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「平民は愛されない」はずなのに、雲の上の第一王子様から溺愛されています!?  作者: 東明時裕夜
第一章 王子様との出会いと王女の殴り込みと、お茶会準備

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幕間2 不器用な王子の親友達

 それから次の日、ナセドはレレナが働くレストランへと赴いた。前回のように騒ぎにならないよう、目立たない平民の服を着て。


 しかし、それでも天井に吊るされたランプが照らす中、金色の髪は嫌でも目立っていた。


 テーブルに座ったナセドは、すでに別の店員に注文を済ませていたが、手持ち無沙汰に紙のメニュー表を見るふりをしながら、厨房の奥にいるレレナをじっと見つめていた。


 すると、彼女がこちらを振り向いた。(あっ、気付いてくれた)と内心で少し嬉しくなりながら、ナセドは彼女へ向けて軽く左手を振った。


 それから数分後、レレナがナセドの所へ料理を運んできた。


(来たか)


 レレナは綺麗な黄色い瞳でナセドを見つめ、緊張の色を隠せない様子だった。どうやら、自分のことをどう呼べばいいか迷っているらしい。その初々しい姿を見て、ナセドは自然と薄く笑みを浮かべた。


(俺が王子だと知っているから、緊張しているのだろう。まぁ、無理もないか。……そうだ、ガラス越しに名前を聞いてはいたが、ちゃんと彼女自身の口から聞こう)


「ねぇ、君の名は?」

「わっ、……私、ですか?」

「そうだ」


 ナセドが優しくそう問いかけると、レレナは少し首を傾げてから、「えぇっと、レレナです」と恐る恐る答えた。


「レレナか。……いい名だ」


 内心で『やっぱり』と思っていたことが、自然と言葉になってこぼれ落ちた。

 満足したナセドは、いつものように受け取った料理を口に運びながら、先ほどの初々しい姿を思い出し、愛おしく思った。


(……もっと話したい。もっと彼女を知りたい。フルネームを知って、王城のお茶会にでも誘えないだろうか)


 しかし、平民を王城に招けば他の貴族から反感を買う可能性が高い。いや、他の令嬢たちは招かない日を選べばいい。問題はレーナだ。彼女のことだから、お茶会をすると知られれば必ず押しかけてくるだろう。


 そうなれば、平民であるレレナがどんな目に遭うか、火を見るより明らかだ。


(それでも、彼女を誘いたい。……こうなったら、母上に相談し、最終的には父上に頼み込んで許可をもらおう)


 そうと決まれば、あとは彼女のフルネームだ。「レレナ」という名前は聞いたが、苗字までは知らない。かといって、ここで唐突にフルネームを聞き出せば不審に思われるだろう。しかし、ナセドはレレナが王国の人間かどうか知らなかったのだ。


(そういえば、レレナがこの国の生まれかどうか、聞いたことはなかったな。……だが、あの淡い桃色の髪。この王都では、めったに見ない色だ。もしかすると、余所の地の生まれなのかもしれない――ならば、門を通った記録が残っているはずだ。それに、あの髪だ。記録の中を探しても、あの色はきっと一つしかない)


 毎日通ううちに見てきた彼女の髪を思い返し、ナセドはそう当たりをつけた。そして、彼女の素性を調べるための方法を思いつく。


(そうだ。王城の北の防壁へ行こう。あそこには、聖騎士団の親友たちがいる。王都に出入りする人間の記録を管理しているはずだ。彼らに頼んで、彼女の苗字を調べさせよう)


「ただ見守ることしかできない」という昨晩の葛藤はどこへやら、ナセドの頭の中はすでに、彼女を王城へ迎え入れるための策でいっぱいになっていた。


 やがて食事を終えたナセドは、持っていた硬貨をテーブルに置いて立ち上がると、レレナに一言「今日も美味しかった」と告げた。すると彼女はパッと満面の笑みを浮かべ、「ありがとうございます」と深く頭を下げてくれた。


 その屈託のない笑顔をしっかりと目に焼き付けてから、ナセドは店の扉を開けて外に出て、足早に親友たちのいる北の防壁へと真っ直ぐに向かった。


 北の防壁までは、ここから歩いて三十分ほどの距離だ。


 レストランを出てすぐの路地裏を抜け、行き交う街の人々や横に並び立つ家々を通り過ぎると、ようやく北の門が見えてくる。


 その空いてる門のさらに奥には、王都に隣接する『シェフリアの森』が広がっていた。そこは魔獣や魔物、そしてかつて女性ばかり狙った悪夢を見せる悪魔インキューネが潜んでいた危険な場所だ。現在、その悪魔はこの国の王妃フィオネによって討伐された――ということになっている。


 もちろん、今のナセドがそんな森へ向かう用事はない。


 彼の目的地は、衛兵が守る門の入り口横にある石造りの螺旋階段だ。その階段を上った先、北の防壁の上で、目当てである二人の親友が任務に就いているはずだった。


 ***

 北の防壁の上では、涼みながら下界を見下ろす二人の人影があった。


「今日も風が気持ちいいわね、リカード」

「そうだな、シャフリネ」


 この二人こそ、アルスリーア聖騎士団の団長と副団長である。


 聖騎士団とは、魔法と剣を操る王国の精鋭部隊であり、主に街や城の警備、あるいはこうして門の上から外敵を監視するのが主な任務だ。


 鼠色の瞳を持つ、茶髪の男性の名は、リカード・レクレン。二十歳の若さで聖騎士団団長を務めている。


 青黒い胴着の上に赤い羽織をまとい、左胸には十字架の刺繍。下は白と青の二本の線が入った黒いロングズボンを穿き、足元は黒と青のロングロケットブーツで決めていた。


 彼はナセドの幼少期からの知り合いであり、なんだかんだと頼まれごとに弱いお人好しでもある。


 もう一人は、胸までかかる赤い長髪と薔薇色の瞳が輝く、特徴的な大人びた女性――彼と同い年の副団長、シャフリネ・キャリンだ。


 彼女の服の色や基本的な形はリカードと同じだが、胸には頑丈なハーフメイルを装備し、下は肌を隠すような膝丈のスカートを穿いている。足元はリカードと同じくロングロケットブーツだった。


 シャフリネは由緒ある伯爵令嬢でありながら、ナセドに媚びを売るような真似は一切しない。かつては妃候補の一人に名を連ねていたが、『騎士団の方が性に合う』と自ら辞退した——王宮に群がる令嬢たちとは、まったく異なるタイプの女性である。



 リカードと同じく、彼女もナセドとは幼少期からの付き合いだが、お互いに恋愛対象として見ることは決してない、ただの気の置けない親友であった。

 トントンと、石の階段を急ぎ足で駆け上がってくる足音が聞こえた。


「ん? なんだ?」


 その音に反応したリカードが振り返ると同時に、「どうしたの?」と不思議そうな顔でシャフリネも視線を向ける。


 そこには、少し息を切らせて階段を上がってきたナセドの姿があった。


「……あら、ナセドじゃない。久しぶりね」


 薄い笑みを浮かべつつ、少し驚いたように、薔薇色の瞳でナセドを見つめながら、シャフリネがそう声をかけた。


「シャフリネか、久しぶりだな。あと、リカードも」

「ナセド、お前がここに来るなんて久しぶりだな。何かあったか?」


 一国の王子に対して呼び捨てにし、平気でタメ口を叩く二人だが、ナセドがそれを咎めることはない。彼が心を許した、本当の親友だからだ。


「また、妃候補達に囲まれたの?」


 シャフリネがニヤニヤしながらからかう。彼女は、ナセドが城でどのような窮屈な状況に置かれているかをある程度知っているのだ。


「いや、違う。今回はお前達にお願いがあって来たんだ」


 シャフリネの言葉に少し目を丸くしたものの、ナセドはすぐに首を横に振って否定し、真剣な顔で用件を切り出した。


「私達にお願い?」


 シャフリネは不思議そうな顔でナセドを見つめ、隣のリカードも同じように彼へと視線を向けた。


「実は、王都に出入りする人間の記録を見せてほしいんだ」

「えっ、記録を? 何のために?」

「もしかして、何か事件か?」


 途端に仕事の顔に戻り、険しい表情で尋ねてくる二人に、ナセドは「いや、違う」と慌てて首を振った。そして、少し照れを隠すように視線を逸らしながら、「……ある女の子の名前が知りたくて」と、不器用に白状した。


 その言葉を聞いた瞬間、二人はパッと互いに顔を見合わせた。

 そして、シャフリネはニヤニヤと笑い出し、リカードもひどく面白そうな顔を作った。


「ねぇねぇ、リカード。あの、妃候補の貴族令嬢たちには欠片も興味を示さなかったナセドが、女の子の名前を知りたいって言ってるわよ。相手が誰かは知らないけど」

「そうだな。まさかあのナセドが、な」

「でも、こういう不器用なところは少し可愛いかもね」

「……おい、何をニヤニヤと話している」


 ナセドがわざとらしく怖い顔を作って睨みつけても、二人はまったく気にする様子もない。それどころか、からかうような、それでいて温かい笑顔を彼に向けた。


「いや、なんでもないわ、ナセド。それで、どんな女の子について知りたいの?」

「……へ、平民の娘だ」


 ナセドは少しぎこちない態度で、シャフリネたちにそう告げた。


「平民の娘だと?」

「嘘でしょ? 妃候補の貴族令嬢たちには一切興味を示さなかったあなたが、平民の娘に恋なんて……!」


 リカードもシャフリネも、思いがけない相手の身分を聞いて、揃って目を丸くして驚いた。


「だ、誰も恋なんて言ってないだろう、シャフリネ!」


 ムキになって慌てて否定するナセドだったが、親友であるシャフリネには、女の勘で彼の隠しきれない内心などすぐにわかってしまった。


「そんな顔をしていれば誰だってわかるわよ、ナセド。着飾った令嬢たちにはまったく興味がなかったあなたが、まさか平民の娘にね」


 ふふ、とシャフリネは面白そうに笑い、リカードが少し真面目な顔に戻って問いかける。


「しかし、相手は平民だろう。その子を調べてどうするつもりだ?」

「ただ、彼女の名前を知りたいだけだ」


 真剣な表情でそう答えるナセドの言葉に、リカードは少し首を傾げつつも納得した顔を見せた。


「なるほど、そういうことか。わかった。親友の頼みなら、聞いてやらないこともない。王都の出入り記録なら聖騎士団の本部にある。ついて来い」

「わかった。ありがとう、リカード」


 表情は変わらぬまま、ナセドは不器用な声で礼を言った。それを見たリカードは真顔のまま、シャフリネへ視線を向けた。


「シャフリネ、俺はナセドを騎士団の本部に連れて行く。お前はここで仕事しておいてくれ」

「了解、リカード」


 ひらひらと左手をあげて、子供のように軽い返事をすると、シャフリネは前に向き直り、防壁から城の外を見下ろした。


「じゃあ行くか、ナセド」


 ナセドは城下町を抜けた先、王城内の南に位置する聖騎士団本部へと向かうべく、リカードと共に階段を降りようとした。


「あぁ、そうだ。ナセド」


 何かを思い出したように、シャフリネが興味津々な顔で再び後ろを振り返る。階段に足をかけていたナセドは、「なんだ?」と真面目な表情のまま振り返った。


「私はいいとして、さっきも言ったけど……妃候補のレーナや他の令嬢たちに興味のなかったあなたが惚れた平民の娘って、どんな子なの?」

「……どんな子かって? 真面目に働く、芯のある子だ」


 照れ隠しをするかのようにそう短く吐き捨てると、ナセドとリカードは、防壁からの階段を降りて行った。


 そして、一人になったシャフリネは、面白そうな顔をしながら、ポツリと独り言をこぼした。


「ふふ、ナセドったら。あんな照れ隠しするなんて。しかし、平民の娘か。どんな子か気になるけれど、ナセドは詳しく教えてくれなかったわね。まぁ、いいわ。時間があったら教えてもらおうっと」


 そう悪巧みを考えているような笑顔を浮かべたシャフリネは、また城の外を見下ろし、いつもの仕事へと戻って行った。

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― 新着の感想 ―
恋に芽生える瞬間がキュンとしました。 悪友がライバルにならないか見ものですね(*´-`)
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