↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「平民は愛されない」はずなのに、雲の上の第一王子様から溺愛されています!?  作者: 東明時裕夜
第二章 レレナのお茶会と、高貴なもの達との出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/68

第13話 二人だけの色と、王子様の手

 馬の嘶き(いななき)が響く中、車輪がギィーと音を立てて、馬車は、既に大きく開け放たれた王城の北門の前でゆっくりと止まった。


 リカードさんは自ら先に馬車を降りると、外から改めて扉を大きく開け放ち、私に向かって白い手袋に包まれた手を差し出した。私はその手をそっと取り、ゆっくりと王城の地面に足をつけた。


「レレナ!」


 馬車を降りたのと同時に、聞き覚えのある声が私を呼んだ。門の方を振り向くと、そこにいたのは、白と黒の壮大な王城を背に立つ――あの平民風の目立たない服でもなく、私を助けてくれたあの時の姿でもない、純白のシャツに青色の上着を纏った彼だった。


 胸元には、金色の糸で王家の剣と鳥を象った紋章の刺繍が施され、首元には緑色の布地が上品に巻かれている。下は薄い青色のロングズボンで、足元には群青色と黒色が混じったロングブーツを履いていた。


 金色の髪がキラキラと輝く、今までとは違う『王子様』としてのナセド様の姿が、そこにあった。


「ナセド様!」


 私はリカードさんの手を離すと、ドレスのスカートを両手でぎゅっと握りしめながら、履き慣れないヒールで小走りにナセド様のもとへと近づいた。


 しかし。


「あっ」


 案の定、慣れないヒールに足を取られ、私は前のめりに体勢を崩してしまった。


「おっと、危ない」


 それに気づいたナセド様が素早く駆け寄り、両肩をしっかりと支えてくれる。至近距離で、ふと彼と目が合った。私の揺れた桃色の髪が、彼の肩にふわりと触れる。ナセド様は心配そうな顔で私に声をかけてくれたが、その頬にはほんの少し赤みが差していた。けれど私は、それに気づかないふりをして、平気な顔を見せようとした。


「大丈夫か、レレナ」

「……えぇ、大丈夫です」


 いきなり転けそうになってしまって恥ずかしい。でも、こんなに近くでナセド様の顔を見るなんて思わなかった。それに、少しだけいい匂いがするわ。

 ……って、何を考えているの、しっかりしないと。

 そう我に返った私は、ゆっくりと、まっすぐに立ち上がった。


「大丈夫か、レレナ様」


 リカードさんはまた「様」づけに戻っていた。おそらく、ナセド様の前で素の態度を出すのはまずいと判断したのだろう。


「はい、大丈夫です。エスコートありがとうございます」


 私は昨日練習した通り、ドレスの裾をそっとつまみ上げ、軽く頭を下げて淑女の礼をした。


「あぁ……。じゃあ、私は仕事に戻ります。レレナ様、お茶会楽しんでいてくださいね。それと……」


 私に笑顔を向けてくれたリカードさんは、そのままナセド様に駆け寄り、何かを小声で告げると同時に、私は裾から手を離した。


「(ナセド、お前、大丈夫なのか? レレナさんにレーナのことを伝えていないそうじゃないか)」

「(あぁそれか)」


 何を話しているのだろう。目の前で小声で話し始めた二人を黄色い瞳で見つめながら、私は彼らの話に割って入ることはせず、邪魔にならないようほんの少しだけ後ずさりした。多分、私にはまだ話せない、重要なことなのだろうと思ったからだ。


 ***


「(『それか』じゃない。まぁ、相手がレーナ公爵令嬢だから、仕方ないけど)」

「(もしかして、レレナに言ったのか、レーナが来ることを……)」


 ナセドが怖い顔で、鋭い目つきでそう尋ねると、リカードは首を横に振り、「(言っていない。会えばわかるだろうと思ってな)」と険しい顔で答えた。


「(そうか。今、あの女のことを明かせば、せっかくのドレス姿も、あの可愛らしい表情も、不安で曇らせてしまうかもしれないな。……まぁ、いずれは知ることになるだろうが。もし彼女が悲しい顔をすることになったら、その時は俺が守ればいい)」


「(そうか。全くお前らしいな。まぁ、頑張れよ。レレナさんはあんな姿で頑張ってるんだ。泣かせるなよ)」

「(あぁ、わかっている)」


 ナセドは左拳を握りしめた。――守る。それだけは、三日前に決めたはずだった。

 だが、あの城の中で、俺は本当にそれだけで足りるのだろうか。


「(それと、レレナさんから聞いたぞ。リリアーナ様が彼女のレストランに行ったそうじゃないか。俺には一言もなかったな)」

「(……それか、忘れていただけだ。だが、あいつのことは、全部、終わってから話す)」

「(分かったよ)」


 はぁと小さくため息をついて肩をすくめると、リカードは彼の背中を軽く叩き、こちらを振り返って

「じゃあね、レレナ様」と手を振った。


 ***


 そして彼は北門を抜け、足早に南の方へと歩いていき、やがてその姿は見えなくなった。いつの間にか、私を乗せてきた馬車も姿を消していた。おそらく、馬を引いていく係の者がいたのだろう。


 すると、ナセド様はこちらを振り向き、心配そうな顔をして近づいてきた。


「しかし、さっきは危なかったぞ。もう少し俺が来るのが遅かったら、その美しいドレスが汚れていたかもしれないぞ」

「ええ。でも、ナセド様が支えてくださったおかげで無事です」 


 私が満面の笑みを向けると、ナセド様は「そうだったな」と笑い返した。それから、どこか驚いたような表情を浮かべつつ、少し照れくさそうに私の顔とドレスをその美しい青い瞳で見つめ、言葉を続けた。


「……にしても、本当にレレナか? 驚いたな。普段の君も好きだが、こうして着飾った姿もまた格別に綺麗だし、何よりその下ろした髪がとても可愛いじゃないか」

「格別に綺麗だなんて、それに可愛いって……ありがとうございます。でも、このドレスは前にもお話ししたと思いますが……」


 真っ直ぐな青い瞳で見つめられながら、ドレスを格別だと褒められた私は、思わず顔を赤く染めた。そのまま、お礼と共に仕立て屋のリーアさんのことを伝えようとしたが、それを遮るようにナセド様が先に言った。


「君が言っていた仕立て屋のことだろう。本当にいい仕事をしている。見事な仕上がりだ。……だが、君が着ているその二つの色は、もしや……」

「もしかして、気づかれましたか?」


 私が小首を傾げて微笑むと、ナセド様は自分の金髪にそっと左手をやり、少し耳を赤くしながら言った。


「ああ。この青は俺の瞳の色……そして黄色は、君の綺麗な瞳の色、そのものだからな」

「はい。私の親友であるリーアさんが、ナセド様をイメージしてこの青と黄色で仕上げてくれたんです」


 私の言葉に、ナセド様は嬉しそうに目を細めて納得の笑みを浮かべると同時に、少し真剣な表情も覗かせた。


「そうか、俺のために……。……まぁ、俺自身はドレスについては何も知らないが、母上やリリアーナなら、もっと詳しく分かるだろう」

「はい、そうですね」

(リーアさんが言っていた評判上げの約束、さっそく少しだけ上手くいったみたい。このリーアさんが作ってくれた最高のドレスなら、リリアーナ様や他の貴族の方たちに会っても大丈夫かも)


 それに、『格別に綺麗だ』だけでなく、下ろした髪を『可愛い』とまで言ってもらえたのだ。ずっと自分では可愛くないと思っていた私にとって、その言葉は、胸がくすぐったくなるほど嬉しかった。


 そんなことを思いながら私がにこやかな笑みを浮かべていると、ナセド様は左手を顎に当て、首を少し傾けながら再びドレスをじっと見つめた。


「だが、さっきも言ったように、君の親友は本当にいい仕事をしているな。俺たちのために、ここまで計算して作ってくれているのだから」

「はい」

「いつか直接会って、礼を言ってみたいものだ。そのリーアとやらにな」

「ええ、なら時間が合えば今度紹介しますね」


 私の親友に会ってみたいという、ナセド様からの好奇心に満ちた答えが返ってきて、私はとても嬉しく思った。


(リーアさん、ナセド様が『いい仕事をしている』って言ってましたよ)


 心の中で遠くにいる親友へ向かってそう呟き、いつかナセド様とリーアさんを会わせてみたいと強く思うようになったのだった。


 そして、私のドレスの感想と親友についての話が終わると同時に、ナセド様は優しい笑みを私に向けて口を開き、綺麗な左手を差し出した。


「では、行こうか。レレナ、お茶会の場所へ」

「はい。……あ、でも」


 差し出された左手を取る前に、私が少し戸惑いを見せると、ナセド様は不思議そうな顔を浮かべた。


「どうした? レレナ」

「いえ、でも……さっきみたいにまた転ばないか不安で……」


 そうだ。またナセド様に迷惑をかけてしまうかもしれない――。そんな不安を覚えていると、ナセド様は優しい笑みを見せた。


「大丈夫だ。もし君が何度転びそうになっても、そのたびに俺が必ず守り、抱きとめるさ」

「抱きとめるって……」


 また頬をぽっと赤く染めてしまった私だが、気恥ずかしくはあるものの、これは彼なりの優しさなのだと素直に受け取ることにした。


「では、お姫様。手を……」

「はい、ナセド様」 


 私は差し出された彼の綺麗な手を取り、ゆっくりと歩き出した。直接触れ合うその手の温かさは、とても心地よく、どこか愛おしいもののように思えた。

 そして私たちは北門をくぐり、近くにいた衛兵さんに軽く挨拶をしてから、先ほどリカードさんが足早に向かっていったのと同じ、南の方向へと歩みを進めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。