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第1‐4話『妄想依存少女の青春』

四分割にすると言いましたが、五分割になってしまいました。

ただの告白シーンになぜこれほどの長文になってしまったのか、これが解らない。

「宮前さんは、僕がそういったことをして楽しむ人間だと思ってたの?」


 ゆっくりと、静かにそう告げた佐久間清一朗の声には、はっきりと傷ついた色がにじんでいた。

顔を見なくてもわかる。彼が怒っていることも、傷ついていることも、その声の響きだけで鈍感な私にすら伝わってきた。

 私の言葉に強い不快感を抱いているのだということが、こちらをまっすぐ見つめる非難めいた視線からありありと感じ取れる。

 普段の温厚で穏やかな彼からは想像もできない感情の露わし方に、私は生まれて初めて、とんでもなく悪いことをしてしまった人間みたいな気分にさせられた。

 彼の深く傷ついた様子を前にして、とてつもなくひどいことをしてしまったのだという罪悪感が、じわじわと胸の奥を締めつけてくる。

 たしかに、さっき私が口にした言葉は最低だったのかもしれない。真剣に告白してきた相手に向かって言うには、あまりにも失礼だった。それは自分でもわかっている。

 だが、私にだって言い分はある。

 自慢ではないが、私は地味で平凡な人間だ。勉強もできないし、性格だっていいとは言えない。目立つところのない、影の薄い女子である。成績も良くない。運動も壊滅的だ。コミュ障というほどではないにしても、ごく少数の相手としか会話をせず、教室では基本ひとり、黙って座って妄想ばかりしているような残念な少女なのだ。

 そんな私の、いったいどこに、女子たちから熱狂的に支持される学園のアイドルを惹きつける要素があるというのか。

 どう考えても、今の目の前で発生しているイベントが何なのかを理解できるはずがない。

 こんな展開、恋愛漫画やアニメの中にしか存在しないようなものではないか。

 オタクで妄想依存症の私が、そう簡単に現実だと受け入れられなかったとしても、それはもう仕方のないことではないだろうか。

 佐久間清一朗には悪いが、私はだんだんと彼に対して苛立ちを覚え始めていた。私のことを責めるような視線を向けられるたびに、胸の奥にくすぶっていた感情が、ふつふつと熱を帯びていく。


「だ、だって! 信じられない、から。だって、だって……これまで佐久間君と親しくするようなことなんてなかったし、会話だってほとんどしたことないのに! それなのに、いきなり私のことを好きだなんて言われても、そんなの、むしろ『なんで?』としか思えないよ!」


 気づいたときには、もうほとんど逆ギレみたいに苛立ちをぶつけていた。もともと私は、他人に干渉されるのが嫌いなんだ。私が何を思い、何を考えているのか、そんな私だけの領域に土足で踏み込まれるのがたまらなく嫌いで、自分の自由で、自分の勝手であるはずのものを乱されるのが、どうしても我慢できないんだ。

 私自身、こんなことで苛立ってしまう自分の未熟で幼稚な精神性には、我ながら嫌気がさす。だが、もともとの人嫌いな性質のせいか、気づけば感情を迸らせてしまっていた。

 こんな私によく友人たちは付き合っていられるものだ。

 佐久間清一朗は、ただ告白してきただけで、何も悪いことなんてしていないのに。それなのに理不尽な怒りをぶつけられて、彼はいったい何を思ったのだろう。ただ黙って私を見つめ、何かを考え込んでいるその様子が、かえって胸に痛かった。

 あぁ、気分が悪い。最悪だ。だから嫌なんだ。

 他人と関わるのが。他人と交わるのが。他人の感情が入り込んでくるのが。相手を知ろうとすればするほど、自分の内側までかき乱されるのが、とにかく面倒でたまらない。こうして制御しきれない悪感情をぶつけて、そのあとで今度は罪悪感に苛まれる。そんな自分の幼稚さにも、ほとほと嫌気がさす。

だから私は、他人と深く関わることを避けたくなるのだ。

 他人と関わるたびに、自分という人間の面倒くささを思い知らされる。

 なのに彼は、佐久間清一朗は、こんな私の逆ギレを受けながらも文句ひとつ言わず、ただ黙って私をまっすぐ見つめていた。まるで、私のひどい言葉ごと、そこにある感情まで受け止めようとしているみたいに。


「確かに……宮前さんにしてみれば、そう思っても仕方ないよな」


 佐久間清一朗は気恥ずかしそうにはにかみながら、ぽつりぽつりと、まるで自分の気持ちを確かめるように話し始めた。


「初めて君を意識したのは、去年の夏休み前だった」


 その声音に引かれるように、私も自然と彼の言葉を追いながら、去年の記憶をたどり始めていた。


「一学期が終わろうとしていた頃、クラスの中ではそれぞれのグループができていて、みんな夏休みの予定の話で盛り上がってた。そんな中で、宮前さんだけはいつもと変わらず、窓の外をぼんやり眺めていたんだ。何か考え事をしているみたいに、教室の外の景色ばかり見ていて、その姿が今でも妙に印象に残ってる」


 そこで一度言葉を切り、彼は少し困ったように笑った。


「その頃の僕は、正直に言うと、宮前さんのことを気難しい子なのかなって思ってた。いつもむすっとしてて、なんだか話しかけにくい雰囲気を出してるし、クラスに馴染めてないのかなって。教室の賑わいにもあまり近づかなくて、かといって完全に離れてるわけでもなく、いつも隅の席で一人静かに座ってたよね。君がよく話してた相手も、他のクラスの二人くらいだったし」


 その頃の私も、今と変わらず妄想に耽ってばかりいた。別に友達が欲しかったわけでもないし、無理に話し相手を作る必要も感じていなかった。だから一学期が終わる頃には、私はクラスの中でほとんど孤立していたし、それを気にもしていなかった。

 寂しいと思ったことはない。なぜなら、完全に一人だったわけではないからだ。同じ中学から上がってきた親友二人が、休み時間になると時々わざわざ他のクラスから話しに来てくれていた。だから、寂しいだなんて感じる理由はなかった。

 けれど、去年の夏休み前には、たしかに少しだけ違うことがあった。


「だけど、その日だけは違っていた。いつも無言で座っていた君の隣に、いつの間にか乃木坂七瀬さんが座っていて、しかも宮前さんに何か話しかけたかと思ったら、次の瞬間には言い合いみたいになっていたのを見て、僕はすごく驚いたんだ」


 佐久間清一朗は微笑を浮かべながら、そのときの情景を思い返すように、ゆっくりと言葉を続けた。


「乃木坂さんって、あの見た目もあって、僕もちょっと苦手意識があったんだ。なんていうか、一匹狼って感じがしてさ。誰も周囲に寄せつけない雰囲気があったし、相手が誰でも思ったことを遠慮なく口にするタイプだったから、正直少し怖いなって思ってた。実際、彼女もクラスの誰かと積極的に馴染んでいたわけじゃなかったし、あの派手な雰囲気もあって、みんな少し距離を置いていたと思う」


 乃木坂七瀬。

 私が霞ケ浦高校に通い始めてから、最初にできた友人。高校生活が始まり、一学期の終わり頃になって初めてまともに話すようになったクラスメイトである。


「正直、険悪な雰囲気でにらみ合ってる二人を初めて見たときは、いろいろ驚かされたんだ。だって最初は、宮前さんが乃木坂さんに何かされてる、いじめられてるんじゃないかって見えたくらいだったから。でも宮前さん、そんな乃木坂さんにも平然と食って掛かるから、見てる側としては、いつ本気の喧嘩になるんじゃないかって内心かなりハラハラしたよ」


 乃木坂七瀬は、校内で良くも悪くも何かと有名なギャルであり、美少女というよりも美女である。そして私は根暗なオタク少女だ。オタクとギャルは古来より水と油みたいなもので、真逆の二人が並んでいる光景は、第三者からすれば相当に異質に見えたに違いない。

 それに、実際私は現在進行形で、あのクソビッチギャルに苛められ続けている。佐久間清一朗の勘違いも、あながち間違いとは言えない。


「見るからに二人の相性は悪いし、一緒にいるといつも空気がぴりついていたし、二人の姿を見るときは大抵、お互いにいがみ合って口喧嘩してる場面ばかりだった。正直、いつ殴り合いの喧嘩が始まってもおかしくないくらい険悪な雰囲気を感じて、こっちはこっちでかなり心配してたんだ」


 もしもあのゴリラと喧嘩になったら、私のようなか弱き乙女は一瞬で殴殺されるだろう。


「でも、自分の勘違いに気づいたんだ。二人を見ていて、わかったんだよ。二人とも相手を信頼しているってのを。包み隠さず、取り繕いもせず、本音をそのままぶつけ合っているのが分かったんだ。ああいうのって、お互いをちゃんと信頼してないとできないことだと思うんだ」

私とあの野蛮人が信頼し合っている?


 もし、そう見えたのだとしたら、佐久間清一朗はきっと視力ではなく認識機能のほうに深刻な不具合を抱えているに違いない。

 佐久間清一朗は、肝心な部分を見ていない。私とあの蛮族がしょっちゅう口喧嘩をしていたのは、現在進行形で事実である。だがそのたびに、あのギャルは私の頭を叩くし、足は蹴るし、腹に拳を入れてくるしで、ありとあらゆる暴力行為に及んでいるのだ。

そんな野蛮人と、文明社会に生きる私が信頼し合っているなど、心外も甚だしい。

 ここはひとつ、彼の認識を正しておかねばなるまい。


「初めて見たよ。乃木坂さんが、あんなふうに肩の力を抜いて笑っているのを。ずっと誰もそばに寄せつけず、他人とのあいだに壁を作っている人だったのに。近寄りがたい雰囲気があって。でも、宮前さんの前にいるときだけは違った」


 私とあのビッチとの関係を、佐久間清一朗はだいぶ都合よく勘違いしている。というか、解釈を盛大に間違えている。訂正のために口を挟みたくても、その隙すら与えられないまま、佐久間清一朗は話を続けていく。


「次第に、乃木坂さんに声をかけるクラスメイトが増えていって、気がつけば君たち二人のまわりには、前よりずっと賑やかな空気ができていた」


 佐久間清一朗は、まっすぐに私を見つてきた。


「その頃から、僕はずっと君のことを目で追っていたんだ」


 まっすぐすぎるその言葉と視線に、私はまともに息をすることすら難しくなった。自分が彼の瞳の中に映っている、その事実だけで、どうしようもなく恥ずかしくなる。胸の奥がどくどくとうるさく脈打って、私はたまらず目をそらした。


「な、なな、なんで、わた、私なの? そ、それだったら七瀬の方が好きになるのが、普通じゃないの?」


 緊張で震える声をどうにか押し出しながら、私は必死に言い返した。そうでもしないと、彼の気持ちに呑まれてしまいそうだった。できることなら、今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。

 佐久間清一朗は、そんな私の取り乱した問いにも、すぐには答えなかった。少しだけ困ったように眉を下げ、それでもまっすぐに私を見つめたまま、静かに口を開く。


「確かに、乃木坂さんって綺麗だもんね。君と話すようになってから、素の彼女を見せるようになって、彼女が気さくで、思いやりのある優しい人なんだって知ることができた。実際、この学校に来て初めて乃木坂さんを見たときは、正直、目を奪われるくらい綺麗な子だなって思った見惚れたくらいだったし」

「じゃ、じゃあ、それなのになんで私なの?」


 思わず身を乗り出すみたいにして問い返していた。自分でも、声が少し裏返っているのがわかる。


「ずっと君を目で追っていて、気づいたんだ」

「な、何を?」


 彼は少しだけ息を吸い込んでから、ためらいなく言った。


「君の魅力だよ」

「み、魅力!? こんな地味で冴えない私のどこに魅力なんてあるのさ。七瀬みたいに綺麗な顔をしてるわけでもないし、こんな不愛想な猫みたいな顔をして、高二になったのにいまだに中学生に間違われるような幼稚な見た目をした私の、どこに一体魅力があるっていうの?」


 半ば叫ぶように言い返しながら、胸の奥がじりじりと熱くなる。恥ずかしいのか、腹が立っているのか、思考も感情もぐちゃぐちゃに入り乱れて、自分でももう何が何だかわからなかった。


「見た目以上に、その中身にだよ」

「外見よりも性格って言いたいの? 言っとくけど、私は性格だってかなり悪いよ。私は利己主義なの。自分が一番で、他人なんて二の次っていうか、他人なんてどうでもいい。だから、ずっとクラスメイトから離れて一人でいたんだもの」


 そこまで一気にまくしたてて、私は自分で自分を追い込んでいるような気がした。言葉を重ねれば重ねるほど、自分のほうが苦しくなっていく。

 けれど、佐久間清一朗は、そんな私の刺々しい言葉にもひるまなかった。むしろ、一つひとつを受け止めるたびに、自分の気持ちをよりまっすぐ私へ伝えようとしているようだった。

 否定もせず、困ったように笑うでもなく、ただ静かに私の言葉を受け止めたうえで、穏やかに言った。


「でも、今は一人じゃないよね」


 すでに逃げ場はどこにもなくなっていた。いつの間にか、私は追い詰められていた。


「宮前さんは気づいてないかもしれないけど、君って相手に変に気を遣わないよね」

「な、なにそれ。褒めてるの?」

「どうだろう。たぶん、普通はもっと遠慮するんだよ。相手の顔色を見たり、嫌われないように言葉を選んだり、ここまでは踏み込まないようにしようって、どこかで線を引いたりする。でも宮前さんは、そういうのをあんまりしない」

「そ、それはただ、面倒なだけだし……」


 佐久間清一朗は、言葉を探すように少しだけ視線を落としてから、また私を見た。


「うん。たぶん、そうなんだと思う。でも、宮前さんと話してる人って、みんなすごく自然なんだよ」

「な、なにそれ。意味わかんないんだけど」

「僕も、うまく説明できない。だけどさ、人って誰かと接するとき、少しは自分をよく見せようとしたり、嫌われないように無難に振る舞ったりするだろ。僕だってそうだよ。でも、宮前さんの前だと、みんなそういうのをやめてる気がするんだ。変に取り繕わないし、無理に明るくしたりもしない。そのままの自分で話してるように見える」

「な、なにそれ。私が他人に対して気を使ったりしないから、相手も楽できるって話なの? 私は本当に面倒なの。他人に合わせたり、愛想よくしたり、空気を読んだりするのが面倒なだけ。だから、私から誰かに近づこうなんてしない。基本的に他人が苦手、嫌いだから」


 はっきりとそう言うと、佐久間清一朗は小さく肩をすくめるように笑った。けれど、その目だけは少しも冗談めいていなかった。


「はは、だろうとは思ったよ」


 そしてすぐに、その笑みを消す。


「でも、そんな君だからだよ」


 佐久間清一朗は、今度ははっきりと強い調子で言った。


「そんな君だから、乃木坂さんは心を許したんだよ」

「は……?」

「相手に合わせようともしない。無理に仲良くしようともしない。思ったことを思ったまま口にするし、別に誰かを受け入れようとしてるわけでもない。そんな君だから、乃木坂さんは心を開いたんだ」


 彼は静かに続ける。


「宮前さんじゃなければ、きっと乃木坂さんが築いた壁は壊せなかったと思う。あの人はたぶん、最後まで誰にも彼女に近づくことを許さなかったはずだよ。誰も壊せなかったんだよ、あの人が自分のまわりに作ってた壁を」

 

 佐久間清一朗は、熱のこもった視線でまっすぐに私を見つめ続ける。偽りも飾りもない感情を、ただひたすらにまっすぐ向けられて、私はそれを避けることができなかった。


「宮前さん、そんな君だから、僕は君のことが好きになった」

次回で告白シーンをちゃんと終わらせます。

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