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15/22

15.スカートの丈

投稿するする詐欺をしてしまい、大変申し訳ございませんでした。

 春になり温かな陽気が続いていた。この時期になるといつも思うことがある。


(スカートの丈短くしたいな)


 自分の部屋で1人、机に突っ伏してスカートをパタパタ扇ぎながらそんなことを考えていた。

 この世界のスカートは中性ヨーロッパよろしくロングスカートである。冬は長い方が断然温かくて良いのだが、春になると重たく感じてしまうし、夏なんて熱くて1人でいる時はたくし上げている。大体裾を踏んで転びそうになるのも嫌だし動きづらいし、汚れないように歩くのも大変なのだ。


(理想はひざ丈だけど、ふくらはぎくらいでも良いわ)


 毎年思って作らないのは勇気が出ないからである。ファッションはとかく批判をされやすい。自分はこうだと強い信念がないと絶対に心が折れる。ましてや多様性という概念が普及していない世界なら猶更だ。


(生足ははしたない、か)


 現代人の私にはその感覚はちょっと分からないが、こっちの人から見たら下品らしい。それならオフショルダーはどうなんだという話だが、あれはエレガンスとのこと。全く訳が分からない。文化や価値観の違いとしか言い様がない。


(学生の頃は制服に生足だったけどねぇ)


 しかも真冬の最中、皆がデニール数がどうのと話をしている時でも、私は変なこだわりで真冬でも生足を出していた。今思えばあんなに寒かったのに我慢して馬鹿だったなぁと思う。


(ん?デニール?)


 私はガバッと起き上がった。


(つまり、生足じゃなければ良いんでしょう?)


 それならタイツあるいはストッキングを履いて生足を回避すれば良いだけの話ではないか!


(もっと早く気付けばよかったわ)


 今までそこに考えが及ばなかったのは早々に諦めていたからだ。それにこの世界の靴下類は隠れて見えない部分だからか発達しておらず、とても簡素かつ短いものしか普及していない。タイツやストッキングの原型となるものがなかったのでピンとこなかったのだ。


(もしかしてナイロンがないと作れない?)


 しかし中性でも絵画などによくピチピチのタイツを履いた男性は見かけるので、合成繊維がなくとも似たものは作れるはずである。


(作りたい)


 それには味方が必要だ。薄い布で足を覆えば生足じゃないという私の言い分は何というか屁理屈と言われればそれまでで、受け入れてもらえない可能性もある。だからこそ市場調査と根回しがいる。特に女性からの支持を集めておきたい。


(まずはリリアンさんからね)


 彼女を落とせたら随分と楽に事が運ぶだろう。

 ちょうどお茶の時間になってリリアンさんが部屋に来たので早速聞いてみることにした。ちなみに侍女は皆クラシカルな黒いメイド服に白いエプロン姿で、彼女も例に漏れずその制服を着用している。


「リリアンさんはスカートの裾を踏んで転びかけたり、あるいは転んだりしたことはありませんか?」

「ええ?まぁ確かに、昔は転んで恥ずかしい思いをしたことがありますけど」

「じゃあ、スカートの裾が汚れそうになるのをいちいち気にしたり、あるいは汚れるのは嫌じゃないですか?」

「それは勿論、汚れたらみっともないから嫌ですわ。ただ黒は汚れが目立たないですから」


 この世界の侍女や使用人が黒い服を来ているのは主としてそういう理由がある。


「もう少し、あとちょっとでもスカートの丈が短かったらとは思いませんか?」

「まぁアリサ様ったら。これ以上短くなったら足が見えてしまうではありませんか」

「実はリリアンさん、耳寄りな情報があるんです」


 テレビショッピングよろしく私は彼女にタイツないしはストッキングの話をした。


「それはでも長い靴下が見えてしまうんですよね?不格好ではありませんか?」

「可愛い柄やお洒落な意匠にして、見えても問題がないようにします」

「靴下は下着類ですから、それが見えるのはちょっと…」

「長い靴下というより、薄手のズボンをスカートの下に履いているというイメージではどうでしょうか?」

「足のラインが見えるんですよね?」

「はじめは馴染みがないでしょうからそんなに丈を短くするつもりはありません」

「うーん…」


 リリアンさんは慎重だ。動きやすさと汚れと己の常識を天秤にかけて揺れている。しかしここ数年彼女と共に過ごしている私は、同時に僅かな期待を抱いている彼女の心の機微も敏感に感じ取っていた。


「リリアンさん仰っていましたよね?サリア様が服の装いに革命を起こして以降、変化がないって」

「それは…確かに申し上げました」


 彼女は元々サリア様の専属侍女だった。そのサリア様は代のスカート嫌いで、特にプリンセスドレスのようなひらひらとボリュームがあり、かつコルセットがついたものは窮屈で動きにくいと嫌悪していたという。そのためいつもは男性の装いをしていたものの、お姫様の公務でどうしてもドレスを着用しなければならない時はかなり不満気だったらしい。そしてその結果、サリア様はドレスからボリュームとコルセットをなくし、エンパイアスタイルのような、すらりとボディラインが映えるドレスを作ったのだ。それは当時、主に男性陣から批判の的だったけれど、サリア様の美しさに魅了されて皆押し黙った。女性陣はそのファッションに虜になって皆がこぞって真似をしたという。


 そしてリリアンさんも当時魅了された女性の1人であり、また専属侍女と言う立ち位置から間近でファッションの最先端を垣間見た人でもある。何が言いたいかと言えば、リリアンさんは大のお洒落好きで、流行には敏感だし、また確かな審美眼も備わっている。その人のセンサーが今、私の提案に反応しているのだ。


「スカートの丈は実用性だけでなく、お洒落の幅も広がりますよ?」

「…左様でございますか」

「私が1回試しに作って履いてみるので、良いか悪いかその後に判断しませんか?」


 この一言が決め手となった。


「…畏まりました」


(よし、決まった)


 私が内心ガッツポーズを決めているとリリアンさんが気になることを言ってきた。


「ただし一旦カイト様にはこのことは内緒にしておきましょう」

「え、どうしてですか?」


 男性の意見も聞いておこうと思ったのだが。


「実は1度、サリア様とカイト様はあのドレスを巡って大喧嘩をされているのです」

「え?喧嘩?」


 あんなに懐の深い彼が喧嘩だなんて俄には信じられない。一体何があったというのだろう。


「あれはお2人が付き合い始めたばかりの頃のことです。サリア様はカイト様に一言も相談せず、当日いきなりあのドレス姿を見せて公務に行くと仰いました」

「それはまぁ、当日いきなりなら怒ると思いますよ」

「勿論それに対しても怒っていました。しかしそれよりも普段カイト様は男装には寛容であったにも関わらず、あのドレスは身体のラインがはっきり見えるので他の男を誘っているようだと言って大反対し、揉めに揉めたのです」


 確かに一途なカイトならそうやって怒りそうだ。


「それで?」

「一旦遅刻するからと2人を部屋から追い出しました」


 部屋から追い出すのはリリアンさんの常套手段だが、今知りたいのはそこじゃない。


「2人はその後どうやって仲直りしたんですか?」

「その後はまぁ結局カイト様が折れていました。あの方は何だかんだと言ってサリア様には弱かったですからね。ただ次からは先に言ってほしいと仰っていたそうです」


 サリア様に振り回されているカイトが容易に想像できて私は苦笑した。


「アリサ様の仰っているものも足のラインがはっきり見えるならカイト様はあまり良い顔をなさらないと思います。ですから今はカイト様には内緒で、その靴下の出来が良かった時にあの方の首を縦に振る方法を考えましょう」

「分かりました」


 できれば彼とは喧嘩をしたくないので、何とか事が穏便に運ぶようにしたいものだ。



 そして秘密の試着日当日。


「こ、これは!」


 リリアンさんが目を見張った。


「素敵ですわ。動きやすさも可愛らしさも兼ね備えています」

「下品じゃありませんか?」

「生足ではないのでそれほどの印象はありません。ただ殿方はこれでもはしたないと言ってくるかもしれません。カイト様もアリサ様の大事なおみ足は守りたいはずですから、このまま披露しても難色を示されるでしょう」

「この丈でもですか」


 膝下なのでそれほど短くはないのだが。


「ええ、この丈でもです。しかし大丈夫ですわ、私に良い考えがあります」

「良い考え?」

「はい、ですからご安心ください」


 リリアンさんは私の手を取ってこう言った。


「アリサ様、これで新時代を築きましょうね」


 そうして私たちはカイトの首を縦に振る一計を案じ始めた。

次回は来週水曜日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。


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