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死者たちがあまりにも悲しそうだったので手を伸ばしていたら、いつの間にか精霊に愛されていました  作者: ちょこだいふく


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9.本当は誰でももってるもの

その夜、リシュアはなかなか眠れなかった。

窓の外では、淡い光たちが静かに踊っている。


緑色の小さな光。

青く揺れる雫みたいな光。

風に乗ってふわふわと漂い、時折くるりと回る。


昼間より、ずっとはっきりと見える。


「…綺麗」


思わず、小さく呟いた。

すると一つの光が、嬉しそうに跳ねる。

まるで言葉が通じたみたいで、リシュアは少しだけ笑った。


不思議だった。

怖いとは思わない。

むしろ、世界の方がようやく姿を見せてくれたような感覚だった。

それに、前世では、こんなふうに夜空をゆっくり見上げたことなんてなかった気がする。


仕事の帰り道、スマートフォンを手放さず、メールの確認、明日の予定の組み立て、段取り、調整…


いつも頭の中は、やるべきことでいっぱいだった。


——でも今は違う。


静かな夜だった。


その時。


「シア?」


扉の向こうからノアの声がした。


「まだ起きてる?」


「うん」


返事をすると、ノアがそっと部屋へ入ってくる。

そして窓の外を見て、小さく目を細めた。


「…今日、増えてる」


「ノアにも見える?」


「少しだけ」


ノアは窓辺へ近づく。

以前なら、何も見えなかったけど、今は違う。

淡い光の輪郭が、うっすらとわかる。


「加護のおかげかな?」


ノアが呟く。

リシュアは少し考えてから、小さく首を傾げた。


「…加護っていうより」


「元からあったものが、見えやすくなった感じかも」


ノアが視線を向ける。

リシュアは窓の外を見つめたまま続けた。


「今日、あの女の子を見てて思ったの」


「私、特別なことをしたわけじゃないと思う」


亡霊を消した。

浄化した。


そう言われれば確かにそうなのかもしれない。

でもリシュアの感覚は、少し違った。


「ただ、“そこにいる”って認めただけなの」


「悲しかったんだねって」


「苦しかったんだねって」


「ちゃんと見えてるよって」


それだけ。


でもきっと、それを誰にもしてもらえなかったから、あの子はあそこに囚われ続けてしまった。


ノアは静かに聞いている。

リシュアは続けた。


「……多分ね」


「本当は、誰でもできるんだと思う」


「え?」


「癒すこと」


ノアが少し驚いた顔をする。

リシュアはゆっくり言葉を探した。


「傷を治したりとか、そういうすごい力じゃなくて」


「苦しんでる人を、少し軽くしてあげるとか」


「寂しい人を、一人じゃないって思わせるとか」


「そういう…生きてる人にするのと同じこと」


風が、ふわりとカーテンを揺らした。

外の光たちが楽しそうに踊る。


「でもみんな、そんなことできるって知らないからから使えないんだと思う」


「……認識してないだけ?」


「たぶん」


前世の自分も、きっとそうだった。


誰かに優しい言葉をかけられても、頼ってもいいと言われても、受け取れなかった。

だって、受け取れるって、受け取って良いって知らなかったから。

自分が癒されてもいいなんて、思わなかったし、受け取ったとしても、何か変わるなんて思えなかったから。


ノアはしばらく黙っていたが、やがて小さく口を開く。


「じゃあシアは?」


リシュアが振り返る。


「シアは、なんでそれができるの?」


その問いに、リシュアは少しだけ困ったように笑った。


「……わからない」


「でも、多分」


窓の外を見る。

風の光がくるりと回る。


「私は、人より少しだけよく“見えちゃう”んだと思う」


悲しみも、孤独も、泣いてるものも。

見えてしまったら見えていないふりが、できない。

だから放っておけない。


ノアはその横顔を見つめる。


どこか危うくて、でも温かかった。


「……そっか」


それだけ言って、ノアは窓の外を見る。

小さな光たちが、夜の庭を踊っていた。

まるで世界が静かに呼吸しているみたいだった。


その光景を見つめながら、リシュアはふと思う。


前世では、“何のために生きていたのか”最後までわからなかった。


でも今は…まだ答えは出ていないけれど。


誰かの悲しみに触れて、誰かの心がほどけて、

その瞬間を一緒に見つめられることが、少しだけ温かいと思えた。

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