幕間12 レーナの思い
レレナが席を外している間、レーナは真面目な顔で呟いた。
「行ったわね、あの平民の娘」
「レーナ?」
その呟きに反応したナセドは、冷たい眼差しを向けた。すると、レーナは怯まず、威厳を保ったまま言った。
「殿下、一つ申し上げてもよろしいですか?」
「あぁ、なんだ? レーナ」
「あの平民の娘は、他の平民とは違うとわたくしはそう感じております。……その上で、伺いますわ。殿下は、あの娘をどうなさるおつもりですの?」
それは、公爵令嬢としてはありえない発言だった。 ……だが、この場の誰も、それを笑わなかった。
「どうもしない……流れに身を任せるだけだ」
ナセドは、そう答えるしかなかった。相手は平民の娘。王族である以上、恋をすることはできても、結ばれることは許されないのだ。
「流れですか……」
それ以上、レーナは何も言わなかった。……ただ、その胸の内だけが、静かに騒いでいた。
(『流れに身を任せる』なんて、嘘ですわね。本当はあの子のことが好きだと、わたくしにはわかっているわ。でも、わたくしだって殿下をお慕いする気持ちを……。それをこの場で……いえ、やめておきましょう。けれど、もしあの子が貴族だったなら、殿下の『妃』になる可能性もあったかもしれませんわね)
そう深く考え込むレーナをよそに、フィオネ王妃が薄い笑みを見せた。
「レーナ。あなたは今日のお茶会で、妃候補に相応しい振る舞いをしていたと、私は思っていますよ。……まぁ、彼女も素晴らしい心の持ち主だけれどね。でも――忘れてはいけませんよ、レーナ」
「はい、王妃様。わかっています」
フィオネ王妃の威厳に満ちた言葉を受け、レーナはテーブルの扇子を手に取った。そしてそれをそっと胸に当てると、今度はナセドを真っ直ぐに見据えて、言い放った。
「――妃候補として、しっかりと努めますわ」
その気高い彼女の姿を前に、ナセドは何も言えず、ただ無言で空を見上げるしかなかった。
「お待たせいたしました、皆様」
と、休憩所の外からレレナの声が聞こえた。ナセドは空から視線を戻し、こちらへ歩いてくる彼女の姿を見つめた。
(レレナ。俺は、何があっても君を愛している。……それだけは、変わらない)
そう強く心に誓いながら、彼は彼女が席に戻るのを、静かに待ち続けた。




