13.悪戯
※ちょっとアダルトな雰囲気です。苦手な方はご注意ください。
少し落ち着いてから部屋で夕食を食べた。地物の食材を使った料理は素材の旨味たっぷりで大変美味しかった。
食事が終わると晩酌タイムだ。この時間帯にあればもう自分たちで好き勝手やるので使用人には暇を出す。特にこの宿は遅い時間であれば使用人でも温泉に入ることができる。勿論雇い主の許可があればという話ではあるが。
「ではアリサ様、カイト様、私どもはこれで」
「ご苦労様でした。皆さんも温泉に浸かってゆっくり休んでくださいね」
「お気遣いありがとうございます」
リリアンさん含め皆の顔が綻ぶ。実は今回同行したら温泉に入れるということもあり、使用人は皆こぞってついて来たがったため取りまとめるのに苦労したとリリアンさんがぼやいていたのだ。
(今度皆に慰安旅行でもプレゼントしよう)
私はそう固く決意した。
ここでニーアムが何か伝えたそうにモジモジしていたので声をかけた。
「どうかした?」
彼女は私の掌を取ると1つずつ文字を書いていく。
『温泉なんて初めてです。連れてきて下さりありがとうございます』
「ニーアム…」
私は何とも言えない複雑な気持ちになって、思わず彼女を抱き締めた。彼女の今までの艱難辛苦を思う。恐怖や痛みによる抑圧は神経を削り、精神を蝕んだに違いない。それでも私が捕まった時、ニーアムはできるだけのことをしてくれた。優しい子だ。不憫だと思うのはいけないことだろうか。あの生き地獄から解放してあげられたのは本当に怪我の功名だった。
「リリアンさんと一緒に楽しんでおいで」
リリアンさんは建前上研修と言ってニーアムを抜擢して連れて来ているけれど、本当は色々な事情を加味していることを私は知っている。
ニーアムは嬉しそうにはにかんだ。ここに来てから随分笑うようになってくれた。そういう小さな変化が嬉しい。
「それでは、お休みなさい」
「お休みなさい」
声の出ないニーアムに代わってリリアンさんが挨拶をした。ちなみにこの間カイトは男性の使用人たちと話をしてお小遣いを握らせていた。使用人たちで何か簡単に食べ飲みできるように図らったのだろう。
「さて、俺たちも楽しむとしよう」
カイトはそう言ってそそくさとワインの栓を開ける。彼は基本的に休みの前日にしか酒を飲まないようにしているので、飲酒は久しぶりだった。
「あー、美味い」
「ふふっ、良かったね」
五臓六腑に染み渡るとでも言いたそうだ。
私は以前の制約通り2杯で止めていたが、カイトは久しぶりなこともあって随分と杯を重ねていた。
「君ももっと飲んだら?」
「嫌よ、もうお酒で失敗したくないもの」
「あと1杯くらいなら平気じゃないか?」
「うーん、じゃああと1杯だけね」
これは意志薄弱とかではない。単にカイトが1人で飲み進めるのがつまらなさそうだったからだ。現にとても嬉しそうに私のグラスにワインを注いでくれた。
それからまたしばらくは楽しいひと時を過ごし、用意していた今日分のお酒を飲み干したところで寝支度を整える。カイトが先に終わってベッドに潜り込んでおり、私が行くといつものように腕枕をしてくれた。
「まだ石鹸の良い匂いがする」
彼が指で私の長い髪を梳き、弄び始める。
(これは、もしかして…)
最近の忙しさで、自然と夫婦の営みもご無沙汰だった。いつも欲がないと彼には言われているが、流石の私も実は少しフラストレーションが溜まっていたりする。
(そんなこと絶対言わないけど)
しかし今夜辺りはと思っていたので、この雰囲気は期待できそうだ。
「アリサ、愛している」
髪を耳にかけられ囁かれる。さらに頭を撫でられると抱き寄せられた。私もカイトを抱き締める。ドキドキしながらしばらくそうしていた。
(ん……?)
しかし一向にその後の展開がない。不思議に思った時、予想外のことが起きていることに気が付いた。
「スー…スー…」
(嘘、でしょ?)
私は少し身じろぎをすると、可愛い彼の寝顔があった。
(…相当お疲れだったのね)
仕事に長距離移動でやはり疲れていたのだろう。その上、温泉に入って久しぶりに深酒をした。眠って当然だ。
(ごめんね、ありがとう)
今回の旅行はリフレッシュだけが目的ではなく、先の事件に対する謝罪、あるいは私の心の傷を癒すためというのもあったに違いない。
私は彼の頬を撫でる。これほど疲れていたのなら、風邪を引かなくて良かったと思った。ゆっくり寝て英気を養ってほしい。
しかし仕方がないとは思いつつも、私のこのモヤモヤは一体どうすれば良いだろう?
(…悪戯してやろう)
私はこの湧き上がる昂りをカイトに悪戯することで解消することにした。
悪戯をしている間、彼は一切起きなかった。まるでスイッチが切れたように深く寝入っている。本当に限界だったようだ。
(こんなもんかな)
フフフと私は1人で満足気に笑う。我ながらよくできている。
最後までバレずに悪戯ができたことで溜飲が下がったので、私もころんと横になって寝た。
翌朝、私の方が先に起きたのでカイトはそのまま寝かせておいて、リリアンさんとニーアムを連れて朝風呂に向かった。
「お肌がツルツルスベスベで若返ったようですわ」
「分かります。肌も髪ツヤも良くなった気がします」
『すごく気持ち良かったです』
「今晩もあるから満喫してね」
女子トークで盛り上がる中、私だけ入るのは少し気が引けたがゆっくりと温泉に浸からせてもらった。
朝から温泉を堪能して部屋に戻ると書置きがあった。どうやらカイトも起きて朝風呂に行って来るとのことだ。彼が帰ってくるまで部屋で1人でゆっくり過ごしたくて2人は下がらせた。
気持ち良くてついソファでうたた寝をしていると部屋のドアが開いた。
「やってくれたな、アリサ」
開口一番いかんともしがたい顔でそう言いながらカイトが入って来た。彼も使用人を下がらせたようである。
「あっ、気が付いた?」
私は悪戯が成功したのが嬉しくてニヤニヤした。
「よくもまぁこんな絶妙な場所につけたものだ」
「あからさまなところだと恥ずかしくて温泉に入れないでしょ?」
「だからここなのか」
私はカイトの内もも、しかも足の付け根に近い場所に盛大なキスマークをつけておいたのだ。
彼は私の隣に腰掛けた。
「俺の寝ている間に?」
「うん、全然起きなかったからそのままチューチュー吸ってた」
「そんな蚊じゃあるまいし」
「ふふっ」
「でもまさかこんな場所を吸われていたのに起きなかったなんて、自分が信じられないよ」
「それだけ疲れていたのよ」
「それもあるけど、君だったからというのもある」
カイトも私も気配には敏感な方だから、互いに無防備な姿を曝せるのは気の置けない仲の証拠だったりする。
「そうかもね。さっ治癒魔法で治すわ」
「いや、このままで良い」
「え?」
「せっかく君がつけてくれた所有印なんだ。自然に消えるまで放っておくことにする」
そう言うと彼は私の顎に手をかけてキスをする。朝から随分と大胆なキスだった。
「ん、ちょっと」
「誘惑されたんだ。期待には応えないと」
「待って、今からは駄目」
「なんで?朝の方が良いのに」
「そうかもしれないけど駄目」
私としては秘め事は夜にしたい。
「ふうん?分かった。じゃあ今晩は覚悟しておいて」
しかし何故かカイトは私をソファに押し倒した。
「分かったんじゃないの?」
「お楽しみは夜だろ?」
そこまで理解しているのに何故足を持ち上げられているのだろう。バスローブ姿なのであられもない姿になっているのだが。
「何をするつもり?」
「こうするつもり」
彼が私の内ももに顔を埋めた。
「いっ!?」
驚いて反射的に逃げようとするも、抑え込まれているので逃げられなかった。私はなす術もなく内ももを吸引される。
「ん、できた」
しばらくしてカイトが顔を上げると見事なキスマークがついていた。図ったのか彼と同じ場所である。
「これでお揃いだ」
「もう」
私の顔はきっと温泉とは違う理由で紅潮している。恥ずかしいが満更でもない気持ちなので乙女心とは複雑なものだ。
「うん、満足した」
ニヤリとカイトが笑う。昨夜の私も似たような顔をしていたに違いない。
「後は夜のために身体の調子を整えておかないとな」
「そんな張り切らなくても」
「いやいや、せっかくのお誘いを無碍にするなんて俺にはできない」
もしかしたら悪戯をしない方が身のためだったかもしれないと思ったが後悔先に立たず。
この夜は甘やかに過ぎていった。
次回は来週水曜日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。




