第1-1話『妄想依存少女の青春』
第一話がかなり長くなってしまいました。長文だと読みづらいと思い、四分割して投稿します。
「宮前夢路さん、僕は君のことが好きです」
……よし。ひとまず改めて、自己紹介から始めさせてもらいたい。
今の台詞は、この際いったん忘れてほしい。気になるのは重々承知している。だが、これはおそらく妄想が見せた非現実的な白昼夢か、さもなければ思春期特有の欲望で理性の箍が外れた男子高校生の妄言でしかない。
ゆえに今は、宇宙の彼方へでも盛大に打ち上げて放置しておくとしよう。
さて、改めて自己紹介しよう。私の名前は宮前夢路である。
先ほど登場した完璧な美少女・宮前夢路とは似ても似つかない、どこにでもいる普通の女子高生だ。現実の私は、むしろその真逆である。モデル顔負けのスタイルなど持ち合わせておらず、長く美しい黒髪とも無縁で、髪は母親譲りのくせっ毛だから長く伸ばしてもいない。
学業が優秀というわけでもなく、運動神経だって悪い。コミュ障とまではいかないにせよ非社交的で、存在感も薄いのだから、人気などあるはずもない。
妄想の中の美少女など、コンプレックスの穴埋めをするためだけの存在でしかない。要するに、現実の反動である。
現実の宮前夢路も、茨城県稲敷郡阿見市に暮らし、私立霞ケ浦高校に通い、この春に二年生へ進級したばかりの女子高生である。
私がいかなる人物か簡潔に述べるとするならば、いわゆるオタク女子だ。
趣味は二次元サブカルチャー全般。ひと昔前なら“オタク趣味”のひと言で片づけられていたようなものを、今も飽きずにこよなく愛している。もっとも、この令和の時代にそんな言い方へ妙な偏見を抱いているのは、頭の古い人種くらいのものだろうが。……と、少々話が逸れた。私個人の思想はひとまず脇に置いておくとして。
つまり私は、文化系趣味を愛する陰キャ寄りの女子高生、ということになる。
こういう自己紹介から始まる主人公は、漫画やアニメではたいてい自称ブスの美少女として描かれるものだが、私は何もかも平均的か、それ以下でしかない。
顔立ちは、良く見積もって中の下、といったところである。愛嬌のある顔というよりは、どちらかといえば近寄りがたい印象の顔立ちらしい。切れ長でやや吊り気味の目元のせいか、ただ黙っているだけでも不機嫌そうだの、怒っているのかだのと、勝手なことを言われがちである。祖母いわく、私の顔は母親似らしい。まったくありがたくない話だ。これまた母親譲りのくせっ毛も相まって、近所の人にも懐かない野良猫のような風体をしている。
そのせいか、私は普通にしているだけのつもりなのに、どうにも人を遠ざける印象を与えてしまうらしく、友人は少ない。
とはいえ、友人が少ないくらいでいちいち気に病むほど繊細でもないので、その点は別に困っていない。
だが、少なくとも異性から好かれる類の顔立ちではない、ということだけははっきりしている。これは私自身の自虐ではない。数少ない友人たちの評価を総合した、れっきとした客観的事実である。
全体的に幼い印象の容姿をしていて、成長は中学二年の頃で止まってしまったのではないかと疑っている。下手をすれば、公共施設くらいなら子ども料金で通れてしまうのではないかという妙な自信すらある。
そんな幼い見た目に、吊り気味の目元と険のある顔立ちまで合わさるものだから、全体としてはお世辞にも可愛らしいとは言いがたい。むしろ、ふてぶてしい印象のほうが強い。そんなわけだから異性はもちろん、同性から見ても、とりたてて魅力的に映るような容姿ではないらしい。
学業は決して優秀ではない。むしろ、毎回どうにかこうにか追試を回避している現状を見るに、かなり悪い方だと思う。
運動は苦手というより嫌いである。体育という授業は、教育カリキュラムから消えてほしいと本気で願っているほどだ。
社交性も高くはない。別にコミュ障というわけではないのだが、そもそも他人に干渉されること自体があまり好きではない。だから自分から積極的に他人との接点を持とうともしない。空気を読み、相手の気持ちを汲み、調子を合わせて会話するという、普通の人が行う社交の所作が、とにかく面倒で苦手なのだ。
そもそも性格的に、あまり他人と友好的な付き合いをしようという気がない。別段、人見知りというわけではない。むしろ他人そのものにあまり興味がなく、他人と感情を共有し合うことにもさほど魅力を感じていない。ゆえに、友達の数は少ない。
だが、ぼっちではない。
運がいいというべきか、それとも世の中には思った以上に物好きな変人が多いというべきか、こんな私にも指折り数えられる程度には友人がいる。しかもその中には、親友と呼んでも差し支えない相手が三人もいるのだから、世の中は案外わからないものである。
とはいえ、人に好かれるような性格はしていないし、そもそも積極的に好かれたいとも思っていない。基本他人に興味が無いので、見知らぬ相手には素っ気ない態度を取りがちである。
進級して学年が上がり、クラス替えが行われた結果、運の悪いことに新しいクラスには知り合いが一人もいなかった。数少ない友人たちは全員別のクラスへ散ってしまい、私だけがぽつんと取り残されたような格好である。
そのため、新しいクラスではほぼ完全にぼっち状態だ。もっとも、先ほど述べた通り、私は友達がいなくても平気な人間なので、それ自体は別に苦でもない。
想像してみてほしい。クラスに一人くらいはいただろう。特定の誰かとしかほとんど話さず、それ以外の相手とは社交辞令めいた短いやり取りしかしない。あとの時間は、教室の隅か自分の席で、黙ってじっとしている。どこか取っつきにくい雰囲気を漂わせ、周囲からもなんとなく距離を置かれているような女子である。
もしそんな姿を思い浮かべられたのなら、それがたぶん私だ。
ここまで私個人について詳しく語れば、もうおわかりだろう。
そう、私は少なくとも、異性はもちろん同性から見ても、魅力に乏しい女子であることは疑いようがない。毎朝鏡の前で自分の顔を確認するたびにそう思うのだから、まず間違いない。
そんな私だからこそ、自分に恋愛イベントなんて起こるはずがないと確信していた。
「宮前夢路さん、どうか僕と付き合ってほしい」
この続きは、1-2として投稿します。




