺境農園で氷の魔女と金色ひよこの第五季スローライフ  作者: カイト


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【第27話】 季節を選ぶ道

「晴真さん、今日はどちらを通ればいいですか?」


 共同食の翌朝、セナトは春性居室の前で立ち止まっていた。正面の道は昨夜の春雨でぬかるみ、靴底が沈む。少し北へ回れば乾いているが、その先には白く凍った低所があった。


 反対側では、冬性の訪問者も進路を決めかねている。


「昨日の道は、今朝も通れますか」


「待ってくれ。先に見てくる」


 晴真が答えると、二人は素直に足を止めた。


 その光景に、晴真は自分で違和感を覚えた。


 居室はある。食事場所もある。だが、その間を移動するたびに自分へ道を尋ねなければならないなら、これは生活圏ではない。設備を置いただけだ。


「今日は迂回路を使ってくれ。昼までに、毎回俺へ聞かなくても歩ける道を作る」


「昼までですか?」


 セナトの翅が揺れる。


「道は、畑より逃げませんよ」


「だから先に片づける。飯が冷める前に来られる道が欲しい」


 晴真は泥と凍結の間へ目を向けた。水分さえ減らせば、春雨にも夜の冷え込みにも振り回されにくくなる。


 道へ秋の乾燥を移す。


 考えは単純だった。


 晴真は居室から共用部、共同食事場所へ続く路面を区切り、季節替えで秋の乾いた性質を薄く広げた。湿った土から水気が抜け、靴裏へまとわりついていた泥がさらりと崩れる。


「悪くない」


 試しに歩くと、足は沈まなかった。


 ピィロも乾いた地面へ降り、軽い足取りで数歩進む。胸を膨らませたところを見ると、ひとまず気に入ったらしい。


「昼を待つ必要はなかったですね」


「謝るなら今のうちだぞ、セナト」


「昨日の料理と違って、今日はまだ食べていません」


「道を食う気か」


 朝のうちは、晴真の思惑どおりだった。


 だが、日が高くなる頃には路面の色が変わった。乾きすぎた表土が細かく割れ、踏むたびに斜面側へ崩れていく。道縁の植物を支えていた土まで落ち、白い根が何本もむき出しになった。


 ピィロが一歩踏み出す。足元の土がさらさらと流れ、慌てて羽を広げて戻った。


「乾かせば固まると思ったんだが」


「逆よ」


 フィエルナが崩れた土を指先でつまんだ。


「水分を抜いただけ。支えるものまで失っているわ」


「なら、もう少し深いところまで乾燥を――」


「やめなさい、クゼ」


 短い声が、晴真の手を止めた。


「崩れた土は戻らない。根も露出したままよ。さらに乾かせば、道ではなく溝になる」


 晴真は指先を下ろした。移した秋はもう土へ残っている。追加をやめても、失われた水分や崩れた表土が勝手に元へ戻るわけではない。


「失敗だな」


「昼までに完成すると言った方ですか?」


「今は追い打ちをかける場面じゃない」


「では、夕食までに変えておきます」


 セナトは笑ったが、視線は露出した根から離れなかった。しゃがみ込み、一本を指で持ち上げる。細い根は切れておらず、乾いた土の下から道へ向かって伸びている。


「これ、取らない方がいいですね」


「歩く邪魔になるぞ」


「今は。けれど、縁へ誘導すれば土を抱えます」


 セナトは根の先を道の外側へ曲げ、崩れた土を寄せた。


「植物は壁には向きません。でも、崩れ続ける場所で踏ん張るのは得意です。道を一枚に固めるより、端を生かした方が残ります」


「どれくらいで使える?」


「根は晴真さんの都合では伸びません」


「俺の都合で道が崩れたんだから、そこは否定できないな」


 晴真は乾いた一本道を見渡した。均一なら管理しやすい。誰にでも同じ説明で済む。だが、その便利さを作ろうとして、路面そのものを弱くした。


「セナト。根のことは任せる。切る場所と残す場所を決めてくれ」


「僕が決めていいんですか?」


「俺が決めた結果がこれだ。次は植物を読める奴に渡す」


 セナトはしばらく晴真を見たあと、露出した根へ向き直った。


「では、真っ直ぐな道は諦めてください。根が残れる方へ曲げます」


「いい。最短より、住んでる奴が自分で選べる道にする」


 その日から数日、作業中の移動には既存の迂回路を使った。


 セナトは露出した根を道縁へ誘導し、土を抱え込むように分けていった。細い根が絡み合い、崩れていた縁に低い段差を作る。晴真は路面全体へ能力を使わず、水が集まる低所だけを直接対象に選んだ。秋の乾燥を移すのも、排水後にぬかるみが残る小さな範囲だけだ。


 乾かす場所には平たい石を置き、春泥が残る場所には根を編んだ縁を目印にする。道は一本の帯ではなく、状態の違う細い枝へ分かれていった。


「見栄えは整っていないわね」


 フィエルナが言う。


「前世の仕事なら隠してた」


「今は?」


「どこが危ないか見える方がいい」


「ようやく、飾る場所と暮らす場所の違いを覚えたのね」


「褒め方が冷たいな」


「冬の担当だから」


 夜になると、別の問題が現れた。


 排水しきれなかった低所が冷え込み、薄い氷を張ったのである。晴真が朝一番に見つけたとき、フィエルナは既にその前へしゃがんでいた。


「道全体を温める案は禁止よ」


「まだ言ってない」


「顔に出ているわ」


 フィエルナは凍りやすい低所だけを選び、夜の間は水の動きを眠らせた。冬を消すのではない。滑る場所だけを休ませ、朝になれば白い氷片を道縁へ残して危険箇所を示す。


「ここに氷片が残っていたら、北側の枝道へ回る。溶けていたら直進できる」


「毎朝お前が説明する必要は?」


「ないわ。見れば分かる形にする」


「それなら俺より道案内に向いてる」


「あなたより向いていない者を探す方が難しいわね」


 翌朝、晴真はピィロを道の入口へ置いた。


「ピィロ、食事場所まで行けるか?」


「ピィ」


 晴真が正面を指す。だがピィロは進まなかった。


 近道には前日の夏熱がまだ残っていた。人間の足には温かい程度でも、小さな身体には強すぎるらしい。ピィロは羽毛を縮め、晴真の指した方向へ背を向けた。


「そっちは嫌か」


 代わりに、根が土を抱えた枝道へ歩き出す。途中で一度立ち止まり、湿った場所を避けて縁へ乗ると、そのまま共同食事場所まで抜けた。


「先導を頼んだのに、勝手に道を変えましたね」


 セナトが楽しそうに追う。


「だから分かった。全員を同じ道へ通す必要はない」


 晴真は三本に分かれた経路を見た。乾いた近道。根張りの安定した枝道。夜の凍結を避ける北側の迂回。


「季節が変わるなら、道も選び直せばいい」


 最後の往復試験は、その翌朝に行った。


 晴真はセナトと冬性の訪問者へ、道縁の目印だけを示した。


「白い氷片が残っていたら北へ。土が濃く湿っていたら根のある方へ。熱が強ければ近道は使わない。それだけだ」


「途中までは一緒に?」


「いや。俺はここにいる」


 セナトは春性居室から出発し、根張りの枝道を選んだ。湿った場所では道縁へ足を移し、迷わず共用部を抜ける。


 冬性の訪問者は冬性居室から白い氷片を確かめ、凍った低所を避けて北側へ回った。二人は別々の道から共同食事場所へ着き、それぞれの器を受け取る。


「案内なしでも、朝飯は冷めていませんね」


 セナトが温かな虹穀を見て笑う。


「帰りも試すぞ」


「信用がありません」


「一往復で完成扱いにすると、マルタさんに怒られる」


 食後、二人は来た道とは違う枝を選んだ。


 セナトは乾いた近道を途中まで使い、夏熱の残る箇所で根張り側へ移った。冬性の訪問者は氷片が消えていることを確かめ、低所を直進する。


 晴真は一度も声をかけなかった。


 二人の姿は分岐の向こうへ消え、やがて、それぞれの居室の前へ現れた。


「戻れました」


 冬性の訪問者が遠くから告げる。


 セナトは道縁の根を見下ろした。


「この根は、まだ伸びます。枝道を塞ぎそうなら、僕が見て分けますよ」


「今日だけじゃなく?」


 晴真が尋ねると、セナトの返事は一拍遅れた。


「少なくとも、ここにいる間は」


 春が弱まった後の話まではしない。その線を、晴真も越えなかった。


「分かった。正式な担当は決めない。今は、伸び方を教えてくれ」


「それなら任されます」


 根は道の縁を編み、白い氷片は朝の危険を示し、枝道にはそれぞれ違う季節の名残があった。常に同じ状態の一本道ではない。それでも、住む者が自分の身体と目印を頼りに選べる。


 晴真は完成した道を歩き、共同食事場所から居室へ向かう二つの背中を見送った。


 次の食事から、誰も進路を尋ねに来なくてもいい。


 その事実が、真っ直ぐで美しい道よりずっと郷らしく思えた。

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