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「平民は愛されない」はずなのに、雲の上の第一王子様から溺愛されています!?  作者: 東明時裕夜
第一章 王子様との出会いと王女の殴り込みと、お茶会準備

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第2話 目立ちすぎる王子様と平民の恋

 あの日から、信じられない事が起きた。ナセド殿下が、昨日も、今日も、私が働く店にやってきているのだ。


(いや、なんでまた来ているの? 王族って暇なの!?)


 心の中でそうツッコミを入れた。前回とは違い、殿下は目立たない平民の服装をしてきていた。

 けれど、それでも嫌でも目立ってしまっている。何故なら、光を閉じ込めたような金髪も、美しい顔立ちや深い青の瞳も、私から見ればすべてが眩しすぎるからだ。


 当然、今日も店内の客たちは驚いてソワソワしたり、何事もなかったかのように不自然に黙り込んだりして、落ち着かない様子だった。


 ちなみに、この間私に絡んできたあの中年の男性客も来ているが、あの一件があったせいかすっかり大人しくなり、隅の方で静かに食事をとっている。


 空いた皿を片付けて厨房へ戻ると、このレストランの店主であり、厨房で料理も作る、白髪混じりのくせ毛が目立つ中年の女性――通称・ファナおばさんと、私以外の従業員が二人ほど忙しそうに働いていた。


 私が流し台へ皿を持っていき洗おうとした時、ファナおばさんが近づいてきて声をかけてきた。


「ねぇ、レレナ」

「はい、なんでしょう。ファナおばさん」


 ファナおばさんは厨房からフロアのテーブル席を覗き込み、私を見つけて軽く左手を振っているナセド殿下を指差した。


「あのお客さん、ずっとあなたを見てるんじゃないかい?」

「わっ、私!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまい、信じられないという顔でファナおばさんを見つめ返す。しかし、おばさんは真剣な顔のままだった。


「そうだよ。ずっとあなたのことを目で追ってるわ。よっぽど、あんたのことが気に入ったのかもしれないわね」


 おばさんが指差した先へ視線を向けると、ナセド殿下とバッチリ目が合ってしまった。私はカッと頬を染めながらも、慌てて視線を逸らした。


(そんな事あるわけない!)と思いながら、私は頭を横に振って全力で否定する。


「いやいやいや! だって私、ただの平民ですよ? 確かにお客様から『可愛い』なんてお世辞を言われることはありますけど、自分では全然そう思いませんし……。第一、あの方は女性に興味がないってもっぱらの噂じゃないですか。私なんかが好かれるわけないです!」

(そうだ、私は平民の娘で、特別な才能もない普通の人間だわ。そんな私に、殿下がわざわざ会いに来るなんて。ありえないわ)

「でも、昨日も今日も来てるじゃないか。あの騒動の日からさ」


 動揺しているそんな私に、おばさんは大真面目な顔で言った。


「それは……確かにそうですけど」


 私が納得しきれない顔で返すと、おばさんは「そうかい」と呟き、一旦私から離れた。そしてほんの数秒後、サラダ、パン、スープが乗ったお盆を持って戻ってきた。


「レレナ、皿洗いはいいから、これをお客様に持っていきなさい」

「えっ、でもまだお皿が……」


 流し台には、洗わなければならないお皿がまだ何枚も残っている。そんな中で料理を運べと言われ、私は戸惑った。


「大丈夫だわ、レレナ。ここはあたしがやっておくから」


『任せなさい』と言わんばかりの頼もしいおばさんに、私は仕方なく「……わかりました」と呟き、お盆を受け取った。


「では、行ってきます」


 お盆を両手に持ち、殿下が待つテーブル席へと向かう。私の心臓が緊張のせいかバクバクと大きな音を立てていた。

 無理もない。テーブル席で待っているのはただの客ではない。この国の王子様だ。もし粗相(そそう)をして機嫌を損ねたら、縛り首になるかもしれないのだから。


「お、お待たせいたしました。サラダとパンとスープのセットです」 


 私は緊張で手が震えないように気をつけながら、サラダ、パン、スープの順番にテーブルへ置いた。


「あの……その」


(何てお声がけしよう……『お客様』? いや、ここは『殿下』と呼ぶべきか? でも、他のお客様の手前、ここで特別扱いをするのはかえって目立ってしまうし……)


 どう呼べばいいか悩みながら黙り込んでいると、不意に静かな声が降ってきた。


「ねぇ、君の名は?」

「はい?」


 突然のナセド殿下の問いかけに、私は弾かれたように顔を上げた。


「……私、ですか?」

「そうだ」


 私は少し首を傾げながら、恐る恐る口を開いた。


「えぇっと……私は、レレナです」


 おずおずと名を名乗ると、ナセド殿下は私に向かってふっと優しく微笑んだ。


「レレナか。……いい名だ」


 静かにそう呟く殿下に、私の胸の奥がじんわりと熱くなった。

 隠しきれないほど赤く染まった頬をごまかすように、私は空になったお盆を胸元でギュッと抱きしめ、うつむき加減で小さな声で返事をした。


「あっ……ありがとうございます」


 私がそのままペコリと頭を下げてお礼を言うと、ナセド殿下は「いいんだ」と短く返した。


「じゃあ、私はこれで……!」


 私は跳ねるように顔を上げると、逃げるように背を向け、そそくさとその場から立ち去った。

 けれど、熱を持った頬はいつまでも冷めようとしなかった。


 ナセド殿下に名前を褒められただけ。それだけの些細な出来事なのに、どうしてこんなにも胸が苦しいのだろう。


(これが……恋なのかな)


 でも、私は平民で、絶対にあの方に恋してはならない存在だ。身分の違う叶わない想いなら、心の奥底にしまっておかなければ。


「よし、仕事に戻ろう!」


 私はお盆を片手で持ち直し、空いた右手で自分の頬をペチッと叩いて気合を入れ直す。そしてお盆と共に厨房へ戻り、次の料理を受け取ると、いつものように仕事へと戻っていった。

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