幕間9 リカードの不安
平民の娘レレナ・アティリアをエスコートし、ナセド殿下に託した後、リカードは南にある聖騎士団本部へ戻っていた。
衣装室でいつもの聖騎士団の制服に着替え、団長室で記録に目を通す。だが、少し読んだところで手が止まり、彼は不安そうな顔で天井を見上げた。
「ナセドのやつ、大丈夫だろうか。……レレナさん、も。俺は『負けない』と強く言ってやったが」
リカードは、レレナのことが少し心配になっていた。妃候補であるレーナと会って、彼女の心が折れてしまわないか、と。レレナがナセドを愛していることを、リカードはエスコートの最中に感じ取っていたからだ。
「まぁ、ナセドのやつが守ると強く言ってはいるが……やはり心配だな、王妃様たちがいても」
はぁ、とため息をつくリカード。彼は親友としてナセドの想いを聞き、その恋を手助けしてやった。しかし、王子と平民の娘の恋そのものについては、何もしてやれない。今はただ、遠くから見守ることしかできなかったのである。
「まぁ、とりあえず今は、お茶会が終わるまで、ここで聖騎士団の記録を見ておくか。……だが、あいつ、戻ってこないよな」
天井から視線を下ろし、リカードは団長室の扉を心配そうに見据えた。
「まぁ、任務を頼む前に、しっかり念を押したから大丈夫だろう」
彼が気にしていたのは、城下町の人さらいの件を任せたシャフリネのことである。一日がかりの仕事とはいえ、早く片付けて聖騎士団本部へ戻ってきてしまう可能性があったのだ。
だからリカードは念には念を入れ、当日の朝、改めてシャフリネのところへ会いに行き、城下町全体の見回りも追加で任せておいたのだった。
だが、急な追加任務に「なんで?」とシャフリネに疑われてしまい、リカードは「昨日言い忘れていた」と必死に誤魔化したのだ。
「とりあえず、ナセドのやつ、お茶会が終わるのは夕暮れ時だと言っていたから、その頃に王城へ迎えにいくか。時間があったら、お茶会の様子を彼女に聞こう」
そう思いながら、リカードは記録に目を戻した。シャフリネが早く帰ってこないかという不安と、レレナへの心配。その二つを抱えながら、彼はお茶会が終わる時間まで待ち続けたのだった。




