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死者たちがあまりにも悲しそうだったので手を伸ばしていたら、いつの間にか精霊に愛されていました  作者: ちょこだいふく


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10/20

10.ノアの決意

翌朝、空気は驚くほど澄んでいた。


窓を開けた瞬間、柔らかな風が部屋へ流れ込む。

リシュアは思わず目を細めた。

昨日までより、世界の輪郭が少しだけ近く感じた。


庭の木々が揺れる音。

葉の擦れる気配。

その隙間を踊る、小さな光たち。


意識を向けると見えてくる。

向けなければ、ただの風景として通り過ぎていく。

そんな不思議な感覚だった。


「……おはよう」


窓辺でぼんやりしていると、ノアが部屋へ入ってくる。


最近はノックの後、返事を待たずに入ってくることが増えた。多分、昨日のことがあったからだ。


「おはよう」


リシュアが振り返ると、ノアは少しだけ安心したような顔をする。


「今日はちゃんと寝れた?」


「少しだけ」


「少しだけかあ」


呆れたように言いながら、ノアは窓の外を見る。

すると、小さな風の光がくるりとノアの周りを回った。


「あ、またいる」


「うん」


リシュアは小さく笑う。

昨日より、ノアにも見えている気がした。

ノアはしばらく光を目で追っていたが、不意に真面目な顔になる。


「シア」


「なに?」


「今日、父様に稽古お願いしようと思う」


リシュアは少し驚いて瞬きをした。


「急ね」


「俺、」


ノアは視線を逸らさない。


「ちゃんと強くなりたいんだ」


その声は静かだったけれど、迷いがなかった。

リシュアは昨日の沼地を思い出す。


泣いていた少女の亡霊と、自分はただ立ち尽くして見ているしかできなかった、と落ち込んでいたノア。


「…ノアは、十分優しいよ」


思わずそう言うと、ノアは少し困ったように笑った。


「優しいだけじゃ駄目な時もあるんだ」


その言葉に、リシュアは何も返せなかった。


ノアはまだ子供だ。

自分と同い年で、小さくて、でも時々驚くほど大人びて見える。


「俺さ」


ノアがぽつりと呟く。


「昨日、ちょっと怖かったんだ」


リシュアが目を見開く。

ノアは続けた。


「亡霊が怖かったんじゃなくて」


「シアが、そのまま向こう側へ行っちゃうんじゃないかって…」


風が、ふわりと吹いた。

リシュアは小さく息を呑む。

そんなふうに見えていたなんて、思わなかった。


でも、少しだけ、わかる気もした。


あの時、自分は怖さよりも、“あの子を一人にしてはいけない”気持ちの方が強かったから。


ノアは小さく息を吐く。


「だから、ちゃんとシアの隣に立ってられるようになりたい」


「シアのやることを止めるためじゃなくて」


「シアと一緒に歩いていけるように」


リシュアはしばらく何も言えなかった。

窓の外では、光たちが朝の風に乗って踊っている。

その光景を見つめながら、リシュアはゆっくり笑った。


「……ありがとう」


胸の奥が、少しだけ温かかった。


前世では、誰かが“隣にいたい”と言ってくれることなんて、ほとんどなかった気がする。


だから今も時々うまく受け取れない。


でも。ノアの言葉は、不思議と真っ直ぐ胸に入ってきた。そして静かに身体の芯へと落ちていく。


「じゃあ」


リシュアは小さく笑う。


「強くならなきゃね」


するとノアも、少しだけ笑った。


その瞬間ふわり、と風が吹く。

窓辺の光たちが嬉しそうに舞い上がった。

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