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第1‐3『妄想依存少女の青春』

ただの告白シーンなのに長くなってしまったため、四分割しております」

「……佐久間君、春のこの時期って寒暖差が激しくて困るよね」

「え? あ、いや……うん、そうだね」

「こういう時期って、体調管理を一歩間違えるとすぐ風邪ひくし」

「ああ……まあ、そうだね。気をつけないとね」

「コロナとかもあるしさ。今って、何の病気になるかわかったもんじゃないじゃん」

「う、うん……それはそうだけど……えっと、宮前さん? 急にどうしたの?」

「いや、別に深い意味はないんだけど」

「絶対あるよね?」

「………………いや、ほんとに、なんでもないから」


 沈黙が落ちた。

 微妙、などという生ぬるい表現では足りない。息が詰まるほど重苦しく、説明のしようもない沈黙だった。

 本来なら、ここで取るべき選択肢は二つしかない。そのうちのひとつを選んだつもりだったのだが、どうやら盛大に選択を誤ったらしい。

 だが、おかげで収穫もあった。

 先ほどのやり取りから察するに、どうやら彼のオツムは正常であることが解った。少なくとも、何らかの状態異常にかかって告白対象を誤認している、という線は薄くなった。

 その代わり、今度は私のオツムの正常さを疑うような怪訝な視線を向けられることになってしまったが、その程度の被害はこの際、必要経費として受け入れるしかない。

 となると、残る可能性はこれしかない。というより、それ以外にあるはずがないだろう。

 勘だが、いるとしたら廊下だ。


「……宮前さん? さっきから扉のほうを気にしてるけど、どうかしたの?」


 私がじっと廊下へと続く閉ざされた教室の扉を見つめ、人の気配を探ろうと聴覚を研ぎ澄ませていると、佐久間清一朗は困惑したように私の視線を追い、つられるようにして背後の扉を振り返った。


「……誰か、いるの?」


 外の世界と隔てるように閉ざされた教室の扉の向こうからは、何の気配も感じられなかった。廊下を行き交う足音も、ひそひそと様子をうかがうような声もない。放課後の喧噪すら、まるでこの教室だけを避けるように遠ざかっていて、ただ静寂だけがそこにあった。

 おかしい。

 私の考えが正しければ、そろそろこの質の悪い罰ゲームを仕組んだ男子どもが、扉を開け放って、にやにやと下卑た笑みでも浮かべながらネタばらしに現れてもおかしくないはずだ。

 だが、いくら待っても、私が想定していたような展開はいつまで経っても起きなかった。

 ……まさか、本当に私に告白しているのか。


「あの、宮前さん。そろそろ……いいかな」

「え!? えっと、な、何が?」

「答えを……告白の返事を、まだ聞いてないんだけど」

「こ……告白? って、何のこと?」


 私はきっと、ひどく間の抜けた顔をしていたのだと思う。いや、阿呆みたいな顔で聞き返していたのかもしれない。

 だが、佐久間清一朗はそんな私のとぼけた返答にも何ひとつ動じなかった。ただ黙ったまま、こちらのすべてを見透かすような真っすぐな視線を向けてくる。

 その眼差しに射抜かれて、私は思わず居住まいを正さずにはいられなかった。

 そして、改めて彼の顔を見た。

 真剣な表情だった。真摯で、ひたすらに、私の返事を辛抱強く待ち続けている顔だった。顔が赤く見えるのは、きっと夕日のせいだけじゃない。苦しいほどに思いつめた表情をしている。

 真っすぐに私を見つめるその視線は、あまりにも一途で、まともに受け止めるだけで息が詰まりそうになる。

 普段、教室で見せる明るく穏やかな、爽やかな笑顔の印象が強い佐久間清一朗とは、まるで別人のようだった。

 初めて、彼が少し怖いと感じた。

 とてもじゃないが、鈍感系ラノベ主人公の常套句みたいに、「えっと、さっき何て言ったんだっけ?」などと軽く流せる雰囲気ではない。

 流せるはずがない。

 この真摯なまなざしが、それを許してくれなかった。

 これって、マジで、マジの告白なの?


「……えっと、その……冗談、だよね? もしかして、実は私を驚かせるための罰ゲームだったり……して?」


 現実を直視する勇気もなく、目の前の展開をそのまま受け入れることもできず、ここまで来てもなお私は無駄な足掻きをやめられなかった。

 臆病な私は、この空気を笑ってごまかし、どうにか壊してしまおうとしたのだ。

 けれど、その言葉は、口にしたそばから後悔する羽目になった。

次の投稿で告白シーンのラストとなります。

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