三百一話
夜が明ける頃、俺はベッドに汗を吸わせながら飛び起きる羽目になった。いや、これは恐らく俺だけではないはず。
そう考えて、まだ時間的にも早すぎるのだが急いで支度をして協会へと飛び込んだ。
「ふむ、白河も来たか」
「やっぱりというか、続々と集まって来てますね」
集まった理由。それは前にもあった夢が関連している。まぁ、随分と見ていなかったから、忘れかけていたんだけどな。
それでも、其れについて話していた事を覚えている為に、この街に派遣された人達はこうして協会へと集まった訳だ。
「あー、そういえばこの事は話して無かったからな。この地出身の探索者達は来てないみたいだな」
「そういえば、顔見知りばかりですね……一応答え合わせと行きますか?」
その言葉を皮切りに、お互いみた内容を話していく。
すると、やはりと言うべきか、夢見の内容は全員同じで……このまま〝白装束〟共を放置すれば、再びダンジョンからモンスターが溢れるというモノ。
「しかし、理由は解りませんが……こう、夢は見ているというより見せられているといった感じでしたね」
「確かに。なんか電波を受け取ったみたいな感じか?」
「それだけだと、頭がおかしい人に聞こえるんですが」
「いやいや、夢の話をしてる時点で……な。昔ならお花畑扱いだぞ」
夢占いだとか、正夢だとか、霊夢だとか。まぁ、昔から色々と夢って言うのは有る訳だけど、魔力が存在するようになってからは、それも馬鹿に出来ない。
「前の事例で考えるならばだ。これは早急に対処したほうが良いという事だろう」
「とは言え〝白装束〟達がどこにいるのか、まだ判明してませんよ」
あ、因みに奴らの呼び方は〝白装束〟で統一された。前は、白コートだの白カルトだのと人によって呼び方が違ったからな。
そして、問題はその〝白装束〟達が夢の中では何処に潜んでいるのか解らなかった事。
寧ろ、あいつらゴキブリの様に沸いてくる。そのようなイメージだった。
「捜索範囲を広めたい……が、手が足らないんだよな。まだまだ探索者の配置換えは続けるが……すべて換える訳にもいかないからな」
「必要な素材ってダンジョンの深部に多いですからねぇ……」
食料関連は、最悪質の低いモノでもいいならば植物ダンジョンの下層で補える。肉等もモンスターから解体すれば良い。
だが、武器を作る為の魔石も鉱石も深部にある質が良いモノの方が良いのは当然で、特に消耗品と言える銃弾やグレネード系はストックの事も考え大量に必要だ。
人員を総入れ替えなんてやれば、補給が足らなくなる可能性もあって……総戦力をこの場所に集めるなんて事は土台無理な話。
「そういった理由で、配置換えもそろそろ頭打ちだからな。……恐らく、イオや風の仕事量が増えるかもしれないが」
「まぁ、危険な状況とあれば致し方ないかと……イオも風も大丈夫だよな?」
「ミャ!」「ピィ!」「ん! どっちもだいじょうぶだって!」
「だそうですよ守口さん」
「そうか、すまないが頼むぞ」
そんな訳で、捜索はイオと風に任せてから、守口さん達は攻撃と防衛の見直しを始めた。
一応、早く起きてきた探索者達は協会の会議室で話し合いに参加はしている。しているのだが、いい案と言うモノは中々出せないもので……。
「なぁ、俺達が参加する意味……あるか?」「どうだろうな」
と言う声がちらほら聞こえなくもない。ただ、守口さん達としては方針を決める状況を聞いておいて欲しいと言うのと、意外な案が出ないかと言う期待から、この場に参加させているらしい。
しかし……情報が少ないからな。攻めに関しては良い案など出るはずもない。
なので、必然的に話の内容は防衛関連になる。
「壁を背にフロントが出るとして、バックはどうする?」
「最初は壁の上と避難誘導で良いだろ。探索者の諸君はどう考える?」
「いえ、俺達は任された事をやるぐらいしか……」
あらま。探索者側はここ数日の模擬戦で多少心が折れているな。まぁ、集団戦闘に関してはど素人を丸出しにしてしまったから仕方ないが。
それでも、やれる事は十分あるとおもうんだけど。
「弱気になりすぎてるぞ。訓練はあくまで訓練だからな? 本番に備える為に、また何度も試せば良いだろう」
「あはは……いやぁ、集団戦ともなると足手まといだなと言うのが大きすぎまして」
「大丈夫だ。個人や一パーティー同士ならば問題が無いだろう? それならば、そうなるように場を調整するだけだ」
守口さんが探索者の一人に問題ないと声を掛けてから、やれるだろう事を次々と話していく。
まぁ、その内容って偵察・遊撃・壁の上から支援攻撃・避難する人の護衛と誘導と、次々と出来そうな事を上げていくものだから、気落ちした人も随分と持ち直した様子。これが飴と鞭と言うやつか。
「でしたら、うちのパーティーは避難誘導が良いですかね? 盾持ちが多いので」
「俺達は斥候と支援攻撃に分かれるか? 盾持ちと言っても俺達の場合は回避盾だからな」
どうやら守口さんの言葉が薬となったのか、「居る意味ある?」と言っていた人達も、次第に自分達が出来そうな事を考え申告し始めた。
俺は言う必要が無い。前に言った通りで……双葉の護衛兼本部待機だからだ。
「ガードは俺達が務める。まぁ、一番美味しい部分は俺達が持っていく訳だから……嫉妬はするなよ?」
にやりと笑いながら守口さんが軽口を叩く。うん、夢などのお蔭で折れた心に追い打ちをかけてた訳だからな。
先ほどの話で随分盛り返したけど、それでも色々とマイナスに思考が行きがちだ。だからこそ、一番危険な位置は自分達でやるけど、一番手柄が美味しい場所だと笑って話すのだろう。
「む……これは負けられないな。支援攻撃で相手を殲滅する勢いでやるしかないか」
そして、それに乗る後衛の纏め役な上野さん。うん、実に良いコンビしてるなこの二人。
まぁ、そんな二人に釣られてなのか、虚勢やまやかしかもしれないが、随分と大きな口を開く人達。
中には「一番槍は俺のもんだ!」とか言ってる人もいるけど、「いつの時代ですかね?」と突っ込みを入れたい。まぁ、そんな空気を読めない無粋な事はするつもりなんて無いけど。
しかし、この夢を見せてきた相手は一体なにを考えているんだろうな。
奴らの対処は既にするって決まってるのに、ここで色々な意味で追い込まなくても良いだろうに……もしかして、俺達が考える以上に危険な状態だったりするのだろうか。
━━次元の壁━━
「よしよし、これで夢で教える事が出来たよ!」
「おつかれー! 全く、馬鹿が阿呆な事を考えるもんだから、化け物から行われる壁への攻撃が強化されてるよ」
「全くだ。何であんな思考回路になるんだろうな……えっと、「迷宮神に生贄を」だったか? 捧げられた祈りと生贄が全て次元の壁を壊す奴のパワーアップになってるっての……」
何時もの様に、壁を修復しながらそのような会話をする柱達。その手は光の速さでも超えているのか、動きすら見えないのだが……壁の向こうから聞こえる打撃音もまた、凄まじい連打音を響かせている。
「ダンジョンが溢れる可能性は……間違いないんだよな?」
「ラプちゃんを中心に、あり得る未来を見てもらったから間違いないよ? このままあいつらを放置すれば、そこの壁向こうにいる奴がどんどんパワーアップして……壁の一部が壊れてダンジョンに影響が出る」
「全く……どれだけどうしようもない奴がいるのやら」
「ま、それが人間だからねー。理解も出来ないのに理解したつもりで、良い事だろうが悪い事だろうが手を出すんだから……どうしようもない」
「ま、どうしようもないとはいえ、彼らの願いで作られたのが私達ですから。一心不乱に壁の修復をするのは我々に定められた使命です」
ぬりぬりぬりぬり……言っている事は壮大な事だが、やっている事は実に地味な作業。
そして、そんな中。優雅にお茶を嗜む者も居る。
「さぁ、休憩にティータイムよ! ズーフも座って座って」
「オマエトイウ奴ハ……常ニ休憩シテイルデハナイカ」
「良いの良いの! 私は皆の休憩にお茶を用意してお話相手をするのが仕事! 壁の修復はメイド達がやってくれるもの!」
「……オ茶デ腹ガタプタプニナルゾ?」
「だいじょーぶ! 飲んだお茶は全て茶葉にしちゃうから!」
どうやって? と思わなくもないが、ダンジョンマスターな彼らは、魔力を取り込めばそれを使って色々と物を作れる。
お茶もただの魔力に変換してしまえる何かがあるのだろう。
そして、そんな植物娘アウラを見た他の者達はと言えば……。
「彼女にはあのままでいて貰った方が良い」
「そうだな。下手をすれば壁が壊されかねない」
「お茶……美味しいしな。おしゃべりも休息には丁度いい」
と、壁に触れさせない方針。これにはズーフも苦笑するしかない。いや、全ての柱達が苦笑と言った処だろう。
「あら? 変な顔をして……砂糖がたらない?」
「イヤイヤ。砂糖ハ十分ダ」
その様な会話をしながらも、休憩メンバーはお茶を楽しむ。BGMとして猛烈な打撃音を耳にしながら。
「そういえば、ラプちゃん新しい未来でも見えた?」
「いやいや。そう簡単にはいかないからな? 何万通り以上もある未来の内、可能性が高いモノを見ている訳だからな」
「ふーん……だとすると、ダンジョンが溢れる可能性は?」
「……予知班の統計でいくなら、現状だと八割越えだ」
「十割じゃないんだ。なら……夢でお告げをしたわけだし、なんとかなるかもね」
八割越えならば、かなりの高確率な訳だが……それでも彼らは大丈夫だと言う。
夢で告げた事で間違いなく変化が有るはずだからと。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!
作者は予知夢を見たことが有ります。と言うか、偶然なんでしょうけどねw
何年も会ってなかった人から電話がかかって来て「おーいゲームしようぜ!」と言う、変わりのないお誘いを受ける夢。
それを見た後、起きて数時間したらまじで掛かって来たという話ですがw
実際にあったら、ただただ吃驚するだけなんですよねぇ。




